植物の生長に欠かせない光合成
動物は自ら移動して食物を探し求め、体内に取り入れて生きるエネルギーを得ることができますが、植物は動くことができません。そのため、植物は太陽の「光」と空気中の「二酸化炭素」、根から吸収する「水」から生きるエネルギーを獲得します。この「光」「水」「二酸化炭素」を使って、植物がエネルギー(糖分)をつくりだす仕組みを「光合成」といいます。
植物が光合成を行う器官
植物の葉には「葉緑体」とよばれる光合成に必要な細胞小器官があり、光合成はこの中で行われます。葉緑体には緑色色素の葉緑素(クロロフィル)を含みます。植物の体が緑色なのは、葉緑素を持つからです。
光合成の2つの仕組み
植物に太陽光が当たると、葉の葉緑体で二酸化炭素と水を合成して「ブドウ糖」と「酸素」をつくりだします。▼光合成の化学式
6CO2 (二酸化炭素)+ 12H2O(水)→
C6 H12O6 (ブドウ糖)+ 6O2 (酸素)+ 6H2O (水)
1. 酸素の生成
植物に光が当たると、それをエネルギー源として葉緑体で光合成が始まり、根から吸い上げられた水を分解して酸素をつくりだします(このとき、ATPとよばれるエネルギーが生産される)。※光とは太陽光のこと。室内栽培では太陽光の代わりにLEDなどの照明が使われる。
※ATPとは、アデノシン5′-三リン酸(adenosine tri-phosphate)の略称。
2. ブドウ糖の生成
葉から二酸化炭素、根から水を吸収し(ATPをエネルギー源として)ブドウ糖(炭水化物)をつくりだします。このブドウ糖は、合成されてショ糖となり、茎の維管束の師管を通って芽や根、果実、ほかの葉へ分配されます。これを転流(てんりゅう)といいます。転流は24時間行われていますが、光合成が行われて光合成産物が葉に多く蓄積される昼間から夕方に活発に行われます。
※維管束とは植物の内部組織のひとつで、水や養分を運ぶ通路機能のほかに、葉・茎・根など植物の各器官をつなぎ支える組織。
※師管とは光合成でつくりだしたエネルギーを運ぶ維管束の構成要素のひとつ。
植物の生長を支える植物の生理機能
光合成は植物体内でエネルギーをつくりだし植物の芽や果実などを生長させる栄養分を生成しますが、そのほかにも植物が生きていくために欠かせない呼吸や蒸散などの大切な生理機能があります。「気孔」3つの役割
植物の葉には「気孔」という組織があります。気孔は口のような形をした、一対の孔辺細胞から成り立ちます。気孔は周囲の環境に合わせて自在に開閉する性質があり、通常太陽の光を浴びる日中に開き、夜になると閉じますが、湿度も敏感に感じとります。例えば強風や雨上がりなど、急に外気の湿度が低下すると体内の水分を保つために気孔が閉じるようになっています。
1. 光合成
気孔から外気の「二酸化炭素」を取り込み、「酸素」を排出する光合成を行います。2. 蒸散
植物は気孔から水分を排出する「蒸散」という現象で、植物体内の水が減少した圧によって根から水分や窒素やマグネシウム、カルシウムなどの無機肥料分を吸収し、道管とよばれる組織を通って水と一緒に芽や葉、全身に行き渡らせ生長を促します。また、蒸散による気化熱で葉面温度を下げることもできます。周囲の気温が高いと気孔は大きく開き、盛んに蒸散します。
※道管(または導管)とは、水分や養分を運ぶ維管束の構成要素のひとつ。
3. 呼吸
植物も動物と同じように呼吸をしています。呼吸は気孔から「酸素」を取り込み、「二酸化炭素」を出します。呼吸によって、光合成でつくられたブドウ糖を分解して、植物が生きるために必要なエネルギーを植物体内に取り入れています。
ちなみに、気温が高くなると呼吸の量は多くなります。呼吸量が多くなることで蓄積されたブドウ糖が減少し、エネルギーを消耗します。
