本記事では根こぶ病の症状や発症の原因、有効な防除方法やおすすめの農薬などについて紹介します。
根こぶ病の症状
株が大きくならず、萎(しお)れる、抜くと根がボコボコと膨れているなどの症状が現れたときは根こぶ病を疑いましょう。
根こぶ病の主な症状
▼植物の病気の症状についてはこちらの記事もご覧ください
根こぶ病とネコブセンチュウとの違い
根にこぶができるという症状においては、ネコブセンチュウによる被害とよく似ていますが、ネコブセンチュウは根の表面に同じような小さいコブができるのに対し、根こぶ病は大小不揃いのコブができ、表面が比較的滑らかなのが特徴です。▼ネコブセンチュウなどのセンチュウ類のことならこちらをご覧ください。
根こぶ病の発症原因
根こぶ病とは原生生物が原因となる病気で、アブラナ科植物のみに感染します。地温が高くなる春と秋ごろに発生しやすくなります。※原生生物とは、菌界にも植物界にも動物界にも属さない生物の総称です。
名前 | 根こぶ病 |
菌名 | Plasmodiophora brassicae |
分類 | 原生生物/ネコブカビ類 |
発生時期 | 5〜9月 |
発病適温 | 20〜25℃ |
土壌伝染性病害
根こぶ病菌は土壌に生息する病原菌です。土壌中では休眠胞子(きゅうみんほうし)という形で存在します。土壌伝染
植物の根が近くに伸びてくると、休眠胞子が反応して発芽し、鞭毛(べんもう)を持つ遊走子(ゆうそうし)となります(第一次遊走子)。遊走子が根毛に侵入、感染し、根の細胞の中で分裂増殖して、土の中に出ます(第二次遊走子)。その後、再び根に入り込み、「こぶ」を形成します。このこぶが肥大して、根の維管束を圧迫して水分が吸収されなくなり、地上部の萎凋(いちょう)や枯死に至ります。
※維管束とは植物の内部組織のひとつで、水や養分を運ぶ通路機能の他に、葉・茎・根など植物の各器官をつなぎ支える組織。
休眠胞子
こぶの中には球形の休眠胞子が多数存在し、こぶが腐敗すると土壌中に分散します。こぶ1gあたり10億個もの休眠胞子が含まれているとされています。休眠胞子は乾燥に非常に強く、土壌中で7〜10年以上生き続けることができます。
根こぶ病が発生しやすい条件
根こぶ病は5月ごろから発生し始め、真夏は発生が減少します。気温と地温
気温が20〜25℃、地温20℃前後で発生しやすくなります。酸性土壌
pH6.0以下の酸性土壌は根こぶ病の発生しやすい環境です。pH7.2以上のアルカリ性土壌では休眠胞⼦の発芽が抑えられるため、根こぶ病の発生も抑制されます。水分
土壌水分が多い環境下では休眠胞子が発芽し、遊走子も根へ侵入することを助長するため、根こぶ病の感染が増加します。降雨が多い時期や水はけの悪い圃場は要注意です。日照時間
日照時間が長いことで発生が助長されます。11.5時間を超えると発生が増加し、13〜16時間で多発します。そのため、秋作より春、夏作で発生が多くなります。根こぶ病に感染する主な植物
根こぶ病は特異的にアブラナ科植物にのみ発生する土壌病害なので、ダイコン以外のアブラナ科野菜全般に発生します。※ダイコン類は根こぶ病に対しての抵抗性が高く、感染しても根がこぶになるようなことがありません。
詳しくは次のページの「根こぶ病に有効な防除方法」の「7. おとり植物の使用」を参照ください。
▼ダイコンの育て方ならこちらをご覧ください。
アブラナ科野菜
根こぶ病はキャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、カブ、コマツナ、カリフラワーなどのアブラナ科野菜の根部に「こぶ」を多数発生させます。硬いこぶの表面は初めはなめらかな白色ですが、その後褐変してザラザラとした質感になり収穫期には腐敗します。
地上部では生育が悪くなり葉の色が黄化します。
根の維管束が根こぶ病に侵されることで上手く水上げすることができず、晴れた日の日中は萎れ、夕方に回復するといったことを繰り返します。症状が進むと枯死したり、品質が劣り収量が下がります。
▼カブやコマツナ、カリフラワーの育て方ならこちらをご覧ください。
ブロッコリー
ブロッコリーの地上部では、花蕾(からい)が肥大しないなど生育が阻害されます。▼ブロッコリーの育て方ならこちらをご覧ください。
キャベツ・ハクサイ
キャベツやハクサイでは結球期にもかかわらず、結球しないなどの症状が現れます。キャベツでは外葉の退色もみられ、作物の品質が下がります。▼キャベツやハクサイの育て方ならこちらをご覧ください。
根こぶ病に有効な防除方法
