不要な雑草を取り除く際、丁寧に人の手で除草するのでは手間がかかり、作業効率が良いとはいえません。そこで多くの生産者は除草剤を使って雑草を防除する方法を選択します。
本記事では農作物を栽培する際に使用する農薬「除草剤(化学農薬)」について、雑草を枯らす仕組みや処理方法の違い、農薬ではない除草剤などについて説明します。
除草剤とは
除草剤とは雑草防除に用いる薬剤で、農業においては畑作や果樹園、農耕地周辺で使用する除草剤と、水田で使用する水稲除草剤があります。さらに除草剤の処理方法の違いで、根から薬剤の有効成分を吸収させる「土壌処理剤」と、葉から吸収させる「茎葉処理剤」があり、水稲除草剤にはこの2つの性質を合わせもつ「茎葉兼土壌処理剤」という薬剤もあります。
▼水稲除草剤についてはこちらをご覧ください。
除草剤「土壌処理剤」
土壌処理剤は土壌に散布するタイプの除草剤です。土壌の表面部分に散布した薬剤の有効成分の層が作られることで除草効果を発揮します。この土壌処理剤の種類には、発生初期の雑草を枯らす薬剤もありますが、ほとんどがこれから発芽する雑草を抑える薬剤です。
薬剤の有効成分を吸収する「種子」と「根」
「種子」が吸収して効果を発揮する場合雑草の種子が、土中の土壌処理剤の有効成分を吸収するので、雑草の発芽を抑えることができます。一方、既に生えている雑草には効果は期待できません。
「根」から吸収して効果を発揮する場合
既に生えている雑草の根が、土壌処理剤の有効成分を吸収して枯れます。しかし、効果があるのは発芽から発生初期までなので雑草が大きくなると効き目がなくなってしまいます。
土壌処理剤のメリット・デメリット
土壌処理剤のメリット・土壌処理剤の有効成分の層が作られるので長期間効果が期待できる
・そのまま散布できる粒剤などを土壌に処理するので除草作業の時短が可能
・新たに雑草が生えてくるのを予防できる
土壌処理剤のデメリット
・有効成分が土に吸着して層を作るので、土壌の性質や水分状態によって効果が左右される
・作物の種子を播種する際に、地表面につくられた土壌処理剤の有効成分の層に触れてしまうと発芽に影響を与えてしまう
・草丈が大きい雑草には効果があらわれにくい
▼粒剤など農薬の剤型の分類や特徴は、こちらをご覧ください。
除草剤「茎葉処理剤」
茎葉散布剤は雑草の茎葉に散布する薬剤です。既に生えている雑草の茎葉から薬剤の成分が吸収されて効果を発揮しますが、発芽前の雑草の種子には効果がありません。この茎葉処理剤には、作物には影響を与えず雑草だけを枯らす「選択性除草剤」と、雑草も作物も同時に枯らしてしまう「非選択性除草剤」という2つのタイプがあります。
茎葉処理剤における「選択性」と「非選択性」
作物と雑草における薬剤の吸収量の違いを利用して、作物には影響を与えずに選択的に雑草だけを枯らすことができる薬剤です。栽培中の作物に散布する場合、選択性除草剤が使用されます。
非選択性除草剤は作物と雑草のどちらも枯らしてしまうので、圃場の周辺部分や畝間(うねま)に散布するか、播種前や収穫後といった作物を栽培していない場所と時期に散布します。くれぐれも栽培中の作物にかからないように注意しましょう。
茎葉処理剤のメリット・デメリット
茎葉処理剤のメリット・薬剤は葉や茎から吸収されるので、土壌処理剤のように土壌の性質や状態にかかわらず使用できる
・既に発生した雑草に散布するので、種類や密度を確認してから適した薬剤を選択できる
・雑草の発芽から発生初期でなければ効果が期待できない土壌処理剤と比べて、散布可能な期間に幅がある
・ほとんどの茎葉処理剤は土壌に落ちると吸収分解されて除草効果がなくなるので、散布後すぐに作物を植えることができる
茎葉処理剤のデメリット
・茎葉処理剤を希釈して散布するので、周囲へ飛散しないような対策が必要
・散布後の降雨によって薬剤が洗い流されるなど、効果が天候に左右される
・雑草の生育ステージによって効き目に良し悪しがあるので、使用時期が適正でないと効果が低下する
除草剤が雑草を枯らす仕組み
