殺菌剤は病気の発生状況に応じた防除を行うだけでなく、作用性の異なる薬剤をローテーションで使用して、耐性菌の出現を回避することも重要です。
本記事では、病原菌である糸状菌(カビ)や細菌によって植物が病気になる仕組みや、化学農薬における殺菌剤の作用について説明します。
▼化学農薬以外の殺菌剤「生物農薬」についてはこちらをご覧ください。
殺菌剤で防除する「糸状菌」と「細菌」の増殖のメカニズム
植物の病気は、糸状菌(カビ)や細菌、ウイルスなどが原因で生じます。▼糸状菌(カビ)や細菌、ウイルスなどについてはこちらをご覧ください。
殺菌剤で防除する病原菌
病気が発症する要因の中で、ウイルスが原因で発症する病気に効果のある殺菌剤はありません。この場合の対策は、ウイルスを運ぶ害虫を防除する殺虫剤での防除が基本になります。ここでは、殺菌剤が病原菌に対してどのように働くか説明する前に、「糸状菌(カビ)」と「細菌」によって病気が発症するまでの仕組みについて説明します。
▼アブラムシ類やアザミウマ類、コナジラミ類など害虫が原因で引き起こすウイルス病についてはこちらをご覧ください。
▼殺虫剤のことならこちらをご覧ください。
糸状菌(カビ)増殖のメカニズム
植物が病気にかかる理由の約8割は、糸状菌(カビ)が原因で発症しています。ほとんどの糸状菌(カビ)は、菌糸体で成長して「胞子」によって増えていきます。飛散した「胞子」が植物体に付着し、温度や湿度などの条件がそろうと「胞子」が発芽して植物の組織や気孔、傷口などから侵入して感染します。
そのほかにも、「鞭毛(べんもう)」というしっぽのような構造の菌が泳いで植物にたどり着いたり、「菌糸」そのものが分裂して感染を広げたりしていくタイプもあります。
▼糸状菌(カビ)による主な病気のことならこちらをご覧ください。
細菌(バクテリア)増殖のメカニズム
細菌(バクテリア)は植物体の気孔や傷口などから入り込み、分裂によって増殖していきます。▼細菌による主な病気のことならこちらをご覧ください。
3つの殺菌剤の働き
殺菌剤には、植物体内への病原菌の侵入を防ぐ「予防剤」、侵入した病原菌の生育を妨げる「治療剤」、作物の抵抗力を高めて病気にかかりにくくする「植物防御機構活性化剤」があります。▼病気対策に使用する予防剤と治療剤の選び方と使い方についてはこちらをご覧ください。
1. 予防剤の働き
病原菌が植物体内へ侵入する前に、予防剤を散布して植物体を覆うことで、付着、飛来してきた病原菌を植物体内に侵入させないようにして病気感染を防ぎます。予防剤の特徴
予防剤は、植物体内に侵入してしまった病原菌には効果がないため、殺菌剤の一種でありながら、直接病原菌を殺菌することはできません。2. 治療剤の働き
治療剤に含まれる有効成分が植物に浸透すると、植物体内に入り込んでしまった病原菌の生育を阻害する効果を発揮します。※侵入前の病原菌を防除する「予防」効果をあわせ持つ治療剤もあります。
治療剤の特徴
1. 病原菌の増殖を阻害病原菌の正常な成長や増殖を阻害することによって、植物への感染や発病を抑えることができます。
2. 治療剤は植物体を元通りにすることはできない
治療剤といっても、病気によって傷んでしまった植物体を元通りにできる作用はありません。
3. 植物防御機構活性化剤の働き
作物の抵抗力を高めて病気にかかりにくくします。植物防御機構活性化剤の特徴
植物防御機構活性化剤も予防剤と同じように、病原菌に直接作用するような殺菌効果はありません。※この働きを持つ薬剤は環境への負担も少なく、耐性菌を発生させるリスクが少ないといわれています。
殺菌剤と病原菌の薬剤抵抗性
病気を防除する殺菌剤に対して、病原菌が「薬剤抵抗性」を持ってしまう場合があります。その結果、殺菌剤が効きにくくなったり、効果が期待できなくなったりするため、せっかく農薬散布を行っても無駄な作業になってしまいます。また、使用していた農薬が効かなかったら、新しい薬剤を使用すればいいと考えるかもしれませんが、栽培作物に対して同じ作用性を持つ種類の殺菌剤を選んでしまうと、結果的に薬剤に抵抗性を持った病原菌が増えてしまいます。
▼薬剤抵抗性のことならこちらをご覧ください。
薬剤抵抗性を持たせないローテーション散布
薬剤抵抗性の例として、同一薬剤の多使用による耐性菌の発達によって「灰色かび病菌」や「リンゴ黒星病菌」の被害が報告されています。▼灰色かび病や黒星病のことならこちらをご覧ください。
RACコードの異なる殺菌剤をローテーション散布
同じ作用の薬剤を連用すると薬剤抵抗性が発生しやすくなってしまうので、RACコードの異なる殺菌剤をローテーション散布する防除が重要です。※RACコード(作用機構分類)とは同じ作用性ごとにつけられた農薬のコード番号で、異なる作用性であればRACコードも違います。
【RACコード:予防剤の例】
RACコード | グループ名 | 薬剤 |
M4 | フタルイミド | オーソサイド |
M5 | クロロニトリル | ダコニール |
【RACコード:治療剤の例】
RACコード | グループ名 | 薬剤 |
1 | MBC殺菌剤 | ベンレート、トップジンM |
11 | QoI殺菌剤 | アミスタ―、ストロビー |
19 | ポリオキシン | ポリオキシン |
【RACコード:植物防御機構活性化剤の例】
RACコード | グループ名 | 薬剤 |
P2 | ベンゾイソチアゾール | オリゼメート |
P3 | チアジアゾールカルボキサミド | ブイゲット |
オリゼメート粒剤
植物の病害抵抗性を誘導し、予防的に散布することで高い効果を示します。
イネ白葉枯病、もみ枯細菌病、ネギやキュウリ、アブラナ科野菜の細菌病にも効果があります。
・内容量:3kg
・有効成分:プロベナゾール 8.0%
・RACコード:P2
イネ白葉枯病、もみ枯細菌病、ネギやキュウリ、アブラナ科野菜の細菌病にも効果があります。
・内容量:3kg
・有効成分:プロベナゾール 8.0%
・RACコード:P2
▼ローテーション散布のことならこちらをご覧ください。
病気の発生状況や作用機構を考慮した殺菌剤の使用
病気は一度発生してしまうとまん延を抑えることは難しく、発症してから行う防除には時間もコストもかかってしまいます。効率的かつ効果的な防除を行うためには「予防」を中心とした薬剤散布を心がけます。使用する薬剤が「予防剤」なのか「治療剤」なのかをしっかりと把握し、病気の発生状況にあった選択をしましょう。また、耐性菌を出現させないために、作用機構の異なる薬剤をローテーション散布することも必要です。それぞれの薬剤の特性を考えて使用することで、薬剤散布をより効果的なものにしていきましょう。