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園芸家
Shabomaniac!幼少期から40年以上、世界中のサボテンと多肉植物を栽培している園芸家。栽培が難しい種の播種や育成、新種の輸入にも早くから取り組む。実体験に基づく栽培方法や、自身が所有・栽培する植物の写真、自生地巡りの紀行をブログとInstagramで発信。長年の栽培経験に基づく豊富な知識で愛好家たちからの信頼も厚い。 Blog:http://shabomaniac.blog13.fc2.com Instagram:@shabomaniac 著書:『珍奇植物 ビザールプランツと生きる』(日本文芸社)、『多肉植物サボテン語辞典』(主婦の友社)…続きを読む
多肉植物ってどんな植物?
多肉植物とは、アフリカ大陸や南北アメリカ大陸などの乾燥地帯に自生し、葉や茎、根に水分を貯め込む性質がある植物のことです。頻繁な水やりを必要としないので初心者でも育てやすいものが多く、形や色合いの美しいもの、株姿だけでなく花も鑑賞できるもの、灌木状(かんぼくじょう)に育つ野趣にあふれたものまで多彩な魅力があります。種類が豊富な分、楽しみ方も人によってさまざま。インテリアグリーンとして取り入れたり、寄せ植えにしたり、お気に入りをコレクションしたり、交配や実生といった栽培工程そのものを楽しんだりなど、年齢や性別を問わず幅広い層から人気を集めています。多肉植物の選び方|まずは見た目の気に入ったものを
多肉植物は、比較的丈夫で初心者でも失敗が少ないものから、繊細で栽培に少しコツが必要な中級・上級者向けのものまで、種類によって育てやすさの違いがあります。それでも、最初はやっぱり「かわいい」「かっこいい」など、第一印象に惹かれたものを選ぶのが一番です。そこでまずは、外形的な特徴からいくつかのグループに分けて多肉植物をご紹介します。均整の取れたロゼットが美しい多肉植物
ロゼットとは、バラの花のように放射状に並んだ葉姿のこと。形が美しく、女性人気の高いグループです。エケベリア
ロゼット型の多肉植物を代表するエケベリア。韓国をはじめ日本国内でも育種がさかんに行われており、色や形のきれいな数えきれないほどの園芸種が流通しています。寒さに強く、丈夫で育てやすいので初心者にもおすすめです。エケベリアの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
ダドレア
ダドレアは葉の表面にブルームと呼ばれる白い粉をまとい、生長するとかなり大型化する種が多い多肉植物です。幹が立つものもあり、珍奇植物のファンにも好まれています。大半の種が冬型で、夏に水をやると腐ってしまうので注意しましょう。ダドレアの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
センペルビウム
センペルビウムは、ヨーロッパから中央ロシアにかけての山岳地帯に生えている高山植物です。強健種でとても寒さに強く、北海道などでも地植えで冬越しできます。その代わり高温多湿が苦手なので、夏は涼しい場所で風通しよく管理してあげてください。センペルビウムの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
ハオルチア
葉が硬くシャープな硬葉系と、柔らかく透明な窓を保つ軟葉系の2つのグループに分かれるハオルチア。「オブツーサ」に代表される軟葉系は、光を取り込むために葉の頂部が透明に透き通っており、光を浴びるときらきらと輝いてとてもきれいです。どちらのグループも栽培は容易ですが、強い日差しが苦手なので夏場は特に直射日光を遮った柔らかい光の下で育ててあげましょう。ハオルチアの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
葉と茎が一体化!石のようなメセン類
メセンとは、南アフリカやナミビアの乾燥地に自生する小型の多肉植物の総称です。植物とは思えない石ころのような奇妙な姿が特徴で、この葉と茎が一体化した形態は自生地の環境に適応するために独自の進化を遂げたものとされています。コノフィツム
