軟腐病の症状
「外葉がとろけるように腐ってきた」「腐った部分から異臭がする」などの症状が現れたときは軟腐病を疑いましょう。
病斑部の特徴
軟腐病は葉、茎、果実、根、花などに水に浸したような病斑が現れ、拡大して軟化腐敗します。異臭
病斑部に顔を近付けると独特の鼻をつくような悪臭がします。貯蔵・輸送中
貯蔵、輸送中にも発生して病状が進行し、切断部や病斑部から白く濁った液体が染み出る場合もあります。▼植物の病気の症状についてはこちらの記事もご覧ください
軟腐病の発症原因
軟腐病とは細菌(バクテリア)が原因の病気です。多犯性なので数多くの植物のさまざまな部位に発生します。名前 | 軟腐病 |
菌名 | Erwinia carotovora (=Pectobacterium carotovorum) |
分類 | 細菌 |
発生時期 | 4~11月 |
発病適温 | 25~30℃ |
主な感染源は前作の残りの植物や土壌
軟腐病の病原菌は、前作の残渣(ざんさ)や土壌、感染した種子で長期間生存し伝染源となります。病原菌の感染経路
・出芽時に土壌に生存している病原菌と接触・灌水(かんすい)や雨水の跳ね上がりで傷口や害虫の食害痕、気孔などから病原菌が侵入
・病斑部分で増殖した病原菌が、風雨や灌水の水滴でほかの部位や隣接する作物に運ばれ、気孔や傷口から侵入してさらに感染が拡大
※残渣とは、圃場などに残った生育(栽培)を終え枯れた植物体。
※灌水とは、水を注ぐこと、植物に水を与えること。
発生しやすい時期
軟腐病の発病適温は25~30℃、曇雨天が続き湿度が高い時期に発生します。台風、大雨、収穫後など、傷口ができている状態で病原菌が作物体に侵入して、感染しやすくなります。発生しやすい栽培環境
作物を育てる際の水分過剰や、多過ぎる肥料によって引き起こされる軟弱徒長も発生の原因となります。※軟弱徒長とは、植物の葉厚や葉の色が薄くなり、茎や葉柄および葉身が弱々しく間延びした状態。
軟腐病とほかの病気の見分け方
ほかの土壌病害と軟腐病の見分け方は「独特の悪臭があるかどうか」です。軟腐病の場合、病斑部に鼻を近付けると思わず顔を背けてしまうくらい強い臭いがします。軟腐病に感染する主な植物
軟腐病は野菜類だけでなく花き類などの植物にも幅広く感染する病気です。ここでは軟腐病が問題となっている主要な作物とその症状をご紹介します。野菜類
野菜類では、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、ダイコン、タマネギ、ジャガイモ、トマト、ピーマン、メロン、ニンジン、ネギなどに発生します。▼ジャガイモやトマト・ミニトマト、ネギに発生する病気についてはこちらもご覧ください。
アブラナ科類(ハクサイ・キャベツ・ブロッコリー・ダイコン)
生育中期以降や結球期に発生が多くみられます。根から侵入した場合、内部(芯)の部分まで被害が及び、台風や豪雨の後などに一気に病勢が進みます。地際部に接している葉または頭部が水に浸されたような症状となり、褐変して軟化腐敗するため、病斑部からは独特の悪臭を放ちます。
作物の貯蔵中、輸送中にも発生することがあります。
▼ハクサイやキャベツ、ブロッコリー、ダイコンに発生する病気についてはこちらもご覧ください。
タマネギ
葉、茎、地下部に発生します。地際部の茎葉が灰白色~淡褐色となり軟化して葉が倒れます。軟化はりん茎部(玉)に及び腐敗して独特の悪臭を放ちます。作物の貯蔵中、輸送中にも発生することがあります。
▼タマネギに発生する病気についてはこちらもご覧ください。
草花
洋ラン(君子蘭、胡蝶蘭など)、カトレア、シクラメン、カラー、ユリ、クリスマスローズなどに発生します。地際部から、葉、葉柄、花柄などに水に浸したような暗褐色の病斑が広がり、軟化、腐敗して独特の悪臭を放ちます。
球根類は貯蔵中に腐敗することがあります。
▼洋ランやシクラメン、クリスマスローズの育て方ならこちらをご覧ください。
軟腐病に有効な防除方法
軟腐病に有効な防除は「農薬を使わず」に圃場の管理で行う方法(耕種的防除方法)と「農薬」の使用で行います。2つの方法を組み合わせて適切な軟腐病の防除を行いましょう。※圃場(ほじょう)とは、田や畑のような農作物を育てる場所のことです。
