菌核病の症状
「茎の地際部が白色のカビに覆われていた」「外葉が腐って白いカビが生えてきた」「白いカビの中に黒い塊がある」などの症状が現れたときは、菌核病を疑いましょう。病斑部の特徴
葉や茎に水で浸したような茶褐色〜黒色の病斑が現れると次第に拡大し、やがて白色のふわふわとした綿毛状の菌糸で覆われます。菌糸の中にはネズミの糞のような黒色の菌核が形成されます。また、葉・茎以外にも新芽や果実にも発生することがあります。
▼植物の病気の症状についてはこちらの記事もご覧ください
菌核病の発症原因
菌核病は糸状菌(カビ)が原因で発生する病気です。この糸状菌(カビ)は子のう菌類に属するキノコの仲間です。多犯性で多くの植物のさまざまな部位に発生しますが、主に地際部に発生することが多い傾向があります。
名前 | 菌核病 |
菌名 | Sclerotinia sclerotiorum |
分類 | 糸状菌/子のう菌類 |
発生時期 | 3~5月、9~11月 |
子のう盤形成 | 15~20℃ |
生育適温 | 20℃前後 |
主な感染源
発病株から落ちた「菌核」が土壌に残留して伝染源になります。この菌核は春から秋に「子のう盤(キノコ)」を形成し、そこから「子のう胞子」を飛ばします。風に乗った「子のう胞子」は植物体の老化した部位や傷口から侵入して感染し、感染後は菌糸を伸ばして近隣の作物を侵します。菌核は土中で数年間生きられる!
菌核は土中でおよそ2~3年生き延びることができます。環境など発生しやすい条件が整えば、伝染源となる「子のう盤」を形成して「子のう胞子」をつくります。発生しやすい時期
露地栽培とハウス栽培では発生しやすい時期に違いがあり、また気温などの関係によって発生の多い年と少ない年があります。露地栽培
春(3~5月)と秋(9~11月)は「子のう盤」の形成に好適な温度(15~20℃)なので、降雨が長く続く場合などは感染拡大に注意が必要です。ハウス栽培
ハウスなど施設栽培では冬に多く発生がみられます。菌核病と間違えやすい病気
見た目が同じ「カビ状の病斑」ですが、菌核病とは異なる病気もあります。菌核病と見分けるポイントは「ネズミの糞のような黒色の菌核」が形成されているかどうかです。病気名 | 作物名 | 菌核病に似ている症状 |
疫病 | トマト、ジャガイモ、ピーマンなど | 暗緑色から褐色の水浸状の病斑に白色カビで覆われる |
灰色かび病 | 花き類、野菜類 | 葉、果実、茎に灰褐色のカビ |
▼疫病や灰色かび病のことならこちらをご覧ください。
菌核病に感染する主な植物
菌核病は野菜類、花かき類など幅広く感染する病気です。ここでは、菌核病が問題となっている主要な作物とその症状を紹介します。野菜類
野菜類ではキャベツやハクサイ、キュウリ、レタス、トマト、ブロッコリー、サヤエンドウ、イチゴ、オクラ、セロリ、ナス、エダマメなどに発生します。▼ハクサイ、トマト・ミニトマト、ブロッコリー、イチゴ、オクラ、ナスの病気のことならこちらをご覧ください。
キャベツ
結球期以降に発生することが多く、はじめ下葉の基部に暗褐色の病斑ができるとやがて株全体に拡大します。病状が進むと白色のカビと菌核が発生します。軟化腐敗しますが、悪臭が無いことから軟腐病とはっきり見分けることができます。
▼軟腐病のことならこちらをご覧ください。
▼キャベツの病気のことならこちらをご覧ください。
キュウリ
茎葉や果実に症状があらわれます。茎では地際部や葉柄の付け根に暗緑色の水浸状の病斑が形成されると、徐々に被害が広がり、多湿時には白色のカビがあらわれ病斑部の茎の内部には菌核が生じます。果実では咲き終わった花弁などから病斑が拡大します。▼キュウリの病気のことならこちらをご覧ください。
草花
キク、ヒマワリ、ガーベラ、ストック、キンギョソウなどに発生します。▼ヒマワリの育て方ならこちらをご覧ください。
キク
茎、葉に褐色の病斑が形成されると、やがて拡大して白色のカビがあらわれ、病斑部に黒色の菌核が形成されます。地際部だけでなく、茎のかなり高い位置でも発症して水浸状に腐敗し、茎枯れ状態になることもあります。▼スプレーマム(小菊)の育て方ならこちらをご覧ください。
果樹・樹木
ツバキ、クワ(マルベリー)、ブドウなどなどに発生します。ツバキ
開花中の花弁が徐々に褐色腐敗して、花ごと落下します(開花直前に蕾が落ちることもあります)。クワ(クワの実、マルベリー)
健全な桑の実は紫色ですが、菌核病に感染すると白色から灰白色になり、地表に落ちて黒色ミイラ状の菌核の塊となって次の伝染源となります。菌核病に有効な予防方法
菌核病に有効な予防は圃場の管理(耕種的防除方法)と農薬散布です。この2つの方法を組み合わせて、適切な菌核病の予防を行いましょう。※圃場(ほじょう)とは田や畑のような農作物を育てる場所のことです。
菌核病を発症させない管理方法
農薬を使わずに行う菌核病の予防方法について説明します。1. 前作の残渣の処理
前作の植物残渣(ざんさ)などに菌核病の病原菌が付着している可能性があります。残渣は圃場外に持ち出して処理します。※残渣とは、圃場などに残った生育(栽培)を終え枯れた植物体。
2. 土壌の入れ替え、消毒
前作に菌核病が発生した圃場、また発生が心配される圃場には古い土を深くすき込むか、新しい土を入れます。湛水で菌核病菌は死滅するので、可能であれば行いましょう。湛水できないときは圃場にたっぷり灌水(かんすい)した後、透明のポリマルチを被せて太陽熱消毒を行うのも効果的です。
※湛水とは水田のように水を張ってため続けること。
▼土壌消毒のことならこちらをご覧ください。
プランター栽培も同じように新しい土と入れ替えるか、菌核病が発生した土に水をたっぷり含ませ、透明のビニール袋で包み、真夏の太陽の熱を利用して消毒します。
