千葉大学園芸学部非常勤講師。千葉県立農業大学校非常勤講師。東京農業大学グリーンアカデミー非常勤講師。テクノ・ホルティ園芸専門学校非常勤講師。日本ガーデンデザイン専門学校非常勤講師
草間祐輔主な経歴: ・長野県松本市生まれ ・千葉大学園芸学部卒業 ・米国ロサンゼルス郊外のナーセリー&ガーデンセンター(観賞植物生産・小売業)に勤務後、家庭園芸農薬肥料メーカーの住友化学園芸株式会社に在職。 〜植物の病害虫防除や肥料ついて研鑽(けんさん)を積み、講習会などで広く実践的な指導を行っている。 〜業界では農薬の安全・適正使用の普及や指導を行う(公社)緑の安全推進協会認定・緑の安全管理士、及び同協会講師としても活動する。 〜趣味は植物の病気、害虫の写真撮影。身近に出くわす被害症状にこだわり、20年来、撮影している。 主な著書: 「だれでもわかる 病害虫防除対策」(万来舎) 「野菜・果樹の病害虫防除」(誠文堂新光社) 「症状と原因が写真でわかる 野菜の病害虫ハンドブック」(家の光協会) 「症状と原因が写真でわかる 庭木・花木・果樹の病害虫ハンドブック」(家の光協会) 「写真で見つける病害虫対策ブック」(NHK出版) 「人にもやさしい病害虫防除」(講談社) 「植物の病気と害虫 防ぎ方・なおし方」(主婦の友社)など多数。 現在、NHK「趣味の園芸」テキストで「今月気をつけたい病気と害虫」を連載中。初心者にも分かりやすい写真と解説に定評がある。…続きを読む
キュウリやスイカなどのウリ科作物、サツマイモなどの根から感染する、つる割病の発見のポイントを押さえて予防と早期発見、防除を心がけましょう。
本記事は教育機関で講師を勤められ、数多くの病害虫についての書籍を執筆されている草間祐輔先生に監修いただきました。
つる割病の症状
「葉が下から黄化してきた」「株が萎れている」「茎の地際部が裂けて(割れて)いる」などの症状が現れたときはつる割病を疑いましょう。病斑部の特徴
つる割病は土壌から感染する病気です。地上部が下葉から黄化し、症状が進むと株が萎れて枯死し、地際部に近い茎が裂けるように割れて、割れた部分から白色やサーモンピンクのカビが生えたり赤褐色のヤニが出ることがあります。▼植物の病気の症状についてはこちらの記事もご覧ください
つる割病の発生原因
つる割病とはカビ(糸状菌)が原因で発生する病気です。名前 | つる割病 |
菌名 | Fusarium oxysporum |
分類 | 糸状菌 |
発病適温 | 27〜28℃ 地温が20〜23℃で多発する |
ブドウつる割病
ブドウに感染するつる割病の病原菌( Phomopsis viticola )は、ウリ科などに発生する病原菌とは異なります。つるが割れる症状が出ますが、木が萎れるなどの症状が現れることはありません。
伝染源
つる割病菌は土壌中や枯れた植物(残渣/ざんさ)に、長期生存が可能な厚膜胞子(こうまくほうし)という形で存在しています。土壌伝染性
つる割病の病原菌が存在する土壌で新たに植物が植え付けられ、根が厚膜胞子の近くに伸びると厚膜胞子が発芽し、根の表面や傷口から侵入して植物体内で菌糸(きんし)が増殖します。増殖した菌体は、導管を閉塞させ、植物は水や養分を送ることができずに生長が抑制されます。
※導管とは、水分や養分を運ぶ維管束の構成要素のひとつ。
種子や収穫後の伝染
種子に厚膜胞子の形で生存しているつる割病の病原菌により、病気が伝搬することもあります。また、サツマイモなどでは収穫後の種イモが病原菌に感染していると被害が広がります。
つる割病が発生しやすい条件とは
つる割病が発生しやすい環境や土壌について説明します。発生時期
春~秋の気温が高い時期。温度条件
地温20℃以上になると発生が見られます。発病適温は27〜28℃で、地温20〜23℃で最も発生が多くなります。土壌環境
