収量・収益・労働時間から考える「農薬を使う?使わない?」

農作物を栽培するうえで、病気や害虫、雑草の防除手段の一つとして農薬が使用されます。農薬の使用は農作物の収量や収益だけでなく、労働時間にも影響を与えることを認識し、農薬を効率良く、適正に使用するためのポイントを説明します。


農薬散布

出典:イラストAC
農作物を栽培していくうえで、病気や害虫、雑草の防除は必要不可欠であり、その手段の一つとして農薬が使用されます。
病気や害虫、雑草の発生は収量や収益だけでなく、労働時間にも影響を与えるため、やみくもに農薬を使用すればいいというものではありません。農薬がどのようなものかを知り、効率よく効果的に使用することが大切です。

農薬の種類

農薬と呼ばれるものってなんだろう
出典:写真AC
農薬とは、農作物を加害する病原菌や害虫、動植物などを防除するために使用する薬剤のことですが、さまざまな種類があり、害虫や病気を防除する薬剤だけが農薬というわけではありません。
また、一言で「殺虫剤」といっても、対象となる「害虫」や「作物」によって使用する薬剤が異なるため、農薬の知識は防除の方法を選択するうえで極めて重要です。

殺虫剤

農作物に発生する害虫の防除に使用する薬剤です。
殺虫剤を選ぶときに、害虫に対応したものを選ぶだけでなく、作物に使用可能なものか確認が必要です。


殺菌剤

農作物の病気の防除に使用する薬剤です。
殺菌剤には予防として使用する薬剤と、治療として使用する薬剤があります。

▼植物の病気のことならこちらをご覧ください。

殺虫殺菌剤

殺虫剤と殺菌剤の成分を混合したもので、害虫と病気を同時に防除する薬剤です。

除草剤

雑草の防除に使用する薬剤です。除草剤には植物すべてを枯らしてしまう「非選択性の薬剤」と、作物を枯らすことなく雑草に対して効果的に働く「選択性の薬剤」があります。
また、雑草には広葉雑草、イネ科雑草、カヤツリグサ科雑草などがあり、それぞれ使用する薬剤が異なります。
雑草は農作物の収穫量を下げるだけではなく、品質にも大きな影響を与えるため、病害虫の防除と同様に重要です。

▼除草のことならこちらもご覧ください。

殺そ剤

農作物を加害するノネズミなどの防除に使用する薬剤です。

▼そのほかのネズミ対策のことならこちらをご覧ください。

植物生育調整剤

農作物の生長を促進・抑制する薬剤です。開花する時期や成熟する時期を調整したり、作物の品質を向上させるなど、さまざまな目的で使用されます。

誘引剤

雌成虫の性フェロモンを人工的に作り、雄成虫を誘引するために使用される薬剤です。この誘引剤を使って、雄成虫の種類や発生について調べるため、誘引剤そのものに殺虫作用はありません。

展着剤

農薬を作物にしっかり付着させたり、浸透しやすくすることで農薬の効果を高める薬剤です。

▼展着剤のことならこちらをご覧ください。

天敵

害虫の捕食者となる昆虫を用いて害虫を防除する薬剤です。

微生物剤

微生物を用いて農作物を加害する病気や害虫などを防除する薬剤です。

▼天敵や微生物剤など生物農薬のことならこちらをご覧ください。


どうして農薬を使うのか?

農薬散布
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農作物を栽培するうえで、病害虫対策の防除の手段として、どのような場合に農薬を使うのでしょうか?

農薬の必要性

私たちは農作物を人の好みに合わせたり、収量を上げるために日々改良を続けてきました。その目的のため、必ずしも良いとは限らない条件下で栽培される農作物を病気や害虫、雑草から保護するために農薬が必要とされてきたのです。

農薬を使用しないことで生じる農業経営への影響

日本は四季がある国です。中でも梅雨時期の多雨・多湿、夏の高温期に病気や害虫、雑草が多く発生します。
また、通年栽培が可能なハウスなどの施設では、制御する環境の良し悪しによって、一年中病気や害虫が発生しやすくなります。
では、このような環境の中で農薬を使用しないと、作物や農業経営にどのような影響が出るのでしょうか?

1. 収穫量の減少

減少
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農薬を使用した場合と、使用しなかった場合の比較試験が行われた際、農薬未使用の栽培では、使用したときより収穫量が減少したことが下の表からわかります。

▼表:実証実験に基づく病害虫等による減収・減益
収穫量 作物 減少率
(%)
水稲

24

畑作物 小麦 36
ダイズ 30
果樹 リンゴ 97
カキ 75
葉菜類 キャベツ 67
レタス 77
果菜類 キュウリ 61
トマト 36
根菜類 ダイコン 39
参考文献:社団法人日本植物防疫協会(2011)『農薬概説』

葉菜類ではチョウ目害虫やアブラムシ、果菜類はアブラムシやうどんこ病、べと病などの被害が目立ちました。果樹は病気や害虫の被害をとても受けやすく、中でもリンゴは収穫量の減少率が97%と影響が一番高くなっています。
このように農作物によって差はあるものの、いずれも農薬を使用しなかった場合で収穫量が減少しています。

▼そのほかの病害虫対策のまとめ

2. 品質低下による減益

農薬を使用しないリスクとしては、発生する病気や害虫により農作物の見た目が悪くなり、作物の品質が低下することが挙げられます。
例えば、ミカンの黒点病は収穫量には影響を及ぼしませんが、ミカンの果皮に病気の痕が付くことから作物の価値が下がるため、病気の防除は最重要課題となります。

