作物の生育に欠かせない湿度について
露地栽培とハウス栽培の大きな違いは、冬でも閉鎖された空間(ハウス内)で暖かい環境を生み出し、季節に左右されず作物を育てることができる点です。このとき、ハウス栽培では温度管理にばかり着目されやすいのですが、作物の生育において湿度も大変重要な管理項目なのです。
植物と湿度の関係
植物は太陽の「光」と空気中の「二酸化炭素」、根から吸収する「水」から生きるエネルギーを獲得しますが、このなかで水の吸収に湿度が大きく関係しています。植物は気孔から水分を排出する「蒸散」という現象で、植物体内の水が減少した圧によって、根から水分や窒素、マグネシウムなどの無機肥料分を吸収し、道管とよばれる組織を通って水と一緒に全体に行き渡らせます。
この気孔は、周囲の環境に合わせて自在に開閉する性質があります。通常太陽の光を浴びる日中に開き、夜に閉じますが、湿度も敏感に感じとります。
水分、養分吸収を良好にする湿度
自然と異なる閉鎖されたハウス栽培においては、湿度を植物に合わせてコントロールしなければ、養水分を上手に取り入れられず、生育が衰える結果になってしまうということです。植物の水分、養分吸収を良好にする湿度コントロールを行うために、まずは湿度の基本について知っておきましょう。
▼蒸散についてはこちらをご覧ください。
湿度の基本を知って湿度管理を万全に
空気中に含むことのできる最大の水蒸気量のことを、飽和水蒸気量といいます。飽和水蒸気量は温度によって増減し、温度が高くなると飽和水蒸気量は増えます。つまり温度が高いほど、空気中に含める水蒸気量が多くなります。
湿度の基本
湿度には、「相対湿度(%)」と「絶対湿度(g/m3)」があります。日常生活でよく使われる湿度とは相対湿度のことを指しています。
温度に左右される相対湿度(%)
飽和水蒸気量に対して、空気中にどれだけの水蒸気量が含まれているかを割合で表したもので、単位は%です。飽和水蒸気量は温度が高くなると増えますが、空気中に含まれている水分量が一定の場合、相対湿度は温度が上がると低下するという現象がおきます。
温度に左右されない絶対湿度(g/m3)
空気1m3中に含まれる水蒸気の量を示したもので、単位はg/m3です。絶対湿度は水分の「量」を示すため、温度には影響されません。
一方で、相対湿度が同じ場合は温度によって含まれる絶対湿度は変化します。
同じ湿度80%でも、夏は肌にまとわりつくようにジメジメしたように感じ、冬はあまりそのように感じないのは空気中に含まれる水分量が夏の方が圧倒的に多いためです。
飽差とは
根から新たな水分と肥料を吸い上げ、植物の生長を促進するためには、蒸散量を多くすることが大切です。この蒸散量は空気中に「あとどれくらい水分が入るか」で変化します。水分量は、飽和水蒸気量と絶対湿度の差で示すことができます。この差のことを「飽差」といいます。植物の蒸散のカギとなる気孔をコントロールする飽差
蒸散は葉裏にある口のような形をした一対の細胞機関「気孔」で起こります。気孔が大きくあくと蒸散量は多くなり、小さくあくと蒸散量は比例して少なくなります。気孔は「飽差」で示される空気中の水分量を感知して開閉します。
最適な湿度管理のために注意する3つのこと
結論からいいますと、飽差が7以上だと植物が水分欠乏の危険を感知して気孔を閉じてしまいます。逆に飽差が2以下の過湿状態になると、気孔は開いていても蒸散は起こらず根から水は吸収されません。
以上のことから、植物の生長にとって最適の飽差は3〜6g/m3です。
上の表を参考に、気温が20℃では相対湿度を70〜80%、25℃なら75〜85%、30度以上の高温時は85~90%で管理すると適正飽差になります。
では、最適な飽差を保つためにどんなことに注意すればいいのでしょう。
1. 飽差を急激に変化させない
