目次
では、ハウス栽培の温度管理はどのようにすれば良いのか?さらにしっかり温度管理を行うことで光合成を促し、作物の生育を良好にして収量アップを目指すコツを栽培初心者にもわかりやすく説明します。
ハウス栽培の温度管理に大切な3つのポイント
ハウス栽培で温度管理をする際に、必ず意識して欲しい3つのポイントがあります。1. 作物の生育適温
植物は種類によって生育適温が異なります。育てる作物の生育適温を知って、最適な温度管理を行うことが重要です。▼生育適温など作物の栽培のことならこちらからご覧ください。
2. 外気温
ハウス内の温度に最も影響を与えるのは外気温の変化です。特に春や秋の外気温は24時間で大きく変化します。また、日本の四季は気象の変化が激しいため、その都度ハウス内の温度を調整する必要があります。
3. 日射量
植物が生長するためには「光合成」が必要です。光合成に必要なものの一つに「光=日射」があります。日射量は季節や1日(24時間)で変化し、その日射量に合わせて光合成の量も変化します。また、光合成は温度とも深い関わりがあるため、日射量に合わせた温度管理で光合成をコントロールすることができます。
▼光合成における日射量と温度の関係ならこちらの記事をご覧ください。
ハウスに温度計を設置しよう
温度管理で作物の収量、品質アップを目指す第一歩は、ハウスに温度計を設置して確認することです。ぶら下げるタイプの簡単なものから、湿度や二酸化炭素濃度を計測できるもの、温度計と連動してハウスの開口部を開閉してくれる制御盤までさまざまですが、最高温度、最低温度を記録してくれるタイプのものが使いやすくおすすめです。
栽培する作物の生育適温を把握
ハウス内の温度を管理をする上で、はじめに把握すべきことは、作物の生育に適した温度(生育適温)を知ることです。生育適温
作物には生育に適した温度(生育適温)があります。その生育適温にはさらに「最適昼温」と「最適夜温」があり、育苗するに際は「発芽適温」や育苗時の最適温度もあります。育てる作物の生育適温を確認して、ハウス内の温度を調節しましょう。作物 | 最適昼温 | 最適夜温 |
トマト | 25~30℃ | 10~15℃ |
イチゴ | 20~24℃ | 6〜10℃ |
キュウリ | 22~28℃ | 17~18℃ |
生育限界温度
真夏の高温期や冬の厳寒期は、ハウス内の温度を生育適温の範囲内に抑えるが難しいことがあります。その際、作物の生育限界温度を把握することで、与えるダメージを最小限に止める対応をすることができます。積算温度
積算温度とは、毎日の平均温度を合計した温度のことです。イチゴやトマト、スイカ、果菜類が結実するのに必要なのは、日数よりも積算温度が関係します。例えば、開花から収穫までの積算温度は大玉トマトで1000℃前後、イチゴでは600℃が必要になります。
毎日積算温度を計測して温度管理をすることで、収穫日の予想が可能になるほか、意識的に温度を上げて収穫を早めることもできます。
※曇雨天時に温度を上げると品質が悪くなることもあります。
▼スイカの育て方ならこちらをご覧ください。
光合成を意識した温度管理とは?
