葉面散布剤は、不足している養分(液状)を植物体に直に吸収させることで、作物の生長促進や品質を向上させるために有効な肥料です。そんな葉面散布剤について、栽培初心者にもわかりやすく説明します。
葉面散布剤とは
葉面散布剤は、葉や茎、果実からも養分を吸収する植物の性質を利用した、植物体に直接散布するために開発された肥料です。葉面散布剤には、鉄や銅、亜鉛、マンガンなどの微量要素や、窒素・リン酸・カリウムなどの主要な無機質成分、アミノ酸などの有機質成分を補給する種類があります。▼葉面散布剤など液体肥料のことならこちらをご覧ください
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葉面散布剤の使用目的
葉面散布剤は作物の生育を良くし、品質を向上させますが、具体的にどんなときに使用すると効果があるのでしょうか。1. 不足しがちな元素の欠乏対策
植物の生育に必要な元素の中には、植物内で「移動しやすいもの」と「移動しにくいもの」、その「中間のもの」があります。移動しにくいカルシウムやマグネシウムは、葉で欠乏症が発生することが多く、そんなときに葉面散布剤が活用されます。植物内での移動 | 成分名 |
移動しやすい | リン、カリ、イオウ、塩素 |
移動が中位 | マンガン、亜鉛、銅、鉄、モリブデン |
移動しにくい | カルシウム、マグネシウム |
2. 生育をコントロール
花芽分化や徒長抑制など、植物の生育ステージに合わせて、葉面散布剤の肥料の成分を変えることで、生育をコントロールすることができます。※花芽分化とは、植物が実や種をつける前段階の花を咲かせる生長に移行すること。
※徒長とは植物の葉厚や葉の色が薄くなり、葉や葉柄および葉身が弱々しく間延びした状態。
新しい葉面散布剤〜亜リン酸、ポリリン酸
亜リン酸やポリリン酸は、通常のリン酸と形状が異なる根や葉から吸収されやすいリン酸です。
これを葉面散布剤で、花芽分化時や着果時期などのリン酸要求量が多い時期に施用することで、より効果的に植物にリン酸を効かせることができます。また、亜リン酸を葉面散布することで、疫病やべと病などの病気に対して、抵抗力を高めるという効果もあります。
3. 新しい根の発根を促す
根傷みによって肥料分がうまく吸収できなかったり、根から吸い上げた肥料が、高温障害などの劣悪な環境条件で植物全体に運ばれないときに、葉面散布剤を使用することで、新しい根の発根を促し、生育を整えることができます。また、定植時に葉面散布剤を施用することで、より発根を促す効果も期待できます。
4. 生育不良を防ぐ
暑さや寒さによる萎れなどを柔らげたり、台風の被害で生育が衰えた植物を助け、新たな発根を促進するときに使用します。5. 光合成を促進する
光合成の生成物であるアミノ酸を成分に含んだ葉面散布剤を使用することで、光合成を促進させます。曇雨天や日射量が少ない冬に散布することで品質を向上させ、収量を増やすことができます。
新しい葉面散布剤〜有機物(アミノ酸)
アミノ酸は「光合成」に重要な成分で、アミノ酸を与えることで植物の光合成を活発にさせて生育を良くします。アミノ酸を主成分としているものと、窒素などの肥料分に追加でアミノ酸が入っているものがあります。
使用のタイミングとおすすめ葉面散布剤
葉面散布剤使用の効果的なタイミングについて説明します。1. 植物の調子がおかしい
葉の色が悪い、葉に斑点ができている、芽先や葉先が枯れている、花が落ちる、そんな場合は肥料や微量要素不足の可能性があります。追肥をして根から肥料を与える方法も良いですが、効果が出るのに時間がかかるため、応急的に葉面散布を使用することもおすすめです。
▼微量要素不足など要素障害のことならこちらをご覧ください。
植物の調子がおかしいときに使用する葉面散布剤
肥料分(窒素、リン酸、カリなどの多量要素や、カルシウム、マグネシウム、鉄、モリブデンなど)を含む葉面散布剤鉄力トレプラス
鉄力トレプラスは葉緑素に必須の鉄イオン、マグネシウムイオンを安定供給します。 低温、低日照、高温、アルカリ土壌など吸収されにくい状況でも鉄(二価鉄)、微量要素をスピード吸収します。 トレハロースを植物細胞中に供給することで、栽培ストレスや環境ストレスによって起こされる障害を軽減し、植物体の健全な生育を促します。
内容量 | 1L |
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肥料成分 | 鉄(0.5%)、マグネシウム(2.0%)、マンガン(1.0%)、ホウ素(1.0%)、亜鉛(0.1%)、銅(0.05%)、モリブデン(0.03%)そのほかトレハロース配合 |
ファイトカル
高温や低温、乾燥時の花芽保護に、育苗期から定期的に使用します。 有機酸とトレハロースのWキレートカルシウムが、浸透剤の力により、葉からすばやく吸収され、植物体の隅々まで移動します。
容量 | 1L |
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肥料成分 | 硝酸性窒素(5%)、有機キレートカルシウム(10.5%)そのほかトレハロース配合 |
2. 花芽分化、着果、収穫時期
果菜類では着果負荷がかかる時期、花き類では花芽が分化してくる時期は、リン酸、カリなどの肥料要求量が多くなります。根からの肥料供給が追いつかない場合は、補足的に葉面散布剤を使用すると効果があります。
また、収穫時期は肥料切れが発生しやすい時期なので、葉面散布剤で補うと草勢を上げる効果があります。
花芽分化、着果、収穫時期に使用する葉面散布剤
花芽分化、着果時期では、リン酸、カリを含むものホストップ
ホストップはリン酸とカリウムに特化した液体肥料です。 リン酸の成分は亜リン酸のかたちで入っているため、一般的なリン酸肥料と比べて根や葉面から吸収されやすくなっています。 灌水チューブ、葉面散布のどちらでも施用が可能です。
内容量 | 1L |
