本記事では、病害虫などの被害から作物を守る防除対策の一つ「接ぎ木苗」の効果と種類について、農業初心者でもわかるように説明します。
接ぎ木苗とは
茎の根元で異なる2種類の品種を繋ぎ合わせることを「接ぎ木」といいます。接ぎ木は、地上部の「穂木」と地下部の「台木」をさまざまな方法で繋ぐことで作られます。接ぎ木を行うことで、穂木と台木両方の利点を併せ持つことができます。
土壌病害虫対策と生育促進に効果的
味はおいしいけれど、病気にかかりやすかったり、肥料を吸収する力が弱い、そんな場合に接ぎ木をすると解決することがあります。接ぎ木苗は、主に土壌の病害虫や連作障害の対策と生育促進を目的として使われます。
▼連作障害のことならこちらをご覧ください。
1. 土壌病害虫対策
土壌中に生息している、病原菌やセンチュウ類など作物の生育を阻害する病気や害虫に対して耐性のある台木を使うことで、病害虫に強い作物を作ることができます。▼植物の病原菌やセンチュウ類についてはこちらをご覧ください。
また「土壌消毒をしても効果がみられない」「消毒はしているが病気にかかりやすい時期に栽培する」際は、耐病性のある台木の接木苗を選びましょう。
▼土壌消毒についてはこちらの記事をご覧ください。
2. 生育促進
根が弱りやすい暑い夏や寒い冬の時期、長期間栽培を行うなど通常の栽培より植物のストレスが高くなる場合において、強い台木を使うことで生育を促進することができます。ただし、栽培方法によっては肥料吸収力が強い台木を使うことで、樹の勢いがつき過ぎるなどの問題も起こるので、接木苗の使用には注意が必要です。
3つの接ぎ木の方法
ここからは「呼び接ぎ」「挿し接ぎ」「割り接ぎ」の方法について説明します。接ぎ木の前の準備
実際に接木苗を作る前に作業環境を整え、接ぎ木必要な道具を揃えましょう。作業環境
接ぎ木は、穂木の根を切り取るため慎重な作業と環境調整が必要です。温暖で無風、弱光下であることが望ましく、屋根の一部を遮光して、室温を20~25℃に調節したビニールハウスかガラス温室内で作業することが理想的です。
接ぎ木や呼び接ぎの茎切りは、蒸散量の少ない曇雨天の日や夕方にかけて行ないます。
▼蒸散についてはこちらをご覧ください。
道具
新しいカミソリ(カッター)クリップまたはチューブ
苗の切断には、滑らかな切り口を作ってスムーズに癒合する必要があるため、新しい刃のカミソリやカッターを使います。
また、接合する際にクリップやチューブで支えるため準備しておきます。
1. 呼び接ぎ
キュウリやトマトなどで使用される方法です。1-1. 台木と穂木を切断
台木用苗は胚軸を斜め下へ約半分ほど切断します。穂木は斜め上へ約半分ほど切断します。1-2. 台木と穂木を癒合
台木と穂木の切りこみ部分を手早くかみ合わせて接ぎ木クリップで止め、台木と穂木の株元を2cmほど離して植えます。1-3. 鉢上げ
接ぎ木後はただちに鉢上げします。あとで穂木の茎が切断しやすいように、台木と穂木の株元を2cmほど離して植えます。1-4. 穂木の茎を取り去る
接ぎ木を終了してから約1週間後くらいで、穂木の茎を約半分ほどカミソリで切ります。翌日に萎(しお)れていなければ残り半分を切り取ります。2. 挿し接ぎ
台木に小さな穴を開けて、穂木を差し込む方法です。主にナスで利用されます。2-1. 台木と穂木を切断
台木は本葉1〜2枚を残して切断します。穂木は子葉の下でV字型に切断します。2-2. 台木に挿しこむ
台木につまようじなどの細いもので刺して少し斜めに穴を開けます。穂木を台木に挿し、切断面がしっかりと密着しているか確認します。3. 割り接ぎ
キュウリやトマト、スイカで使用されます。3-1. 台木と穂木を切断
台木は芽を取り除き、子葉の付け根から縦に切り込みを入れます。穂木は子葉の下から切り取り胚軸をクサビ型に切断します。3-2. 台木に挿しこむ
台木と穂木の切断面が密着するように、穂木の切断面が見えなくなるまで深く挿します。穂木と台木の切断面がしっかりと密着しているか確認し、割り接ぎ木部分を接ぎ木クリップで固定します。
【断根接木苗】
断根接木苗とは、台木の根を切り落として接ぎ木した苗のことです。断根することで若い新しい根が多数出て、苗を強くすることができます。
接ぎ木後の管理
接ぎ木をしたあとは、苗を直射日光に当てないよう日陰で管理します。また、湿度をできるだけ高く保つことも重要です。トンネルに寒冷紗などをかけて管理しましょう。
数日様子を見て、少しずつ日射に当てる、外気にさらすなど外の環境に慣らしていきます。
▼寒冷紗のことならこちらをご覧ください。
台木・接ぎ木苗を選ぶポイント
園芸店やホームセンターでは、キュウリやメロン、ナス、トマト、ピーマンなどの台木や接ぎ木苗が販売されています。栽培する時期や対策したい病気に合わせて耐病性品種の苗を選びます。
※種苗会社のカタログなどでは、1〜10段階で品種の強さが示されていることがあります。
トマト
栽培時期、作型によって使い分けます。病気ではトマトモザイクウイルス病、青枯病、萎凋病、根腐萎凋病、褐色根腐病(コルキールート)、半身萎凋病、サツマイモネコブセンチュウなどに耐性のある台木、接ぎ木苗が販売されています。
▼トマト・ミニトマトがかかりやすい病気や育て方についてはこちらをご覧ください。
▼モザイク病や青枯病、根腐萎凋病、根腐病、半身萎凋病のことならこちらをご覧ください。
キュウリ
栽培時期、草勢、耐病性(つる割病、うどんこ病)、ブルームの有無で選びます。※ブルームとはキュウリの果実表面につく蝋物質で、主成分はケイ素、少量の糖類とカルシウム
▼キュウリがかかりやすい病気や育て方についてはこちらをご覧ください。
▼つる割病やうどんこ病のことならこちらをご覧ください。
ナス
栽培時期、草勢、耐病性(青枯病、半枯病、半身萎凋病、サツマイモネコブセンチュウ)で選びます。▼ナスがかかりやすい病気や育て方についてはこちらをご覧ください。
接ぎ木苗の植え付けの注意点
通常の苗と接木苗では、どのような点に注意すればいいのでしょうか。穂木の注意点
接ぎ木部分は土壌の表面から出るようにします。接ぎ木苗を深く植え過ぎて穂木が地面に触れるほどになってしまうと、穂木から根が生えて土壌に潜り込み、接ぎ木の意味が無くなってしまいます。また、土や雨水の跳ね返りで、傷口から「疫病」が発生することもあります。
▼疫病についてはこちらをご覧ください。
台木の注意点
台木から出た芽を育ててしまうと、キュウリを育てていたつもりなのに「カボチャが成った!」などということが起こります。台木から芽が出ている場合は早めに摘み取りましょう。効果を理解して接ぎ木苗を選び育てる!
接ぎ木苗は植物の生育を良くしたり、病気への抵抗を強くする効果があります。時期や栽培方法を考慮に入れた接ぎ木苗を選んで使い分けましょう。接木苗を自作する際は、接ぎ木の前の準備と、接木後の管理に気を配り、健全な苗を作りましょう。