※IPM(Integrated Pest Management)とは、農作物に対する有害生物の制御において総合的に病害虫防除・雑草管理を行うこと。
※SDGs(Sustainable Development Goals)とは、国際的に掲げられたより良い社会の実現を目指す17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標。
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紫外線照射は夜間だからこそ病害虫防除に効果あり!
紫外線が病害虫防除に利用された当初、朝方や昼間に照射されていました。しかし、あまり防除効果が得られなかったり、農作業の時間帯と被ってしまったりすることから、紫外線を「昼間に照射」したときと「夜間に照射」した場合の効果を比較する実験が行われました。イチゴのうどんこ病防除における紫外線照射実験
うどんこ病防除に対して行うイチゴへの紫外線照射において、夜間と昼間それぞれの効果を比べた実験では、上図のように夜間3時間の紫外線照射と、昼間6時間の照射とでは、同等の防除効果があると実証されました。参考:有元氏ほか(2014)関西病中害研究会報 第56巻 pp.75 – pp.76
「UV-B夜間照射によるイチゴうどんこ病防除効果―照度・照射時間の検討―」
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紫外線照射をより効果的に!
ほかの施設園芸作物と同様に、温室で栽培されるメロンもうどんこ病やハダニ類など病害虫の脅威にさらされます。そこで夜間の紫外線照射が導入されたものの、ひとつ問題が。というのも、メロンは紫外線によって生長が抑制されることがあるので、強過ぎる紫外線を照射することができません。そのためメロンに影響が出ない程度の紫外線で、上方からの照射を試みましたが、やはり葉裏に紫外線が届きにくく、ハダニ類の防除に十分な効果を発揮することができませんでした。▼ハダニ類のことならこちらをご覧ください。
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最適な紫外線照射
病害虫防除に有効な紫外線ですが、照射量が強過ぎると葉の小型化や葉焼けなど、作物自体にも悪影響を及ぼす可能性があり、最適な照射強度が検証されています。例えばイチゴの株に対して紫外線を利用する場合、最適な強度は株上のUV-B照度で0.1~0.12W/m2が目安とされ現場でも採用されています。メロン栽培での反射シート導入効果
メロン栽培での紫外線夜間照射においても反射シートを利用したところ、葉裏にも適度な紫外線が行き届き、メロンに悪影響を与えずにハダニ類への防除効果を発揮することが実証されました。この効果から紫外線を反射するシートが農業現場において導入されています。参考:増井氏ほか(2014)植物防疫 第68巻 第9号 pp.33 – pp.37
「温室メロンにおける UV-B 照射によるハダニ防除の効果と実用化のための課題」
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病害虫の防除効果が高いだけじゃない!夜間紫外線照射のメリット
夜間の紫外線照射が病害虫の防除効果が高いことのほかに、農業におけるメリットを紹介します。1. コスト削減
化学的防除における薬剤の散布や、病害虫の発生源となる雑草の除草(耕種的防除)作業などは多くの労力を必要としますが、それに対して紫外線照射は一度ランプを設置し夜間に電源を入れてしまえば防除効果が発揮されます。さらにタイマーを利用することで、スイッチのオン・オフの手間さえなくなり、作業することなく病害虫を防除抑制してくれます。2. 収益アップ
紫外線照射導入における一番のネックは、紫外線ランプや反射シートなどの導入経費です。しかしながら、紫外線防除を導入した多くのモデル事例では、初期費用などの経費が増加しているものの、収量・販売量が増加し、農業所得が大幅に向上しています。3. 人体の安全
紫外線は人体にとっても有害な一面があるため、その取扱いには注意する必要があります。平成26年度に始まった内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム」の病害虫防除の紫外線利用体系においても、紫外線照射は夜間に利用する形でまとめられています。しかし、これは農業生産効率における有用性のほかに、人体への影響がある紫外線を人が活動する昼間を避けて安全に利用することが重要だからです。参考:紫外線照射を基幹としたイチゴの病害虫防除マニュアル(農研機構)
夜間の紫外線照射において注意すること
ここまで紫外線の夜間照射が安全かつコストや収益面において、防除する側にメリットがあることについて紹介しました。ここからは防除される側の病害虫に、なぜ夜間の紫外線照射が有効なのか、その理由について進められた研究を紹介します。病害虫の光回復効果に着目!
光回復効果とは、紫外線によって受けたダメージ・障害の悪影響が、可視光(長波長領域の光)を浴びることで修復・回復する現象のことをいいます。ハダニの光回復効果実験
農業害虫のハダニを用いて光回復効果を確認する実験が行われ、ハダニの卵に紫外線を照射し、その後可視光を照射した場合と、照射しなかった場合で卵のふ化率を比較しました。すると、可視光を照射しなかった場合では、紫外線ダメージによりほとんどの卵がふ化しなかったのに対し、可視光を照射した場合では全卵が回復して正常にふ化・発育しました。人間を含む哺乳類の光回復効果は?
うどんこ病菌や害虫・昆虫など含め、ほぼ全ての生物が光回復効果を持っているのにもかかわらず、人間を含む哺乳類の多くは光回復効果を持たないことが明らかとなっています。この理由ははっきりわかっておらず、今も研究が進められています。
光回復効果のタイムラグ
また光回復効果の特徴として、紫外線を照射してから可視光を照射するまでの間の時間が、長ければ長いほど回復効果は小さくなることがわかっています。今回の実験でもハダニの卵に紫外線を照射し、その直後に可視光を照射すると全ての卵がふ化するのに対し、4時間たってから可視光を照射したところ回復しなくなったことが確認されました。つまり、4時間というタイムラグのために光回復効果に影響が及んだということです。
効果的な夜間の紫外線照射時間帯
害虫の光回復効果や、可視光照射までのタイムラグによる効果を利用して、真っ暗な夜の間に紫外線を照射して、朝日が昇って明るくなるまでのタイムラグを作ることで大きな防除効果が得られることがわかりました。例えば朝6時に日が昇るとすると、その4時間前である2時までに紫外線を照射しておけば、より高い防除効果を得ることができます。
紫外線の夜間照射で安全にコスト削減・収益アップ!
光回復効果は、太陽光中に含まれる有害な紫外線への対抗策の反応・現象であると考えられています。害虫を含めたほとんどの生物(哺乳類以外)が持つ光回復効果を利用することで、人工的な紫外線による防除効果を格段によくする方法(夜間照射)を紹介しました。病害虫防除においては、長年農薬散布を用いた化学的防除が隆盛していましたが、薬剤抵抗性の発達や環境、および人の健康への配慮から、近年さまざまな防除法が新たに台頭しており、それらを相互に組み合わせたIPMの推進、GAP、SDGsへの貢献が求められています。そのような状況の下、紫外線防除は大きな可能性を秘めており、夜間に照射するという利用方法はその可能性を生かすための重要なキーであるといえます。この防除法は、就農者の方々にとっても実際的な収量アップ、コスト・労力削減につながるため、今後さらに普及・導入が期待されています。
※GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において食品安全、環境保全、労働安全などの持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことです。
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