▼表:ミカン黒点病による減益:愛媛県、2005年
※黒点病以外の病害虫は通常の農薬散布を実施。
黒点病における防除比較 4回防除 2回防除 無防除
 商品率(%) 97 77 50
 出荷金額(円/10a) 262,862 208,978 166,900
 農薬代(円/10a) 30,624 26,384 25,332
 散布労賃(円/10a) 30,000 22,500 26,250
 差し引き収益(円/10a) 202,238 160,094 115,318
参考文献:社団法人日本植物防疫協会(2011)『農薬概説』

上の表は愛媛県で黒点病における防除回数の違いと収益を比較した試験結果です。
黒点病において無防除の場合では農薬代や散布労賃は最も少なくなりましたが、黒点病が防除できずに商品率が下がり、出荷金額が最も低くなっています。
その結果、通常行われている4回防除に比べて、無防除は収益も低くなってしまいました。
以上のことから、農薬散布による防除が収益に大きく影響することがわかります。

農薬を使うことで発生する3つの影響

農薬の使用が、収穫量や品質を向上させることについて説明しましたが、ここで重要なのは、単純に農薬を使えば良いというわけではないことです。
農薬の使用で発生する主な影響について紹介します。

1. コストと労働時間の増加

農薬を使用することで、生産のためにかかる経費が増加し、散布にかかる労働時間も増えます。

2. 農薬に耐性を持った病原菌の発生

同じタイプの農薬を使い続ければ、その農薬が効きにくい病気や害虫、雑草が発生してしまいます。

3. 環境への影響

農薬を使用することで少なからず環境に影響を及ぼします。環境問題の観点においても適正に使用することが大切なのです。


農薬を効率良く、適正に使用するには?

農薬を効率良く、適正に使用するにはどうしたら良いのか
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では、農薬を効率良く、適正に使用するためにはどうしたらいいのでしょうか?

農薬を使い分ける

病気や害虫、雑草は発生してから、または発生が拡大してしまってからでは防除は難しくなり、発生のタイミングに合わせて農薬を使用しなければなりません。そのためには病気が発生し、広がっていく仕組みや、害虫の生態や繁殖サイクルを理解する必要があります。

【病気】予防剤と治療剤の使い分け

例として、病気の原因となるカビ(糸状菌)の発生と、病原菌が広がる仕組みから、使用する薬剤の種類を選択する方法を解説します。

カビ(糸状菌)はまず植物体に付着します。付着しただけではカビ(糸状菌)は植物体内には侵入していません。このタイミングで効果があるのが「予防剤」です。ここで防除を行うことができれば、病原菌の拡大が抑えられるのです。
予防剤を使用しない、または使用が遅過ぎた場合、病原菌の拡大が抑えられず、植物体内へカビ(糸状菌)が侵入し、植物体の中で増えていったとします。そして、さらに健全な植物体へと感染し、病気を広げていきます。このように、植物体内へカビ(糸状菌)が侵入してしまうと、予防剤では効果がないので、この場合「治療剤」を使用します。

以上のように、病気を抑える農薬を選ぶ際には、病気発生のタイミングをしっかり把握する必要があります。

▼予防剤や治療剤を使用するタイミングのことならこちらをご覧ください。

【害虫】成長段階に合わせた農薬の使い分け

作物にとって害となる害虫は、卵から幼虫を経て成虫となり、交尾・産卵といった成長サイクルで繁殖します。
害虫を駆除するために、使用する農薬には「卵に効果があるもの」「幼虫に効果があるもの」「成虫に効果があるもの」など、成長段階によって効果の出る農薬が異なります。

病気や害虫の早期発見

発見
出典:写真AC
病気や害虫は早期発見し対処できれば、被害の拡大を防ぐことができるのです。

日頃から農作物をよく観察する

病気や害虫を早期発見するためには、日頃から農作物をよく観察し、いつもと違う部分がないかを把握する必要があります。
なるべく早い段階で異変に気付き、対処することで農作物への被害を最小限にすることができます。

あらかじめ作物にどんな病害虫が発生するのかを知っておく

早い段階で異変に気付くためには、栽培している農作物にどんな病気や害虫が発生しやすいのか、そしてどの部位にどのような症状が現れるのか知っておくことが重要です。
あらかじめ発生しやすい病気や害虫を知っていれば、事前に農薬を用意するなど早期に対応ができるので、防除に必要な農薬の量も必要最小限に抑えられます。その結果としてコストや労力も必要最小限で済むのです。

▼作物ごとに発生しやすい病気のことなら野菜の栽培方法のまとめ

収量・収益・労働時間から考えた農薬の使用とは?

農作物の栽培における農薬の使用は、最適な労働時間で収量・収益をアップさせてくれます。その際、目的に応じた農薬の種類を選び、散布のベストなタイミングで効率よく適正に使用することが重要になります。
日頃から農作物をよく観察し、病害虫の発生時には素早い対処で、収量・収量アップ、労働時間の最適化を目指しましょう。

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umi

農業資材メーカと農協にて6年間勤務。農家への栽培技術(農薬・肥料・栽培システムなど)の普及を担当。役立つ情報を初心者の方にもわかりやすくお伝えします。