植物成長調整剤とは?
一般的に「植物成長調整剤」は、殺虫剤や殺菌剤のように病害虫に対して働きかける薬剤とは異なり、植物体自身の生長に影響を与えます。※一部の植物成長調整剤には、病害虫を防除する効果を持つ薬剤もあります。
植物成長調整剤に含まれる「植物ホルモン」
「植物成長調整剤」は、本来植物体内で生成される「植物ホルモン」を人工的に与えることで生育を促進・抑制し、作物の品質向上や収量増加などを目的として使用します。この「植物成長調整剤」は農薬の一種で「植物ホルモン」やそれに類似した化合物、天然抽出物などが成分として含まれる薬剤です。▼農薬の種類についてはこちらをご覧ください。
間違いやすい!活力剤や葉面散布剤との違い
植物成長調整剤と同じような働きをするものの中に「活力剤」と「葉面散布剤」がありますが、これらは葉や根などから養分を吸収させやすくしたり、足りない養分を補ったりする役割を持つ「肥料」なので「農薬」ではありません。
植物ホルモンの主な種類
「植物ホルモン」は植物体内で作られ少量で植物体の生育に影響を与える物質で、植物の根や葉など各器官のほとんどの生長や発達に関わっています。主な植物ホルモン「オーキシン」「ジベレリン」「サイトカイニン」「アブシジン酸」「エチレン」について紹介します。オーキシン
【作用】茎や根の伸長、果実の肥大、発根促進など【特徴】高濃度でエチレンの合成を阻害する
ジベレリン(GA)
【作用】茎や根の伸長、発芽や開花、単位結実促進など【特徴】オーキシンの作用を高める
サイトカイニン(CK)
【作用】根の生長阻害、側芽の生長促進など【特徴】オーキシンと一緒に働くと細胞分裂を促進する
アブシシン酸(ABA)
【作用】休眠誘導や生長抑制、気孔の開閉調節など【特徴】過酷な条件下で植物体内での生成が増えるため、ストレスホルモンとも呼ばれる
エチレン
【作用】開花や着色・熟期促進、倒伏軽減など広範囲の効果を持つ【特徴】分泌する植物自身以外に周囲の植物体にも影響を与える
そのほかの植物ホルモン
・ブラシノステロイド:細胞分裂、植物体の伸長や種子発芽を促進する・ジャスモン酸:休眠打破、果実の成熟や老化促進などを誘導し、ストレスに応じて生成される
・フロリゲン:花芽形成を誘導し、花成ホルモンとも呼ばれる
作物ごとの植物成長調整剤と作用
ここでは作物ごとに使用できる植物成長調整剤とそれぞれの作用をみていきましょう。水稲
水稲では倒伏軽減や登熟向上などを目的として植物成長調整剤が用いられます。※登熟とは稲穂が出た後に種子が発育、肥大すること。
倒伏軽減や登熟向上に
スマレクト粒剤【剤型】粒剤
【有効成分】パクロブトラゾール
【生育調整作用】ジベレリンの生合成を阻害することで根の伸長促進や節間伸長を抑制し茎を太くする
【適用作物名】水稲
【薬剤の効果】倒伏軽減や登熟歩合、千粒重が向上する
※千粒重とは1000粒の重量で、登熟の良し悪しを判定するのに用いられる
【特徴】無人ヘリコプターで処理できる
発根促進や登熟向上といもち病などの防除に
フジワン粒剤【剤型】粒剤
【有効成分(RACコード)】イソプロチオラン(6)
※殺菌剤としての登録も持つためRACコードが設定されています。
【生育調整作用】植物体内で作られたインドール酢酸(天然オーキシン)の酸化分解を抑制することで根の伸長や発根を促進する
【適用作物名】稲(水稲、陸稲)
※それ以外の適用作物については登録内容をお確かめください。
【薬剤の効果】発根や根の伸長を促し、根の活性を登熟後期まで維持できるため籾へのデンプンの蓄積が促され登熟歩合が向上する
【特徴】適用作物が稲において、植物生育調整作用以外にも「いもち病」「小粒菌核病」「稲こうじ病」「トビイロウンカ」にも防除効果を持つ
野菜
野菜では着果促進や果実肥大などを目的として使用されます。着果や果実肥大の促進に
トマトトーン【剤型】液体
【有効成分】4-CPA
【生育調整作用】オーキシン活性を持ち、果実の生育を促進する
【適用作物名】トマト、ミニトマト、ナス、メロン、シロウリ、ズッキーニ
【薬剤の効果】
・トマト、ミニトマト、ナスでの着果や果実の肥大、熟期を促進する
・メロンなどで着果を促進する
【特徴】低温や日照不足時に着果が安定する
注意!
