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園芸家
Shabomaniac!幼少期から40年以上、世界中のサボテンと多肉植物を栽培している園芸家。栽培が難しい種の播種や育成、新種の輸入にも早くから取り組む。実体験に基づく栽培方法や、自身が所有・栽培する植物の写真、自生地巡りの紀行をブログとInstagramで発信。長年の栽培経験に基づく豊富な知識で愛好家たちからの信頼も厚い。 Blog:http://shabomaniac.blog13.fc2.com Instagram:@shabomaniac 著書:『珍奇植物 ビザールプランツと生きる』(日本文芸社)、『多肉植物サボテン語辞典』(主婦の友社)…続きを読む
有窓型コノフィツムの特徴
コノフィツムといえばメセン類を代表する多肉植物で、その美しい姿から「生ける宝石」とも呼ばれています。多種多様な形態を持つことから「足袋(たび)型」や「鞍(くら)型」「独楽(こま)型」「有窓型(有窓系)」などいくつかのグループに分けられており、その中でも植物とは思えない透き通ったボディーで多肉ファンを魅了しているのが「有窓型」と呼ばれるグループです。「窓」とは球体の頂部にある透明もしくは半透明の部分を指し、乾燥地の過酷な環境で地中に潜りながら太陽光線を取り込むために役立っていると考えられています。なお○○型や○○系というのはあくまでも見た目の特徴をベースにした園芸的な区分けです。生物学的には属の下位分類として複数の「節」に細分化されており、そのうち「オフタルモフィル節」と「チェシャフェレス節」の2節が有窓型コノフィツムの代表的なものです。
生長期は他グループのコノフィツムと同じく秋から春で、晩春から夏までが休眠期です。休眠中は乾いたシワシワの皮をかぶり、秋になると脱皮して新しい葉が顔を出します。
有窓型コノフィツムの自生地
有窓型コノフィツムの自生地の多くは、周囲に日光を遮るものがなく、常に強い光が照りつける過酷な環境です。そのため大半の種は土中に潜って生育しており、窓だけを地上に出し、そこから光線を取り込んで光合成を行い、乾期になると完全に土をかぶってしまうものもあります。有窓型コノフィツムの花
花は直径2〜3cmと大きい方ではないものの、植物本体とほぼ同じくらいのサイズで見栄えがします。昼咲種と夜咲種があり、昼に咲く花の多くはピンクなどの色味であるのに対し、夜に咲く花は白や薄いベージュなどほとんど色味がありません。夜咲種の多くは主に夜に活動する昆虫などが花粉を媒介します。同じエリアにも昼咲き種と夜咲き種が混生していて、両者の分化は媒介者と二人三脚で進んできたと考えられます。有窓型コノフィツムの価格・入手方法
人気種であれば1万円以上の値がつくこともありますが、1,000円から数千円で購入できるものが多く入手はしやすい方です。有窓型コノフィツムの基本情報
分類 | ハマミズナ科コノフィツム属 |
原産地 | 南アフリカ西部、ナマクアランド |
耐暑性・耐寒性
寒さには比較的強く、凍っても枯れない程度の耐寒性を有する種も存在します。とはいえ、一番生長が旺盛な冬の時期に極端な低温にさらすのはよくありません。できれば5℃以上、最低でも氷点下を下回らないように管理した方が順調に育ちます。夏は40℃を超えるような蒸し暑い環境では生きられないので、温室内では扇風機などで通風を図ることが不可欠です。生長速度
種をまいてから開花サイズに達するまで3年程度と、多肉植物の中では比較的早い方です。少しずつサイズアップしながら単頭で一生を過ごす種もあれば、分頭して群生する種もあります。有窓型コノフィツムの人気種
ここからは有窓型コノフィツムの人気種を紹介していきます。それぞれの栽培難易度は、星の数(☆~☆☆☆☆☆)で表示していますので、育てる際の参考にしてください。星の数が少ないほど栽培難易度が低くなります。オフタルモフィル節(Section.Ophthalmophyll)
栽培難易度 | ☆☆☆ |
