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ライター - kiko
出版社にて雑誌編集に3年間に携わった後、コロナ禍をきっかけに観葉植物の魅力にハマる。現在はフローリスト&グリーンコーディネーターとして勤務する傍らWebライターとしても活動中。家の中をジャングルにするのが夢です。…続きを読む

ユーフォルビアは世界に2,000種以上も存在する大きな属で、そのうち根を肥大させて水分を蓄えるものは「塊根ユーフォルビア」としてコーデックス好きに人気があります。「蓬莱島」や「飛竜」「鬼笑い」など日本語名がつけられた種もあり、日本では近年の多肉植物ブームが到来するより前から園芸植物として親しまれていました。この記事では、園芸家のShabomaniac!さんが塊根ユーフォルビアの育て方や人気種の特徴を解説。種ごとの詳しい栽培方法や注意点などもご紹介します。
ユーフォルビアの楽しみ方はこちらでも紹介
塊根ユーフォルビアの特徴

写真提供:Shabomaniac!/デシデュアの雌花
ユーフォルビアは2,000種以上が知られているトウダイグサ科の植物です。世界の熱帯、亜熱帯地域に広く分布しており、そのうち
多肉植物に含まれるのは500〜1,000種ほどあります。多くは乾燥した環境に適応するために幹や根を太らせたり、肉厚の葉をつけたりして水を体内に蓄える構造をもち、
株の形態によって「柱形」「球形」「低木状」「塊根(イモ)」「タコもの」の5種類に分けられます。塊根ユーフォルビアに分けられる種も姿形や色はさまざまです。芋が肥大する種は深鉢に植えていても収まり切らないことがあり、地上に出して鑑賞することもあります。園芸植物としてはステラータやデシデュアなどが古くから栽培されていますが、最近の多肉ブームで他の種も注目を集めるようになりました。ユーフォルビアはいずれのタイプも茎を傷つけると白い樹脂が分泌されますが、この液は有毒で肌に触れると炎症を起こすので注意が必要です。
塊根ユーフォルビアの自生地
主に乾燥地帯の石の多い平原や茂みなどに自生しています。
塊根ユーフォルビアの花

写真提供:Shabomaniac!/クアルチコラの花
種によって異なりますが、黄色や緑、茶色、紫褐色など派手ではなく、サイズも直径3mm〜1cm程度と小さいのであまり目立ちません。一般的に雄花と雌花があり、片方しか咲かせない雌雄異株のものも多くあります。
塊根ユーフォルビアの入手方法・価格
種子から繁殖されたものもあれば輸入されたものもあり、比較的入手はしやすい植物です。大半の種がワシントン条約の附属書Ⅱ類、一部は附属書Ⅰ類に指定されており、専門の業者やネットオークションでの購入が中心になります。価格は安いもので数千円です。
ワシントン条約
絶滅の恐れがある野生動植物が国境を超えて移動することに制限をかけるもの。もっとも厳重な規制の対象となる種のリストが附属書Ⅰに該当し、原則として商業目的の国際取引が禁止される。附属書Ⅱに記載された種は商業目的の国際取引は可能だが、輸出国の政府が発行する許可書が必要。
塊根ユーフォルビアの基本情報
ステラータの花
分類 | トウダイグサ科ユーフォルビア属 |
原産地 | アフリカ、マダガスカル |
生育型
春秋型、夏型、秋春型
栽培適温
全体的に温暖な気候を好みますが、春秋型と秋春型の種が混じっているので一概にはいえません。東アフリカの熱帯地域に自生しているものは暑さに強く、30℃以上ないと元気が出ません。一方で極端な寒さは苦手なので、冬も10℃以上は必要です。南アフリカに自生している秋春型の種は暑さに弱いので、できれば30℃以下で管理します。冬は霜が降りなければ3〜5℃くらいまでは耐えられます。
秋春型・冬型
一般的には「冬型」と称される種であっても、真冬にしか動かない純粋な冬型はほとんど存在しないため、ここでは冬を中心に秋から春にかけて生長するという意味で「秋春型」としています。
生長速度
生長速度は遅めです。種類にもよるものの、塊根が見ごたえのあるサイズまで大きくなるには大体10〜15年はかかります。
塊根ユーフォルビアの人気種
ここからは塊根ユーフォルビアの人気種を紹介していきます。それぞれの栽培難易度は、星の数(☆~☆☆☆☆☆)で表示していますので、育てる際の参考にしてください。星の数が少ないほど栽培難易度が低くなります。
エクロニー(Euphorbia ecklonii)
鬼笑いという日本語名で知られるエクロニーは、南アフリカの西ケープ州南部が原産です。塊根は子吹きした里芋のような姿で茎はほとんどなく、芋から卵形の葉をロゼット状に展開します。完全な秋春型で、夏前に完全に葉を落とします。腐りやすいので夏場は水を切りましょう。雌雄異株で1つの個体では雄花か雌花のいずれかしか咲きません。草原や茂みの中に生えているので、日が当たるときは遮光してあげましょう。
スクアローサ(Euphorbia squarrosa)
南アフリカの東ケープ州が原産で奇怪ヶ島(きかいがしま)という日本語名があるユーフォルビアです。大根のような芋の先端から刺だらけのねじれた茎節(けいせつ)を放射状に広げます。冬に雨が多く降る地域に自生しているので冬に元気かと思えば、日本の栽培下ではかえって温暖な春から秋によく育ちます。茎節に水分をため込むので、生長が鈍る夏場も地上部が枯れ込むことはありません。
茎節(けいせつ)
「茎」は葉を生じる器官ですが、茎上で葉の付着する部分は「節」と呼びます。このことからサボテンやユーフォルビアの肥大化・多肉化した枝はしばしば「茎節」と呼ばれており、例えばウチワサボテンで多くの人が「葉」だと思っているしゃもじ型の部分は、実は葉ではなく茎節です。
メセン類なども同じエリアに生えていますが、スクアローサと違って多くは秋から冬、春にかけて活動します。生えている場所が同じでも日本では生育サイクルが異なることに注意しましょう。
ステラータ(Euphorbia stellata)