▼プランターの培土の消毒ことならこちらをご覧ください。
3. 水はけの良い圃場づくり
湿度が高いと菌核病の胞子がつくられてしまいます。圃場の湿度が上がらないように水はけの良い土づくりを目指します。畝を高くしたり、腐植土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入して効果的な土質改善を行いましょう。
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4. 連作をしない
病気の発生しやすい作物(キャベツ、キュウリ、レタスなど)の連作はやめましょう。▼連作障害のことならこちらをご覧ください。
5. 風通しを良くして、湿度を低く保つ
植え付け後は過繁茂にならないように心がけます。適度に風通しを良くすることで植物の周りの空気を入れ替え、湿度を下げる効果があるので、古い葉や傷んでいる葉は取り去りましょう。菌核病の予防に効果的な「農薬」
農薬(殺菌剤)を使用してより効果的に菌核病を予防します。出荷後に発生することを防ぐためにも、圃場での予防散布は1回だけではなく定期的に行いましょう。耐性菌の発生を予防するためにも、薬剤を組み合わせてローテーションで散布することをおすすめします。使用する薬剤に作物の登録があるか必ずご確認ください。
※耐性菌とは、薬剤(農薬)に含まれる抗菌薬(抗生物質)が効かない菌のことです。
※農薬は地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守り施用してください。
▼殺菌剤のことならこちらをご覧ください。
▼薬剤抵抗性やローテーション散布のことならこちらをご覧ください。
石原フロンサイド粉剤
土に混ぜて土の殺菌・消毒ができる土壌殺菌剤です。菌核病を効果的に予防します。アブラナ科の根こぶ病も同時防除できます。
容量 | 700g |
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有効成分 | フルアジナム |
FRACコード | 29 |
セイビアーフロアブル20
菌核病、灰色かび病に対し発生前からの散布で高い防除効果を示します。薬剤耐性菌に対しても高い効果を発揮します。予防効果に優れる反面、発病後の散布では効果が安定しない場合があります。
容量 | 500ml |
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有効成分 | フルジオキソニル(20.0%) |
FRACコード | 12 |
アフェットフロアブル
幅広い植物病原菌に対し、高い効果を発揮するので同時防除が期待できます。 発病前から発病初期予防的散布が効果的です。
容量 | 100ml |
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有効成分 | ペンチオピラド(20.0%) |
FRACコード | 7 |
アミスター20フロアブル
各種野菜、畑作物などさまざまな病害に高い効果を示し、同時防除にも最適です。雨に強く、浸透移行性による優れた予防効果があります。
容量 | 250ml |
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有効成分 | アゾキシストロビン(20.0%) |
FRACコード | 11 |
▼農薬を安全に使用するためにまずはこちらをご覧ください。
▼希釈方法や散布後の処理方法などそのほかの農薬のことなら農薬まとめをご覧ください。
一般的な化学合成「農薬」とは違う「生物農薬」
「ミニタンWG」という生物農薬は、菌核病を食べる菌(糸状菌)の働きで土壌の菌密度を低下させ、連続施用で効果が高まります。生物農薬ですので、JAS法が定める有機農産物または特別栽培農産物にも使用可能です。菌核病は気温などの関係で発生の多い年と少ない年がありますが、生物農薬なので発生の少ない年に使用したとしても過剰防除とはならず安心して使用できます。
※有効成分:コニオチリウム ミニタンス CON/M/91-08 株胞子
▼生物農薬のことならこちらをご覧ください。
菌核病発見後の効果的な2つの対策
菌核病を発見してしまった際にはどうすれば良いのか、その効果的な対策を紹介します。1. 菌核病発症後の被害部分の「除去」
発生が確認された場合は、ただちに取り去りましょう。除去したものは胞子が飛ばないように、ビニール袋に入れて圃場外に持ち去ります。また、発生が広がらないように圃場の環境を見直しましょう。古い葉が残っている場合は、さらなる伝染源となる可能性があるので、ただちに取り去りましょう。
2. 菌核病の治療に効果的な「農薬」
効果的な農薬を使用して早期に菌核病を治療しましょう。▼病気対策に欠かせない農薬散布のタイミングや、選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
GFベンレート水和剤
幅広い適用をもった殺菌剤で、浸透性にすぐれ、予防と治療の2つの効果を示します。
容量 | 0.5g×10袋 |
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有効成分 | ベノミル(50.0%) |
FRACコード | 1 |
菌核病対策に何より大事なのは育てる環境
菌核病は多湿で発生しやすい土壌からの病気です。まずは環境を見直しましょう。春、秋で雨が長引き、気温が低い時期は菌核病の兆候がないか圃場を注意して観察します。
菌核は感染した植物から土壌に落ちて、土中で長く生きられますので、多発している圃場では土壌の消毒をすることもおすすめです。