※圃場とは屋外の畑のことです。
露地栽培での4つの効果的な農薬散布のポイント
露地栽培での農薬散布における4つの効果的なポイントについて説明します。1. 発生予察
前年の農薬使用記録や、発生予察などを参考に防除のタイミングを逃さないようにします。各県に設置された病害虫防除所において調査したものが、今後の発生予報として公表されています。
出典:都道府県病害虫防除所(農林水産省)
2. 天候や季節に合わせた散布
露地栽培は天候や季節の影響を受けやすいため、状況に合わせた散布を行う必要があります。風雨の影響がない日を選ぶ
散布後乾く前に雨が降ると、薬剤が洗い流されてしまうので、十分な効果が発揮されません。また、風が強い日は、作物に対して効果的に散布できないだけでなく、周囲への飛散リスクも高くなります。耐雨性薬剤
雨が降っても薬剤が流されにくい耐雨性薬剤もおすすめです。しかし、耐雨性であっても、薬剤が乾燥する前に雨が降ってしまえば、効果を十分に発揮できないので、天気予報を必ず確認しましょう。
季節に合わせた散布
秋雨時期は、降雨後継続的に散布することで病気の予防に効果があります。▼台風前後の効果的な農薬散布についてはこちらをご覧ください。
3. 農薬散布前のひと手間
散布を行う前には、あらかじめ下葉や古くなった葉を取り除きましょう。摘葉・摘花・摘果
生育に不要な葉や花、果実は、病害虫を発生し増殖させる原因となるので適宜取り除きましょう。また、雨や風が強い台風などで葉が傷んだときにも、不要な葉を取り除いてから散布することで薬剤が作物にかかりやすくなります。
▼トマトやミニトマトの摘葉・摘花・摘果のことならこちらをご覧ください。
残渣(ざんさ)の処分
前作の枯れた植物の葉や茎に病原菌が寄生している可能性があります。残渣を圃場の外に持ち出すことで、病害虫の温床となるのを防ぎます。※残渣とは枯れた植物や落ち葉のこと。
▼植物に被害を与える病原菌のことならこちらをご覧ください。
4. 周囲への影響を考えた散布
農薬の飛散をできるだけ抑える6つの対策を行いましょう。1-1. 飛散しにくい薬剤を選ぶ
同じ適用作物において登録がある農薬で、有効成分が同じ剤型には、水に希釈して使用する「水和剤」や「乳剤」、そのまま散布する「粉剤」「粒剤」などがあり、この中で最も飛散を抑える「粒剤」を優先的に選択します。▼農薬の剤型についてはこちらをご覧ください。
1-2. 周りの作物にも登録がある農薬
飛散する可能性を考え、周囲で栽培されている作物にも登録がある農薬を使うことで、薬害などをある程度防ぐことができます。1-3. 物理的に飛散を抑える
飛散低減ノズルや遮へいシート、飛散防止ネットを使用することで物理的に飛散を抑えることができます。1-4. 散布の方向
圃場の端で散布を行う場合は、飛散しにくいように圃場の外側から内側に向けて散布を行いましょう。1-5. 適度な間隔
あまりにも作物から離れたところから散布すると広く飛散させてしまうので、適度な間隔を保って散布しましょう。1-6. 飛散しにくい噴霧器のノズル
噴霧器のノズルは、噴霧粒子径が大きいものを使用すると飛散しにくくなります。平均粒子径が200μm以上のノズルがおすすめです。注意!
