植物に害を引き起こす要素障害|症状と対策について

植物体内で必要不可欠な要素が不足もしくは過剰になると、植物の生理機能に異常が起こり、葉や茎、花や果実などさまざまな部位に病気のような症状があらわれる要素障害の原因についてや、要素障害を起こさないための予防と対策について紹介します。


カルシウム欠乏症

出典:flickr(photo by Scot Nelson)
植物の生育に必要な要素が不足もしくは過剰になると、植物の生育が抑制される「要素障害」を引き起こします。要素障害は放置すると、生育や品質が劣る被害により、収量が大きく低下することがあります。予防と早期発見で、要素障害の対策を行いましょう。

要素障害とは

植物体内で必要不可欠な要素が不足もしくは過剰になると、植物の生理機能に異常が起こり、葉や茎、花や果実などさまざまな部位に病気のような症状があらわれることを「要素障害」といいます。
それぞれの要素の過不足によって、あらわれる要素障害の症状が異なります。また、要素障害が一つだけでなく、複合的に発生することもあります。

植物の生長に必要な16要素

植物の生長には16種類の元素が必要で、これらを「必須要素」と呼んでいます。
必須元素のうち「炭素」「酸素」「水素」は、空気と水によって作物にもたらされますが、ほかの13種類の元素は土壌や肥料などの養分から吸収する必要があります。
光合成から合成されるもの  炭素(C)、酸素(O)、水素(H)
大量要素(肥料の3大要素)  窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)
中量要素  カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)
微量要素  硫黄(S)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、塩素(Cl)
▼光合成のことならこちらの記事をご覧ください。

大量要素障害

大量要素の窒素・リン酸・カリの3要素は、肥料として植物に多く必要とされるもので「肥料の三大要素」ともいわれています。これらの要素が不足、または過剰になることで起こる症状について説明します。
要素障害の特徴的な症状を覚えておくと、植物に異常が出たときにすぐに追肥などで対処することができます。
大量要素 欠乏 過剰
窒素(N)  生育不良  生育不良、病害虫多
リン酸(p)  開花、結実不良  鉄や亜鉛、マグネシウムの欠乏症を誘発
カリ(K)  根腐れなど  マグネシウムやカルシウムの欠乏症を誘発

窒素(N)

葉や茎の生長に必要な要素で「葉肥」ともいわれます。また、光合成に必要な葉緑素やDNA(核酸)、タンパク質をつくるためにも欠かせないものです。

欠乏

窒素欠乏
出典:wikimedia
葉の色が薄くなり、淡黄色となります。株は生長が止まり、矮化して茎や枝葉も伸長しなくなります。

過剰

過剰に吸収することで生育が軟弱になり、病害虫や気候の影響を受けやすくなります。また、ほかの成分の吸収を阻害して、新芽異常や着果不良を起こします。

リン酸(p)

細胞に含まれるDNA(核酸)や酵素、呼吸や光合成に関与するエネルギー(ATP)の構成成分です。
開花や結実を促進するので「実肥」あるいは「花肥」ともいわれます。根の伸長、発芽などを促進する働きもあります。

欠乏

花の数が減って、開花や結実も遅れます。葉は小さくなり、根の伸長が悪くなります。

過剰

過剰症にはなりにくいのですが、土壌中のリン酸が過剰になることで鉄や亜鉛、マグネシウムの欠乏症を誘発する傾向があります。

カリ(K)

開花や結実を促進したり、根の育成を促進することから「根肥」ともいわれます。
細胞の中でカリウムイオンとして存在し、植物体内のさまざまな化学反応を促進する成分として働いています。水分蒸散の調節や肥料の吸収、寒さへの耐性などにも役立っています。

欠乏

カリ欠乏トマト
出典:wikimedia
古い葉(下葉)から症状が現れ、先端から葉縁にかけて褐色に枯れます。
根では根腐れが起こり、果実は肥大せず食味が低下します。

過剰

過剰症の障害にはなりにくいのですが、土壌中のカリウム過剰によってマグネシウムやカルシウム欠乏を誘発します。

中量要素障害

中量要素は、光合成に必要な葉緑素の成分や、細胞膜を強くして丈夫な植物の身体を作るのに不可欠なものです。この中量要素が不足、または過剰の場合に起こる症状について説明します。
中量要素 欠乏 過剰
カルシウム  葉や果実の異常  マンガン、鉄、亜鉛、ホウ素欠乏症を誘発
マグネシウム  葉の色抜け、褐斑形成  マンガン、亜鉛、ホウ素欠乏症を誘発

