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園芸家
Shabomaniac!幼少期から40年以上、世界中のサボテンと多肉植物を栽培している園芸家。栽培が難しい種の播種や育成、新種の輸入にも早くから取り組む。実体験に基づく栽培方法や、自身が所有・栽培する植物の写真、自生地巡りの紀行をブログとInstagramで発信。長年の栽培経験に基づく豊富な知識で愛好家たちからの信頼も厚い。 Blog:http://shabomaniac.blog13.fc2.com Instagram:@shabomaniac 著書:『珍奇植物 ビザールプランツと生きる』(日本文芸社)、『多肉植物サボテン語辞典』(主婦の友社)…続きを読む
遮光と通風とは?
遮光とは、ネットや布などで直射日光を遮ることです。植物の体温が高くなり過ぎて障害が起きるのを防ぐとともに、日射しを和らげて強い光が苦手な植物を守る効果があります。一方の通風とは、窓を開けて外の風を入れたり、ときには扇風機などで人工的に風を発生させたりすることをいいます。多肉植物に遮光が必要な理由
光を適度な強さに調整するため
植物が自生している環境はさまざまで、周囲に日射しを遮るものがなく直射日光を浴びて育つ植物もあれば、樹木の下や草原の中、岩陰など穏やかな光が差し込む場所に生えている植物も多く存在します。後者のような植物は直射日光に当てると火傷してしまうので、遮光によって光を適度な強さに調整する必要があります。植物の体温が熱くなり過ぎないようにするため
人間にとって「日焼け対策」といえば主に紫外線対策のことですが、多肉植物やサボテンにとっての「日焼け対策」は、熱線からどう植物を守るかということです。自生地の砂漠地帯は日差しは強いものの、一日中強い風が吹き、植物は気温が高くても風を受けて体温の上昇を防いでいます。一方、温室やビニールハウスといった栽培環境は風通しが悪く、屋外で管理するにしても住宅街と植物の自生地とでは風の吹き方がまったく違い、温度が上がりやすくなります。そのため栽培下では少しでも植物の表面温度を下げるために遮光が重要な役割を担っているのです。多肉植物に通風が必要な理由
温室内の温度の偏りをなくすため
ビニールハウスや温室の場合、風が吹かないので室内の温度にムラが生じます。特に冬場は暖房をつけていても上側だけが暖かくて下の方は寒いままだったりするので、人工的に風を起こして滞留している空気を循環させ、温度の偏りを解消する必要があります。植物の表面温度を下げるため
遮光と同じで通風を行う理由のひとつは、植物の表面温度を下げるためです。直射日光を浴びると表面温度は上がりますが、風があれば過熱を防いでくれるので気温が40℃でも元気に育ち、逆に気温が30℃でも風がないと焼けてしまうことがあります。病虫害を防ぐため
空気の滞留した環境で起きやすいトラブルが病虫害の発生です。冬場に温室を締め切って暖房をたいていると虫が湧きやすくなりますが、普段から風通しをよくしておくと病虫害の予防になります。間違った遮光・通風管理がもとで起こるトラブル
日焼け(火傷)
日射しが強過ぎたり、暑過ぎたりすると植物が火傷してしまいます。葉は焼けてもまた生えてくるので大事には至りませんが、幹や塊根、サボテンの球体などは一度焼けてしまうと回復できないので注意しましょう。室内で管理していた植物をいきなり直射日光に当てるのはNG
普段からたくさん日に当てている植物は割と直射日光にも耐えられますが、しばらく屋内で管理していた株を急に戸外に出すと日焼けしやすくなります。ホームセンターや園芸店の売り物も店内で管理されていることが多いので、いきなり直射日光に当てず、適度に遮光して徐々に慣らしてあげてください。
根へのダメージ
黒い鉢に植えている場合は特に、真横から激しい西日に当てられると鉢内の温度が一気に上昇します。水やり直後であれば鉢内の水分が沸騰したような状態になり、根がゆで上がってしまうこともあります。Shabomaniac!さんの遮光と通風に関する失敗談
また、今年の4月にも気温が25℃を超えた夏日にたまたま温室の電気系統が故障していて開閉式の天窓が開かず、密閉状態に置かれた植物が100株くらい火傷で枯れてしまうことがありました。住宅地ではアスファルトの輻射熱(ふくしゃねつ)も加わってかなり高温になりますし、最近の猛暑日では1日で大切な植物が全滅することもあるので気をつけましょう。
