植物の病気対策に使用する農薬とは?
農薬(殺菌剤)には、病気の予防のために使用する「予防剤」としての農薬と、病気を治療する効果がある「治療剤」の農薬があります。▼殺菌剤のことならこちらをご覧ください。
「予防剤」農薬
植物が病気になる原因のカビ(糸状菌)は胞子や菌糸の形で、細菌はそれ自体が植物の傷口や開口部から植物内部に侵入します。このとき、病原菌が侵入する経路を防ぐのが「予防剤」農薬です。
予防剤(農薬)を使用することで、カビ(糸状菌)の胞子の発芽を阻害したり、菌糸の成長を止めて侵入を阻止します。
「予防剤」農薬を使うタイミング
一般的に栽培初心者が農薬を使うタイミングは、植物が病気にかかってから慌てて使用することが多いかと思いますが、基本的には大発生してから病気を治すことは農薬を使ってもなかなか難しいものです。病気が発症した後の農薬では、侵攻を抑えるだけで、病気の影響でできてしまった斑点やカビなどの痕跡をきれいにすることはできません。植物は動物のように傷口が元どおりに治ることはないのです。作物に病気が発症してその痕跡ができてしまったら、販売する商品としては「アウト」なのです。
農薬は予防的に散布しておくことが作物栽培の要であり、農薬の存在理由ともいえます。
「治療剤」農薬
カビ(糸状菌)や細菌などの病原菌は、植物に感染した後、植物の内部で増殖したり、菌糸を伸ばして植物から栄養を奪い取ります。このとき、病原菌の増殖や菌糸の成長を止める効果が期待できるのが「治療剤」農薬です。
お金と労力を無駄にしない「治療剤」農薬の使い方
同じ農薬を使い続けていると、その農薬に耐性を持った病原菌が発生してしまいます。そのことから、今まで効果のあった農薬が急に効かなくなるだけでなく、耐性を持った病原菌がほかの生産者のところにも移動して、地域全体でその農薬が効きにくくなるといった問題が発生します。使用する農薬は連用せず、別の成分のものを何点か用意してローテーションを組んで散布するように心がけましょう。
▼薬剤抵抗性やローテーション散布のことならこちらをご覧ください。
ウイルス病に効果がある予防剤・治療剤は無い!?
葉をモザイク状にするモザイク病や、生長を止めてしまう黄化葉巻病など、原因が「ウイルス」による病気の場合、今のところ病原菌の治療に効果のある予防剤も治療剤もありません。ウイルスは昆虫によって植物に運ばれてくるため、ウイルス病の予防は「害虫を防除する農薬」を使用しましょう。
▼害虫がウイルスを媒介して引き起こすモザイク病や黄化葉巻病のことならこちらをご覧ください。
作物に使用可能か確かめる!!
農薬には使用できる作物が定められています。使用する薬剤に作物の登録があるか必ず確認します。使用基準に違反した場合には罰金も発生するので、地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守って施用しましょう。
▼農薬を使用する際、確認しなければならないことについてはこちらをご覧ください。
「予防剤」農薬の選び方と使い方
植物の病気は、80%がカビ(糸状菌)によるもの、10%は細菌など、残り10%はウイルスなどが原因といわれています。これらが原因で発症する病気の有効な予防策は、農薬を使わずに圃場の管理で行う方法(耕種的防除方法)と今回紹介する農薬で行います。
病気が発生する前に「予防剤」農薬を用意するところから始めましょう。
▼病気の原因「カビ(糸状菌)・細菌・ウイルス」のことならこちらをご覧ください。
「予防剤」農薬の選び方
栽培する作物の種類や時期によって、発症しやすい病気があります。初めて育てる作物にどんな病気が発症しやすく、多発する時期、使用する時期はいつか、予め調べておきましょう。
また、前作で発症した病気や対処の方法を記録しておくことは、これから栽培する作物の病気を未然に防ぐ優れた情報になります。
使用する時期から選ぶ
植え付け前は「土壌混和」
・目的:根こぶ病やそうか病といった土壌病害の予防対策として、栽培初期にかかりやすい苗立枯病などの病気対策に効果的
・メリット:都度散布する農薬に比べて作業の手間を抑えられる(浸透移行性のあるものは、根から全身に移行し栽培初期まで効果が長続き)
・タイミング:種、苗の植え付け前
・使用方法:予め土壌に農薬を混ぜ込む
▼根こぶ病やそうか病、苗立枯病のことならこちらをご覧ください。
生育初期の病気白さび病、立枯病を抑える!!
▼白さび病や立枯病のことならこちらをご覧ください。
生育中は「散布」
・目的:病気が発生する前に散布することで未然に防ぐ
・メリット:必要なだけ、散布したい場所に、必要な量を散布することができる
・タイミング:天候不順、植え付け後、成り疲れ、収穫時期など
・使用方法:目安は一週間に一回散布(農薬、作物の生育状況による)
▼うどんこ病やべと病、炭疽病のことならこちらをご覧ください。
さび病、白さび病、褐斑病などの多くのカビ病と一部の細菌病が予防できる保護殺菌剤
▼さび病や褐斑病のことならこちらをご覧ください。
軟腐病や斑点細菌病などの細菌病や、一部のカビ病を予防!!
