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ライター - kiko
出版社にて雑誌編集に3年間に携わった後、コロナ禍をきっかけに観葉植物の魅力にハマる。現在はフローリスト&グリーンコーディネーターとして勤務する傍らWebライターとしても活動中。家の中をジャングルにするのが夢です。…続きを読む

写真提供:Shabomaniac!
朝晩が冷えるこの季節、多肉植物の生長は段々と緩慢になり、冬を迎える準備を始めます。そこで考えなければならないのが越冬対策です。多肉植物の耐寒性は種によって幅があるため、上手く冬越しするにはその植物がどれほどの寒さに耐えられるのかを知っておく必要があります。本記事ではベテラン園芸家監修の元、寒さに強い多肉植物や冬越しの注意点などをご紹介します。
寒さに強い多肉植物の特徴

写真提供:Shabomaniac!
多肉植物に限らず、
高緯度地域に生えている植物は寒さに強く、赤道に近い低緯度地域に生えている植物は寒さに弱いのが一般的です。また、同じ緯度でも海岸や平地に生えている植物より
標高の高い山の上に生えている植物の方が寒さに強くなるほか、
冬に雨が多く降る地域に生えている植物も比較的寒さに強い傾向にあります。
ただし、例えばその植物の祖先が現在の自生地まで北上してきたのか南下してきたのかなどによっても耐寒性に差が生じるため、同じ場所に生えているからといって同じだけの耐寒性を備えているとは限りません。したがって多肉植物の耐寒性を把握するためには、まず自生地を調べ、その上で植物ごとの性質を知ることが大切です。
多肉植物が寒さで死んでしまうわけ

写真提供:Shabomaniac!/自生地のスクレロカクタス・彩虹山(Sclerocactus parviflorus in New Mexico, USA)
植物は細胞が氷結すると内部組織が破壊されて死んでしまうため、体内に多量の水分を含んでいる多肉植物は基本的に寒さに弱くなります。それでも亜寒帯などに生育している多肉植物が死なないのは、
体内の水分が凍っても生き延びられる仕組みを備えているからです。
多くの植物はまず細胞と細胞の隙間にある水分が凍ります。水は純度が高いほど凍りやすいという性質があるので、有機質や糖、アミノ酸などいろいろなものが解けている細胞内は外側よりも凍りにくいのです。細胞の外に氷ができると、細胞内の水分は氷に引きつけられて外側に移動していきます。水分が細胞外に出ると、さらに細胞内の溶質濃度が濃くなるため、細胞内は0℃を下回っても氷結を防ぐことができます。栽培下で冬場に水を切るのには明確な理由があって、
水を切ることで細胞内の溶質濃度を高くして内部組織が氷結で壊れるのを防いでいるわけです。
また、温度が低下すると呼吸や光合成といった代謝活動も低下しますが、植物は代謝を最小限に抑えることで寒い時期を乗り越えることが可能になります。このように植物の体は氷点下でも生きていけるような構造と性質を持っていて、気温が低くなると自分で冬支度をします。よく遅霜で植物が枯れてしまうのは、春が来て暖かくなり、冬支度を解いているところに突然の寒さに襲われて耐えられなくなってしまうことが原因です。
−20℃でも平気|寒さにとても強い多肉植物

出典:PIXTA
ここからは多肉植物を耐寒性の高い順に紹介していきます。まずは−20℃でも耐えられるもっとも寒さに強い種からです。アフリカを中心とする低緯度の乾燥地帯や熱帯地域に生えていることの多い多肉植物ですが、中には高緯度の高山に自生し、抜群の耐寒性を有するものがあります。
センペルビウム

出典:PIXTA
ヨーロッパからコーカサス、中央ロシアにかけての山岳地帯に分布するロゼット型の多肉植物。ピレネー山脈やアルプス山脈など高山の岩場にも生えているくらいなので、北海道のような寒冷地でも戸外で冬越しできます。ただし暑さには極端に弱く、地植えにしていると夏に枯れてしまうので注意しましょう。
ジョビバルバ

分類 | ベンケイソウ科センペルビウム属(旧ジョビバルバ属) |
旧ジョビバルバ属の植物で、現在はセンペルビウム属に統合されています。アルプス山脈が原産で、センペルビブムと同様に耐寒性が極めて高い多肉植物です。
−5℃までは耐えられる|そこそこ寒さに強い多肉植物
グラプトペタルム

出典:写真AC
中米からメキシコにかけての標高1,200〜2,300mの高山に自生するグラプトペタルム。総じて暑さ寒さに強く、中でも代表種の朧月(オボロヅキ)はとても丈夫で、環境適応能力が高いことから露地植えされることも少なくありません。葉を凍らせなければ戸外でも越冬可能です。
セダム