球体の色は鮮やかなグリーンから褐色、ピンクまでさまざまあり、いずれも透明感があって宝石のように美しく、刺のあるサボテンを好まない人にも人気があります。
フリードリヒアエ/風鈴玉(Conophytum friedrichiae)
風鈴玉という日本語名で古くから知られる褐色のコノフィツムで、花は真っ白です。光が足りないと縦に伸びて徒長するので真夏でも遮光しながら日に当て、秋からは直射日光に当てると色がはっきり出てきます。ハラモエペンセ(Conophytum lydiae ‘haramoepense’)
ツートンカラーの花が美しいこの種は、ハラモエペンセの名前で信州で栽培されてきたクローンです。リンピーダム(Conophytum limpidum)
このグループの中でも透明度の高い窓を持ち、みずみずしい美しさがあります。プラエセクツム(Conophytum praesectum)
リンピーダムやロングムに似た種で、この個体は前者に近い印象です。プベッセンス(Conophytum pubescens)
球体の表面には目を凝らさないと見えないほどの細かな産毛が生えています。ベルコーサム(Conophytum verrucosum)
錆びた鉄のような赤褐色と凸凹感のあるざらついた質感が特徴です。チェシャフェレス節(Section.Cheshire-Feles)
栽培難易度 | ☆☆☆☆ |
ブルゲリ(Conophytum burgeri)
通常コノフィツム属は2枚の葉が合着したように真ん中に割れ目が入りますが、ブルゲリには割れ目がなく、まん丸のドーム型をしているのが特徴です。肌質はつるつるでゼリーのように透き通り、鑑賞価値が高いことからこの属の中でも抜きん出た知名度と人気を誇ります。花は昼咲きで、ドームの真ん中を突き破って咲く姿はもうひとつの見所です。野生では生長しても親指サイズですが、栽培下では500円玉サイズくらいまで大きくなります。本来であれば古い皮を瘡蓋(かさぶた)のようにまとった姿で生長しますが、鑑賞上の理由から脱皮した皮を取り去ってあります。旧皮は強い日射しから身を守っている面もありますが、比較的に丈夫なので皮を剥がしても日本の環境下であれば生育上の問題はありません。ハメリ(Conophytum hammeri)
半ドーム状でブルゲリとよく似ていますがひと回り小さく、小指の先ほどのサイズしかありません。群生せず単頭のまま生長し、薄いピンクやベージュの花を咲かせる夜咲種です。マウガニー(Conophytum maughanii)
ブルゲリなどとは異なり、2枚の葉が合着したような痕跡があります。肌の透明度が高く、ブドウやグミと間違えそうなほどのみずみずしさが印象的です。通常は緑色ですが、生長期の中盤から後半にかけて鮮やかな赤紫色に染まる個体もあります。中にはピンクやオレンジっぽくみえるものもあり、コノフィツムの中でもコレクターの収集欲を駆り立てる種のひとつです。マウガニーにはラツム(Conophytum maughanii ssp. latum)という亜種があり、マウガニーよりも少し背丈が高いのが特徴です。コノフィツム・ラツム(Conophytum ratum)と区別するためにL.ラツムと表記されたりもします。マウガニーもL.ラツムも花は夜咲きで、色は白やくすんだベージュが多く、鼻につんとくる匂いを放ちます。
Shabomaniac!さん
色の違いは自生地の環境に適応した結果かと思えば、同じエリアの同じコロニー(生物集団)に緑色と赤色が混じっていたりもして、赤く染まることが絶対的な生存条件に結びついているわけではないようです。
ラツム(Conophytum ratum)
マウガニーの亜種にラツム(latum)があり、それと区別するためR.ラツムとも呼ばれます。5cm程度の直径に対して高さが1cmにも満たない平べったいコノフィツムで、マウガニーと違って色の個体差は少なく基本的には緑色ですが、よく日に当てると窓が赤く染まります。分頭しにくいため繁殖は実生が一般的です。昼咲きで薄いピンクや白の花を咲かせます。有窓型コノフィツムの育て方
