そんな灰色かび病の症状や発見のポイントを押さえて、予防と早期発見、防除を心がけましょう。
灰色かび病の症状
葉や果実が「灰色のカビに覆われていた」「花びらに染みがついていた」などの症状が現れたときは、灰色かび病を疑いましょう。灰色かび病の症状
具体的にどのような症状なのか説明します。葉・果実・茎での主な症状
最初は水に浸したような(水浸状)病斑が現れた後に、灰白色〜褐色のカビに覆われます。感染が茎内部や地際部に及び、被害が進むと病斑が茎を一周して上葉が萎れ、後に水を吸い上げられずに枯死することもあります。花弁・蕾での主な症状
花弁、蕾(つぼみ)に感染すると褐色斑点状の病斑が現れたり、それが拡大したりすることがあります。灰色かび病の発見のポイント
特に葉では枯死しやすい縁から発生する場合が多いようです。部 位 | 発見のポイント |
花 弁 | ・小斑点、水浸状の病斑 |
蕾 | ・小斑点、水浸状の病斑 ・被害が進むと、灰褐色のカビで覆われる |
茎 | ・暗緑色~灰緑色の水浸状の病斑 ・後に灰褐色のカビに覆われる |
葉 | ・暗緑色~灰緑色の水浸状の病斑 ・後に灰褐色のカビが発生 |
灰色かび病の発症原因
ボトリティス菌という糸状菌(カビ)が原因で発症します。名前 | 灰色かび病 |
学名 | Botrytis cinerea |
分類 | 糸状菌/不完全菌類 |
灰色かび病の伝染源
植物体や腐敗した葉、残渣(ざんさ)等で繁殖を続け、伝染源となります。※残渣とは、圃場などに残った生育(栽培)を終え枯れた植物体。
伝染源から感染まで
胞子や菌糸は風に乗って飛散し植物上で発芽すると、傷口や柔らかい部分から侵入して感染します。灰色かび病が発生する環境
水やり後や雨上がり、朝夕が冷え込む時期に夜露で葉が濡れているなど、気温が低く、湿度が高い条件で胞子が飛散します。湿度
風通しが悪い、葉が多く込み合っているなど、植物体周りの湿度が上がりやすい環境で発生しやすい傾向があります。温度
灰色かび病の最適な発生温度は20℃前後、胞子形成の温度は16℃前後といわれています。時期
発生しやすい時期は4~11月。特に一年の中で春先の気温が低い時期や梅雨、秋から初冬にかけて感染が多くみられます。灰色かび病と間違えやすい病気
見た目が同じ「灰褐色水浸状」「カビ状の病斑」ですが、灰色かび病とは異なる病気があります。見分け方のポイントをおさえて、正しい防除を行いましょう。
病気名 | 作物名 | 灰色かび病に似た症状 | 灰色かび病と異なる症状 |
疫病 | ・トマト ・ジャガイモ ・ピーマン等 | 暗緑色〜褐色の水浸状の病斑 | ・初期の病斑の色が灰色かび病よりも黒っぽい ・白色、霜のようなカビ ・触ると表面がとろけるように腐る |
菌核病 | ・花き類 ・野菜類 | 果実、茎、地際部に水浸状の病斑 | ・白色で綿毛のようなカビ ・ネズミの糞に似た黒い菌核がカビの中に見られる |
すすかび病 葉かび病 | ・トマト | 灰褐色のカビ | ・カビの色は灰褐色〜褐色、黒褐色 ・円形、葉脈に囲まれた不正形のカビが葉裏にスポット状に点在 ・主に葉に発生し、茎や果実には出にくい |
灰色かび病に感染する主な植物
前述のとおり、灰色かび病は野菜類、花き類、ほぼどんな植物でも感染する病気です。ここでは、灰色かび病が問題となっている主要な作物とその症状と見分け方を紹介します。野菜類
野菜類ではトマトやキュウリ、イチゴ、レタスなどに発生します。▼キュウリやレタスの育て方ならこちらをご覧ください。
トマト
果実、葉、茎などに発生し、特に枯れた葉先、咲き終わった花弁から発生します。トマトの花弁にカビが発生すると、果実全体が灰色のカビで覆われて軟化し、最後には腐敗してしまいます。また、果実に2~3mmの「ゴーストスポット」と呼ばれる白いリング状の病斑が生じることもあります。
▼トマト・ミニトマトの育て方ならこちらをご覧ください。
イチゴ
果実、がく、果梗(かこう)、葉、葉柄(ようへい)に発生します。下葉から果実に被害が及び、後に果実全体が灰褐色のカビに覆われてしまいます。▼イチゴの育て方ならこちらをご覧ください。
草花
草花ではキクやバラ、シクラメン、チューリップ、ガーベラ、マリーゴールド、洋ラン類などに発生します。▼シクラメンや洋ランの育て方ならこちらをご覧ください。
キク
茎、葉、花に発生します。最初は古くなった葉などで感染が進みます。花に感染すると花弁に褐色の小斑点ができ、拡大していきます。▼スプレーマム(スプレー菊)の育て方ならこちらをご覧ください。
バラ
花、葉、茎、蕾に発生します。開花前の蕾や花弁に水浸状の小斑点が生じます。徐々に拡大して花や蕾が灰色のカビで覆われ軟化腐敗します。果樹・樹木
果樹、樹木ではカンキツ、ブドウ、モモ、ウメなどに発生します。カンキツ
葉、果実に発生します。腐った花弁が幼果に付着すると、褐色のかさぶた状の傷になります。そして、傷の多い果実は落果します。傷の少ない果実は落果せず、残り傷が拡大して品質が著しく低下します。貯蔵果では、はじめ暗褐色または水浸状の病斑ができ、その後灰色のカビが生じて腐敗します。
▼カンキツ類の育て方ならこちらをご覧ください。
灰色かび病に有効な予防方法
灰色かび病に有効な予防は、「農薬を使わず」に圃場の管理で行う方法(耕種的防除方法)と、「農薬」の使用で行います。2つの方法を組み合わせて、適切な灰色かび病の予防を行いましょう。※圃場(ほじょう)とは、田や畑のような農作物を育てる場所のことです。
灰色かび病を発症させない「農薬を使わない」管理方法
農薬を使わずに行う灰色かび病の予防方法について説明します。1. 前作の残渣の処理