出典:PIXTA
オセアニア大陸以外のほぼ全世界に生息しており、400〜500種と種類が多いベンケイソウ科の多肉植物です。ロゼット型に葉を展開するものや枝葉が下に垂れ下がるもの、上向きに茎を伸ばすものなど形態はさまざまで、一部の種は日本の海岸などでもよく見受けられます。耐寒性・耐暑性に優れる強健種が多く、屋上緑化やグランドカバーに用いられるほど丈夫です。
セダムの育て方はこちらの記事でも解説!
イワベンケイ

出典:PIXTA
ヨーロッパのアルプス山脈や北アメリカの東部、日本の北海道など、北半球の高山に分布するイワベンケイ。寒冷地の岩場という厳しい環境で自生しているので耐寒性があります。草丈は30cm前後で肉厚な楕円形の葉には鋸歯(きょし)があり、雌雄異株で雄株は黄色、雌株は赤色の花を咲かせます。
アガベ

出典:PIXTA/竜舌蘭
分類 | キジカクシ科リュウゼツラン亜科アガベ属(リュウゼツラン属) |
メキシコを中心にアメリカ南部、中南米にかけて分布する多肉植物。アガベには寒さに強い種が多く、日本をはじめ世界各地で露地植えされている「青の竜舌蘭(Agave americana)」などは−10℃近くまで耐えられます。一方でメキシコ南部原産の種の中には、一度霜にあたるだけでダメになるものもあります。種によって耐寒性が異なるので、屋外で越冬させる場合はその種についてよく調べてみてください。
アガベについてはこちらの記事でも解説!
サボテン
サボテンは思っている以上に寒さに強く、中南米のジャングルなどに生えているものを除き、明け方の短時間だけ氷点下になるくらいの寒さであれば耐えられるものが多いです。中にはカナダなどに分布していて−20℃以上の寒さに耐えるものもあります。近年は気温上昇によって関東でも露地植えで越冬できるようになりつつあります。
エキノケレウス

写真提供:Shabomaniac!
メキシコからアメリカ南部にかけて分布する小型のサボテンで、形状は球形や円筒状です。強健で暑さ寒さに強く、冬の低温を経験した後、春ごろに開花します。特に寒さに強いものとしては、「青花蝦(あおばなえび)」、「白紅司(はっこうつかさ)」、「尠刺蝦(せんしえび)」などがあげられます。
エキノプシス

画像提供:Shabomaniac!
ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、アルゼンチン、ボリビアなど南米大陸が原産のサボテン。柱サボテンから地中に潜るように育つ数センチの花サボテンまでいろいろな種があり、比較的丈夫なので冬も育てやすいでしょう。特に寒さに強いものとして「短毛丸(たんげまる)」、「花盛丸(かせいまる)」などがあり、これらは古くから屋外の軒下などで通年栽培されてきました。
オプンチア

写真提供:Shabomaniac!
しゃもじ型の茎節を連ねるいわゆるウチワサボテンの仲間ですが、この中にも寒さに強い種が多く含まれています。特にアメリカの「フラギリス(Opuntia fragilis)」「フミフーサ(Opuntia humifusa)」などは、日本の本州北部でも屋外での越冬が可能です。
メセン類
メセン類は冬生育型なので、水分含有量が多い割にはある程度の耐寒性を備えています。−5℃でも生き延びますが、冬はもっとも旺盛に生長する時期なので、ギリギリまで寒さに耐えさせるのではなく、できれば5℃以上を保って管理した方がよく育ちます。
コノフィツム

写真提供:Shabomaniac!
100種あまりの原種と亜種、変種からなる多肉植物です。冬生育型で夏は乾燥した皮をかぶって休眠し、秋になると古い皮を破って新球が顔を出します。
コノフィツムの育て方についてはこちらの記事もチェック!
リトープス

写真提供:Shabomaniac!
南アフリカやナミビアの乾燥地帯に自生するリトープス。とても種類が多く、見た目の色や形では区別できないものも少なくありません。生長に合わせて脱皮し、分頭して増えます。リトープスも寒さに強く、関東であれば屋外でも雨よけを設置する程度で越冬します。ただし、暖かい場所に移して冬を越す場合よりも生長は鈍ります。
リトープスの育て方はこちらの記事もチェック!
0℃以上をキープすれば大丈夫|寒さに強くも弱くもない多肉植物

続いては、特に寒さに強いというわけではないけれども弱いというほどでもない、耐寒性レベルが中くらいの多肉植物をご紹介します。0℃以上をキープすれば枯れてしまうことはありませんが、できれば5℃くらいに保つ方が安心です。屋外で越冬させるにはガラス温室やビニールハウスが欠かせません。
エケベリア

