リン酸障害は土質や酸性度、地温が影響して発生します。リン酸障害の発見のポイントを押さえて予防と早期発見、対策を心がけましょう。
リン酸の働きと主なリン酸肥料
リン酸障害とはリン酸が欠乏したり、過剰になることで作物の生育に被害が現れる生理障害です。リン酸は、植物が生長するために必要な必須要素のうち多量要素の一つで、窒素、カリウムと合わせて肥料の3大要素ともいわれています。
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リン酸の働き
リン酸はDNA(遺伝子、核酸)の構成成分の一つで、呼吸や光合成に必要なエネルギーを担っている重要な要素です。また、開花や結実を促進するので「実肥」あるいは「花肥」ともいわれます。根の伸長、発芽などを促進する働きもあります。
リン酸を含む主な肥料
農業や家庭菜園で使われるリン酸を含む肥料について紹介します。ちなみに、リン酸の主原料は燐鉱石(りんこうせき)で、主産地はモロッコ、アメリカ、ロシアなどから輸入されています。この燐鉱石の埋蔵量には限りがあるといわれ、資源の枯渇が危惧されている注目の肥料でもあります。
過リン酸石灰
名前に石灰がついていますが、酸性土壌を調整する働きはありません。効き目が速効性の「水溶性リン酸」を含むので根が吸収しやすい形態をしていますが、土に触れると土壌中の鉄やアルミニウムに吸着、固定されてしまい、植物に吸収されにくいのが特徴です。
過リン酸石灰を使用する際は、有機質堆肥などで覆うように施肥することで、ある程度固定化を防ぐことができます。
ようりん(熔成リン肥 )
リン酸やケイ酸、マグネシウム(苦土)、アルカリ分が含まれています。このリン酸は、水に溶けにくい「く溶性リン酸」なので効き目がゆっくり現れる遅効性肥料です。また、アルカリ分を含むため、酸性土壌の改良もできる肥料です。
作物の栽培でよく使用される「BMようりん」は、ようりんの成分にあるリン酸やケイ酸、マグネシウム(苦土)、アルカリ分のほかに、ホウ素やマンガンも含んでいる肥料です。
重焼リン
「く溶性」と「水溶性リン酸」を半分ずつ含んでいるため、初期生育には速効性の「水溶性リン酸」が植物に吸収され、生育後半は遅効性の「く溶性リン酸」が効くため、作物の生育初期から後期まで安定した効果が続きます。亜リン酸
従来のリン酸(正リン酸)よりも、亜リン酸は吸収されやすくて、植物体内での移行が高く、土壌に吸着固定されにくいなどの特徴があります。葉面散布時や育苗などに使われる新しいタイプのリン酸肥料です。
ポリリン酸
オランダで開発された、養液栽培のためのリン酸肥料で、近年ハウス栽培での施用が増えています。ポリリン酸はpHの影響を受けにくいので、土壌中の鉄やアルミニウムに吸着、固定されずに、根の近くまで届いて効率よく吸収される肥料です。
骨粉
骨粉は豚や鶏の骨が原料の肥料で、リン酸のほかに窒素やカルシウムを多く含んでいます。遅効性なので土壌に混ぜるとゆっくりと分解されるので、元肥として使用されます。
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鶏糞
鶏糞は鶏の糞が原料のリン酸を多く含んだ肥料で、三要素である窒素やカリもバランスよく含んでいます。鶏の糞を発酵させたものが「発酵鶏糞」、乾燥させただけのものが「乾燥鶏糞」です。
鶏糞以外にも動物の糞を利用しているものでリン酸が多く含まれる肥料に、コウモリの糞が洞窟内で堆積して作られた肥料「バットグアノ」があります。バットグアノには「く溶性」タイプのリン酸が含まれています。
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リン酸欠乏症とは
「花の数が減った」「葉が赤紫色をしている」などの症状は、リン酸欠乏症かもしれません。リン酸欠乏症の症状
欠乏症状は下位葉から被害が現れます。葉縁や葉脈に沿って赤紫色(アントシアン)になり、葉脈に沿って黒点ができる場合もあります。また果実の着果不良も発生します。リン酸欠乏症が出やすい植物
リン酸欠乏症が出やすい植物とその症状について説明します。ホウレンソウ
冬場の栽培では下葉が赤みを含む黄色となり、生育が劣ります。▼ホウレンソウの育て方ならこちらをご覧ください。
バラ
症状は下位葉から現れ、葉の光沢がなくなり、花芽が形成されず、上位葉を残して落葉します。幼木では生長が止まります。
トウモロコシ
葉や草丈も小さく、下葉から黄色くなって枯れてしまいます。葉脈は赤紫色になります。
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リン酸欠乏症の原因
リン酸欠乏症が引き起こされる原因について説明します。1. 地温の低下
低温(地温の低下)で吸収されにくくなることから、冬場に発生しやすい障害です。2. 酸性、火山灰土壌
リン酸は酸性土壌や火山灰土壌で吸収しにくい性質があるので、栽培する土壌の状態によって欠乏症を起こすことがあります。リン酸が根から吸収されにくくなる?