水やり
生長期は1週間に1回程度、真冬は土の渇きが遅いので少しペースを落とし、完全に乾ききらないくらいのタイミングで水やりします。3月上旬には休眠に入るので2月後半から徐々に水やりを控えましょう。Shabomaniac!さん
栽培環境によっては梅雨明けくらいから動き出すので、そのころから水やりをする場合もあります。ただその後の夏越しの管理で調子を崩すことが多いため、私は残暑が過ぎてから水をやるようにしています。コノフィツムの育て方をネットで調べると「夏場は完全に断水」「夏場も水やりした方がいい」などさまざまな解説が入り乱れていますが、正しい夏越しの方法は栽培環境やコノフィツムの種によって異なります。夏場も水やりが必要なのは、体力に乏しい小型のタイプです。有窓型のオフタルモフィルやチェシャフェレスは比較的に大型で丈夫なので、断水しても枯れることはほとんどありません。むしろ私の栽培環境では夏場に水をやると腐りやすいので水を切っています。しっかり遮光と通風が図れるのであれば夏も2〜3週間に1回くらいは水やりした方が植物の助けになりますが、そうでなければ断水した方が失敗が少ないでしょう。いずれにしても,夏場は極力涼しく過ごさせてやることが大切です。
日当たり・置き場所
強い日差しを好むので、秋から春にかけては遮光なしで管理します。休眠期の夏は50%くらいの遮光をかけて日に当てましょう。夏に日陰や日当たりの悪い室内で育てていると日照不足で秋になってから徒長しやすくなります。あくまで日差しのあるところで遮光することが大切です。用土・肥料
水はけのいい土を使用します。もともと肥料分の多い土壌に生育している植物ではないので、用土に有機質の肥料を多く混入する必要はありません。有窓型コノフィツムの植え付け・植え替え
有窓型に限らずコノフィツムは頻繁な植え替えは不要です。数年に1回、鉢が詰まってきたら行いましょう。有窓型コノフィツムの殖やし方
群生するタイプは株分けで増やせます。そうでないタイプは実生が基本です。割と発芽しやすいのでぜひ挑戦してみてください。有窓型コノフィツムの病気・害虫
水やりを中止している夏の間は土が乾燥するため、カイガラムシの一種で根に寄生するネコナカイガラムシが発生しやすくなります。植物の生長を妨げる厄介な害虫ですが、土の中にいるためなかなか発見できません。もし調子を崩している原因がわからないときには、一度根に異常がないか確認してみましょう。まず株を土から引き上げて根鉢を崩し、土が完全になくなるまで根を水洗いします。ネコナカイガラムシを見つけた場合、水で希釈した薬剤に根を浸して駆除し、新しい鉢に新しい用土で植え替えましょう。オルトラン粒剤などの薬剤を日ごろから散布しておくと予防になります。
有窓型コノフィツの栽培に関するQ&A
脱皮の手伝いはしてもいい?
Shabomaniac!さん
皮を剥いても構いませんが、植物体を傷つけないように注意しましょう。あまり小さいものはピンセットなどが必要になりますが、有窓型のコノフィツムは割と大きめなので指で取るのがおすすめです。本体を水で濡らすと簡単に擦り取れます。
夏越し後に腐ってしまった
Shabomaniac!さん
秋になって水やりを始めたはいいものの、残暑で蒸れてしまったのではないでしょうか。完全に脱皮していないうちは皮の隙間に水が溜まりやすく、そのまま気温が上昇すると腐る原因になるため、夏越し直後は鉢の上からではなく腰水で灌水するのもひとつの方法です。水を吸って球体が膨らむと、古い皮も取れやすくなりますよ。
生育期にもかかわらず球体にシワが寄る
Shabomaniac!さん
生育期の後半には休眠の準備に入るのでシワが寄っていても問題ありません。マウガニーなど一部の種は早ければ12月ごろからシワが寄り始めることもあります。本来は生長が旺盛な時期にシワが寄るようであれば、考えられる原因は根が機能しておらず吸水できていないことです。一度株を鉢から引き上げて根の状態を確かめてみてください。