メセン類の代表格であるコノフィツムは、2枚の葉が根元でくっついたような姿で、見た目の特徴から「鞍型」「足袋型」「有窓系」などいくつかのグループに分けられています。夏はしわしわに乾いた皮をかぶって休眠し、生長シーズンが始まる秋になると脱皮して新しい球体が顔を出します。コノフィツムの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
プレイオスピロス
半球に近い肉厚な葉が真ん中で左右に分かれる玉型メセンの代表種。表面には細かな斑点模様が入り、ざらざらとした質感が特徴です。「帝玉」やその園芸種の「紫帝玉」などが人気があります。プレイオスピロスの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
リトープス
リトープスは「生きた宝石」と呼ばれる玉型のメセンで、頂部に模様入りの窓があり、ここから光を吸収しています。種類がとても多く、見た目の形や葉の色、模様だけでは区別できない種が少なくありません。毎年脱皮を繰り返し、ときに分頭して増えていきます。リトープスの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
武骨なフォルムで男性ファンを魅了!樹木のような塊茎植物
アデニア
パッションフルーツで知られるトケイソウ科の熱帯植物。そのうち幹や根を肥大させるおもしろい形の種が多肉植物として出回っています。丸いボトル状の茎を持つ「グラウカ」や大きな塊茎から刺だらけの枝を大胆に展開する「グロボーサ」などが人気です。アデニアの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
コミフォラ
灌木状(かんぼくじょう)に育つことから「自然の盆栽」と呼ばれるコミフォラ。樹皮が剥がれ落ちる性質を持ち、枝を剪定すると爽やかな芳香を漂わせる個性的な多肉植物です。コミフォラの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
ドルステニア
多肉質の低木で、円盤状の花盤から複数の細長い突起を伸ばす珍妙な花が見所。インド洋のソコトラ島だけに自生する「ギガス」と、サンゴのように細かく枝分かれした枝が魅力の「ギプソフィラ」が有名です。ドルステニアの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
パキポディウム
コーデックスの中でも特に知名度が高いパキポディウム。コーデックスブームの火付け役ともいえる「グラキリウス」やこの属の中で唯一冬に生長する「ナマクアナム(光堂)」などが代表的です。ほとんどの種は幹が肥大し、トゲのある枝を生やして灌木状(かんぼくじょう)に育ちます。パキポディウムの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
ワイルドな刺が魅力のサボテン
エキノカクタス
代表種「金鯱(きんしゃち)」で知られるエキノカクタス。「強刺類(きょうしるい)」と呼ばれる鋭い刺が見所のサボテンで、生長するにつれて稜(りょう ※サボテンのひだのこと)が増えていきます。大きいものでは直径50cm以上に達するものも。古い株になると大きめの美しい花を咲かせます。ギムノカリキウム
ギムノカリキウムは南米原産のサボテンで、トゲが弱く艶のある肌を持つもの、勇壮で荒々しい刺を生やすものなど非常にバラエティに富んでいます。園芸店などでよく見かける緑色の柱サボテンの上に赤や黄色の丸いサボテンが接ぎ木された「緋牡丹」が有名です。ギノムカリキウムの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
フェロカクタス
フェロカクタスは赤やオレンジ、黄色、白、黒などカラフルで長く鋭い刺が魅力。強い光に当て、昼夜の温度差が激しい環境で育てると立派な刺が出ます。美しい花やユニークな葉姿が魅力の球根植物
ハエマンサス
明治時代から栽培されているという「マユハケオモト」で有名な球根植物。丸型や楕円形の葉を対生させ、葉が枯れ落ちると球根から極太の花茎を伸ばして赤や白の大きく立派な花を咲かせます。とても丈夫で枯れる心配が少ない植物ですが、冬型、夏型、常緑型と種類によって生育型が異なるため、休眠中に水やりをして過湿にならないよう注意しましょう。ハエマンサスの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
