低温障害の症状や対策について、栽培初心者にもわかりやすいように紹介します。
※生理障害とは、育てる植物に適さない温度、光、土壌の状態によって生長が阻害されること。
低温障害の発症原因
もともと熱帯や亜熱帯で育てられていた栽培作物は低温に敏感なので、10〜12℃以下の環境に一定期間さらされると低温障害が発生します。寒さにさらされる時間が長いほど、低温障害が発生しやすく、場合によっては枯死することもあります。
0℃を下回り作物が凍るような温度になると「凍害」が発生します。
低温障害より低い温度で発生する「凍害・霜害」
【凍害】0℃近くの低温により、作物体の一部または全体が凍結し枯死する被害のことです。気温が0℃以下に下がった場合に発生しやすい症状です。
【霜害】霜が降りた際に発生する症状です。土表近くの空気の水蒸気が凍りつき、作物が凍結します。春や秋の晴れた日に発生しやすく、放射冷却が地表の温度を下げる原因となっています。
低温障害を起こしやすい環境
低温障害が発生しやすい環境について説明します。露地栽培
作物が直接冬の寒さにさらされる露地栽培では、低温障害が度々発生します。特に水はけの悪い圃場では、地温が下がりやすく根が傷むので、通気性の良い腐食に富んだ土づくりを目指しましょう。
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ハウス栽培
ハウス内の暖房機の設定温度がもともと低い場合に生じますが、設定温度が適切でもハウスの出入り口や側窓付近など局部的に低温障害を起こすことがあります。暖房機の急な故障など不測の事態によっても突然発生するので、日頃の環境制御が重要です。低温障害の原因は温度の低下に加えて、日射量の不足や湿度なども複合的な要因となります。
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低温障害を起こしやすい作物の生育時期
作物が低温障害になりやすい生育時期ついて説明します。幼苗期
幼苗期は根が十分に発達していないため、低温によって生育が悪くなりやすい時期です。晩霜の可能性がある時期の無理な早まき、植え付けは避けましょう。
作物が低温障害を受ける仕組み
生育適温や生育限界温度を下回るような低温になると、作物の生理代謝が影響を受けます。生育が抑制されたり、葉や花、芽先などの奇形化、花弁や葉の変色、さらに落葉あるいは株全体の死に至る障害が起こります。※生育適温とは、作物が生育するのに好適な温度範囲を生育適温といいます。生育適温より高くても低くても生育は不良となります。
※生育限界温度とは、生育適温を超える生育限界温度は作物の生死に関わる温度で、生育限界温度よりも低い温度に一定時間さらされると植物は枯死します。
▼ハウス内の温度管理や作物の生育限界温度のことならこちらをご覧ください。
根の機能障害
生育適温を下回るような低温では、肥料や水の吸収という根の機能が低下します。また根自体の損傷も起こり、土中で湿った冷たい土に触れている場合は根腐れなどが発生します。
要素障害の併発
肥料の吸収力が落ちると、生育に必要な養分が吸収できずにさまざまな要素障害を併発します。リン酸は低温で吸収が抑制さるため、リン酸欠乏症が発生する場合が多いです。リン酸欠乏症は葉が紫色になるアントシアニンが現れます。
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葉や芽先、花の形態異常
寒さにより生育に必要な水や肥料が吸収されない場合や、また植物ホルモンの異常により葉や芽先、花が正常に発育せず奇形となる場合があります。▼植物ホルモンのことならこちらをご覧ください。
低温障害になりやすい作物、なりにくい作物
野菜には生育適温があり、寒さに強い植物、弱い植物が存在します。低温障害になりやすい作物
- トマト
- キュウリ
- ナス
- ピーマン
- オクラ
- エダマメ
- ゴーヤ
- トウガン
トマトは10〜12℃下回ると、果実の着色不良や傷、または葉裏や葉先から紫色になるアントシアニンが出ます。根傷みや、花芽が落ちるなどの症状も出ます。
キュウリでは、地温の低下が原因で、肩の部分が細く中から先端は普通に肥大する「肩こけ果」が発生しやすくなります。
▼低温障害になりやすい作物についてはこちらをご覧ください。
低温障害になりにくい作物
- イチゴ
- ハクサイ
- ブロッコリー
- キャベツ
- ダイコン
- ホウレンソウ
生育限界温度は低いですが、生育適温は15℃以上必要な作物も多く、日中はある程度の温度を必要とします。
凍害や霜害で収穫部位が凍ってしまう場合は、被害が大きくなります。
▼低温障害になりにくい作物についてはこちらをご覧ください。
露地栽培の低温障害対策
露地栽培で行う低温障害対策について紹介します。1. 被覆資材
露地栽培は直接低温にあたるため、被覆資材などを活用して対策を行います。トンネル栽培
骨組みを作って、ビニールをかけるトンネル栽培は保温効果に優れます。▼トンネル栽培のことならこちらをご覧ください。
寒冷紗
寒冷紗などのベタかけも、風などを和らげる効果はありますが、降雪時には雪の重みで野菜が潰れてしまうこともあるため注意しましょう。▼寒冷紗のことならこちらをご覧ください。
