その中でも「土壌消毒剤」はコストや効果の面から考えて大変有効な防除方法です。本記事では土壌病害の発生原因や「土壌消毒剤」の種類と特徴、注意点について説明します。
土壌病害の発生原因
はじめに土壌病害の原因となる病原体について説明します。病原菌
土壌中にはさまざまな微生物が存在していますが、同じ作物を続けて栽培すると、作物まわりに存在する微生物の種類が偏り、土壌中の微生物のバランスが崩れてしまいます。その結果、病原菌が増えて土壌病害が発生する「連作障害」を起こします。▼連作障害についてはこちらをご覧ください。
糸状菌(カビ)・細菌
バランスを崩した土壌では、主に「糸状菌(カビ)」や「細菌」などの病原菌が土壌病害を引き起こします。病原菌が自ら作物に侵入したり、作物の傷口から入り込んだりすることで病気に感染してしまいます。病原菌 | 病害名 | 発病する作物例 |
糸状菌 | 立枯病 | キク、ストック、エンドウ |
根腐病 | キュウリ、トマト | |
細菌 | 青枯病 | トマト、ナス、ジャガイモ |
斑点細菌病 | キュウリ、メロン、カボチャ |
▼細菌が原因で発症する青枯病や斑点細菌病のことならこちらをご覧ください。
害虫
土壌病害を引き起こす害虫は作物の地下部や地際部を加害します。その結果、植物は水分や養分を吸収できなくなって萎(しお)れたり、枯れてしまったりします。そして、害虫によって傷つけられた部分から「病原菌」が侵入して病気が発生します。害虫 | 症状例 | 発生する作物例 |
センチュウ類 | 根腐れ、萎れ | イチゴ、ダイコン、ゴボウ |
生育抑制 | ナス、トマト、ピーマン | |
コガネムシ類 | 根を食害、萎れ | サツマイモ、サトイモ、ゴボウ |
ネキリムシ | 地際部食害、株倒伏 | キャベツ、ハクサイ |
▼センチュウ類やコガネムシ類、ネキリムシのことならこちらをご覧ください。
基本的な土壌消毒剤の使用方法
土壌病害が発生してしまった圃場は、次作を栽培する前にその病原体から作物を防除するために土壌消毒を行います。栽培中に使用する殺虫剤や殺菌剤とは異なり、栽培が終わり、次作が始まるまでの作物を植えていない期間に使用するのが土壌消毒剤の特徴です。▼殺虫剤や殺菌剤のことならこちらをご覧ください。
土壌消毒剤での土壌消毒
土壌消毒剤は、薬剤の有効成分がガス化して土壌中に拡散することで効果を発揮します。このとき地温が低いとガス化しにくくなり十分に効果が得られない傾向があります。▼連作障害を防ぐ土壌消毒についてはこちらをご覧ください。
土壌消毒剤の基本的な手順
- トラクターによる耕起
- 土壌消毒剤を土壌に処理してシートで被覆
- 土中で薬剤の有効成分がガス化して土壌を消毒
- 消毒期間を経たのち被覆を除去
- 土を耕起してガス抜き
土壌消毒剤を使用するときの注意事項
土壌消毒剤には「医薬用劇物」が多く存在します。「医薬用劇物」は購入の際、印鑑や氏名・住所の記入が必要です。悪用または誤飲のないように以下のことなどに注意しましょう。・医薬用劇物の土壌消毒剤は鍵のかかる場所に保管
・盗難、紛失の際には直ちに警察へ届ける
・薬剤使用前には消毒機具や防護用具などの準備をしっかり行う
▼医薬用劇物など農薬を安全に使用して、事故を防ぐことならこちらをご覧ください。
主な土壌消毒剤の種類と特徴
土壌消毒剤は種類によって剤型や使用方法、適用病害虫、適用する作物などが異なります。▼農薬の剤型についてはこちらをご覧下さい。
▼適用病害虫や適用作物のことならこちらをご覧ください。
クロルピクリンくん煙剤