噴霧圧力が高くなると噴霧粒子径は小さくなるので、平均粒子径が200μm以上のノズルを使用しても散布液が飛散してしまいます。取り扱い説明書などに記載されているノズルの適正圧力範囲を守りましょう。
露地栽培で使用できる省力散布法
農薬散布は病害虫防除には必要な作業ですが、時間も労力もかかる作業です。しかし、農業機械や最新の技術を使用することで、これらの負担を軽減することができます。スピードスプレイヤー
スピードスプレイヤーは、液状の農薬を送風機から吹き飛ばして散布を行う農業機械です。トラクターなどでけん引するタイプや自走式のものがあり、ブドウやナシ、リンゴなどの果樹園で効率よく農薬を散布することができます。▼スピードスプレイヤーを使った霜害対策のことならこちらをご覧ください。
ドローン
大規模な農薬の空中散布に使用されていた無人ヘリコプターと比べ、操作が簡単で安価なドローンの発達のおかげで、散布作業の効率化を図ることができます。▼ドローンでの農薬散布についてはこちらをご覧ください。
農薬を露地栽培で効果的に使用するために
農薬を露地栽培で効果的に使用するためには、周辺の環境に対する影響を少なくする各種防除手段を適切に組み合わせたIPMを実践することが重要です。農薬以外の防除技術を活用することで、土着天敵に対する影響を軽減し、病害虫の薬剤抵抗性発達を遅らせ、結果的に農薬の効果を高めます。
※IPM(Integrated Pest Management)とは、総合的に病害虫や雑草管理を行うことです。
防虫ネット
防虫ネットを使用することで、作物に飛来する害虫の被害を抑えることができます。▼防虫ネットのことならこちらをご覧ください。
微生物農薬
自然界にいる菌などの微生物を使用した病害虫防除を行うため、環境に負担をかけません。▼微生物農薬のことならこちらをご覧ください。
おとり植物
おとり植物とは、病原菌のおとりとなってくれる植物のことです。例えば、アブラナ科に発症する根こぶ病は、葉ダイコンやエン麦などのおとり植物を育てて、その根に根こぶ病菌を取り込むことで病原菌を増殖させず、土壌中の菌密度を減らす対策を行います。▼根こぶ病のことならこちらをご覧ください。
▼「おとり大根 CR-1」など、おとり植物を利用した栽培のことならこちらをご覧ください。
対抗性植物
植物に含まれる物質や組織内で生産される成分が、センチュウ類の侵入や寄生、成長や増殖を抑制したり致死させたりすることにより、センチュウ類の密度を積極的に減らすことができるものです。代表的な対抗性植物としてマリーゴールドがよく知られています。▼センチュウ類対策での対抗植物利用のことならこちらをご覧ください。
▼マリーゴールドなどコンパニオンプランツのことならこちらをご覧ください。
拮抗(きっこう)微生物
拮抗微生物とは、土壌の病原菌と生存スペースや栄養を奪い合い拮抗する微生物のことです。拮抗微生物をうまく働かせることで、病原菌の生育を抑制し病気の発生を抑えることができます。▼拮抗微生物を定着させる放線菌のことならこちらをご覧ください。
天敵
対象とする害虫を捕食する土着天敵や天敵製剤を活用して防除を行います。▼天敵のことならこちらをご覧ください。
▼拮抗微生物や天敵の住処となるバンカープランツのことならこちらをご覧ください。
リビングマルチ
作物の生育中に地表面を覆うようにほかの植物を生育させるものです。リビングマルチによって害虫を視覚的にかく乱したり、物理的な障壁となったり、天敵の住処となったりと害虫の加害を抑制することができます。▼リビングマルチのほかに天敵の住処にもなる緑肥についてはこちらをご覧ください。
マルチ
雨による土壌の跳ね返りを防ぎ、病気を防ぐことができます。また、シルバーマルチは害虫忌避の効果があるため害虫の飛来を抑えることで害虫や害虫によるウイルス病などの伝搬を抑えることができます。▼シルバーマルチのことならこちらをご覧ください。
LEDランプ
害虫の中には、光(紫外線)に対して向かっていく性質のものがいるため、紫外線を出す蛍光灯に集まる習性があります。ほとんど紫外線を含まないLEDを街灯や照明に用いて、害虫を寄せ付けないようにしましょう。▼光を利用した光防除のことならこちらをご覧ください。
合成性フェロモン
雄の成虫が雌の成虫を探しにくくする目的で、圃場に合成性フェロモンを拡散させて交尾を阻害し、害虫の繁殖率を下げます。▼合成性フェロモンなどの誘引剤のことならこちらをご覧ください。
適切な株間
株間が近過ぎると日当たりや風通しが悪くなり、軟弱な株になるだけでなく、病害虫も発生しやすい環境をつくります。抵抗性、耐病性品種の利用
病害虫の防除対策として、抵抗性品種(病原菌を接種しても病徴が出ない)や、耐病性品種(病原菌が少なければ発病しない、もしくは発病しても軽い、発病が遅い)を利用することも有効です。▼抵抗性、耐病性品種の接ぎ木苗のことならこちらをご覧ください。