植物は、光(日射量)・二酸化炭素・水を使って、生長のためのエネルギーとなる糖を作り出す「光合成」を行います。これに温度が関係して、花や葉といった新しい器官を作ります。十分な日射量と温度があると、植物は新しく作られた花や葉に、光合成で作り出された糖を送ってどんどん生長します。しかし、日射量が不足した状態で、温度ばかりを高くすると、光合成が行われず、植物のもとになる糖が無いまま、花や葉の発育が進むので、ひょろひょろとした軟弱な生育になります。
軟弱に生育した花の機能は弱く、着果しにくいほか、病気にかかりやすいなどの問題を抱えます。
つまり、日射量の変化に合わせた温度管理をすることで、健康な植物を作り出すことができるのです。
「日射量が十分ある
光合成が活発→温度を高めに設定→発育を促し、生長を高める
「日射量が少ない
光合成量が少ない→温度を低めに設定→植物のエネルギー消耗を抑える
季節の移り変わりを意識した管理
日本には春・夏・秋・冬という四季があり、梅雨や雪など季節ごとに特徴があります。季節の移り変わりで変化する気温や日射量の変化を敏感に捉えた管理が必要になります。春
ハウス栽培の春は早く、西日本では2月末ごろからハウス内の気温が上昇し始めます(地域によって異なる)。冬の温度管理のままで、日中ハウスを長時間締め切っていると植物に萎(しお)れや高温障害が発生して生育が悪くなります。冬の終わりに近付いたら早めに春の管理へと意識を切り替えましょう。▼高温障害のことならこちらをご覧ください。
夏
夏は気温が高くなるためハウス内の温度もかなり上昇します。できるだけ温度を下げる管理を心がけましょう。特に7月末〜8月中旬の最も気温が高くなる期間は、栽培を行わないことも手段の一つです。
太陽がサンサンと降り注ぐ晴天時の対策として、遮光カーテンや遮光剤をハウスに塗布するなどして、予め温度上昇を和らげる対策を行います。
栽培作物の生育適温より5~10℃高い温度環境下では、細霧冷房(ミスト)やクーラーを使用して温度を下げましょう。
※ミストを使用すると「湿度」が上がるため、病気の発生には気をつけましょう。
▼遮光シート・ネットのことならこちらをご覧ください。
秋
秋は夜間が急に冷え込み、葉が結露して病気が発生しやすい時期です。暖房機のメンテナンス、ダクトの敷設など準備を早めに行い、夜間に温度を下げ過ぎない管理をしましょう。▼植物の病気のことならこちらの記事をご覧ください。
冬
冬は夜間だけでなく、日中も温度が低くなり過ぎないよう管理を心がけます。というのは、意外にも「日中は暖房機を使わない」という生産者が多いですが、冬の曇り空は日中でもかなり温度が下がります。ハウス内の温度を把握して、見過ごしがちな冬の日中も、栽培している作物の生育限界温度を下回らないような温度管理を行いましょう。ここで注意点!
冬の少ない日射量の下で、単純に温度を上げ過ぎてしまうと、今度は植物が光合成よりも呼吸でエネルギーを消耗してしまいます。光合成に必要な光・水・二酸化炭素のバランスを考えた温度管理が不可欠です。
また、締め切った冬のハウス内は二酸化炭素が不足しがちです。二酸化炭素発生機が無い場合は、天窓を少し開けて外気を取り込むようにしましょう。
1日の変化に対応し、光合成を意識した温度管理
ここでは主にトマトで行われている1日の変温管理について説明します。変温管理とは育てる野菜に合わせて時間ごとに設定温度を変えて行う温度管理です。
この方法はハウスの環境制御先進国オランダから導入され、国内でも近年トマトから始まり、キュウリやイチゴ、ハウスミカンなどで応用されて広まっている方法です。
午前・午後・夕方・前夜半・後夜半の温度管理
1日の中で、午前は日の出とともにハウスに降り注ぐ日射量が増大します。この日射量はお昼に最大量に達し、日の入りに向けて減少していきます。この日射量に即した温度管理を行いましょう。1日の温度変化を午前・午後・夕方・前夜半(日没より4〜6時間)・後夜半(それ以後の日の出まで)と5つに分けた管理について説明します。
1. 午前中の緩やかに上げる【トマト栽培:20〜23℃】
日の出とともに日射量が増えると、植物は光合成を始めます。急激にハウス内の温度が変化することは植物にとってはストレスになります。午前中は緩やかに温度を上げる管理を心がけます。
トマトでは、20〜23℃になるように暖房機や天窓を設定しましょう。
冬は冷気のなだれ込みに注意!
・内張カーテンから天窓、側窓、の順に少しずつ開口部を開ける
※天窓や側窓を全開にして外気を取り込むと、冷気がなだれ込み温度が急降下するため
春や秋はハウス内の温度が急上昇するので要注意!!
