植物における鉄の働き
植物が生長するために必要な微量要素の一つに「鉄」があります。鉄は土壌中から根によって吸収されて作物の隅々に行き渡ります。鉄の働き
鉄は植物体内で働く酵素の成分です。葉緑素の生成にも関与し、欠乏すると葉緑素の生成が行なわれなくなってしまいます。また移動しにくい要素でもあるため、新葉の葉脈間に「クロロシス」と呼ばれる色抜け症状を引き起こします。※クロロシスとは若い葉の葉脈の緑色を残して葉脈間が淡緑~黄変する症状。
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鉄障害について
鉄は植物体内で不足すると「欠乏症」、過剰になると「過剰症」を引き起こします。鉄は土壌中に含まれている量が適量であっても、土壌の酸性度や水分量などの影響を受けて土壌に溶け出す量が増減し、植物の根からの吸収量に影響し、欠乏症や過剰症を発生させます。
鉄欠乏症とは
鉄の量が植物体内で不足すると鉄欠乏症を発症しますが、通常土壌中には多量の鉄があるので、土壌中の鉄が少ないために作物が鉄欠乏症状を起こすことはほとんどありません。鉄欠乏症の症状
「葉脈の間の色が薄くなっている(クロロシス)」「葉が白くなってきた」そんな症状は鉄欠乏症かもしれません。鉄は移行性の悪い成分なので、生育の盛んな生長点付近の葉に欠乏症状が強く現れます。上位葉の葉が葉脈を残して淡い緑〜黄色に変色します。症状が進むと葉全体が黄白色に変色することもあります。
鉄欠乏症が出やすい植物
野菜や果樹、花きなどで発生します。野菜類
トマト、コマツナ、チンゲンサイ、ホウレンソウ、エダマメ、ミツバなどは、若い葉の葉脈の緑色を残して、葉脈間が淡緑~黄変します(クロロシス)。症状が激しくなると、若い葉が黄白化し枯死します。根は通常白色ですが、鉄が欠乏すると黄変することもあります。
▼トマトやコマツナ、チンゲンサイ、ホウレンソウ、エダマメの育て方ならこちらをご覧ください。
花き・果樹・花木
キク、バラ、アジサイ、ツツジ、クチナシも同様に鉄欠乏によって、クロロシスがみられます。生長に伴って回復することもあります。▼アジサイの育て方ならこちらをご覧ください。
鉄欠乏症の原因
鉄欠乏症が引き起こされる原因について説明します。1. pH値が高いアルカリ性の土壌
pH値が高いアルカリ性土壌では、土壌中の鉄は不溶化して欠乏症を生じます。2. 鉄以外の要素過剰の影響
ほかの微量要素(マンガン、亜鉛、銅)が過剰になったときや、肥料の3大要素であるリン酸が過剰になった場合にも鉄は吸収されにくくなります。3. 土壌の過湿や過乾燥、低温
土壌の過湿や過乾燥、低温などで根の機能が弱ることで吸収が抑制され鉄欠乏が起こります。鉄欠乏によく似た「マンガン欠乏症」
鉄欠乏症状とよく似た症状(クロロシスを引き起こす)にマンガン欠乏症があります。どちらか症状で判別できない場合は、症状の出ている株を4株選び、2株には鉄を、もう2株にはマンガンの葉面散布を行い、3~5日様子を見て散布効果の有無から、どちらの欠乏症かを判断することができます。
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鉄欠乏症を発症させない管理や対策方法
鉄欠乏症を発症しないための管理方法について、説明します。1. 土壌pHの調整
pHが中性〜アルカリ性に傾いている圃場(ほじょう)では石灰(カルシウム肥料)などのアルカリ資材の使用は控え、pH6.0~6.5付近を目標に硫安、硫酸カリなどの酸性に傾ける肥料を使用します。※圃場とは、田や畑のような農作物を育てる場所のこと。
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2. リン酸肥料の適正量
リン酸肥料は適正に施用します。すでに土壌のリン酸含量が高い場合は元肥の施肥量を減らし、追肥はリン酸が含まれていないもので行います。▼リン酸のことならこちらをご覧ください。
▼元肥や追肥の施肥量やタイミングのことならこちらをご覧ください。
3. 鉄肥料の施用
鉄を含む肥料を施用します。養液栽培では、鉄キレート化合物(EDTA鉄)を2kg/10a程度土壌潅注します。▼肥料のことならこちらをご覧ください。
4. 葉面散布
応急処置として、鉄を含む葉面散布剤を使用します。1回では効果が出ないため、1~2週間に1回散布を続けます。▼葉面散布剤のことならこちらをご覧ください。
5. 保水性、排水性の良い土づくり
過乾燥、過湿による根傷みを起こさないように土壌の水分量に気を付けます。水はけの悪い圃場では畝を高くしたり、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入します。
水はけの良過ぎる圃場では、腐植を入れて保水性を高めたり、畝間に敷きわらやマルチを貼って水分の蒸発を抑えます。
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鉄過剰症とは
鉄の量が植物体内で過剰になると、鉄過剰症を発症します。鉄過剰症の症状
下葉から発生し、葉脈間に褐色の斑点が生じます。鉄過剰症の原因
通常の畑栽培で鉄の過剰障害が見られることはほとんどありません。ただし、土壌が強酸性あるいは加湿などで酸素不足状態(還元状態)になると、鉄が土壌に大量に溶け出し、鉄に耐性の弱い作物は過剰症を発症することもあります。また水耕栽培などでは、キレート鉄を多量に投与すると発生することもあります。
鉄過剰症の予防
鉄過剰症は強酸性で発生しやすくなるため、酸性土壌には石灰などのアルカリ質資材の施用でpH6.0~6.5付近を目標に中和します。また、土壌が過湿状態だと酸素不足になるため、土壌の排水性には気を付けましょう。
鉄障害対策に何より大事なのは土壌酸度と肥料量
鉄は欠乏症を起こしやすい成分です。土壌酸度を調整すると解決することが多いので、適正なpHに調整します。また、ほかの肥料成分の影響を受けやすいため、施す肥料の量には十分気を付けます。土壌の過乾燥、過湿や温度にも影響されるため、保水性と排水性を高めた作物の生育に適した土壌に改良しましょう。