夜間や曇天で温度が高い日が続くと植物の生長の勢いが弱くなるのは、呼吸量に対して光合成量が少なく、体内のブドウ糖が足りなくなることが原因です。
環境制御で植物の力を引き出す5つのポイント
植物の体を構成する成分の割合は、水が75%、ブドウ糖などの炭水化物が20%で、窒素分などは残りの5%に含まれます。植物の体は、ほとんど根から吸い上げた水や、植物自らが光合成によって生成したブドウ糖などで占められています。
植物の養分となる窒素を含む肥料を与えることも大切ですが、植物自身が光合成を行い生長に欠かせないエネルギー源を生成すること、また十分な水分を吸収することで、体や果実の生長を促進し、植物の生育はぐんと良くなります。
1. 光の確保
植物が光合成を行うために必要な量の光を葉に届けることが重要です。光を効果的に葉に届けるコツを紹介します。適切な株間、摘葉
株間が狭い、古い葉の取り残しが多く葉が混み入っている場合は、葉に光が行き届いていないかもしれません。古くて硬くなった葉や黄化した葉には、光合成能力はほとんどありません。それどころか、葉で行われる呼吸は続いているので、無駄にエネルギーを消費し樹勢を弱らせる原因となります。
古い葉は適宜取り去り、若い葉にしっかりと光が当たるようにしましょう。
ハウス栽培での冬場や曇天時の採光
ハウス栽培では、屋根のガラスやビニールによってある程度光の量(日射量)は減少しています。栽培作物によりますが、基本的に冬場や曇雨天時での遮光カーテンは必要ありません。▼冬のハウス栽培の環境制御についてはこちらをご覧ください。
曇天時はアミノ酸で光合成UP
アミノ酸を葉に与えることで、光合成を促進させることができます。植物に十分な光が当たらない曇天が長く続く時期など、アミノ酸の葉面散布はおすすめです。葉面散布以外にも、アミノ酸を灌水(かんすい)に混ぜて根に施用する方法も効果的です。
※灌水とは水を注ぐこと、植物に水を与えること
▼葉面散布のことならこちらをご覧ください。
2. ハウス栽培における二酸化炭素の補充
二酸化炭素は空気中に存在しているため不足することは無いように思いがちですが、晴れた冬場では閉鎖されたハウス内の二酸化炭素濃度は外気の半分ほどになることも。ハウス栽培において二酸化炭素の不足状態はよくあることです。二酸化炭素の補充に最適な時間
光合成が始まりハウス内の二酸化炭素濃度が減少し始める「日の出から2時間後」あたりから補充を始めます。換気
晴れた日は天窓や側窓を少しでも開けて、外気を取り込みます。二酸化炭素発生機
二酸化炭素発生機を導入することで、二酸化炭素を効率良く補充することも可能です。作物の株周りでは光合成が盛んに行われているため、ハウス上部の二酸化炭素濃度が十分であっても、作物にとって二酸化炭素濃度が低い場合もあります。株元に局所施用できるCO2発生機も有りますので、適宜使用しましょう。
光合成をしている時間帯は、外気の標準的な二酸化炭素濃度である400ppmを下回らない程度を目安に不足しないよう施用し続けることが最も効果的です。
※ppmとは濃度や成分比を表す単位のひとつで、ここでは大気中の二酸化炭素の濃度。
▼ハウス栽培での二酸化炭素(炭酸ガス)施用についてはこちらをご覧ください。
3. 水の補充
植物に十分な光が当たり、根から水を吸い上げようとしても、土壌中に水分が無いと吸収できず植物は生長できません。必要な量の水分を常に補充することが大切です。土壌の保水性
乾燥しやすい土壌は保水性を上げるために土壌改良を行います。腐植土を入れることや、ポリマルチを張ることで表面からの乾燥を防げます。▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
▼マルチのことならこちらをご覧ください。
必要な灌水量を把握する