クロルピクリンくん煙剤は、有効成分「クロルピクリン」の含有量(%)や薬剤の形状、使用方法、適用病害虫などが異なる種類があります。薬剤名 | 含有量(%) | 糸状菌 | 細菌 | 害虫 | センチュウ類 | 一年生雑草 |
クロールピクリン | 99.5 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
クロルピクリン錠剤 | 70 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
【薬剤名】クロールピクリン
【剤型】液体【毒性】医薬用外劇物
【地温】7℃以上
【使用方法】土壌消毒機(手動式、けん引式、自走式)を用いて薬剤を土壌に灌注し、シートを被覆
【特徴】
・ガス化した薬剤が抜けやすいので、基本的に消毒後の土壌のガス抜きの必要がない
・適用作物や適用病害虫が幅広い
注意事項
激しい刺激臭があるので、ガスを吸入しないよう消毒機具や防護用具などをしっかり準備してから作業を行いましょう。
【薬剤名】クロルピクリン錠剤
【剤型】錠剤(ガスを通さない水溶性のフィルムに1錠ごと真空包装)【毒性】医薬用外劇物
【地温】7℃以上
【使用方法】錠剤は水溶性フィルムを破らずそのまま土に埋め込みシートを被覆
【特徴】
・クロールピクリンに比べて刺激臭が少なく、機械が必要ないので使いやすい
・畝を立てて栽培する際などは、全面処理ではなく薬剤を畝の部分にだけ処理ができるので使用薬量を減らせる
注意事項
水に触れるとすぐに溶けるので、濡れた手で触れたり、水分が付いたりしないように。
D-D剤
「D-D」を有効成分とした薬剤です。薬剤名 | 含有量(%) | 糸状菌 | 細菌 | 害虫 | センチュウ類 | 一年生雑草 |
・D-D ・テロン | 97 | ★ | 〇 | 〇 |
※薬剤の登録内容の詳細は使用前に確認してください。
【薬剤名】D-D、テロン
【剤型】液体【毒性】医薬用外劇物
【地温】5℃以上
【使用方法】土壌消毒機を用いて薬剤を土壌に灌注し、シートを被覆
【特徴】
・主にセンチュウ類に効果を発揮し、センチュウ密度が高い圃場でも優れた効果を示す
・防除が難しいネグサレセンチュウやシストセンチュウにもよく効く
注意事項
クロルピクリンに比べてガスが抜けにくので、ガス抜きをしっかりする必要があります。また、低温期には処理期間を長くとりましょう
クロルピクリン・D-Dくん煙剤
「クロルピクリン」と「D-D」2つの有効成分が含まれています。薬剤名 | 各有効成分の含有量(%) | 糸状菌 | 細菌 | 害虫 | センチュウ類 | 一年生雑草 |
ソイリーン | ・クロルピクリン(41.5) ・D-D(54.5) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
【薬剤名】ソイリーン
【剤型】液体【毒性】医薬用外劇物
【地温】7℃以上
【使用方法】土壌消毒機を用いて薬剤を土壌に灌注し、シートを被覆
【特徴】
・一度の処理で病害やセンチュウ類に効果を発揮するので、省力化できる
・クロルピクリンの刺激臭が軽減されている
注意事項
ほかの土壌消毒剤、特に「カーバムナトリウム塩剤(キルパー)」や「カーバム剤(NCS)」と混ざると発熱します。危険なので混用しないようにしましょう。「カーバムナトリウム塩剤」や「カーバム剤」を扱った器具などはよく洗浄してから使用しましょう。
カーバムナトリウム塩剤
「カーバムナトリウム塩」を有効成分とした薬剤です。薬剤名 | 含有量(%) | 糸状菌 | 細菌 | 害虫 | センチュウ類 | 一年生雑草 |
キルパ― | 33 | 〇 | ★ | ★ | 〇 | 〇 |
※薬剤の登録内容の詳細は使用前に確認してください。
【薬剤名】キルパー