トマト、ミニトマト、ナスで使用する場合、気温によって希釈濃度が異なります。
また、使用回数がミニトマトは1花に1回、トマトは1花房に1回となっていて、「ミニトマト」は花ごとに散布できますが、「トマト」では1花房に1回しか散布できないので1花房で3~5花位開花した時期に散布しましょう。
【剤型】液剤
【有効成分】1-ナフタレン酢酸ナトリウム液剤
【生育調整作用】オーキシン活性を持ち、植物の生育を阻害または促進する
【適用作物名】メロン、カボチャ
【薬剤の効果】メロンでの果実肥大とネットの形成、カボチャでの着果を促進する
【特徴】メロンの場合、ネットが整い品質が向上する
果樹
果樹では収穫前に果実の落下を防ぐためなどに使用されます。収穫前の果実の落下防止に
ストッポール液剤【剤型】液剤
【有効成分(RACコード)】ジクロルプロップ(4)
※海外では除草剤として登録されているのでRACコードが設定されています。
【生育調整作用】オーキシン活性を持ちエチレンの生合成抑制作用を高めると同時に果実の離層形成を遅らせる
【適用作物名】リンゴ、ナシ
【薬剤の効果】リンゴやナシなどで収穫前の落果を防止する
【特徴】有袋、無袋のどちらの栽培にも使用できる
※有袋とは生育途中に果実に袋をかけることで、病害虫を防除や見た目をよくするために行う
注意!
展着剤を加えて使用しないこと
花き
花きでは苗などの発根促進や節間伸長抑制などに使用されます。発根促進に
ルートン【剤型】粉末
【有効成分】α-ナフチルアセトアミド
【生育調整作用】オーキシン活性を持ち、発根を促進する
【適用作物名】林木、庭園樹、花き
【薬剤の効果】 挿木、挿苗、種子などの発根を促進させ、活着や初期生育を良くさせる
【特徴】粉末をまぶしたり、水でペースト状に練ったりして使用する
注意!
食用の作物には使用しないこと
【剤型】液剤
【有効成分】インドール酪酸
【生育調整作用】天然オーキシンの一種で、植物伸長を促進する
【適用作物名】花き
※それ以外の適用作物については登録内容をお確かめください。
【薬剤の効果】さし木の発根を促進し、根数を増加する
【特徴】原液や希釈液に浸漬することで一度に多くのさし穂を処理できる
節間の伸長抑制に
ビーナイン顆粒水溶剤【剤型】水溶剤
【有効成分】N-(ジメチルアミノ)スクシンアミド酸
【生育調整作用】ジベレリンの生合成を阻害し、茎の伸長を抑える(わい化)
【適用作物名】キク(切り花用)(施設栽培)
※詳しい適用作物については登録内容をお確かめください。
【薬剤の効果】花首や節間の伸長を抑制して花のボリューム感を出す
【特徴】施設栽培用の植物成長調整剤
注意!
・施設内でのみ使用可能な薬剤なので、露地栽培では使用しない
・適用作物であるポットマム(鉢植えキク)など作物が移動可能な場合、施設内に置いてある場合は使用できるが屋外に移動した場合は使用できない
植物成長調整剤の注意点
植物成長調整剤の成分である「植物ホルモン」は少量で効果を発揮しますが、少な過ぎると効果が上手く現れず、多過ぎると期待した作用と逆効果を示したり農薬が残留してしまう可能性があるため使用量には十分注意が必要です。また、使用時期や使用方法などが限られているものが多いため、登録内容をよく確認した上で使用時期、使用方法など間違いのないように十分注意する必要があります。初めて植物成長調整剤を使用する場合は病害虫防除所等関係機関の指導を受けるようにしてください。
出典:都道府県病害虫防除所(農林水産省)
作物ごとの効果の違い
同じ植物成長調整剤を使用しても作物によって、効果が異なる場合があります。ビビフルフロアブルを例にみてみましょう。ビビフルフロアブル
ビビフルフロアブルは、プロヘキサジオンカルシウム塩を有効成分とする植物成長調整剤で、水稲やキャベツ、ストックなどに使用できますが、下の表に示すように作物によって作用が異なります。同じ薬剤でも違う作物に使用する場合は、必ずしも同じ作用が期待できるわけではないということを念頭に置いて、使用前には必ず登録内容を確認しましょう。適用作物名 | 作用 |
水稲 | 節間短縮による倒伏軽減 |
キャベツ | 伸長抑制による苗の徒長防止 |
ストック | 開花促進 |
散布時の防護
眼や皮膚などに刺激性があるものや医薬用外劇物のものもあるため、長袖、長ズボン、保護メガネ、マスク、手袋、長靴などを着用し肌を露出させないようにして十分注意して薬剤を使用しましょう。作業後はすぐに手足、顔などを石けんでよく洗い、洗眼・うがいをするとともに衣服を交換しましょう。▼農薬を安全に使用するためにはこちらをご覧ください。
正しい保管方法
調整した植物成長調整剤はその日のうちに使い切ります。保管する際は密栓し、直射日光を避け、誤飲などを防ぐために食品と区別して冷涼な場所に保管しましょう。▼農薬事故を防ぐための確認事項についてはこちらをご覧ください。
特徴を知って上手に使いこなそう
植物成長調整剤をうまく使いこなすことができれば、作物の品質を高めたり収量を上げたりすることができますが、正しい使い方をしなければ悪影響を及ぼしかねません。使用する植物成長調整剤の特徴を把握して効果的に使用しましょう。作物の栽培だけでなく、近年では芝や街路樹などの生育を抑えて剪定作業のサイクルを延長させる取り組みが行われています。新たな植物ホルモンの発見や解明によって、植物成長調整剤は未来への応用が期待されている薬剤です。