▼軟腐病や斑点細菌病のことならこちらをご覧ください。
安心して予防できるものから選ぶ
微生物を主成分とした農薬や、食品添加物を原料とした農薬は、環境にも優しく有機栽培でも使用可能です。農薬の使用回数制限も無いため、安心して連用できます。化学農薬と比べて効果が薄いと思われがちですが、効果が切れる前に間隔をあけずにたっぷりと散布することで十分な効果が得られます。
▼微生物農薬のことならこちらをご覧ください。
納豆菌由来の微生物農薬
▼灰色かび病のことならこちらをご覧ください。
デンプンが病気を運ぶ虫を封じ込める!
▼アブラムシ類やハダニ類、コナジラミ類のことならこちらをご覧ください。
「予防剤」農薬を用意
予防したい病気がわかったら、農薬を探します。自宅で調べる場合は、ネットで作物名と病気を検索すると該当する農薬が出てきます。上記でおすすめした「予防剤」農薬以外にも、JAなどに所属している生産者の方は、栽培暦や防除暦を参考にしましょう。
予防剤(農薬)は、ホームセンターや農協、農業資材店、ネット販売などで購入することができます。
ホームセンターなどで販売されている家庭菜園向けのものには、ボトルに「予防」「治療」、もしくは「予防と治療両方」に効果ありと書いてある場合もあるため、確認してから購入しましょう。
「予防剤」農薬の散布のポイント
予防剤(農薬)は葉の表面を覆って菌の発生を防ぐ目的があるため、なるべくたっぷりと、葉全体を覆うようにムラなくかけるのがポイントです。病気が発生しやすい葉裏までしっかりとかけましょう。移行性のない薬は、新しい葉には効果がないため、新しい葉が出てくるタイミングで再び予防剤を使用します。
▼露地栽培やハウス栽培での効果的な農薬散布のことならこちらをご覧ください。
葉面散布剤と共に
植え付け初期の幼苗期にも使える予防剤(農薬)を散布するときは、発根を促す葉面散布剤などと一緒に施用して、予防だけでなく健全な苗の生育も同時に行いましょう。▼葉面散布剤など液体肥料のことならこちらをご覧ください。
台風や大雨の後も!
雨が続くと農薬も散布しづらいですが、晴れのタイミングや昼間に散布して夜には乾くようにしましょう。
台風や大雨の後も、植物が傷んで病気が発生しやすいため、農薬で病気を予防します。
▼農薬での台風対策についてはこちらをご覧ください。
「治療剤」農薬の選び方と使い方
どんなに予防しても病気になってしまうことがありますが、病気発生の初期段階に治療剤(農薬)を使用することで、被害を最小限に食い止めることができます。直ちに使用する治療剤(農薬)を選んで対応しましょう(一部、モザイク病のように治療剤が効かない病気もあります)。「治療剤」農薬の選び方
治療剤(農薬)は、植物内部に薬剤を浸透させて病原菌に働きかけるために、葉から植物内部へ、最終的に全体に移行するタイプが多くあります。常備する「治療剤」農薬におすすめ!
治療剤(農薬)の中でも有名なのは「アミスター」で、高い治療効果があります。疫病、白さび病、炭疽病などさまざまな病気に効果があるだけでなく、登録されている作物も多いので倉庫に備えておくと安全です。▼疫病のことならこちらをご覧ください。
安心安全の有効成分から選ぶ
治療剤(農薬)の種類の中でも、有効成分が食品添加物でもある炭酸水素カリウムを使用した農薬があります。うどんこ病や灰色かび病に、発生初期に使用して高い効果を発揮します。「治療剤」農薬の散布のポイント
作物の病気の発生を確認したら、葉や果実など切り取り可能な部位の病斑をできる限り取り除き、できるだけ早く治療剤(農薬)を散布しましょう。散布する際は、病気にかかった部位を中心に、まわりにもたっぷりとかかるようにします。薬害には注意が必要ですが、治療剤(農薬)の使用は一度きりではなく、数回散布する方が効果があります。
予防的な農薬使用で高品質・高収量を目指す!
農薬は使うタイミングや頻度など効果的に使用することで、病気の発生を抑えることができます。予防剤と治療剤を使い分けて、高品質、高収量の野菜づくりを目指しましょう。特に予防剤(農薬)は、植物の内部に病原菌が入り込んでしまう前の段階で使用する必要があり、中に入り込んでしまった病原菌には効果が薄いので、病気にかかりやすい天候不順や定植直後、収穫時期は徹底して予防を行います。
一般的な予防剤としてよく知られている農薬は、作物の登録を多く取っているものが多いので、予め倉庫に備えておくといざというときに便利です。