植物は葉から蒸散するため、必要としている灌水量は太陽の光の量(日射量)と、葉の大きさ(葉面積)に比例しています。葉が少ない苗の時期は灌水量は少なく、葉が多い時期は灌水量を多くする必要があります。また、日射量比例式灌水装置を用いると、日射量の増減に合わせて自動的に適切な灌水を行ってくれます。
※日射比例灌水装置のご購入、使用方法はお近くの農協、農業資材店にお問い合わせください。
▼灌水のことならこちらをご覧ください。
雨あがりに萎れる原因
雨あがりに急に晴れると萎(しお)れることがあります。露地栽培では、水分が足りていないのではなく急な温度上昇や湿度の低下で葉の気孔が閉じてしまって、一時的に水分が吸収できないためです。
ハウスでは、雨天で水を切っていたため、晴れて急に水分が必要になったのに土壌や培地はカラカラになっている可能性があります。
急に晴れるのを予想して、雨が上がる前に(晴れる日の前日後半、もしくは早朝に)灌水することをおすすめします。
カルシウム欠乏、高温障害の予防
土壌の水分が不足すると、カルシウム欠乏や暑い時期の葉焼けなどの高温障害の発生を助長します。▼カルシウム欠乏のことならこちらをご覧ください
▼高温障害のことならこちらをご覧ください
4. ハウス栽培における温度管理
温度を調節することで生育を良くしたり、勢いがつき過ぎてしまった場合に生育を抑えることもできます。温度調節で生育をコントロール
夜間や曇雨天時に温度が高いと、呼吸量が光合成量を上回り植物はエネルギーを消耗し細くなってしまいます。施設栽培では夜間は温度が下がるように、天窓や側窓を開けて管理します。
逆に植物の生育が良過ぎて茎が太くなり過ぎてしまう場合、温度を高くしてエネルギー消耗を促す方法もあります。
※植物の茎が太くなり過ぎると、栄養のバランスが崩れて着果異常などの生理障害が発生することがある。
温度管理で甘みを増す「転流」促進
昼と夜の気温差が激しいときは、おいしい果実がなりますが、その仕組みは「転流」にあります。転流は温度が高い部分で活発に行われます。果実や根といった器官は、葉や茎よりも温度が下がりにくく、急に外気の温度が下がると果実や根の方が温かいという現象が起こります。このとき光合成で生成したブドウ糖が、果実や根などの温かい部分に優先的に運ばれるといわれています。
ハウス栽培では、光合成産物(ブドウ糖)が多くできる午後に気温を高めに設定し、夕方に天窓を開放するなどして急激に温度を下げて、温度差を意図的に作ることで果実や根を甘くする「転流」を促進することができます。
▼ハウス栽培の温度管理のことならこちらをご覧下さい。
5. 湿度管理
湿度が高くなると気孔が閉じてしまい蒸散が上手に行われないことから、根から水分が吸収されなくなります。ハウス栽培は閉め切りにせずに天窓を薄く開ける、循環扇を回す、定期的に暖房機を稼働させるなどの対策で、湿度を調整して蒸散を促し生育を良くします。
▼ハウス栽培の湿度管理のことならこちらをご覧下さい。
また、湿度を下げることで「灰色かび病」や「疫病」「うどんこ病」などの病気を抑える効果もあります。
▼灰色かび病や疫病、うどんこ病のことならこちらをご覧ください。
二酸化炭素濃度、温度、湿度を同時に把握!
栽培環境を上手に調節できないときは、測定器を使って目に見えない環境を数値化することもおすすめです。測定器「おんどとり」は研究機関でも使われている測定器なのでおすすめです。
植物にとって最適環境を整えて光合成を促す
光合成や蒸散、呼吸などの植物の生理機能の仕組みを知っていると、作物の生育や果実の肥大などが思わしくなかったときの対処方法を選択する参考になります。測定器を用いて栽培環境を把握し、「光」「二酸化炭素」「水」を十分に与えて、植物の光合成能力を最大限に引き出すとともに、温度管理、湿度管理にも気を付けて植物の力を最大限に引き出しましょう。