アブラムシ類は、植物を吸汁加害する際ウイルスを媒介して、寄生した作物を病気に感染させる厄介な害虫です。近年薬剤抵抗性の発達が確認され、作用の異なる薬剤のローテーション散布が欠かせない農業害虫として問題になっています。本記事では、農業で特に問題になるモモアカアブラムシやワタアブラムシなどのアブラムシ類を中心に、生態や種類の見分け方、防除の方法について紹介します。
アブラムシ類とは
アブラムシの主な生態
アブラムシは種類によって生態や寄生する植物などが異なりますが、一年のうち春と秋に多く発生します。ここでは一般的なアブラムシの生態について説明します。冬
概ね卵で越冬します。春〜秋
卵からふ化した「幹母(かんぼ)」と呼ばれるややふっくらとしたアブラムシは、交尾をせずに体内で未受精卵をふ化させ、ある程度成長したところで雌の幼虫を生みます(胎生)。このとき生まれた幼虫には、翅(はね)がある「有翅胎生雌虫(ゆうしたいせいしちゅう)」と、翅のない「無翅胎生雌虫(むしたいせいしちゅう)」がいます。この無翅胎生雌虫は旺盛に卵を産んで繁殖します。一方、有翅胎生雌虫は主に春と秋に新たに寄生する植物に飛来して幼虫を産みますが、無翅胎生雌虫に比べるとその量は少ないようです。晩秋
卵を産む雌と雄のアブラムシが現れ、交尾をすることで新しい子孫を残します(有性生殖)。しかし、アブラムシの種類や、気候の変動などによって有性生殖をせずに、クローンの雌を産み続ける場合もあります。生息場所
新芽や花蕾(からい)、葉の裏などに寄生します。寄生する植物
冬に寄生する植物と、春から秋にかけて寄生する植物を変える移住型のアブラムシと、年中同じ種類の植物(または同じ系統)で繁殖を続ける種類がいます。アブラムシとアリの共生
一部のアブラムシが分泌する液体「甘露」を目当てにアリが寄ってきます。そのため、アブラムシが発生している植物にはアリも多数みかけます。アブラムシ類の被害の特徴
アブラムシ類は植物に寄生して吸汁加害し、その際各種ウイルス病の病原菌を媒介します。また、アブラムシの排泄物にはすす病菌が発生して黒い「すす」が付いたようになります。▼すす病のことならこちらをご覧ください。
新芽
葉・茎
蕾(つぼみ)・花・果実
アブラムシの種類の見分け方
以下アブラムシ類の中でも「モモアカアブラムシ」「ワタアブラムシ」「チューリップヒゲナガアブラムシ」「ジャガイモヒゲナガアブラムシ」「ダイコンアブラムシ」「ニセダイコンアブラムシ」の見分け方について紹介します。
▼発生予報のことならこちらをご覧ください。
1. 見た目で判別
種類 | 雌の体長(mm) | 体色 | そのほかの特徴 |
モモアカアブラムシ | 1.8 〜2.0 | 赤色、緑色、黄緑色 | 体色の変化が大きい |
ワタアブラムシ | 1.1〜1.7 | 黄色、緑色、暗緑色、暗黒色 | やや小型 |
チューリップヒゲナガアブラムシ | 3.0〜4.0 | 青緑〜淡緑色 | 大きく細長い |
ジャガイモヒゲナガアブラムシ | 3.0 | 緑色〜淡緑色 | 触角が体長より長い |
ダイコンアブラムシ | 2.0 〜2.5 | 黄緑色 | 全体に白い粉状のものが厚く覆っているので白く見える |
ニセダイコンアブラムシ | 1.7〜2.0 | 黄緑色 | 薄い白い粉状のもので覆われているのでやや白っぽい |
2. 被害を及ぼす作物で判別
被害を受けた作物からアブラムシの種類を大まかに推測します。種類 | 加害する主な作物 |
モモアカアブラムシ | モモ・ウメなどの核果類、ナス科、アブラナ科、ウリ科、マメ科など |
ワタアブラムシ | ナス科、ウリ科、オクラ、サトイモ、イチゴ、ナシ・カンキツなどの果樹 |
チューリップヒゲナガアブラムシ | 多食性(ナス、ジャガイモ、レタス、セリ、チューリップなどで発生が多い) |
ジャガイモヒゲナガアブラムシ | 多食性(ナス、ジャガイモ、ダイズ、ギシギシ、クローバーなどで発生が多い) |
ダイコンアブラムシ | アブラナ科(キャベツ、カリフラワー、ブロッコリーで発生が多い) |
ニセダイコンアブラムシ | アブラナ科(ダイコン、ハクサイで発生が多い) |
アブラムシが媒介する病原菌
モザイク病に感染した植物を吸汁加害したアブラムシ類が、新たな植物を吸汁することによって病気を伝搬します。モザイクウイルス
▼モザイク病のことならこちらをご覧ください。
アブラムシ類に有効な6つの対策
1. 除草
アブラムシ類は寄生する作物の種類が多いので、栽培施設周辺で複数の作物や花を育てているとそこから飛来して繁殖します。また、雑草が茂る緑地付近の露地・施設栽培は、アブラムシ類の発生、被害に注意が必要です。▼除草剤のことならこちらをご覧ください。
2. 抵抗性品種の導入
病害虫を防除するために育種された抵抗性品種を栽培することでアブラムシ類の被害拡大を防ぐことができます。抵抗性品種の一例
・メロン品種名:アルシス (株)萩原農場
抵抗性:ワタアブラムシ・うどんこ病・つる割病
・ダイズ
品種名:スズユタカ(東北農業研究センター水田作研究領域大豆育種グループ)