火山灰土壌や、鉄やアルミニウムが活性化している酸性土壌では、リン酸が鉄やアルミニウムと結合して固定化されるため、作物が吸収できるリン酸が減少します。
つまり、リン酸が不足していないくても、土壌中の根から吸収して利用できるリン酸が減るため、リン酸欠乏の症状が現れます。
3. リン酸肥料の不足
作付けを始めて数年しかたっていない畑や、客土した畑などで、単純にリン酸の施用量が少ないと発生します。新規就農で起こりやすい、リン酸欠乏症のケースです。
リン酸欠乏症を発症させない管理や対策
リン酸欠乏症を発症しないための管理方法について説明します。1. 低温にしない
施設栽培では、暖房管理によって冬場の低温にあてないことが重要です。露地栽培では寒冷紗をかけるなど、寒さ対策をします。
▼施設栽培の温度管理のことはこちらもご覧ください。
▼寒冷紗のことならこちらをご覧ください。
2. 土壌pHの調整
pHの低い酸性圃場(ほじょう)では、石灰(カルシウム肥料)を使用して土壌をアルカリ性に傾けます。※圃場とは、田や畑のような農作物を育てる場所のこと。
マグネシウムも同時に補給
土壌酸度の調整のほかに、マグネシウムも含んでいます。苦土石灰
酸性の土壌を中和し、カルシウム分を補給します。
植物に必要な微量要素のマグネシウムを豊富に含んでいます。
・内容量:20kg
・保証成分量:アルカリ分(55.0%) 可溶性苦土 (10.0%)
植物に必要な微量要素のマグネシウムを豊富に含んでいます。
・内容量:20kg
・保証成分量:アルカリ分(55.0%) 可溶性苦土 (10.0%)
穏やかに効果あり、牡蠣殻肥料
牡蠣殻がゆっくり溶けて、酸度の調整とミネラルを放出します。▼土壌のpH測定のことならこちらをご覧ください。
3. 肥料の施用
栽培前にしっかり土壌分析を行い、リン酸肥料が不足している場合には、家畜糞堆肥やリン酸を含む肥料を施します。特に、土を新しく入れた場合や、開墾した畑ではリン酸が足りていないことが多いので、リン酸肥料を施用しましょう。リン酸、マグネシウム、ケイ酸を含んだバランス良い肥料
効き目がゆっくり現れる遅効性肥料です。元肥として使用します。家庭菜園の方にはこちら
生育途中の場合は、追肥で足りないリン酸肥料を補います。粒状なので、生育中盤からの追肥にも使いやすい肥料です。
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4. リン酸の葉面散布
作物の栽培中にリン酸欠乏が発生した場合は、応急的に葉面散布します。高湿・高温時を避けるなど薬害が出ないように注意して、第一リン酸カリ0.3%溶液もしくは市販の葉面散布剤を1週間おきに数回葉面散布します。
亜リン酸カリの葉面散布剤は、より効果的にリン酸を吸収することができます。
▼葉面散布剤についてはこちらもご覧ください。
リン酸過剰症とは
かつてはあまり問題とならない障害でしたが、近年はリン酸肥料の施用増加や土壌の蓄積と合わせて、リン酸過剰症が現れる頻度も高くなりました。特にハウス栽培ではリン酸が過剰に蓄積している場合があります。
