農作物への薬害や農薬取締法違反を防ぐ
農薬を購入して使用する際「商品名」や「用途別分類」、「農薬の種類」や「成分」などに注目しがちですが、まずはラベルに「農林水産省の登録番号」の記載があることを確認します。
また、「毒物」や「劇物」と記載された農薬については、「毒物及び劇物取締法」で悪用または誤飲のないように鍵のかかる場所に保管すること、盗難、紛失の際には直ちに警察へ届けることなどが農家に対して義務づけられています。
薬剤は時間の経過などにより液体が分離したり、粉状・粒状の農薬が変色したりして効果がなくなってきます。「有効期限(最終有効年月)」を日頃から把握して、保管したままにせず期限を守って使用しましょう。
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農薬使用で確認すべき8つのこと
不適切な農薬の使用で農作物に薬害が生じる可能性があります。一度薬害が生じると農作物の生育が悪くなり、最悪の場合枯れてしまうこともあります。
また、薬害が生じなかったとしても、農作物に残留する過度な農薬が人体に悪影響を及ぼしたり、農業従事者には農薬取締法の違反で罰則が科せられてしまいます。
ここでは主に病害虫対策で使用する殺虫剤、殺菌剤で確認すべきことを説明します。
1. 適用作物名
適用作物名とは、その農薬が使用できる作物の名前で、記載してある作物以外には使うことができません。適用作物名に記載されていない作物に使用すると農薬取締法違反となり、農作物の出荷ができないのはもちろんですが、罰則が科せられます。そのため適用作物名で間違いやすいものには注意が必要です。
トマトとミニトマトを例にあげると、果実が直径3cm以下のものは「ミニトマト」、それ以上のものは「トマト」というように、農薬の登録内容が果実の大きさで異なります。
また、収穫する部位や形態が異なる「ブロッコリー」と「茎ブロッコリー」、「ダイズ」や「エダマメ」でも適応する病害虫が違う農薬があるので必ず確認が必要です。
適用作物名に「作物群」の導入
「もも」と「すもも」、「かぼす」や「すだち」などのようによく似た作物でも、それぞれの作物名で登録がある農薬しか使うことができませんでしたが、新たに似ている作物をまとめた「作物群」が導入され、「もも」と「すもも」は「核果類」、「かぼす」や「すだち」は「カンキツ類」というように、今まで登録農薬が少なかった作物でも使用可能な農薬が増えています。
2. 適用病害虫
適用作物において対象となる病気や害虫の名前が記載されています。現在圃場で発生している病害虫をしっかり把握した後、必ず作物に合った薬剤を選びましょう。
生産者の方は、地域の防除指導機関やJAなどが推奨する効果の高い薬剤を参考にすることをおすすめします。
3. 希釈倍率
適用作物ごと、それぞれの適用病害虫に対して、農薬の希釈倍率が表示されています。この表示内容より高い希釈倍率にしてしまうと、農作物に薬害が生じやすくなります。反対に薄い濃度で使用すると、農薬の効果が出なかったり、病害虫に抵抗性や耐性が発生したりする要因となります。
▼農薬の希釈のことならこちらをご覧ください。
4. 使用量・使用液量
適用作物の適用病害虫に対しての使用量・使用液量で、散布量・散布液量と記載されることもあります。登録内容より量が多くなると、農作物に薬害が発生したり、使用基準違反になったりします。
5. 使用時期
適用作物に対して使用できる時期です。多くの場合「収穫3日前まで」や「収穫7日前まで」のように収穫までの日数が記載されています。栽培作物の収穫予定日までの日数が、農薬ラベルの使用時期に記載されている日数以上あるかどうか確認しましょう。このとき、記載されている日数より短い日数で収穫すると使用基準違反になります。
6. 使用回数
適用作物ごとに指定された散布方法で、農薬が使用できる回数です。どんなに病害虫の被害がおさまらなくても、ラベルに記載されている回数より多く使用すると、残留農薬の可能性が高くなると同時に、使用基準違反になります。