朝夕・季節で環境が変化する栽培中に最適な飽差を保つことは、なかなか難しいものです。飽差は3〜6g/m3を外れていても、温湿度がなだらかに変化した場合気孔は閉じません。
例えば、ハウスで一気に天窓や側窓を開けるなどすると飽差が一気に変化します。そういう場合に気孔は危険を感じて閉じてしまい、蒸散ができないため植物は水を根から吸い上げることができずに萎れます。
カーテンや天窓、側窓は少しずつ開けて気温や湿度の変化を少なくすると、飽差はなだらかに変化し気孔の閉鎖も免れることができます。
2. 季節に合わせた飽差値を維持する
夏場は温度が高く、空気中に含める水分の量も多くなるため飽差は大きくなりやすいです。そのため、ミスト装置などを導入して定期的に水蒸気を空気中に送る方法もあります。
飽差コントローラーと連動して動くミスト装置もあり、自動的に最適飽差になるようにミストを稼働してくれます。
冬場は逆に飽差が小さくなり過ぎないように、相対湿度を上げ過ぎない管理を心がけます。
▼季節に合わせたハウス栽培の管理方法のことならこちらをご覧ください。
3. 温度と湿度をコントロールして結露を防止する
暑い室内で、コップに冷たいビールを注ぐと、コップの周りに水滴がつきます。これはコップの周囲の温度が下がり、飽和水蒸気量が小さくなったため、空気中に入りきらなくなった水分が水滴となって現れたのです。寒い日の早朝に植物の表面に水滴がつく結露は、朝になって暖められた空気に対して植物の葉の温度が上がりにくく、葉の周囲の空気は冷たいままなので起こる現象です。
結露を防止するためには、夜間から暖房機を定期的に稼働させて湿度を下げること、日の出後は少しずつ天窓やカーテンを開けて湿度を抜くこと、また外気と植物体の温度変化を少なくするために、緩やかに温度を上げていくことが大切です。
▼ハウス栽培の温度管理のことならこちらをご覧ください。
湿度管理で植物の病気も防ぐ!!
湿度は植物の生育に大きく関わっていることを説明しましたが、じつは病気についても湿度が大きく影響しています。湿度の高い状態は、菌にとって好条件な環境下なので、植物が軟弱に生育した際に病気の発症が増加します。
高い湿度で発生しやすい病気
カビ(糸状菌)や細菌が原因となる病気の多くは、湿度が高いと発生しやすくなります。湿度が高いと、カビは胞子をつくって飛ばしたり、胞子から菌糸が発芽して植物の細胞に侵入するようになります。
また、灌水などの水滴で菌が運ばれて植物に付着する場合もあります。
※灌水とは水を注ぐこと、植物に水を与えること。
▼カビ(糸状菌)や細菌など病気の原因についてはこちらをご覧ください。
病気多発時の夜間条件
上記であげたようなカビ病は、夜に湿度が高く、植物の表面がある一定時間以上濡れている(結露している)日が続くと多発しやすくなります。病名 | 相対湿度(%) | 葉、果実表面の結露時間 |
灰色かび病 | 93%以上 | 5時間以上 |
白さび病 | 95%以上 | 3〜4時間以上 |
斑点細菌病 | 90%以上 | 5〜6時間以上 |
疫病 | 91~96%以上 | 5〜6時間以上 |
夜間の湿度管理
冬場のハウスでは暖房機を1時間に1回など定期的に強制的に動かして温度を上げて、ハウスの相対湿度を下げます。そうすることで長期間の結露を予防し、病気を防ぐことができます。ハウス栽培のプロとして湿度管理を制す!
湿度管理を徹底すると病気を防ぐことができるだけでなく、植物の生育をコントロールすることも可能です。まずはハウスの湿度を計測して、季節に合わせた湿度管理ができるようになりましょう。ハウスに計測器を設置し、日ごろから温湿度を気にすることが大切です。飽差が計測できなくとも上の表などを見ると温度と湿度から飽差が推定されるため、まずは温度、湿度を意識してみましょう。
▼湿度計など農業用測定機器のことならこちらをご覧ください。