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肥料成分 | リン酸、カリ |
エレマックス ラベル(赤)
花芽分化の充実期、着果不良時、着色不良時、肥大不良時の散布、葉中に未消化窒素が残って病害の抵抗力低下が懸念されるときなどには特におすすめです。 吸収されやすい亜りん酸と、水溶性加里が高濃度でバランスよく配合され、作物体内で窒素代謝や開花ためのエネルギー源として働きます。
内容量 | 1L |
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肥料成分 | 水溶性リン酸(28.0%)、水溶性カリ(26.0%) |
3. 天気が悪い日が続く
曇雨天や冬で日射量が少ない日が続く場合は、植物は光合成が減少し生育が弱るため、アミノ酸を含んで光合成を補うような葉面散布剤を使用します。天気が悪い日が続くときに使用する葉面散布剤
アミノ酸を含むものペンタキープ Hyper 5000
ペンタキープは、植物の光合成を高める“5-アミノレブリン酸”を世界で初めて配合した液状肥料です。 “5-アミノレブリン酸”は、植物や動物の体内にある大切なアミノ酸で、植物体内ではクロロフィル(葉緑素)の前駆体となる物質です。 バランス型の肥料にアルギニンを加え、不良環境時の窒素の代謝とALAの効果を増強しました。
内容量 | 800ml |
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肥料成分 | 窒素(8%)、水溶性リン酸(6.0%)、水溶性カリ(4.0%)、水溶性苦土(4.0%)、水溶性マンガン(0.11%)、水溶性ホウ素(0.170%)、尿素、L-アルギニン、5-アミノレブリン酸塩酸塩 |
アミノメリット青
吸収しやすいアミノ酸がたっぷり入っているので、作物の生理作用を助け生育を促進します。 肥効の高いポリリン酸、アミノ酸が、天候不良時や低温などでも活力を高めます。 微量要素により健全な生育(光沢と厚みのある葉をつくり)、光合成を助けます。
肥料成分 | 窒素(7%)、リン酸(4%)、カリ(3%)、マンガン(0.1%)、ホウ素(0.05%)、鉄(0.08%)、銅(0.02%)、亜鉛(0.05%)、モリブデン(0.01%) |
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4. 自然災害に遭遇したとき
台風や大雨などにあたってしまい、植物が傷ついたり根が弱ってしまった場合には、新しい根の発根を促す葉面散布剤を使用します。また、霜などの低温や、夏場の高温、乾燥による障害を和らげる葉面散布剤もあります。
自然災害に遭遇したときに使用する葉面散布剤
【台風や大雨、冠水による根傷み】発根促進効果があるもの(ファイトオーツー、ペンタキープHyper など)
ファイトオーツー
天然成分が植物に直接働きかけ、植物本来の力が活性化します。根張りの充実、従長防止、光合成促進、抵抗力誘導(ストレス回避)、耐病性向上といった効果があります。 植物ホルモンや抵抗力誘導物質の発生を促します。さらにオリゴ糖と配合したことで、有効成分の植物体内への吸収力がアップし、葉の中の糖度も向上します。
内容量 | 1L |
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肥料成分 | 水溶性マンガン( 0.1%)、水溶性ホウ素 (0.2%)、天然酵母エキス、キトサンオリゴ糖 |
▼台風時の対策ことならこちらをご覧ください。
【霜などの低温や夏場の高温、乾燥】
トレハロースを含むもの(トレエース、ファイトカル、鉄力トレプラス など)
トレエース
肥料分野において最大配合量となる50%のトレハロースを含み、そのほかの糖類を2種類、有機酸、カルシウム、微量要素を合わせて配合した粉状の肥料です。 植物体に健全な生育を促し、栽培面においては寒害対策、しおれ軽減、鮮度保持などが期待できます。 トレエース(粉状)を水に溶かし攪拌(かくはん)して散布、または潅注します。
内容量 | 500g |
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肥料成分 | トレハロース(50%)など |
▼低温障害や高温障害のことならこちらをご覧ください。
作業効率を考えた農薬混用の散布術
農薬を散布する際、同時に葉面散布剤を混ぜることで、わざわざ葉面散布剤単体で散布するよりも作業効率が上がります。しかし、間違った葉面散布剤の使い方で、薬害が発生する場合もあるので注意が必要です。
▼効果的な肥料の施用のことならこちらをご覧ください。
葉面散布剤を使用する前にすること
葉面散布をして植物が健全になり、新しい根が出た後に、土壌中に肥料分がなければ継続的に生育をよくすることができません。葉面散布を使用する前には、土壌中の肥料分が不足していないかを必ず確認し、不足している場合は追肥をします。
▼追肥のことならこちらをご覧ください。
葉面散布剤と農薬の混用の注意点
葉面散布剤の中には農薬とは混用できるもの、できないものがあります。また、使いたい農薬の種類と葉面散布剤との相性もあります。誤った使用方法で、薬害を起こしてしまうため、農薬との混用は慎重に行います。
使用する葉面散布剤の表示内容について確認しましょう。また、初めて農薬と混用する際は、作物に薬害が発生しないか部分的にテスト確認してから散布しましょう。
葉面散布剤に展着剤は必要?それとも不要?
多くの葉面散布剤には、葉に吸着し浸透しやすい成分が入っているため、展着剤は不要のものが多いです。葉面散布剤を展着剤の代わりに農薬と混ぜて使用できるものもあります。詳しくは葉面散布剤の使用上の注意に書かれている内容を確認してみましょう。
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