ブーファン
端正なボトル型の球根からブルーグリーンの細長い葉を対生させるブーファン。幾重にも葉を重ねた姿がユニークで、玉ねぎのように何枚もの薄皮で覆われた球根は直径20cmまで大きくなります。打ち上げ花火のような球状の花も魅力です。ブーファンの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
初心者にもおすすめ!室内でも育てやすい多肉植物
アエオニウム、エケベリア、カランコエ、クラッスラ、セダム、ハオルチアなど
多肉植物の中には、もともと岩陰や木陰などに自生していて穏やかな日差しを好むものがあり、屋内の日当たりのいい窓辺などでも育てることができます。ただ、ずっと室内に置いていると日照が不足して徒長しやすいので、生長期はできるだけ外に出して直射日光に当ててあげることがきれいな色形を維持するポイントです。アエオニウム
艶のある赤黒い葉が特徴の「黒法師」が有名なアエオニウム。ロゼット状の葉を持ち、幹立ちして大型に育つものや茎が伸びず地面から直接葉を生やすものなど形はさまざまです。多くは冬型ですが、そこまで寒さに強くないので、冬は5℃以上を保って管理しましょう。アエオニウムの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
カランコエ
個性あふれる葉色や模様、形が特徴のカランコエ。葉先に小さな子株をつけるものや花が美しいものなどがあります。寒さにはやや弱いものの、比較的に丈夫なので夏場は雨ざらしでも大丈夫。うさぎの耳のような細長い葉の表面に細かい葉が密集した「月兎耳(つきとじ)」などが人気です。カランコエの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
クラッスラ
クラッスラはベンケイソウ科を代表する多肉植物で、世界で500種ほどが知られています。垂直に伸びるものから群生するもの、ロゼット状に葉を展開するものまで形態は多種多様。低木状に育ちコインのような丸い葉をつける「金のなる木(カネノナルキ)」や、葉を対生させながら茎を伸ばして塔のように生長する「星の王子」など、おもしろい株姿の種がそろっています。栽培は難しくありませんが種類によって生育型が異なる点に注意して管理しましょう。露地植え・雨ざらしも平気な強健種
多肉植物を露地植えにしてガーデニングを楽しみたいなら、性質が丈夫で耐寒性と耐暑性をあわせ持つものを選びましょう。セダム
世界中で400〜600種が知られ、日本の海岸にも自生しているセダム。暑さ寒さに強く、グランドカバーや屋上緑化のための植栽にも使われるほど強健です。姿形はとても多彩で、幹が立つものや下に垂れ下がるもの、マット状に群生していくものなどがあります。ぷっくりした丸い葉を連ねる「虹の玉」や、紅葉すると葉先がピンクに染まる「乙女心(オトメゴコロ)」など、そのかわいさで多くの女性たちを惹きつけています。セダムの詳しい育て方はこちらの記事をチェック!
グラプトペタルム
厚みのある葉とロゼット型が特徴のグラプトペタルムは、代表種の「朧月(おぼろづき)」をはじめ暑さ寒さに強い丈夫な種が多く、地植えにされることもあります。ただし高温多湿は苦手なので、夏は風通しのよい場所で直射日光を遮って管理しましょう。暑さに強い多肉植物
アデニア、アデニウム、コミフォラ、パキポディウム、熱帯産のユーフォルビアなど
熱帯地域が原産の多肉植物は耐暑性があり、日中の気温が30℃を超えてくるころに活動を始め、真夏に一番元気な種も少なくありません。反対に寒さにはとても弱いので、冬は10〜15℃を保てるように環境を整備してあげてください。寒さに強い多肉植物
センペルビウム、グラプトペタルム、セダム、メセン類など
高緯度地域や高山地帯に生えている植物、冬に雨の多く降る場所に生えている植物は耐寒性が強く、寒冷地でも育てやすい傾向にあります。センペルビウムなどは−20℃の極寒にも耐え抜くほど寒さに強く、戸外での越冬も可能です。多肉植物を寄せ植えにするなら?
多肉植物は種類によって耐暑性や耐寒性、生長シーズンが異なるため、寄せ植えにするなら生育型が同じで性質も似ているものを組み合わせましょう。生育型の異なる種が混じっていると、休眠中の植物にまでたっぷり水を与えることになり過湿で枯れてしまいます。多肉植物はどこで買える?