除草剤の効果は、散布した薬剤の有効成分が雑草の作用点(効果の現れる部分)に浸透移行して、はじめて発揮することができます。さまざまな除草剤の有効成分がどのように雑草を枯らしていくのか、主な除草の仕組みについて説明します。光合成を阻害
エネルギーを作り出す光合成を阻害することによって雑草を防除します。▼光合成のことならこちらをご覧ください。
色素形成を阻害
葉緑素や葉緑素を守る色素(カロテノイド)の形成を阻害することによって雑草を防除します。この作用をする薬剤の中には、薬剤が作用すると植物体が白化し枯れてしまうものもあります。※葉緑素とは緑色の色素で、光合成を行うのに必要な成分です。
アミノ酸合成阻害
アミノ酸の合成を阻害することによって雑草を防除します。ホルモン作用をかく乱
植物ホルモンのバランスを崩したり、植物体内での移動を阻害したりすることで、雑草の生長を抑制して枯死させます。細胞分裂阻害
細胞分裂を阻害、または分裂する部分に直接作用して分裂を止めます。このタイプの除草剤の特徴は発芽を抑制します。除草剤の薬剤抵抗性を防ぐローテーション散布
病害虫の防除に使用する殺虫剤や殺菌剤と同じように、除草剤においても「いつも使用していた薬剤が効かなくなってきた」など薬剤抵抗性の問題が生じています。その一例として、イネやムギなどに使用される「スルホニルウレア系」除草剤(アミノ酸合成阻害)があり、この「スルホニルウレア系」の成分に対して抵抗性を持つ雑草がいくつか確認されています。※「スルホニルウレア系」有効成分:ベンスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチル、イマゾスルフロンなど
薬剤抵抗性を防ぐローテーション散布で重要なこと
除草剤を効果的に使い続けるためには、薬剤抵抗性を発生させないことが大切であり、そのために薬剤の有効成分の把握や、登録内容を守ったローテーション散布が欠かせません。▼薬剤抵抗性についてはこちらをご覧ください。
RACコードの異なる薬剤
同じ除草剤の連用によって薬剤抵抗性が発生しやすくなるため、RACコードの異なる薬剤をローテーション散布することが重要です。※RACコード(作用機構分類)とは同じ作用性ごとにつけられた農薬のコード番号で、異なる作用性であればRACコードも違います。
▼ローテーション散布についてはこちらをご覧ください。
登録内容を守って散布を行う
登録内容に従って、決められた散布量や濃度で使用することも、薬剤抵抗性の発生を防ぐためには必要です。また雑草が枯れない、作物に薬害が出るなどの問題が起きないようにするためにも散布前には登録内容や使用方法などの確認をしっかり行いましょう。▼農薬使用前の確認事項、農薬の希釈の計算や方法についてはこちらをご覧ください。
農薬ではない除草剤の使用に注意!
除草剤を使用する場合には、農薬として登録されていない除草剤に注意が必要です。▼農薬の種類についてはこちらをご覧ください。
農薬ではない除草剤とは?
道路や駐車場などで使用される除草剤のことです。家庭菜園や庭で使用する除草剤も要注意!
家庭菜園や樹⽊や芝、花などを育てている庭においても、農薬として登録されていない除草剤は使用することはできません。もし、違反すると罰則を科せられることもあるため注意が必要です。▼場所や種類別の除草剤のことならこちらをご覧ください。
場所や目的、用途に合わせた適切な除草剤を選ぼう!
どのような作用のある除草剤なのか知らずに使用すると、防除したい雑草が枯れなかったり、栽培している作物を枯らしてしまったりなどという問題が生じることがあります。除草剤についての認識は、単に雑草を枯らす薬剤というだけでなく、処理方法や枯れる仕組みなどさまざまな種類や作用があることを理解しなければなりません。また、一般家庭においても農薬として登録されていない除草剤を安易に使用してしまうことで、法律違反となり罰則を科されてしまいます。使用する除草剤がどのようなものなのかを理解し、使用する場所や目的、用途に合わせた適切な除草剤を選んで、安全で効果的な雑草の防除を行いましょう。