生物農薬とは?
生物農薬とは、病害虫の防除に利用できる微生物や天敵、寄生昆虫などを、誰でも利用しやすいように製剤化したものです。農薬の成分として微生物や昆虫を生きたまま封入してあり、圃場で使用することができます。かつて農業では、人工的に合成された化学農薬が全盛でしたが、昨今では生物農薬のように自然の力を利用した農薬が増加しつつあります。
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生物農薬
生物農薬は、自然界にもともとある素材といえども「農薬」であるため、使用できる作物が定められています。使用する薬剤に作物の登録があるか必ず確認します。使用基準に違反した場合には罰金も発生するので、地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守って施用しましょう。
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1. 天敵
天敵とは自然界に存在する害虫の敵となるものです。鳥や獣、テントウムシなども天敵に含まれますが、現在農薬として製剤化され販売されているのは、天敵のダニやハチ、カメムシといった昆虫とセンチュウ(線虫)です。害虫を直接食べるもの、害虫に寄生して死亡させる天敵昆虫がいます。▼天敵のことならこちらをご覧ください。
カブリダニ
ミヤコカブリダニ、チリカブリダニ、スワルスキーカブリダニといったカブリダニの仲間は、ダニを捕食します。
ハダニ類の発生前に葉にまんべんなく撒いておくと天敵が増殖して、大発生を防ぐことができます。
スワルスキーカブリダニはアザミウマ類やコナジラミ類の天敵でもあるので、同時防除も可能です。
天敵の名前 | 効果のある害虫 | 使用場所 | 商品名(製薬メーカー) |
ミヤコカブリダニ | ・ハダニ類 | 施設・露地 | ・ミヤコトップ (アグリ総研) ・スパイカル (アリスタライフサイエンス) |
チリカブリダニ | ・ハダニ類 | 施設 | ・チリトップ (アグリ総研) ・スパイデックス (アリスタライフサイエンス) |
スワルスキーカブリダニ | ・ミカンハダニ、チャノホコリダニ ・アザミウマ類 ・コナジラミ類 | 施設・露地 | スワルスキー (アリスタライフサイエンス) |
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ツヤコバチ
オンシツツヤコバチやサバクツヤコバチは、オンシツコナジラミやタバココナジラミなどのコナジラミ類に寄生して、体液を摂取して死亡させます。
天敵の名前 | 効果のある害虫 | 使用場所 | 商品名(製薬メーカー) |
オンシツツヤコバチ | コナジラミ類 | 施設栽培 | ・エンストリップ (アリスタライフサイエンス) ・ツヤトップ (アグリセクト) |
サバクツヤコバチ | コナジラミ類 | 施設栽培 | ・エルガード (アリスタライフサイエンス) ・サバクトップ (アグリセクト) |
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センチュウ
センチュウとは、主に土壌中に生息する体長は0.3〜1mmほどの微生物です。
この線虫のうち、特定の昆虫だけに感染し殺してしまうものをスタイナーネマ(天敵線虫または昆虫病原性線虫)とよびます。
スタイナーネマは、昆虫の口や気門などの開口部から体内に入り、菌を増殖して昆虫は敗血症を起こして死にます。
土壌中の昆虫類は化学農薬で防除が困難なため、このようなセンチュウ類剤を使用すると効果的です。
天敵の名前 | 効果のある害虫 | 商品名(製薬メーカー) |
スタイナーネマ カーポカプサエ | ・シバオサゾウムシ幼虫 | バイオセーフ (エス・ディー・エス バイオテック) |
スタイナーネマ グラセライ | ・コガネムシ類幼虫 | バイオトピア (エス・ディー・エス バイオテック) |
2. 微生物剤
自然界にいる菌などの微生物を利用した農薬です。殺菌剤と殺虫剤があります。バチルス剤
バチルス菌とは、日本に古くからいる土壌微生物の一種で、稲ワラや枯れ草に棲み着くため枯草菌(コソウキン)ともいいます。
納豆をつくる納豆菌もバチルス菌の仲間です。微生物農薬に使われるバチルス菌(バチルス ズブチリス:Bacillus subtilis)は、葉などに散布すると棲み着いて、病原性糸状菌(カビ)の棲家を奪い、野菜などの灰色かび病やうどんこ病などの病原菌に感染しにくくします。
※ボトキラー 、ボトピカ共に、農林水産省のガイドラインの有機農産物生産に使用できます。
BT剤
BT剤とは、細菌のバチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis:BT)を使用していて、チョウ目、ハエ目、コウチュウ目の幼虫に有効です。
この菌を昆虫が食べると、菌の作る結晶性タンパク質が昆虫腸内のアルカリ性消化液で分解されて毒素となって、食べるのを止めて、またBT菌が増殖することで死亡します。
BT菌の中でもクルスターキ(kurstaki)、アイザワイ(aizawai)系統の菌株が主に微生物農薬として商業的に利用されています。
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土着天敵
日本に古来から生息し、製剤化されていない昆虫などの天敵を「土着天敵」といいます。ナスを加害するミナミキイロアザミウマを食べる「ヒメハナカメムシ類」や、トマトに黄化葉巻病などを引き起こすタバココナジラミの天敵「クロヒョウタンカスミカメ」など、元から自然界に存在している食う、食われるの関係を利用します。
このような土着天敵を農業で利用する動きも進んでいます。
高知県などでは、土着天敵を繁殖させる専用のハウスを作り、栽培用ハウスに放飼する方法も盛んに行われており、減農薬を実行しています。
生物農薬を使用する3つのメリット
生物農薬を使用すると、農業においてさまざまなメリットがあります。1. 環境に優しい
自然界に生存している生物を利用するため、環境に負荷をかけません。また化学農薬の使用を減らすことができ、栽培者の農薬散布の負担を減らし、消費者へ安全安心な作物を届けることができます。
2. 良い菌、益虫を生かす
化学農薬を使用すると、植物の生育にとって良い菌や、本来害虫を食べてくれるテントウムシなどの益虫も同時に殺してしまうこともあります。生物農薬を使用すれば、このような生かしておくべき菌や虫を殺すことなくそのまま利用することができます。
3. 農薬耐性菌や抵抗性害虫の心配が無い
化学農薬を使用すると、生き残った菌や害虫が化学農薬に耐性を持ったなどスーパー害虫として繁殖し、また化学農薬の効果が無くなるといった、病原菌や害虫と農薬のいたちごっこになってしまうことがよくあります。生物農薬は、そのような耐性菌や抵抗性害虫を生み出す心配はありません。
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生物農薬使用上の3つの注意点
生物農薬を使用する上で気を付けたいポイントです。1. 化学農薬の使用
生物農薬を使用している圃場で、通常通り化学農薬を散布してしまうと、せっかく植物に定着した生物農薬を殺してしまうこともあります。化学農薬を散布する際には、生物農薬に影響の無い、もしくは影響の少ない農薬を選びます。
▼露地栽培やハウス栽培での効果的な農薬散布についてはこちらをご覧ください。
2. 保存に注意
生物農薬は生きた菌もしくは虫なので、開封後はできるだけ早く使い切ります。保存方法についてはラベルをよく確認して注意します。
3. 予防的に使用
生物農薬は化学農薬と比較して、病気や虫が発生した後の強い効果は期待できません。生物農薬は予防的に使用して、発生を抑えましょう。
▼予防剤のことならこちらをご覧ください。
生物農薬を利用して、環境に優しい作物を育てよう
自然の力を使った生物農薬を利用することで、生態系を維持して人と環境に優しい作物を育てることができます。生物農薬は栽培している作物や効能から選択して、効果的に病気や害虫を予防しましょう。