最近では雑貨店や100円ショップでも多肉植物が売られるようになりましたが、初心者であれば植物に詳しい店員さんのいるホームセンターや園芸店、花屋さんで入手するのがおすすめです。珍しい品種はネット通販や、時々ネットオークションで出回るものの、名前が間違っていたり本物でないものも少なくないので、ある程度その植物に関する知識が身についてから利用した方がいいかもしれません。多肉植物を選ぶときの注意点
健康な株を選ぼう
見た目が好みの植物を見つけたら、健康な株を選ぶことが大切です。葉の色が濃い、艶がある、肉厚、葉と葉の隙間が詰まっているなどが元気な株の特徴です。反対に葉にしわが寄っている、葉の色が薄い、艶がない、下葉が枯れている、徒長している(葉と葉の間が長い)といった株は避けた方が無難。お店で買う場合は展示環境を見て、暗いところに置かれていたり、長いこと水やりされた形跡がなかったりするものは買わないようにしましょう。なるべくラベルがあるものを選ぼう
原産地や栽培方法が調べられるようにラベルに学名が書いてあるものを選びましょう。園芸種だと流通名しか書いていないこともありますが、今はネットで検索すればだいたいのことは分かります。ラベルがなくても、せめて属名と科名はお店の人に確認しておきましょう。多肉植物の育て方
水やりの回数や置き場所、植え替え・繁殖の時期は生育型に合わせて調整する必要があります。多肉植物の生育型と、季節ごとの管理方法を押さえておきましょう。多肉植物の生育型は3パターン
春秋型:春(3〜5月)と秋(9〜11月)に旺盛に生長するタイプ
アガベ、アロエ、エケベリア、ガステリア、カランコエ、クマラ、サボテン科の大半の種、センペルビウム、ディッキアなどが春秋型に該当します。夏は生長が鈍るので2〜3週間に1回程度と乾燥気味にし、涼しく風通しのよい場所で遮光して管理しましょう。冬は室内に取り込んで日当たりのよい窓辺などに置き、断水して過ごさせます。夏型:初夏(5月)から初秋(9月)まで生長するタイプ
アデニア、コミフォラ、チランジア、ドルステニア、パキポディウム(マダガスカル産)などが夏型に該当します。夏型といっても高温多湿に弱い種もあるので、梅雨の長雨に当てないよう雨よけなどを設置し、夏は寒冷紗で遮光してあげましょう。冬は休眠するので水やりはごく少なめにし、できれば10℃以上の温度で管理したいところです。冬型:秋(9〜11月)から春(3〜5月)の過ごしやすい時期に生長するタイプ
冬型の多肉植物にはアエオニウムやオトンナ、コノフィツム、サルコカウロン、セネキオ、チレコドン、パキポディウム(光堂)、プレイオスピロス、ペラルゴニウム、リトープスなどがあります。冬に雨が降る地域に自生しているものが多く、秋と春がいちばん元気で、日本の冬は寒すぎて成長が止まるものが多いです。夏は休眠するため、断水するか土が湿る程度の少量の水を与え、涼しく風通しの良い場所で遮光して管理しましょう。冬型とはいえ真冬は動きが鈍るので水やりの回数や量を控えめにします。水やり
土が乾いて白っぽくなってきたときが水やりのタイミング。生長期は鉢底から流れ出るまでたっぷり与えるのが水やりの基本です。休眠中は水を与えても根が吸収しないので断水するか、ごく少量のみ与えます。真夏は水やり後に強い光に当ててしまうと鉢内が蒸し風呂状態になって根が腐ってしまうため、水やりは朝や夕方の涼しい時間に行いましょう。冬は気温の低いときに水をやると鉢内で水が凍ってしまうので、なるべく晴れの日の暖かい時間帯を狙って水やりします。
また、水やりはジョウロや水差しで鉢の上から行う方法が一般的ですが、種まきの後や、毛が生えている・白い粉がついているなど植物本体を濡らしたくない場合、鉢の底面から給水させる腰水がおすすめです。
多肉植物の詳しい水やり方法はこちらの記事をチェック!
用土・鉢
用土は通気性や排水性がいい土を使用します。鉢は株のサイズに対して大き過ぎないもので、株の直径の倍くらいまでが目安です。素材は熱を吸収して鉢の中が温まりやすい黒のプラスチックがベスト。焼き物の鉢に植える場合、素焼きよりも堅焼きの鉢の方が一定の湿度を保ちやすくなります。多肉植物の土づくりの詳細はこちらの記事をチェック!
多肉植物の植え替え
多肉植物の植え替えは1年に1回が基本です。株のサイズに対して鉢が大き過ぎると根がうまく吸水できないので、元の鉢よりひと回り大きい鉢を使いましょう。株を引き抜き、枯れた根を取り除いてあげると新しい根の生長が促進されます。植え替えの時期は休眠が明けて新芽が動き出した直後がおすすめです。多肉植物の植え替えはこちらの記事で詳しく解説!
多肉植物を夏越しさせるコツ
多肉植物は乾燥した砂漠や岩場などに自生しているので、熱帯原産の植物以外は基本的に高温多湿の夏が苦手です。適度に遮光をして強い日差しをやわらげ、通風をしっかり確保して植物の表面温度を下げてあげる必要があります。多肉植物の遮光と通風に関してはこちらの記事をチェック!