土壌消毒剤使用前の準備や確認事項
土壌で発生するトラブルの中には、土壌中に潜む害虫が根・地際部を加害したり、糸状菌(カビ)や細菌などの病原体が作物内に侵入したりすることで引き起こす土壌病害があります。作物の栽培期間中にこれらの土壌病害が発生してしまうと、防除することが難しく、対応することができないまま被害が拡大してしまうこともあります。これらの土壌病害を防ぐ方法として栽培前に行う土壌消毒が有効です。
▼土壌消毒についてはこちらをご覧ください。
土壌消毒剤使用前の8つの準備確認
「土壌消毒剤(農薬)」を使用した方法で注意しなければならないのは、使用するほとんどの薬剤が医薬用外劇物ということです。安全に使用するために、そしてより土壌消毒剤の効果を上げるためにも事前の準備をしっかり行いましょう。▼土壌消毒剤についてはこちらをご覧ください。
1. 前作の残渣を取り除く
病原体におかされた前作の残渣(ざんさ)が、土中に多く残っている状態で土壌消毒剤を使用しても十分な効果は得られません。前作の残渣はできるだけ取り除いておきましょう。※残渣とは、圃場などに残った生育(栽培)を終え枯れた植物体。
2. 土壌の耕起・整地
土の塊が残っていると、土壌消毒剤が十分に行き渡らず、効果が発揮できない可能性があります。処理前にしっかり耕し、整地しておきましょう。※次作に栽培する作物の根の長さによっては、より深めに耕すようにしましょう。
3. 土壌水分の確認
土壌中の水分が多かったり、反対に少なかったりすると薬剤の効果が発揮できないだけでなく、作物に薬害が発生する原因にもなってしまいます。土を握って崩れない程度の適正な水分になるように圃場の散水を行うか、降雨を利用するなどして上手に水分量を加減しましょう。
4. 地温の確認
地温が低いと土壌消毒剤の作用が十分に得られなかったり、消毒期間やガス抜きに日数がかかったりすることがあります。使用する土壌消毒剤ごとに最適な地温を確認しながら行いましょう。【地温ごとの消毒・ガス抜き期間の目安の一例】
薬剤 | 剤型 | 平均地温(℃) | 消毒期間(日) | ガス抜きについて |
クロールピクリン | 液体 | 25~30 | 約10 | 基本的に必要ないが臭いが残っていればガス抜き |
15~25 | 10~15 | |||
10~15 | 15~20 | |||
7~10 | 20~30 | |||
バスアミド | 微粒剤 | 25以上 | 7~10 | ・1回目:最初に混和したときより深くならない程度に耕起 ・2回目:2~3日置いてから再度同じ深さで耕起 |
20 | 10~14 | |||
15 | 14~20 | |||
10~15 | 20~30以上 |
5. 被覆資材の準備
土壌表面を被覆するための資材を用意します。土壌消毒剤使用後に被覆資材を使用すると土壌表面から薬剤が拡散するのを防ぐため効果が持続し、周辺環境へのリスクも低減します。6. 薬剤の登録内容の確認
農作物への薬害や農薬取締法違反を防ぐために、適用作物名や適用病害虫など土壌消毒剤の登録内容を確認しておきましょう。▼農薬の登録内容についてはこちらをご覧ください。
7. 防護用具の確認
土壌消毒剤を安全に使用するためには長袖、長ズボン、保護メガネ、土壌くん蒸用マスク、手袋、長靴などを着用し、肌を露出させないように注意しましょう。▼農薬事故を防ぐ安全な使用方法についてはこちらをご覧ください。
8. 土壌消毒剤の保管場所
土壌でガス化する土壌消毒剤は保管場所にも注意が必要です。例えば、缶に入った液剤の土壌消毒剤「クロールピクリン」を直射日光のもとに放置すると開栓する際吹き出すことがあります。冷暗所に保管し、開栓時には念のためのぞき込むことのないように注意しましょう。また、誤飲や誤使用、盗難を防ぐためにも鍵のかかった場所でしっかり保管してください。
土壌消毒剤を露地栽培・ハウス栽培で使用する方法と注意事項
土壌消毒剤を使用した露地・ハウスそれぞれの消毒の手順について説明します。土壌消毒剤
今回土壌消毒剤の例として使用する「クロールピクリン」と「バスアミド」について紹介します。薬剤名:クロールピクリン
【剤型】液体【有効成分】クロルピクリン(含有量99.5%)
【毒性】医薬用外劇物
【地温】7℃以上
【使用方法】
土壌消毒機(手動式、けん引式、自走式)を用いて薬剤を土壌に灌注し、シートを被覆
【特徴】
・ガス化した薬剤が抜けやすいので、基本的に消毒後に土壌のガス抜きの必要がない
・適用作物や適用病害虫が幅広い
【薬剤灌注の目安】
・深さ:15~20cm
・間隔:30cm
・薬剤量:2~3mlずつ
※通常ならガス抜き不要ですが、臭いが残っていればガス抜きをする必要があります。
薬剤名:バスアミド
【剤型】微粒剤【有効成分】タゾメット(含有量96.5%)
【毒性】医薬用外劇物
【地温】10℃以上
【使用方法】
土壌に均一に散布して混和(手袋を着用して手まき、または散布機)し、その後土壌の水分量に応じて散水、最後にシートを被覆