根こぶ病には圃場の管理(耕種的防除方法)や農薬散布などの防除を行いましょう。※圃場(ほじょう)とは、田や畑のような農作物を育てる場所のことです。
根こぶ病を発症させない管理方法
根こぶ病は土壌伝搬性なので土壌への対策を行います。1. 前作の残渣の処理
前作の植物残渣(ざんさ)などに根こぶ病菌が付着している可能性があります。残渣は圃場外に持ち出して処理しましょう。※残渣とは、圃場などに残った生育(栽培)を終え枯れた植物体。
2. 土壌の入れ替え、消毒
前作に根こぶ病が発生した圃場、また発生が心配される圃場は、土壌を消毒するか新しい土を入れます。太陽熱消毒は、1年で最も暑い時期(7月中旬〜8月下旬くらいまで)に行います。
たっぷり灌水(かんすい)した後、透明のポリマルチを土の表面に隙間が無いように被せて、20〜30日程度放置してください。
※灌水とは水を注ぐこと、植物に水を与えること。
▼土壌消毒のことならこちらをご覧ください。
プランターの場合は土に水をたっぷり含ませ、透明のビニール袋で包み太陽の熱を利用して消毒します。
▼プランターの培土処理のことならこちらをご覧ください。
3. 土壌酸度の矯正
根こぶ病菌はpH6.0以下の酸性で活発になるため、石灰肥料などを施用して土壌を中性〜弱アルカリ性へ近づけるようにします(pH7.2以上で発生が抑制されます)。施肥前に土壌診断を行い、pHを確かめることをおすすめします。
▼土壌酸度計のことならこちらをご覧ください。
4. 連作をしない
アブラナ科野菜を連作すると根こぶ病菌が増殖してしまうため連作は避け、イネ科作物などと輪作することをおすすめします。▼連作のことならこちらをご覧ください。
5. 水はけの良い圃場づくり
土壌の水分が多いことで根こぶ病菌は活発になり感染が増えます。畝を高くしたり、腐植土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入して水はけの良い土づくりをしましょう。▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
6. 根こぶ病に強い品種の利用
根こぶ病に抵抗性、耐病性のある品種を使うことも効果的です。【品種の例】
キャベツ:YCR多恵(日本農林社)など
ブロッコリー:グリーンキャノン(サカタのタネ)など
ハクサイ:あきめき(日本農林社)など
7. おとり植物の使用
エンバクや根こぶ病に抵抗性のあるダイコンなどのおとり植物は、根こぶ病菌に感染しますが、発症しないため菌が増殖することもなく、新たに休眠胞子を作ることもありません。その結果、土壌中の根こぶ病の菌密度を下げる効果があります。※おとり植物とは、育てたい植物を侵す病原菌や害虫を誘い出す目的のために「おとり」として育てる植物。
【おとり植物の品種の例】
ダイコン:コブ減り大根(タキイ種苗)、CRおとり大根(ナカハラのたね)など
エンバク:ヘイオーツ (雪印)など
8. 根こぶ病の防除に効果的な農薬
農薬を使用してより効果的に根こぶ病を防除しましょう。根こぶ病は発生してからの薬剤防除方法は無いため、予防的に使用することをおすすめします。※農薬使用の際は必ず作物登録、使用方法をラベルで確認してください。地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守り施用してください。
▼病気対策に欠かせない農薬散布のタイミングや、選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
オラクル粉剤
▼農薬を安全に使用するためにまずはこちらをご覧ください。
▼希釈方法や散布後の処理方法などそのほかの農薬のことなら農薬まとめをご覧ください。
根こぶ病発症後の対策
土ごと根こぶ病に感染した株を取り去る
根こぶ病を発症したら、こぶが土に残らないように根周辺の土ごと取り去ります。土壌に鋤(す)き込むと病原菌を放出してしまうので、圃場の外に持ち出して処分してください。病原菌が付着した道具や靴を洗う
根こぶ病が発生した圃場で使用した道具や土のついた靴は、病原菌が付着しているため丁寧に洗い、ほかの圃場へ持ち込まないようにしましょう。根こぶ病の人体への影響は?
基本的に根こぶ病は植物の病気なので、人が触れたり食べることで感染することはありません。しかし、根こぶ病に激しく侵された農作物は、植物自体が病気に対抗して毒素を生成している可能性があるので(ファイトアレキシン、アレルギー原因タンパク質など)、人体に影響がまったく無いともいいきれません。