カルシウム

植物組織を維持する細胞壁や細胞膜の生成などに使われたり、根の生育を促進する働きもします。
土の中では酸度(pH)を調整して酸性の土を中性にします。

欠乏

カルシウム欠乏
出典:flickr(photo by Scot Nelson)
葉の縁が茶色く枯れたり、果実の尻が黒くなる、新葉が奇形になるなどの症状が現れます。

過剰

過剰症はでにくいのですが、カルシウムが多いことで土壌のpHが高くなり、マンガン、鉄、亜鉛、ホウ素などの吸収が阻害され欠乏症が現れることがあります。

マグネシウム

植物が光合成を行うのに必要な葉緑素の構成成分のひとつです。リン酸の移動を助けたり、脂質の合成にも関わります。

欠乏

古い葉の縁や葉脈の間の色が抜けて黄色く変色したり、褐色の斑点が形成され生育不良となります。

過剰

過剰症にはあまりなりませんが、マグネシウムが多いとホウ素、マンガン、亜鉛の吸収が抑制されて欠乏症が誘発されます。


微量要素障害

微量要素は少量でも植物には不可欠な要素で、新芽の生育や光合成にとっても必要なものです。微量要素が欠乏または過剰な場合に現れる症状について説明します。
微量要素 欠乏 過剰
硫黄  葉の黄化  窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウム欠乏症を誘発
 葉の色抜け  葉に褐色斑点、マンガン、リン酸欠乏症を誘発
ホウ素  生長点、果実の異常  葉の異常
マンガン  葉の色抜け  葉に褐色斑点、鉄欠乏症を誘発
亜鉛  葉の黄化  下葉の黄化
モリブデン  葉がわん曲、斑点  葉の色抜け
 葉の黄化、縁枯れ  根の異常、鉄欠乏症を誘発
塩素  葉先枯れ、黄化  葉先・葉縁枯れ、色抜け

硫黄

窒素とともに植物体内でタンパク質を作る成分のひとつです。酸化・還元にも関与します。


欠乏

葉の色が全体的に黄化します。特に古い葉でよくみられます。

過剰

過剰症状はみられませんが、土壌が酸性化して窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウムなどの吸収が阻害されます。

鉄は植物体内で働く酵素の成分です。また葉緑素の生成に関与しており、欠乏すると葉緑素の生成が行なわれません。

欠乏

イチゴ 鉄欠乏
出典:flickr(photo by Scot Nelson)
移動しにくい要素であるため、新葉の葉脈間にクロロシスと呼ばれる色抜け症状を引き起こします。

過剰

下葉から発生し、葉脈間に褐色の斑点が生じます。マンガンやリン酸の吸収を阻害し欠乏症を発生させます。

ホウ素

植物の細胞壁を構成する成分で、根や新芽の生育を促進したり、細胞分裂や受粉に関わります。

欠乏

出典:flickr(photo byScot Nelson)
先端部や生長点は萎縮し、新葉の生育が停止します。また茎や果実の亀裂やコルク化、根の伸長不良、花粉の不稔など植物によってさまざまな症状が出ます。

過剰

過剰症は出にくいのですが、葉縁部あるいは葉脈間に白〜褐色の斑点が生じて、落葉したり奇形となることもあります。

マンガン

光合成の働きを助けるために、重要な役割を果たしている成分です。光合成に関わる葉緑体の中には、葉中の約60%のマンガンが存在しており、葉緑体の中に含まれる葉緑素の生成にも関与しています。

欠乏

マンガン欠乏 バラ
出典:wikimedia
はじめ上位葉の葉が葉脈を残して淡い緑〜黄色に変色します。その後中位葉まで症状が進み、葉では褐色の斑点がみられるようになります。

過剰

主に下位葉に発生して、葉の表面の葉脈に沿ってチョコレート色の斑点を生じます。やがて葉脈のチョコレート色は濃くなり、壊死斑(えしはん)が生じます。また、マンガン過剰により鉄の吸収が抑制されるために鉄欠乏症状が誘発されることもあります。

亜鉛

植物体内で働く酵素の成分であり、タンパク質や糖分の合成にも関わります。

欠乏

土壌で亜鉛が欠乏することは少なく、通常の栽培ではほとんどみられませんが、水耕栽培などで成分が不足した場合に発生することがあります。
葉が黄化して、生育が抑制されます。