ホットキャップ
幼苗にはホットキャップを被せたり、肥料袋で風除けを作る方法も有効です。2. マルチング
土表面をビニールフィルムなどで覆うことで、地温の低下を和らげることができます。透明や黒色のマルチを使うと太陽の熱で温度が上がりやすくなりますが、透明マルチは雑草が生えやすい特徴があります。
▼マルチシートのことならこちらをご覧ください。
3. 葉面散布
日照不足などによる低温期の光合成を助け、生育を促進させる葉面散布剤は、低温障害を軽減することができるのでおすすめです。▼葉面散布のことならこちらをご覧ください。
4. 排水性の良い圃場づくり
水分が多過ぎる土壌は、地温が下がりやすく根が傷みやすいため、低温障害が発生しやすいです。水はけを良くするには畝を高くしたり、腐植土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入します。
▼パーライトやバーミキュライトのことならこちらをご覧ください。
5. 発根促進
地温の低温により根が痛んでしまった場合は、温度が回復したのち、発根を促す資材を投入することも効果的です。▼発根促進のことならこちらをご覧ください。
6. 加温・保護
晩秋〜冬期の育苗は、育苗ハウスやトンネルを利用し、育苗加温マットなどで加温するようにします。温度や水分管理に注意して、軟弱徒長苗となることを防ぎ、育苗後半は昼間は被覆を取るなど外気温へ慣らして行きましょう。
定植後は、トンネルや被覆資材等を利用して、作物を保護します。また、低温障害になってしまった場合のために予備の苗を多めに用意しておきます。
ハウス栽培の低温障害対策
露地栽培の低温障害対策の2〜4の対策と併せて、以下のような対策をとります。1. 被覆資材の補修
ハウスでは、被覆資材に破れがないか、厳冬期に入る前に確認しましょう。破損部分がある場合は早めに修理しておきます。▼ビニールハウスの補強や修理についてはこちらをご覧ください。
2. 暖房機の点検、設定温度の確認
暖房機の点検も早めに行い、急な冷え込み時に稼働できるようにしておきます。厳冬期は日中でも温度が下がれば暖房機が稼働するように設定し、生育限界温度を下回らないよう対策しましょう。
3. 温度ムラ対策
ハウス内ではサイド周りや入り口付近などの温度が低くなる、温度のムラが発生するため、暖房機のダクトの設置方法を工夫したり、各所に温度計を設置して温度を確認します。最低温度が記録されるタイプの温度計を使用して、一日のうちで最も低くなる温度を把握しましょう。
▼季節ごとのハウス栽培の温度管理などについてはこちらをご覧ください。
貯蔵中の低温障害
収穫した野菜や果樹などは高温で保存すると、果実の「軟化」や収穫後の雑菌の発生による「腐敗」、収穫物の呼吸消耗による「しおれ」が発生する場合があるため予冷庫(冷蔵庫)に保存しますが、サツマイモやバナナなどは冷蔵保存をすることでかえって黒く変色して腐敗が進み、日持ちを悪くさせてしまう低温障害が現れます。作物ごとに最適な温度で保存することに加えて、出荷までの日数や流通を考慮し、特に環境変化に敏感な作物では細心の注意をはらって貯蔵温度の調節をする必要があります。
低温障害に要注意の収穫物
収穫後の作物はコンテナやダンボールに入れたまま冷蔵保存する際、作物に合った貯蔵温度でなければピッティングが出るほか、水っぽくなったり、軟らかくなるなどの品質劣化が起こります。収穫後も青果物は生きていることを認識し、呼吸などによる消耗を防いで、作物ごとに長く保存できる方法を選びましょう。※ピッティングとは、低温により野菜の表面に褐変や窪んだ斑点など小さな窪みが発生すること。
イモ類
イモ類は貯蔵中に低温障害が起こることが多く、ジャガイモは外見は通常より凹凸が激しくなり、内部は赤褐色〜暗褐色に変色します。サツマイモは気温が10℃以下に下がると腐敗しやすくなるので、特に保存には注意が必要です。▼ジャガイモやサツマイモの育て方、貯蔵についてはこちらもご覧ください。
野菜
ナス、トマト、キュウリ、ピーマン、オクラ、カボチャ、マメ類なども低温に弱い傾向があります。キュウリは5℃で以下の低温にさらすとピッティングが生じるため、保冷と貯蔵では10〜15度が適温とされています。熱帯・亜熱帯原産の青果物
バナナ、アボカド、マンゴー、パパイヤなどは低温に弱いので保存には注意が必要です。▼収穫後の保存のことならこちらをご覧ください。
家庭での貯蔵方法
夏野菜や青果物を家庭で冷蔵庫で保存する場合は、冷蔵庫内の冷蔵室よりも温度が高い野菜室で貯蔵するようにします。新聞紙でくるんだり、ポリエチレンなどのプラスチックフィルムやビニール袋で密封するなどして、野菜に合った方法で保存しましょう。
▼収穫野菜・フルーツの保存のまとめ
低温障害を防ぐために
冬の露地栽培はトンネルや被覆資材で風除けを行い、ハウス栽培では冷たい空気が入らないように破れがないか点検をして、事前の低温障害の対策が大切です。それでも寒さにあたってしまった作物には、葉面散布剤や発根促進剤でのケアが効果的です。寒い冬でも低温障害に負けない健康な作物を育てましょう。また、収穫後も作物は生きていることを認識して、作物ごとに最適な貯蔵温度で保存して鮮度を保ちましょう。