・早めに開口部を開ける
※夜間閉めっぱなしにしている場合は、日の出後急激に温度が上がる可能性がある
というのも、昔はキュウリやイチゴ、トマト栽培などで、午前中にハウスを締め切って温度と湿度を上げて光合成を促すという「蒸し込み」が行われていました。
冬の晴天時閉鎖されたハウス内で行う蒸し込みは、二酸化炭素濃度が外気の半分ほどになって、光合成に必要な二酸化炭素を得られない状態となります。また、温度も急激に上がって高湿度にもなることから病気が多発し、植物にもストレスがかかっていたので、近年では換気して外気を取り込むようになっています。
▼湿度や二酸化炭素(炭酸ガス)の管理のことならこちらをご覧ください。
2. 午後は高めに設定【トマト栽培:25〜30℃】
光合成が最も活発に行われるのは、太陽が高く登る正午から日の入り前までです。午後の温度を午前中よりも高くすることで光合成を促します。
トマトだと25〜30℃に設定します。冬場でも、20℃を維持するように暖房を設定すると効果的です。
品質を向上させる「転流」
日の出と共に光合成が始まると、植物の葉には糖が貯まります。その後、この糖を果実や根、芽に分配します。作物の生長を促すためには、この分配作業がとても重要です。この仕組みのことを「転流」といいます。
転流には温度が関係し高温で活発になります。
生育適温を超えるような高い温度でも糖の転流は続きますが、植物が弱ってしまうため、温度管理する場合はなるべく生育適温を超えない範囲に収めます。
光合成を休んでしまう午後の昼寝現象?
葉に糖が十分蓄えられると、植物は満足して光合成を休んでしまいます。これが昼ごろなので「昼寝現象」と呼ばれています。
この昼寝現象を起こさず、植物に光合成を続けてもらうためには、葉の糖をどんどん別の部位に転流させることが重要です。
転流は温度が高くなると活発になる現象を利用するので、お昼ごろから夕方にかけてハウス内温度は高めに設定しましょう。
3. 夕方はハウスを急冷【トマト栽培:12℃以内】
ハウス内の温度を高めに設定していた昼間から一変して夕方は温度を急激に温度を下げます。厳寒期は生育限界温度を下回らないように注意してください。
トマトでは12℃以下にならないように温度管理を行います。
温度差を意図的に作ることで作物の品質を向上させる
果実や根といった器官は、葉や茎よりも温度が下がりにくい性質があります。つまり、急に外気の温度を下げると、葉や茎の温度は低くなるのに対して、果実や根の温かさはしばらく続きます。
そこで「転流は高温で活発になる」という現象を利用しましょう。ハウス内の温度を急激に下げることで、温度が低くなった葉や茎から、まだ温かさの残る果実や根に、光合成で生成した糖を流して作物の甘みを増加させましょう。
4. 前夜半は低い温度を維持【トマト栽培:12℃以内】
夜間は光合成に必要な日射量がないため、植物は葉や根に蓄えられた養分を使いながら生長、呼吸をしています。もし、夜間に温度を上げてしまうと、生長量や呼吸量が多くなることで蓄積された糖が減少し、植物の生長に勢いがなく軟弱に生育します。特に夏場は天窓や側窓を開けるなどして、夜間は温度を下げる管理を行い植物を休ませます。
引き続き、トマトでは12℃を下回らないように管理します。
※厳寒期は生育限界温度を下回らないように注意してください。
※日射量の少ない日中の曇雨天時も同様の管理を行いましょう。
植物の生育をコントロール
トマトの茎が太くなり過ぎてしまった場合(窒素過多、メガネ症状)、温度を上げて発育(芽先や葉の伸長)を促し、呼吸量を多くすることでエネルギーを消耗させ、生育を正常に戻して整えることができます。
※植物の茎が太くなり過ぎると、栄養のバランスが崩れて着果異常などの生理障害が発生することがある。
5. 後夜半は日の出前から【トマト栽培:18℃以上】
暖房機が稼働する時期は、日の出前3〜4時間前から暖房機を稼働させて、少しずつ温度を上げていきます。植物は日の出とともに光合成を始めるので、適した温度管理で効率的に光合成を行えます。トマトでは18℃以上になるようにしましょう。
また、早朝加温しておくことで、日の出後の急激な温度変化を防げるほか、結露防止にもなります。
温度管理で作物の収量、品質アップを目指そう!
植物の光合成や転流を意識した温度管理をすることで、作物の生育をよくして収量を増やし、果実などの糖度を上げて品質アップを狙うことも可能です。変化のある日本の四季は、遮光資材や暖房機などを効率的に使った温度管理を身につけて、作物の生育を促進しましょう。