このとき、防除のタイミングが適切で、効果的に薬剤を散布しているならば「薬剤に抵抗性を持った病害虫が発生している」という可能性を考えます。
抵抗性を持った病害虫を増やさないために、使用している薬剤やローテーションを見直す必要がありますが、一体どのようなことに注意して防除を行えば良いのかみていきましょう。
薬剤抵抗性とは
「薬剤抵抗性」とは、病害虫や雑草が薬剤に対して抵抗性を持ち、それによって農薬が効かない・効きにくくなることをいいます。除草剤の薬剤抵抗性
除草剤では「パラコート」や「シマジン」などに抵抗性を持つ種類の雑草が確認されています。除草剤抵抗性雑草の例
雑草 | 農薬分類 |
ハルジオン、ヒメムカヨモギなど | パラコート |
スズメノカタビラ | シマジン |
ミズアオイ、イヌホタルイなど | スルホニルウレア系(SU) |
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殺虫剤の薬剤抵抗性
殺虫剤では「ダニ類」や「アブラムシ類」、「アザミウマ類」などで殺虫剤抵抗性が報告されています。果菜類で問題となる「タバココナジラミのバイオタイプQ」は、一部の「ネオニコチノイド系統」、「合成ピレスロイド系統」および「有機リン系統」の薬剤に対して抵抗性を持つだけでなく、各種薬剤においても抵抗性を持つ能力が高いため防除が難しくなっています。▼殺虫剤のことならこちらをご覧ください。
▼ダニ類やアブラムシ類、アザミウマ類についてはこちらをご覧ください。
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薬剤抵抗性が出ている害虫の例
害虫 | 農薬分類 |
ワタアブラムシ | 有機リン、カーバメイト、合成ピレスロイド、ネオニコチノイド |
ネギアザミウマ | 有機リン、カーバメイト、合成ピレスロイド、ネオニコチノイド・レピメクチンなど |
コナガ | ジアミド |
チャノカクモンハマキ | 有機リン、カーバメイト、合成ピレスロイド・ジアミドなど |
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殺菌剤の薬剤抵抗性
殺菌剤では各種「うどんこ病菌」や「べと病菌」などで殺菌剤が効きにくくなる耐性菌が発生しています。▼殺菌剤のことならこちらをご覧ください。
病原菌 | 農薬分類 |
イネいもち病菌 | カスガマイシン、脱水酵素阻害型メラニン合成阻害剤(MBI-D) |
イネばか苗病、各種灰色かび病など | ベンズイミダゾール系 |
ナシ黒斑病 | ポリオキシン |
各種うどんこ病菌 | アゾール系、ストロビルリン系 |
各種べと病 | ストロビルリン系 |
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病害虫が薬剤抵抗性を持つ仕組み
病害虫には同じ種類でも薬剤に抵抗性を「持つもの」と「持たないもの」が混在しています。また、農薬にも病害虫への効き方が「同じもの」と「異なるもの」があり、作用性が同じ薬剤を連用するとその薬剤に抵抗性を持つ病害虫だけが生き残り、抵抗性を持つ病害虫が増えることでその薬剤が効かなくなってしまうのです。
(例)A剤に「抵抗性を持つ個体」と「抵抗性を持たない個体」
- A剤を散布するとA剤に抵抗性を持つ個体は生き残り、持たない個体は死滅します。
- その後圃場に再び害虫が増殖します。
- 再びA剤を使用すると、A剤に抵抗性を持つ個体は生き残り抵抗性を持たない個体は死滅しますが、前回と今回生き残ったA剤に抵抗性を持つ個体がいるので、生き残る個体数は前回よりも増えます。
- これを繰り返しA剤を使用し続けると、抵抗性を持つ個体が生き残って増えていくため、A剤が効かなくなってしまうのです。
病害虫に薬剤抵抗性を持たせない方法
抵抗性(薬剤に対して)を持つ病害虫が増えると、薬剤が効かなくなって作物への被害が拡大するだけではなく、病害虫に対して有効な薬剤の種類も少なくなってしまいます。今作だけではなく、次作以降の防除にも影響を与えるため、病害虫に薬剤抵抗性を持たせないようにする必要があります。農薬の使用は基本に忠実に!