【剤型】液体【毒性】普通物
【地温】10℃以上
【3つの使用方法】
1. 散布した後すぐに混和し、シートを被覆
2. あらかじめ被覆し、灌水チューブや点滴チューブを使用して土壌に散布
3. 土壌消毒機を用いて薬剤を土壌に灌注し、覆土・鎮圧またはシートで被覆
【特徴】
・使用方法が複数あるので最適な処理方法を選択できる
・刺激臭が少なく、土壌中で分解されてからガス化する
注意事項
水分が多過ぎる土壌や平均地温が10℃以下になる際は、薬剤が残留する可能性があるため、被覆期間を延ばすか、ガス抜きを十分に行いましょう。
タゾメット粉粒剤
「タゾメット」を有効成分とした薬剤です。薬剤名 | 含有量(%) | 糸状菌 | 細菌 | 害虫 | センチュウ類 | 一年生雑草 |
バスアミド | 96.5 | 〇 | 〇 | ★ | 〇 | 〇 |
※薬剤の登録内容の詳細は使用前に確認してください。
【薬剤名】バスアミド微粒剤
【剤型】微粒剤【毒性】医薬用外劇物
【地温】10℃以上
【使用方法】土壌に均一に散布して混和(手袋を着用して手まき、または散布機)し、その後土壌の水分量に応じて散水、最後にシートを被覆
【特徴】
・刺激臭が少なく薬剤を土壌に混和した後ゆっくりガス化する
・微粒剤なので散布が均一にできたかが目で確認できる
・ガス抜きに比較的時間がかかる
注意事項
トマトやナスを栽培する圃場や、センチュウ類多発時の防除は、効果が劣る傾向があるので、ほかの土壌消毒剤または土壌消毒方法との併用をおすすめします。
土壌消毒剤使用のリスクとリスク回避
土壌消毒剤は病原菌や害虫、センチュウ類、雑草を防除する手段として有効ですが、同時に土中の有用な微生物まで駆除してしまうリスクが発生します。土壌消毒剤使用のリスク
土壌中には多くの微生物が存在していますが、それは有用なものだけでなく、作物の病気の原因となる病原菌も微生物の仲間になります。この病原菌に対して土壌消毒剤を使用して駆除する際、同時に作物にとって有用な微生物まで殺してしまいます。その結果、土壌消毒剤を使用する前よりも「病原菌」の割合が増える「リサージェンス」という現象が起こってしまいます。
リサージェンス
土壌消毒剤を使用しても、残留した病原菌によってさらに病害が発生してしまうことがあります。その結果、再度土壌消毒を行わなければ、病害におかされてしまうといった悪循環に陥ってしまう可能性があります。土壌消毒剤使用のリスク回避
土壌消毒を行うと、防除したい「病原菌」だけでなく有用な微生物までいなくなってしまうことを認識することがリスク回避の第一歩です。土壌消毒後の土壌改良
土壌消毒後は新たに土壌改良資材や微生物資材を投入し、有用な微生物を増やしてから栽培を始めましょう。▼土壌改良資材や微生物資材のことならこちらをご覧ください。
土壌消毒剤の特徴を知って効果的に使おう!
土壌消毒剤は殺菌剤や殺虫剤などと異なり、土中に施す薬剤なので、たとえ土壌病害が発生しても、作物の栽培期間には使用することはできません。そのため、土壌病害を未然に防ぐ予防対策として取り入れる防除方法です。種類によって適用する作物や効果のある病原菌、害虫など適用病害虫も異なるので、それぞれの特徴を知り薬剤を選択することが重要です。また、土壌消毒剤は「病原菌」だけでなく有用な微生物までも殺してしまうため、使用後は土壌改良材や微生物資材を忘れずに投入しましょう。
土壌消毒剤は土壌病害に有効的な手段ですが、「医薬用劇物」である薬剤も多く、使用に注意しなければ農薬事故や薬害が発生しやすくなります。薬剤を使用するごとに登録内容や注意事項をしっかりと確認し、安全かつ効果的に使用して栽培をスムーズにスタートさせましょう。