リン酸過剰症の症状
リン酸過剰症が発生した場合、作物に激しい症状は現れにくいですが、ゆるやかに品質、収量の低下が起こり、鉄欠乏や銅、マグネシウム、亜鉛などの微量要素欠乏を誘発します。リン酸過剰症が出やすい植物
リン酸過剰土壌では、アブラナ科野菜で根こぶ病が発生しやすいとの報告もあります。土壌にはもともと、アブラナ科野菜の根こぶ病の休眠胞子を吸着する働きがありますが、リン酸過剰になるとこの能力が失われ、根こぶ病を発症しやすくなるようです。
▼アブラナ科野菜のことならこちらをご覧ください。
▼根こぶ病のことならこちらをご覧ください。
ダイコン
夏まきのダイコンで、中〜下位葉の葉縁が黒紫色に変色し枯死する症状が起こります。▼ダイコンの育て方のことならこちらをご覧ください。
キク
鉄欠乏のようなクロロシス(葉の白化)が発生します。発根が悪くなり、茎葉も軟弱になることから水揚げも上手くできず品質も低下します。▼小菊(スプレーマム)の育て方ならこちらをご覧ください。
リン酸過剰症の原因
リン酸肥料の多肥、蓄積が原因です。安易に例年通りに肥料や家畜糞堆肥を施せば良いと考え、大量に肥料や堆肥を与え続けている場合は注意が必要です。少なくとも数年に一度は土壌分析を行い、土壌中のリン酸が増え過ぎていないか確認することが重要です。
過剰症が増えている?
特に黒ボク土 ( 火山灰土壌 )ではリン酸が根から吸収されにくいため、リン酸欠乏症を起こさないように、リン酸肥料を大量に施用する指導がなされてきました。
しかし、長年同じ畑で栽培するうちに土壌にリン酸が蓄積しているケースが増加し、過剰症の発生は以前に比べて多くなりました。
リン酸過剰症を発症させない管理や対策
リン酸過剰症を発症しないための管理方法について説明します。1. 適切な施肥
作付け前は必ず土壌分析を行い、リン酸が多いところでは施用量を控えます。2. 火山灰土の客土
リン酸が過剰な圃場では、火山灰土を客土すると、リン酸を吸着して土壌中の有効態リン酸を減少させることができます。※アルミニウムを多量に含む火山灰土壌では、リン酸がアルミニウムと結合して難溶性の化合物となるため、土壌中の有効態リン酸(根から吸収できるリン酸)が減少し、過剰症を予防することができます。
3. 微量要素葉面散布剤の使用
リン酸の過剰によって、微量要素が吸収されにくいことから、要素障害を起こしている場合は、応急的に微量要素の葉面散布剤を使用します。▼鉄など要素障害についてはこちらもご覧ください。
リン酸障害の対策に何より大事なのは温度と土壌の酸度調整
一般的に作物はリン酸欠乏症を起こしやすいのですが、近年では多肥の影響で過剰症も問題となっています。施肥は適正量を施用し、欠乏症を防ぐために土壌の酸度を調整します。また、欠乏症は地温の低下で発生しやすいので、作物を極端な低温下で育てないようにハウス栽培では適切な環境制御を行い、露地栽培では寒冷紗などで寒さ対策を行います。
過剰症にならないように土壌分析は定期的に行い、リン酸肥料を土壌に蓄積させないようにしましょう。
▼そのほかの生理障害まとめ