抵抗性:ダイズモザイク病(SMV)
・レタス
品種名:サリナス88(サカタのタネ)
抵抗性:レタスモザイク病(LMV)
3. 天敵昆虫
▼天敵や生物農薬のことならこちらをご覧ください。
【寄生性天敵昆虫】
【コレマンアブラバチ】雌成虫がアブラムシの体内に卵を1個産みつけると、ふ化した幼虫がアブラムシの体内を薄い外皮を残してすべて食べ尽くしてしまいます。
※コレマンアブラバチはヒゲナガアブラムシ類には寄生することはできません。
バンカー法
アブラムシは種類によって好む植物が異なります。
例えば、ムギ類を好んで吸汁する「ムギクビレアブラムシ」はイチゴには被害を与えません。イチゴの施設栽培で天敵寄生蜂を利用してアブラムシを防除する場合、ハウス内部で飼育しなければなりません。そのため、同時にムギ類も栽培しながら「ムギクビレアブラムシ」を餌として一緒に飼育します。そして、いざイチゴに被害を与える「ワタアブラムシ」が発生したら飼育している天敵寄生蜂に防除してもらう方法です。
【捕食性天敵昆虫】
アブラムシ類を捕食したり、アブラムシの体内を吸汁したりする天敵昆虫です。【テントウムシ類】
ナナホシテントウ、ナミテントウなどの成虫・幼虫
【クサカゲロウ類】
クサカゲロウ、ヨツボシクサカゲロウなどの成虫・幼虫
【ヒラタアブ類】
ヒメヒラタアブ、ホソヒラタアブなどの幼虫
【ショクガタマバエ】
ショクガタマバエの幼虫(吸汁)
4. 防虫ネット
アブラムシ類を防除するには、かなり目合いの小さいものでなければ全ての種類を防除することはできません。目合い0.5〜0.8mm、少なくとも1mmの防虫ネットを利用しましょう。 強力サンシャイン N-3230
太糸の採用による強度、耐久性、耐候性に優れた防虫ネットなので、台風被害の多い地区や平張り等の強度を必要とする用途にも最適です。
・目合い:0.6mm
・サイズ:巾180cm×長さ100m
・目合い:0.6mm
・サイズ:巾180cm×長さ100m
5. 光の反射
アブラムシ類が光の反射を嫌う性質を利用して、シルバーのマルチを畝に張ります。6. 農薬(殺虫剤)
アブラムシ類は薬剤抵抗性の発達が問題となっているで、ローテーション散布を心がけます。また、天敵までも駆除してしまわないような薬剤を選びましょう。 ウララDF
アブラムシ類の吸汁を阻害して防除する新規の作用性を持っているため、ローテーション散布におすすめです。
残効性と耐雨性、高い浸透移行性があるだけでなく、天敵昆虫に対する影響がほとんどない薬剤です。
・内容量:500g
・有効成分:フロニカミド(10.0%)
・RACコード:29
残効性と耐雨性、高い浸透移行性があるだけでなく、天敵昆虫に対する影響がほとんどない薬剤です。
・内容量:500g
・有効成分:フロニカミド(10.0%)
・RACコード:29
チェス顆粒水和剤
浸透移行性の高い、吸汁を阻害するタイプの薬剤です。
蜂などの天敵昆虫への影響が少なく、安心して使用できます。
・内容量:100g
・有効成分:ピメトロジン(50.0%)
・RACコード:9B
蜂などの天敵昆虫への影響が少なく、安心して使用できます。
・内容量:100g
・有効成分:ピメトロジン(50.0%)
・RACコード:9B
モスピラン粒剤
有機リン剤・カーバメート剤・合成ピレスロイド剤などに効きにくくなった害虫にも有効で、幅広い殺虫スペクトルを有しています。
残効性があり、速効性と強い浸透移行性を併せ持っています。
ミツバチ・マルハナバチに影響が少ない薬剤です。
・内容量:1kg
・有効成分:アセタミプリド(2.0%)
・RACコード:4A
残効性があり、速効性と強い浸透移行性を併せ持っています。
ミツバチ・マルハナバチに影響が少ない薬剤です。
・内容量:1kg
・有効成分:アセタミプリド(2.0%)
・RACコード:4A
コルト顆粒水和剤
吸汁活動を停止させて歩行や飛翔行動を阻害し、作物から離脱させるIBR(昆虫行動制御)剤です。
天敵類への影響が少ないため、IPMでの活用に適しています。
・内容量:500g
・有効成分:ピリフルキナゾン(20.0%)
・RACコード:9B
天敵類への影響が少ないため、IPMでの活用に適しています。
・内容量:500g
・有効成分:ピリフルキナゾン(20.0%)
・RACコード:9B
※IPM(Integrated Pest Management)とは、総合的に病害虫や雑草管理を行うことです。
▼RACコードのことならこちらをご覧ください。
薬剤抵抗性
アブラムシ類は農薬に対する耐性が強くなってきており、モモアカアブラムシとワタアブラムシなどで薬剤抵抗性が報告されています。同じ作用性の農薬を続けて使用せず、アブラムシが薬剤抵抗性を持ちづらくなるように異なる作用性の農薬をローテーション散布しましょう。▼薬剤抵抗性やローテーション散布のことならこちらをご覧ください。
アブラムシ類は春と秋の大発生に要注意!
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