遮光率はどうすればいい?適度な光の強さを見極める方法
日射しが強過ぎると植物が焼けてしまいますし、反対に弱過ぎると徒長してしまうので、どのくらい遮光すればいいのかというのは悩みどころです。植物ごとに最適な光の強さを見極めるには、本当は自生地の環境を調べて同じような日照条件を再現するのが一番です。そこまでするのはハードルが高いという場合、直射日光に弱いタイプを除き、大抵の植物は30%程度で遮光しておけば問題ないでしょう。強い光を苦手とする多肉植物
ハオルチア、メセン類、モンソニア、サルコカウロン、ペラルゴニウム、ギムノカリキウムの一部
ハオルチアは強い光を苦手とする植物の典型です。大体は草むらに埋まっていたり岩陰に生えていたりするので、自生地でもほとんど直射日光を浴びることがありません。特に透明な窓をもっているタイプは夏場50%、冬も20〜30%遮光して管理した方が安全です。メセン類やモンソニア、ペラルゴニウムなど秋から春にかけて生長し真夏に完全に休眠するタイプや、サボテンの中でもギムノカリキウムの一部など草陰や岩陰に生えているものは梅雨明けから8月の真夏の間は50%程度遮光した方が安全です。秋から春は遮光を外した方が元気に育ちます。ギムノカリキウムの育て方はこちらの記事で詳しく解説
直射日光に当てても割と平気な多肉植物
パキポディウム、アデニア、エキノカクタスやフェロカクタスなど強刺類のサボテン
もともと強い日差しが照りつける場所に生えている植物や完全な夏型に該当する植物は、遮光せず直射日光に当てた方が丈夫で美しく育ちます。パキポディウムの育て方はこちらの記事で詳しく解説
アデニアの育て方はこちらの記事で詳しく解説
多肉植物の遮光方法と使用する道具
遮光に使用されるグッズといえば寒冷紗や遮光ネットが代表的です。遮光率が高いほど多くの日射を遮ることができ、遮光率は網目の粗さや色によって遮光率が異なるので、季節や植物によって使い分けましょう。寒冷紗
寒冷紗は目の荒い平織の薄い布で、いろいろな用途で使われています。装飾やカーテンに使用されるものには麻や綿が用いられますが、最近の園芸用のものではより高性能なポリエステル製も多く販売されています。園芸では日除けのほかに防虫や防寒、防風対策としての利用も一般的です。遮光率は黒が50%程度、白は20%程度です。遮光ネット
30〜80%とものによって遮光率が異なります。黒、白、銀などいくつかの色がありますが、色の違いは遮光率とはあまり関係なく、白でも遮光率の高いものはあるので、表示されている数値を参考にしてください。多肉植物の通風方法と使用する道具
扇風機やサーキュレーターを使用する
風が通りにくい温室の中では、扇風機やサーキュレーターなどで空気を回して通風を図りましょう。扇風機の風は植物に直接当てても大丈夫ですが、室内で管理する場合、エアコンの冷風や温風が直接植物に当たると乾燥し過ぎたり火傷したりする恐れがあるので、置き場所には配慮してあげてください。密な環境をつくらない
通風の設備がなくとも、植物の配置を工夫することで風通しを確保することはできます。複数の鉢を並べて置く場合は鉢同士の間隔を空けて密な状態をつくらないようにしましょう。台の上に置いて鉢下に風を通すのも効果的です。多肉植物の遮光と通風に関するQ&A
遮光は夏だけでいい?それとも通年でするべき?
半日陰なら遮光なしでも大丈夫?
夏場の西日に特に注意が必要といわれるのはなぜ?
戸外で管理するときに避けた方がいい場所はある?
日焼けは一瞬!台風一過や梅雨明け直後は特に気をつけよう
長いこと園芸をしていますが、植物を枯らしてしまう一番の原因は日焼けです。冬の寒さには暖房である程度対処できても、暑さと日射しはあなどれません。少し油断していると昨日まで元気だった植物が1日でだめになることもしばしば起こります。台風一過や梅雨明け宣言の直後は要注意です。特に台風が通り過ぎた翌日は光線が強く気温もぐんと上がります。数日間の雨で植物が日陰モードになっているところに強烈な日射しを浴び、耐え切れずに焼けてしまうという失敗は多くの栽培家が経験しているのではないでしょうか。遮光も通風も基本的には温度管理なので、自分の栽培環境に合わせてそれぞれのバランスを考えていくことが大切です。日焼けは本当に一瞬でたくさんの植物を失うことになるので、十分注意して育ててあげてほしいと思います。