灰色かび病は枯れた植物上でも生き残り感染源となります。前作の残りの枯れた植物は土中に埋め込むか、圃場外に持ち出して処理します。2. 圃場回りの除草
雑草も灰色かび病の感染源になっています。植え付け前に圃場回りの除草を徹底して伝染源を根絶しましょう。3. 水はけの良い圃場づくり
圃場は水はけの良い土づくりを目指します。畝を高くしたり、腐植土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入して、効果的な土質改善を行いましょう。▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
4. 風通しを良くする
過繁茂は灰色かび病の胞子が飛散しやすくなるので注意します。古い葉や傷んでいる葉、咲き終わった花がらも感染源になることがあるのでこまめに取り去りましょう。適度に風通しを良くすることで植物体の周りの空気が入れ替り、湿度を下げる効果が期待できます。灰色かび病の予防に効果的な「農薬」
農薬を定期的に散布して灰色かび病を予防しましょう。使用する薬剤に作物の登録があるか必ずご確認ください。灰色かび病は、同一薬剤の多使用による薬剤耐性菌の発達が報告されています。耐性菌の発生を予防するためにも、薬剤を組み合わせたローテーション散布がおすすめです。
※耐性菌とは、薬剤(農薬)に含まれる抗菌薬(抗生物質)が効かない菌のことです。
※農薬は地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守り施用してください。
▼病気対策に欠かせない農薬散布のタイミングや、選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
▼薬剤抵抗性やローテーション散布のことならこちらをご覧ください。
STダコニール1000
有効成分TPNの保護殺菌剤です。現在報告されている薬剤耐性菌にも、広範囲に効果的な薬剤です。
容量 | 30ml |
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有効成分 | TPN(テトラクロロイソフタロニトリル)(40.0%) |
FRACコード | M5 |
ボトキラー水和剤
有効成分バチルス菌は、「納豆菌」の仲間です。バチルス菌が作物の葉や花に棲み着き、病原菌の繁殖を抑制して灰色かび病などの病気から作物を守ります。
容量 | 100g |
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有効成分 | バチルス・ズブチリス芽胞1x10の11乗CFU/g含有 (1g当たり1000億個の生きた胞子を含有) |
FRACコード | 44 |
ベニカXファインスプレー
虫と病気を総合的に防除できる薬剤です。優れた展着性、浸達性があり、葉の表面から葉裏まで薬剤が浸透します。有効成分メパニピリムは、灰色かび病薬剤耐性菌にも効果がある成分です。
容量 | 420ml |
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有効成分 | クロチアニジン、フェンプロパトリン、メパニピリム |
FRACコード | 4A |
▼農薬を安全に使用するためにまずはこちらをご覧ください。
▼希釈方法や散布後の処理方法などそのほかの農薬のことなら農薬まとめをご覧ください。
灰色かび病発見後の効果的な3つの対策
灰色かび病を発見してしまった際にはどうすればよいのか、その効果的な対策を紹介します。1. 灰色かび病発症後の被害部分の「除去」
果実や葉に発生が確認された場合は、ただちに取り去りましょう。除去したものは胞子が飛ばないように、ビニール袋に入れて圃場外に持ち去ります。茎に被害の発生が見られた場合は、ナイフ等で感染部位を削り取る方法もあります。
2. 管理方法の見直し
発生が広がらないように圃場の環境を見直しましょう。古い葉が残っている場合は、さらなる伝染源となる可能性があるのでただちに取り去りましょう。3. 灰色かび病の治療に効果的な「農薬」
治療剤を使用して灰色かび病のまん延を防ぎましょう。家庭園芸用カリグリーン
人と環境にやさしい炭酸水素カリウムが主成分です。有機JAS規格(オーガニック栽培)でも使用可能です。 多発時には効果が薄れることがあります。なるべく発生初期に、所定の散布量で葉全体を洗い流すように散布しましょう。
容量 | 1.2g×10袋 |
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有効成分 | 炭酸水素カリウム |
FRACコード | NC |
家庭菜園での灰色かび病対策
家庭菜園で野菜づくりを楽しまれている方には、キッチンにある材料で行う灰色かび病対策がおすすめです。病気が多発してからは、どちらの方法も効果が薄いので、なるべく予防的に散布するように心がけましょう。納豆
前述の「ボトキラー水和剤」は納豆菌を使った農薬です。納豆菌が葉の表面に病原菌より先に住み着くと、病原菌の繁殖を抑制して灰色かび病などの病原菌から作物を守ります。自宅で納豆をミキサーで粉砕して納豆水を作り、スプレーボトルで散布する方法もあるようです。
重曹
重曹(炭酸水素ナトリウム)は、前述の「カリグリーン」の成分と同じ炭酸水素塩なので治療効果があります。食品用として市販されている重曹を水で500~1000倍に薄め、ハンドスプレーなどを使って病気の発生部位から周辺部分にもたっぷりと散布しましょう。