使用回数の数え方
農薬使用者が農薬を使用する回数ではなく、作物に使用できる回数です。
・野菜(収穫が終わると植え替える作物)
種まき前の作付け準備(土壌消毒)から収穫終了までの回数。
購入した種や苗を使用する場合、種子の消毒や育苗で使用された農薬も使用回数に入ります。
・果樹や茶(植え替えを行わず収穫期が複数年ある作物)
前回の収穫終了から今回の収穫終了までの回数。
▼農薬の効果的なローテンション散布のことならこちらをご覧ください。
7. 使用方法
適用作物の適用病害虫に対する農薬の使用方法が記載されています。例えば、農薬「ベンレート水和剤」を適用作物「きゅうり」で適用病害虫「つる割病」に使うとします。この場合の使用方法は「灌注(かんちゅう)」ですが、ほかの適用病害虫に対しての使い方は「散布」と記載されています。
安易に以前のやり方で農薬を使うと、使用方法が異なるため効果が出なかったり、農作物に薬害が生じたりする可能性があるので注意が必要です。
※灌注とは、薬剤の希釈液を土壌(または土壌中)に注ぐこと。
8. ○○(有効成分名)を含む農薬の総使用回数
適用作物に対して、有効成分名が含まれる農薬を合わせて何回使うことができるのか記載されています。農薬名が違っても、同じ有効成分が含まれることがあるので、使用量・使用液量と同様に注意しなければなりません。
訪花昆虫や天敵への農薬使用の安全性
農薬には、受粉に欠かせないミツバチをはじめとする「訪花昆虫」や、害虫を捕食したり寄生する「天敵昆虫」などの有益な昆虫に影響を与えるものがあり、確認せずに使ってしまうとそれらを駆除することにもなります。再度圃場に導入するには、コストや手間がかかりますので、農薬使用前には農薬ラベルや購入元、各取り扱いメーカーのHPで必ず影響がないかを確認しましょう(取り扱いメーカーのお客さま窓口に問い合わせることも可能)。※ミツバチと蚕について注意が必要な場合は「注意喚起マーク」が表示されていることがあります。
▼天敵についてはこちらをご覧ください。
農薬使用の安全性「消費者を守る」
散布された農薬は、農作物の表面を覆ったり、内部に浸透移行したりします。消費者が安心して農作物を食べるために、生産者はどのようなことに注意する必要があるのでしょうか。残留農薬の基準を超えない
農薬の登録内容を守って使用していれば、作物の残留農薬についても問題がないように、さまざまな試験が行われています。消費者の安全を守る確認事項
上記の「農作物への薬害や農薬取締法違反を防ぐための確認」にもありますが、消費者の安全を守るために生産者は正しく農薬を使用することが求められています。「1. 適用作物名」と「2. 適用病害虫」の把握はマスト!
3. 希釈倍率
4. 使用方法
5. 使用時期
6. 使用回数
7. 使用量・使用液量
8. ○○(有効成分名)を含む農薬の総使用回数
以上の確認をしっかり行い、将来を担う小さな子どもたちも安心して食べられる農作物を生産しましょう。
農薬使用の安全性「農業従事者を守る」
農薬を使用するにあたって、使用者自身の安全を守ることも重要です。どんなことに注意すべきでしょうか。農薬使用者の体調に注意
疲労を感じるときや、体調が悪いときだけでなく、飲酒をした後も行わないようにします。農薬の散布は非常に体力を消耗するため、健康な場合でもかなりの重労働です。長時間の散布は避け、こまめに休憩をとります。
特に気温の上がる日中のハウス内で農薬を使用する際は、体調の変化に注意が必要です。散布中に体調が悪くなってしまったら、無理せす作業を中止しましょう。
農薬を浴びないようにする
農薬散布の際、中毒を起こさないために農薬を浴びないようにする必要があります。1. 噴霧器のノズルは噴霧粒子径が大きいものを選ぶ
噴霧器のノズルは噴霧粒子径が大きいものを使用すると、飛散(ドリフト)しにくくなり農薬を浴びるのを抑えることができます。散布液の飛散を抑えるためには、平均粒子径が200μm以上のノズルがおすすめです。
噴霧圧力は適正圧力範囲を守る!