過剰

下葉から黄化して、症状が進むと上位葉に以降します。

モリブデン

タンパク質を合成する際に必要な成分のひとつです。硝酸還元酵素、窒素固定酵素の成分元素です。

欠乏

古い葉がわん曲したり、斑点ができることがあります。

過剰

通常栽培では発生しません。肥料を異常に大量施肥すると、葉脈の間が黄化する症状が見られます。

呼吸に関する酵素に関与し、植物が傷ついた際に生成する酵素にも関わります。
葉緑体の中にある葉緑素を作り出す成分のひとつです。

欠乏

若い葉が淡緑化して葉は内側に巻いたり、葉縁が枯死することもあります。

過剰

根の伸びが悪くなります。
また銅過剰により鉄の吸収が抑制されるために鉄欠乏症状が誘発されることもあります。

塩素

光合成や糖の合成に関与します。

欠乏

葉の先端から枯れるほか、新芽は黄化します。

過剰

葉の先端から葉縁にかけて枯れ、葉脈間の色抜けも見られます。


要素障害の対策

要素障害を引き起こさないためにできる対策について説明します。

適切な施肥量

施肥をする際には、事前に土壌中の成分がどれほど残っているかを調べましょう。微量要素の分析は高価なため、数年に一度分析してみることをお勧めします。
農業者の方はJAや普及所などの機関で土壌分析を依頼できる場合もあります。
▼窒素分分析はこちらもご覧ください。

適切な土壌酸度

要素には、吸収しやすい土壌酸度(pH)があります。
要素障害が疑われたら、土壌酸度を計測してみることをおすすめします。また、作物にとって生育しやすい酸度がありますので、作物の状態と併せて酸度の数値を決定しましょう。
▼土壌酸度(pH)分析のことならこちらをご覧ください。

根傷みの予防

植物の根が傷ついて弱り、肥料が吸収できずに欠乏症が発生している場合もあります。
水はけの悪い畑は畝を高くしたり、排水性を高めるために腐植土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入します。

根傷みの原因になるセンチュウ対策には、えん麦やマリーゴールドなどの緑肥作物を栽培するのが効果的です。そのほかにも、サポニンという成分がセンチュウを抑制するので土壌にサポニンの成分を含む椿油粕を混ぜることで予防することができます。

葉面散布

肥料は水と一緒に根から吸収されて全身に運ばれますが、効果があらわれるまで時間がかかるほか、根からの吸収がうまくいかないと不足したままです。要素障害を予防したい場合や応急的に要素障害の対策を行いたい場合は、葉に直接肥料を散布する「葉面散布」がおすすめです。
葉面散布専用の肥料は、葉から吸収されやすい成分を含んでいることが多く、即効的に作用します。
※展着剤、農薬との混用は薬害を引き起こす恐れもあるため、ラベルをよく読んでご使用ください。
ITEM
メリット青
生育に合わせて処方を使い分けられます。
リン酸(ポリリン酸)が高い肥効を示します。
pHが中性で安心して使用できます。

・内容量:1kg
・保証成分:窒素(7.0%)、リン酸(5.0%)、カリ(3.0%)、マンガン(0.1%)、ホウ素(0.2%)、銅(0.05%)、鉄(0.08%)、亜鉛(0.05%)、モリブデン(0.075%)


ITEM
ファイトマジック
マグネシウム、および微量要素の補給に。
吸収力の高いキレートマグネシウムと、バランス良く配合された微量要素が、浸透剤の力を借りて葉から素早く吸収。体の隅々まで移動します。

・内容量:1L
・有効成分:水溶性マンガン(0.20%)、水溶性ホウ素(0.10%)、水溶性鉄(0.20%)、水溶性銅(0.01%)、水溶性亜鉛(0.11%)

要素障害予防には早期発見

要素障害は肥料の不足や過剰によって起こる植物の障害です。植え付け前には土壌分析を行うなどして、適量の肥料を施用しましょう。
また、畑をよく観察して欠乏症の兆候があれば、追肥や葉面散布で肥料を補います。肥料を十分に吸収できるように、健全な栽培環境に整えましょう。

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rinko

農学部大学院にて植物病理学の修士号を取得。 農協、農業資材メーカーで合わせて約10年間、農家へ栽培技術指導、病害虫診断業務を担当。現場で得た経験と知識で正確な情報をお伝えします。