【特徴】
・刺激臭が少なく薬剤を土壌に混和した後ゆっくりガス化する
・微粒剤なので散布が均一にできたかが目で確認できる
・ガス抜きに比較的時間がかかる
【薬剤混和の目安】
・深さ15~25cmほど均一に混和
・栽培する作物の根によってはさらに深くする
・耕起前に土壌が乾燥している場合は散水が必要
露地・ハウスの土壌消毒剤を使った手順と注意点
土壌消毒剤を使った消毒において、露地と密封されたハウスとでは処理の方法や注意すべき点が異なります。先ほど紹介した「クロールピクリン」と「バスアミド」を例にそれぞれの注意点について説明します。露地の土壌消毒の注意点
基本的には土壌消毒剤の灌注後、すみやかにシートで被覆し、一定の消毒期間を置いた後、被覆を除去します。一般的に露地栽培は消毒する土壌の面積が広いので薬剤の灌注と同時に被覆も行える消毒機など、作業の効率化を考えた準備をしてからはじめましょう。
【露地での注意事項】
▼風向きに注意
消毒の順番は風下から風上に向かって行うようにしましょう。
ハウスの土壌消毒の注意点
ハウスは露地と異なり閉鎖された空間なので、土壌消毒剤を使用する際はハウス内を換気しながら行います。反対に消毒期間中は周辺に薬剤の影響がでないように必ずハウスを密閉しましょう。【ハウスでの注意事項】
▼灌注・散布前の「ハウスを換気」
ガスが滞留しやすいので、朝夕の気温の低い時間帯に入口や天窓、サイドなどの開口部分をすべて開け、ハウスの開口部を開け換気をしながら行う
▼灌注・散布後の「ハウスを密閉」
ガスが外に漏れないように開口部をすべて閉め、ハウス内は立入禁止
▼灌注・散布後の「ハウスを換気」
ハウスを開放して十分換気を行う(臭いが残っている間はハウス内に立ち入らない)
被覆除去後のガス抜き・発芽チェック
土壌消毒剤を使用した後、土中に薬剤が残留していると生育障害を引き起こし、スムーズに次作の栽培を始めることができないため、ガス化した薬剤が土壌から抜けているかしっかりと確認する必要があります。ガス抜き
地温に対して十分な処理期間が経過した後、被覆を除去したり土を耕起したりすることでガス抜きを行います。このとき最初に混和したときより深くならない程度に耕起するように注意しましょう。土壌消毒剤の種類や地温によって薬剤の処理日数、ガス抜きの有無や期間が異なるので必ず必要事項を確認してください。
また、土壌水分や土質によってもガス抜きの期間が異なります。ガス抜きが不十分だと薬害を発生する可能性があるため、ガスが抜けたか確認した上で定植を行いましょう。
発芽チェック
「ダゾメット」を有効成分としたバスアミド微粒剤などを使用した際や、処理中の土壌水分量が過不足状態のため、ガス化が不十分であることが疑われる場合などは、消毒を行った土壌を用いて発芽テストを行い、土壌中のガスが抜けたかを確認します。※発芽テストが簡単にできるキット「発芽くん」の入手については、バスアミドの購入先にお問い合わせください。
【発芽チェック手順】
1. 土を採取し密閉瓶に半分くらい入れてふたをする
2. 透明なカップにぬれた脱脂綿を入れて種を10~20粒置く
3. 種を入れたカップを密閉瓶に入れてすぐふたをする
4. 2~3日置いて種の発芽状況をチェック
【発芽テストの注意点】
・土は処理層のもっとも深い場所から採取
・種子はクレソン、レタスなど薬剤に対して感受性の高いものを使用
・土壌消毒剤で処理していない土も密閉瓶に入れ種を置いて発芽状況を比較
・発芽テストはガス抜き終了後2~3日してから行う
土壌消毒剤の処理
ほとんどの土壌消毒剤は医薬用外劇物です。使用後は細心の注意払って処理を行います。残った土壌消毒剤を別の容器に移し替えるなど安易な処理はしてはいけません。土壌消毒剤はしっかり使い切り、容器別に処分しましょう。▼揮発性農薬(クロルピクリンなど)が入った缶などの処理についてはこちらをご覧ください。
中毒事故の対応
中毒事故に遭った本人の意識がなかったり、パニックに陥ったりした場合は、発見者が早急に対処できるよう対処方法をあらかじめ知っておくことが大切です。応急手当は、中毒になった本人に意識があり、呼吸や脈拍にも異常がない場合に行います。
目に入ったり皮膚についてしまったりしたときは、すぐに水で洗い流します。吸い込んでしまった場合は、空気の良い場所へ移動しましょう。
応急手当の方法、病院を受診すべきかの判断については、日本中毒センターへ連絡をして相談してください。
明らかに異常がある場合は直ちに救急車を呼びましょう。
応急処置などの緊急情報は「日本中毒情報センター 」へ
・大阪中毒110番:072-727-2499(24時間)
・つくば中毒110番:029-852-9999(9~21時対応)
化学物質(家庭用品、医薬品、農薬などを含む)及び動植物の毒によって起こる急性の中毒について、応急処置などの緊急情報を提供。
これらの情報提供は、一般市民向けに無料で行っていますが、通話料は相談者負担です。