出典:PIXTA
メキシコを中心に北米南部から南米の北部にかけて自生するロゼット型の多肉植物。交雑が容易なため流通しているものの大半が園芸種で、さまざまな色、形、大きさのエケベリアが作出されています。耐寒性の強さは種ごとに異なり、標高の高い場所に自生しているシャビアナなど一部の種はある程度の寒さには耐えられますが、低地に生えている種も多いため、できれば5℃を保ち、0℃を下回る場合は断水して冬越しさせます。
ハオルチア

出典:写真AC
南アフリカのケープ州が原産の多肉植物で、寒暖差の大きい砂漠などに生えています。原種は200種ほどが知られ、大きく分けて「十二の巻」などに代表される葉が硬くシャープな硬葉系と、「オブツーサ」で有名な柔らかく窓のある軟葉系の2つのグループがあります。そこまで寒さに強くはありませんが、霜や雪に当てず、0℃以上を保てればベランダなどでも冬越しは可能です。ただし氷点下の夜が続くと葉が傷むことがあるので、不織布などを被せて寒さを和らげましょう。
ハオルチアの育て方はこちらの記事もチェック!
セネキオ

世界中に1,500〜2,000種が分布し、そのうち南アフリカやナミビア、マダガスカル、インド、メキシコなどに自生する一部の種が多肉植物に分類されています。春と秋に生育する種がほとんどですが、比較的に寒さや暑さに強く、育てやすい植物です。
10℃以上は保ちたい|圧倒的に寒さに弱い多肉植物

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パキポディウム、アデニウム、アデニア、コミフォラ、熱帯産のユーフォルビアなど
多肉植物の中でも根や茎に水分を溜め込むコーデックスと呼ばれるグループは、マダガスカルなど熱帯アフリカ原産の種が多く、また水分含有量も多いため、圧倒的に寒さに弱くなります。できれば10℃程度を保ちたいので、冬越しにはガラス温室やビニールハウスを用意することはもちろん、その上でさらに加温や保温が必要です。暖房設備付きの温室を用意できない場合、無理に戸外で冬越しさせず暖かい室内に移しましょう。
本来多肉植物やサボテンは、温室や暖房設備があることを前提に育てた方がいい植物です。特に寒さに弱い種類は冬場に数日間、暖房のないところに置くだけで死んでしまいます。
パキポディウム・アデニア・コミフォラの育て方についてはこちらの記事で詳しく解説
冬場の管理で気をつけること

写真提供:Shabomaniac!
冬支度は秋彼岸までに済ませる
夏に生育するタイプの多肉植物は、夜間の気温が10℃を切る9月後半ごろから葉が落ち始め、根も水を吸収しなくなります。秋の長雨に当てるとなかなか土が乾かないので、秋彼岸(9月後半)までを目安に温室もしくは室内に移します。それなりに寒さに強い多肉植物も、霜が降りる前、10〜11月くらいには室内に取り込みましょう。
水やりは控えめに
低温で代謝が止まっている間は水を与えても根が吸収せず、土も乾きにくいので基本的に断水します。与えるとしても鉢底から水が流れ出るほどの量は必要なく、ごく少量のみにし、晴れの日の日中など気温が高い時間帯を狙って水やりするようにしてください。
日当たりのよい暖かい場所へ
室内で管理する場合、暖房が効いている部屋であれば15℃くらいは維持できますし、まず寒さで枯れる心配はありません。暖房が入らず日も当たらない玄関などは避け、よく日の当たる窓辺などに置くのがおすすめです。ただし、暖房の風が直接当たらないよう置き場所には配慮してあげてください。
直射日光にあててもいい?
同じ冬でも11月と2月では日差しの強さが違います。早春に締め切った温室で育てていると日焼けすることがあるので、直射日光に当ててもよいですが通風は必要です。
乾燥している時は害虫に注意
冬場に水を切っていると乾燥してカイガラムシなどの害虫がつきやすくなります。用土に薬剤を混ぜておくと予防になりますが、カイガラムシに使う農薬は成分の強いものが多いので、室内での使用に抵抗がある場合は扇風機などで通風を確保するか、晴れの日は戸外に出して風に当ててあげるようにしましょう。カイガラムシは放置しているとあっという間に増えるので、発見したらすぐにつまようじやブラシで除去します。
寒さ対策を万全にして冬越しを成功させよう!

写真提供:Shabomaniac!
多肉植物は種によって耐寒性の度合いが異なります。自生地の緯度や標高、平均気温などを調べ、植物ごとにどの程度まで寒さに耐えられるのか確認することが大切です。極端に寒さに強いセンペルビウムなどを除き、秋の長雨や初霜の前に室内に取り込み、日の当たる暖かい場所に置いて冬本番に備えましょう。