写真提供:Shabomaniac!
飛竜(ひりゅう)の和名で知られる塊根ユーフォルビアの代表種です。紫褐色と薄緑のシマ模様が美しく、幹は大根のようにどっしりと肥大し、先端から多肉質で扁平(へんぺい)な茎節をはうように伸ばします。茎節の縁に短い花茎が並んで生え、直径5mmほどの小さな黄色い花を咲かせます。スクアローサと同じく南アフリカの東ケープ州が原産で、日本では春と秋にもっともよく動き、夏場もある程度は活動します。ただし、自生地での夏は雨量が少なく生長が鈍るシーズンなので、日本でも真夏は水を控えめにしましょう。
クアルチコラ/クアルトズィティコラ(Euphorbia quartzicola)

写真提供:Shabomaniac!
マダガスカル原産で皮革のような光沢のある葉が特徴です。黄緑色の美しい花を咲かせ、冬には葉を落とします。ワシントン条約の厳しい規制下にあるので野生株はほぼ入ってこず、種子もあまり流通していないことから入手が困難です。そのため現在は国内で株を所持している人から種を購入し、実生で育てる方法が中心です。生長は遅めですが、10年ほどで見ごろといえるサイズに育ちます。
デカリー(Euphorbia decaryi)
縮れた葉が特徴的なマダガスカル原産の小型種。葉の模様が美しく、色も赤や紫、深緑などさまざまです。塊根植物でありながら観葉植物としても楽しまれ、タイなどでは園芸改良もされています。枝挿しでも増やせますが塊根は形成されません。分類再編によって今はデカリーに統合されたフランコイシーという近似種があります。
デシデュア(Euphorbia decidua)
アンゴラ等が原産のデシデュアは「蓬莱島(ほうらいじま)」がおそらく本来の日本語名だと思われますが、広く「蓬莱塔(ほうらいとう)」と呼ばれています。短い刺が無数に生えた細い茎節を芋の真ん中から放射状に展開します。塊根は上から見ると真ん丸、横から見ると紡錘形(ぼうすいけい)で、上部を半分ほど地上に出して植えると見栄えがよくなります。塊根植物としてはもっとも形の整った種のひとつで、日本でも古くから親しまれてきました。種小名は「脱落」の意で、休眠に入ると地上部が完全に枯れて芋だけになります。種から育てるとゲンコツサイズに育つまでに10年以上はかかるでしょう。生育型は春秋型ですが動きがやや変則的で、通常であれば春先に新葉を出すはずが6月くらいまで動かなかったり、本来は落葉して休眠するはずの冬まで葉が残っていたりすることもあります。ただ性質的には割と丈夫で失敗の少ない植物です。
トゥレアレンシス(Euphorbia tulearensis)