農薬の選び方や登録内容を守って防除効果を最大限に得ることが重要です。▼農薬の種類のことならこちらをご覧ください。
作用性を考慮した農薬の選択
農薬散布において作用性が異なる薬剤を何種類かローテーションで使用することで、病害虫が薬剤抵抗性を発達させるのを防ぎましょう。※薬剤のローテーション散布については、県ごとに防除指針が出されています。普及所やJAなどの地域の指導機関へ問い合わせて相談することをおすすめします。
▼ローテーション散布のことならこちらをご覧ください。
登録内容に沿った適正使用
薄い濃度に希釈した農薬を散布すると、抵抗性とはまた別に薬剤に比較的強い個体が生き残る可能性があります。そのため、登録内容に沿った適正な濃度で使用することが大切です。▼農薬の登録内容や散布液についてはこちらをご覧ください。
注意!
農薬の種類によっては、病害虫だけでなく「天敵」にも影響を及ぼすものがあります。農薬の効果が切れた後に、天敵がいないことで病害虫が再び増えてしまう(リサージェンス)ので、天敵に影響の少ない薬剤を選択するようにしましょう。
農薬の使用回数を減らす!?
農薬の使用回数を減らすことで、結果的に病害虫が薬剤抵抗性を持つのを防ぐことができます。発生前や発生初期の防除の徹底
病害虫が発生して圃場に被害が広がってしまうと、どうしても農薬の使用回数は増えてしまうものです。つまり、農薬の使用回数を減らすためには、病害虫が発生したときの農薬使用ではなく、発生前や発生初期の予防的散布が効果的なのです。各県の病害虫防除所から出される発生予察を参考に予防的防除のタイミングを逃さないようにしましょう。
出典:「都道府県病害虫防除所」(農林水産省)
断続的に病害虫の発生状況を確認
農薬散布後、漠然と期間が長く空いてしまうと前回防除しきれなかった病害虫が蔓延することがあり、その結果使用される農薬の回数は増えてしまいます。栽培期間中は作物に害虫が発生していないか、圃場に有色粘着板を設置するなど継続して病害虫の発生状況を確認し、早い段階で対処できるようにしましょう。
圃場から伝染源を除去
生育に不要な部位を取り除く摘葉・摘花・摘果などの作業を行った後は、すみやかに圃場の外に持ち出して病害虫の温床となるのを防ぎます。また栽培終了後も前作の病害虫を次作へ持ち込まないように残渣(ざんさ)の片づけや蒸しこみ、土壌消毒などを行いましょう。病害虫の伝染源となるものをなくすことで、農薬使用回数自体も減らすことが可能です。
※残渣とは枯れた植物や落ち葉のこと。
▼ハウスの蒸しこみや土壌消毒についてはこちらをご覧ください。
IPMを取り入れる
ローテーション散布は、薬剤抵抗性の出現を抑えるのに効果はありますが、完全ではありません。抵抗性が発生しやすい病害虫では各種防除手段を適切に組み合わせたIPMを取り入れることで、より効果的に薬剤抵抗性の出現を抑えることが可能性です。
※IPM(Integrated Pest Management)とは、総合的に病害虫や雑草管理を行うことです。
▼IPMの一環として光を取り入れた光防除のことならこちらをご覧ください。
▼ハウス栽培や露地栽培での各種防除手段についてはこちらをご覧ください。
農薬を効果的に使用していくために
農薬を効果的に使用していくためには、病害虫に薬剤抵抗性を持たせない・抵抗性を持った病害虫を増やさないことが大切です。そのためには薬剤の作用性を知り、同一作用性の薬剤を連用しないようローテーションで防除を行いましょう。また、農薬の使用回数を減らすことや物理的・生物的防除を取り入れ、総合的な病害虫管理をすることも必要となります。
農薬が効きにくくなった・効かないという場合でも、すぐに薬剤抵抗性を疑うのではなく、農薬の使用方法が適切でないために効果が出なかった可能性も考え、「防除を行った農薬が登録内容にあっていたか」「防除タイミングは適切だったか」などの確認も行いましょう。