飛散しにくい噴霧粒子径を持つノズルを使用しても、噴霧圧力が高くなると噴霧粒子径は小さくなり散布液が飛散してしまうため、取り扱い説明書などに記載されているノズルの適正圧力範囲を守りましょう。
2. 飛散しにくい農薬の剤型を選ぶ
同じ適用作物において登録がある農薬で、有効成分が同じ剤型には、水に希釈して使用する「水和剤」や「乳剤」、そのまま散布する「粉剤」「粒剤」などがあります。この中で最も飛散を抑える農薬の剤型は「粒剤」です。例えば、エトフェンプロックスを有効成分とする殺虫剤トレボンには、液体の「トレボン乳剤」、固体の「トレボン粉剤DL」と「トレボン粒剤」などがあります。粒剤、微粒剤、DL粉剤、粉剤の順に飛散しやすくなるため、この場合「トレボン粒剤」を選びます(同じ適用作物であっても希釈倍率や使用方法といった登録内容が異なる場合があるため注意が必要)。
粒剤以外にも、そのまま投げ込むだけの「ジャンボ剤」、手ぶり散布ができる「フロアブル」も有効です。
▼農薬の剤型のことならこちらをご覧ください。
3. ハウス栽培では「くん煙剤」
ハウス栽培では無人防除もできる「くん煙剤」の散布も有効です。水を使わないので、多湿を好む病害発生の助長が少ない製品です。
▼ハウス栽培での効果的な農薬散布のことならこちらをご覧ください。
4. 農薬散布時の服装や装備
長袖、長ズボン、保護メガネ、マスク、手袋、長靴などを着用し、肌を露出させないようにします。万が一散布液が体にかかっても、ある程度被害を防ぐことができるレインウェアなども着用しましょう。農薬ラベルにマスク着用やメガネ着用といった「注意喚起マーク」の表示がある場合は、記載された指示に従いましょう。
▼農薬散布時の作業着やマスクなどのことならこちらをご覧ください。
5. 農薬散布に使用する道具の整備と点検
農薬散布中に器具のノズルが詰まったり、ホースがしっかり繋がれていないことなどから、皮膚に付着したり、農薬を吸い込んでしまう可能性があります。中毒事故につながる場合もあるので、散布前に器具の整備と点検を行っておくことが大切です。▼中毒事故などの農薬事故を防ぐことならこちらをご覧ください。
6. 風の強い日は農薬の散布を控える
農薬がかかるのを最小限に抑えるために、風上を背にして後ろ向きに進みながら散布を行いますが、どんなに噴霧器のノズルの噴霧粒子径が大きいものや粒剤であっても、風の強い日の農薬散布は控えたほうが安全です。▼露地栽培での効果的な農薬散布のことならこちらをご覧ください。
農薬散布作業中以外の安全性のため注意!