写真提供:Shabomaniac!
トゥレアレンシスはマダガスカル産ユーフォルビアの中で今一番人気がある種です。地下に塊根があり、肉厚で縁が縮れた灰緑色の葉を生やします。繊細な葉姿をした小型の希少種で、SNSで広まり現在ではマニアの間で抜群の人気を集めるようになりました。
トリカデニア(Euphorbia trichadenia)
南アフリカやアンゴラ、ボツワナが原産のユーフォルビアで、サツマイモ型の塊根とざらざらした質感の表皮が特徴です。芋の先から細い蔓(つる)と葉を生やし、素朴ですが形が整っているため古くから人気があります。
トリカデニアは春になっても葉が出てこなかったり、少し気温が高過ぎただけで葉を落としたりと生育期を捉えにくい種です。休眠に入ったことに気づかず水をやってしまうと根が傷み、塊根が腐ることがあるので、日ごろから植物の状態をよく観察して過湿にならないよう注意しましょう。
トルチラマ(Euphorbia tortirama)

モザンビークなど南アフリカの東側が原産。芋はあまり大きくならず、地中に埋めて育てられることが多い種です。茎節の表面にうっすらと入るマーブル模様が美しく、鋭い刺の生えた茎節を螺旋状(らせんじょう)にねじりながら四方八方に広げる姿はインパクトがあります。生育型は夏型ですが、冬でも完全に地上が枯れ落ちることはありません。
ブルアナ(Euphorbia buruana)

写真提供:Shabomaniac!
ケニアやタンザニアなど東アフリカが原産。芋がまんまるで形がよく、オレンジがかった表皮が特徴です。芋の頭から刺の生えた長い茎節を伸ばし、極端に寒くなければ冬でも葉が残ります。
塊根ユーフォルビアの育て方
トゥレアレンシス
水やり
種によって生育サイクルがまったく異なるので、水やりの方法も植物のコンディションをよく観察して調整します。塊根植物は過湿になると根が腐りやすいので、水のやり過ぎには特に注意しましょう。
多肉植物の水やりについてはこちらの記事で詳しく解説!
日当たり・置き場所
日当たりのよい場所で管理します。
芋を地上に出して植えるときには覆いをして芋に直射日光が当たるのを避け、葉や茎節にのみ日を当てます。トルチラマやスクアローサ、ステラータなどは比較的強い光を好みますが、そのほかの小型種は柔らかい光を好むので適度に遮光した方がよいでしょう。
あまり見栄えはよくありませんが、私は芋に紙をまいたりタオルをかけたりして日に当てています。LEDライトで栽培するのであれば芋を出しっぱなしにしたままでも問題ありません。
用土・肥料
水はけがよければ土はあまり選びません。肥料は生育期に適量を与えます。
塊根ユーフォルビアの植え付け・植え替え
スクアローサ
生育期の早い時期に行います。適期は春秋型であれば4〜5月、秋春型であれば9〜11月です。
塊根ユーフォルビアの殖やし方

写真提供:Shabomaniac!/デシデュアの雄花
実生で殖やすのが一般的です。雌雄異株のものは複数株を用意する必要がありますが、割と結実しやすく種も採りやすい方です。
塊根ユーフォルビアの病気・害虫

塊根ユーフォルビアは病害虫に強い植物ですが、乾燥した風通しの悪い環境では1年を通してカイガラムシが発生しやすくなります。成虫の体は殻に覆われて薬が効きにくいので、つまようじなどでこそぎ落としてから殺虫剤を散布しておきましょう。
塊根ユーフォルビアを育ててみよう
同じ塊根ユーフォルビアでも、芋の形はまん丸や太い棒状、サツマイモ型などさまざまで、地上部も茎節を放射状に広げるものや、縮れた葉を茂らせるものなど個性豊かです。種によって生育型が異なるので、原産地を調べて自生地に近い環境を用意してあげるのが元気に育てるコツです。芋には直射日光を当てず、過湿に気をつけて長く楽しみましょう!