軟腐病を発症させない「農薬を使わない」管理方法
農薬を使わずに行う軟腐病の予防方法についてご説明します。1. 前作の残渣の処理
前作の植物残渣等に軟腐病菌が付着している可能性があります。残渣は圃場外に持ち出して処理しましょう。2. 水はけの良い圃場づくり
土壌の水分過剰で軟腐病に感染しやすくなるため、水はけの良い土づくりを目指します。畝を高くしたり、腐植土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入して効果的な土質改善を行いましょう。
▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
3. 抵抗性品種の利用
抵抗性品種や軟腐病に強いとされている品種を選定することも防除に効果的です。※品種の例…タマネギ:七宝甘70(株式会社七宝)、ダイコン:福誉(みかど協和)など
4. 連作をしない
軟腐病が発生した場合は連作をやめましょう。マメ科、イネ科は軟腐病には感染しないため、発生がみられた圃場ではマメ科、イネ科を栽培することをおすすめします。
▼連作障害のことならこちらをご覧ください。
5. 灌水方法の見直し
軟腐病は水の跳ね上がりで感染する場合が多いので、頭上からの灌水は要注意です。株元灌水を心がけてください。ポリマルチで泥跳ねを予防することも効果的です。
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▼マルチについてはこちらをご覧ください。
6. 肥培管理、水管理の見直し
軟腐病は軟弱徒長で発生しやすいため、作物が軟弱徒長になる主な原因「肥料」と「水」の管理を見直しましょう。元肥や追肥の量が多い、または時期が適切で無い場合や灌水量が多過ぎることのないよう適切な肥培管理、水管理を心がけましょう。7. 風通しを良くして、湿度を低く保つ
植え付け後は過繁茂に気を付けましょう。適度に風通しを良くすることで植物の周りの空気を入れ替え、湿度を下げる効果があります。古い葉や傷んでいる葉は取り去ります。軟腐病の防除に効果的な「農薬」
農薬(殺菌剤)を使用してより効果的に軟腐病を防除しましょう。軟腐病は多発してからの薬剤防除は難しいため、予防、または発病初期に散布を徹底することが効果的です。台風や豪雨、収穫や管理作業を行った後など傷口ができている場合は入念に予防散布してください。出荷後に発生することもあるので収穫前の散布もおすすめします。
※農薬使用の際は必ず作物登録、使用方法をラベルで確認してください。地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守り施用してください。
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▼台風前後の対策についてはこちらをご覧ください。
▼病気対策に欠かせない農薬散布のタイミングや、選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
オリゼメート粒剤
バリダシン液剤5
スターナ水和剤
ジーファイン水和剤
▼農薬を安全に使用するためにまずはこちらをご覧ください。
▼希釈方法や散布後の処理方法などそのほかの農薬のことなら農薬まとめをご覧ください。
軟腐病発症後の効果的な3つの対策
軟腐病が発生してしまったら、すぐに行いたい効果的な対策をご紹介します。1. 感染株の除去
軟腐病の発生が確認された株はただちに取り去りましょう。除去したものはビニール袋に入れて圃場外に持ち去ります。2. 栽培環境の見直し
軟腐病が発生しやすい栽培環境になっていないか、圃場の水分管理、肥培管理などをもう一度見直しましょう。3. 周辺株に軟腐病が広がらないための農薬散布
軟腐病を治療する薬剤は基本的にはありませんが、軟腐病がこれ以上広がらないことを目的に発症株の周辺の株にたっぷりと薬剤を散布します。このとき使用する農薬は、上記の軟腐病の防除に効果的な「農薬」でおすすめした薬剤を散布することをおすすめします。