農薬による中毒事故は、散布作業中以外にも起こっています。一番多いのは、ペットボトルに入れ変えた農薬を、飲料と間違えて飲んでしまうという事故です。農薬をきちんと保管していれば防ぐことができる事故です。中毒事故を防ぐために
・農薬の原液や希釈液、残った散布液はペットボトルなどの飲料の容器に移し変えない。
・農薬と飲食物を一緒に保管せず、必ず保管場所を分ける。
・医薬用外毒物、医薬用外劇物は必ず農薬保管庫に鍵をかけて保管を行う。
もし中毒事故が起こってしまったら
中毒事故に遭った本人の意識がなかったり、パニックに陥ったりした場合は、発見者が早急に対処できるよう対処方法をあらかじめ知っておくことが大切です。中毒事故の原因を把握
発見者が中毒事故の状況を見ていなかったときは、残っている容器から原因となった薬剤や摂取した量を把握しなければなりません。使用していた農薬や量などを正しく伝える事ができれば処置が早く行えるため、農薬使用者は使用した農薬の種類や量がわかるようにメモを残しておくとよいでしょう。救急車、または応急手当の判断
応急手当は、中毒になった本人に意識があり、呼吸や脈拍にも異常がない場合に行います。目に入ったり皮膚についてしまったりしたときは、すぐに水で洗い流します。
吸い込んでしまった場合は、空気の良い場所へ移動しましょう。
農薬を誤飲した際は、農薬によって対処方法が異なるため、応急手当の方法、病院を受診すべきかの判断については、日本中毒センターへ連絡をして相談してください。
明らかに異常がある場合は直ちに救急車を呼びましょう。
応急処置などの緊急情報は「(財)日本中毒情報センター 」へ
・大阪中毒110番:072-727-2499(24時間)
・つくば中毒110番:029-852-9999(9~21時対応)
化学物質(家庭用品、医薬品、農薬などを含む)及び動植物の毒によって起こる急性の中毒について、応急処置などの緊急情報を提供。
これらの情報提供は、一般市民向けに無料で行っていますが、通話料は相談者負担です。
農薬使用の安全性「周辺環境を守る」
農薬を散布する際、環境を守るために農薬使用者はどのようなことに注意すればいいのでしょうか。農薬使用の際の周辺への配慮
周囲の環境に被害や迷惑をかけないようにすることを念頭に置いた配慮が必要です。周辺住民への農薬の安全性の配慮
農薬の匂い、散布液の飛散、噴霧器の音がうるさいなど周辺住民とトラブルになる可能性があります。1. 農薬の飛散を抑える。
2.匂いの強いものや揮発しやすい農薬の使用を避ける。
3. 散布の時間帯に注意する。
周辺農家への農薬の安全性の配慮
周辺に農家がある場合、収穫間近の作物に農薬が飛散すると出荷できなくなる可能性があります。また、散布した農薬が養蜂のミツバチに影響を与えたり、農薬が付着した草を食べてしまった牛に被害を与えた事例もあるため、周辺に養蜂場・家畜農家・養蚕場などがある場合は注意が必要です。
1. 農薬の飛散を抑える。
2. ミツバチや家畜、蚕に影響の少ない農薬を選ぶ。
水産動植物への農薬の安全性の配慮
薬剤によっては水産動植物に影響を与えるものがあるので、河川や池の近くでの散布を控えます。また、散布後の残農薬の排水が水産動植物に思わぬ被害を与えることがあるため、残った農薬や空容器、空袋は放置せず地域の回収方法に従って処分してください。水田で農薬を使用した場合はラベルに記載された「止水日数」を守り、農薬使用後に水田からの水が川に流れ込まないように注意しましょう。
▼農薬散布後の散布液の処理についてはこちらをご覧ください。
周辺への農薬散布の通知
農薬を使用する場所によっては、周辺住民や周辺農家への通知が不可欠です。周辺住民への通知
住宅地やその近くで農薬を使用する場合、事前に農薬使用の目的、日時、農薬の種類について周知を図る必要があります。特に学校や通学路がある場合、子どもに影響を与えることがないよう学校や保護者への通知を徹底しましょう。周辺農家への通知
市町村やJAと相談して、周辺の農家に農薬使用の目的、日時、農薬の種類について周知を図ったり、事前にお互いの栽培状況や使用する農薬について話をしたりしておくとよいでしょう。圃場に旗を立てて収穫間近を伝える方法もあります。周辺地域の養蜂家や家畜農家や養蚕家などにも配慮し、事前の通知や使用する農薬について十分話をしておきましょう。
散布前の確認で農薬を安全に使用!
農薬を使用して病害虫を防除することは作物の収量、品質の向上に大変効果的ですが、扱い方を間違えるとさまざまな悪影響を与えてしまいます。農薬を安全に使用するためには、農薬取締法を遵守し、農薬使用者や消費者の安全を守り、周辺環境への配慮が必要となります。
使用基準違反を防ぐために農薬使用回数を把握するだけでなく、農薬を安全に、そして効率良く使用するためにも、日頃からどんな農薬を使ったのか記録する散布履歴は、翌年以降の農薬散布の参考にもなるのでおすすめです。