土壌が乾燥状態で根を傷めると発生が多くなります。梅雨時期など降雨が続いた後、晴天が続く条件で発生しやすいです。
酸性土壌
土壌pH値が酸性で発生しやすくなり、中性~アルカリ性では発生が抑えられます。根傷み
乾燥、移植による根傷みやセンチュウ類による傷口があると、つる割病の病原菌が侵入しやすくなります。※センチュウ類とは主に土壌に生息し、植物の根を侵す害虫。体長は1mm未満で紡錘形(ぼうすいけい)をしており、口に槍(やり)状の口針を持つ。
▼センチュウ類のことならこちらをご覧ください。
ハウス栽培での塩類集積
ハウス栽培で土壌に肥料中の塩類が、植物の許容量を超えて蓄積することで、根が弱り病気の発生が助長されることがあります。※塩類とは肥料に含まれ土壌中に溶出したナトリウムやマグネシウムなどの成分のこと。電気伝導度(EC)を測定することで土壌中の塩類濃度の指標とすることができます。土壌の硝酸態窒素が多いとECも相関して高くなります。
▼ECについてはこちらをご覧ください
つる割病が発生する主な植物
つる割病は、キュウリ、メロン、スイカ、マクワウリなどのウリ科の野菜や、アサガオ、サツマイモに発生します。▼キュウリの病気ならこちらをご覧ください。
スイカ
はじめ下葉が黄化し萎れ、症状が進むと株が萎れて枯死します。茎の地際部分に縦に亀裂が入り、黄褐色に変色してヤニが出るほか、白色〜サーモンピンク色のカビが生えます。
茎を切断すると維管束の部分が褐変しています。
根は褐色に変色します。
▼スイカの病気ならこちらをご覧ください。
サツマイモ
葉は下葉から黄化して、症状が進むと株が萎れて枯死します。茎の地際部分に縦に亀裂が入り、茎の繊維質が目立ちます。茎を切断すると、導管部が褐変しています。
感染したサツマイモから作った苗によってもつる割病が伝染します。育苗した苗に症状がみられなくても、圃場に定植してから発病することもありますので、病気に感染していない種イモを使用しましょう。
特にサツマイモ品種の「ベニコマチ」はつる割病に極端に弱いため、栽培する際は注意してください。
▼サツマイモの育て方ならこちらをご覧ください。
つる割病に有効な防除方法
つる割病に有効な防除は圃場の管理で行う方法(耕種的防除方法)と「農薬」の使用で行います。※圃場(ほじょう)とは、田や畑のような農作物を育てる場所。
つる割病を発生させない管理方法
つる割病の予防方法について説明します。1. 植物残渣の処理
前作の植物や落ちた葉につる割病の病原菌が感染している可能性があります。残渣をすき込むとつる割病菌が増殖する恐れがあるため、圃場外に持ち出して処理しましょう。2. 土壌の消毒、入れ替え
前作につる割病が発生した圃場、発生が心配される圃場は、土壌を消毒するか新しい土を入れます。太陽熱消毒は、一年で最も暑い時期(7月中旬〜8月下旬くらいまで)に圃場にたっぷり灌水(かんすい)した後、透明のポリマルチを土の表面に隙間が無いように被せて、20〜30日程度放置してください。
▼土壌消毒のことならこちらをご覧ください。
プランター栽培では新しい土と入れ替えるか、つる割病が発生した土に水をたっぷり含ませ、透明のビニール袋で包み、太陽の熱を利用して消毒します。
▼プランターの培土処理のことならこちらをご覧ください。
3. 土壌酸度の調整
つる割病菌はpH値が低い酸性土壌で発生しやすいため、石灰質肥料を入れてアルカリ性へ調整することも効果的です。▼土壌のpH測定のことならこちらをご覧ください。
4. 保水性の良い圃場づくり
乾燥し過ぎている土の状態は、植物が根傷みを起こし病原菌に感染しやすくなります。保水性や通気性をよくして土壌の物理性を整えるために、腐葉土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良資材を投入して土作りを行います。
乾燥しやすい土には、水分の過剰な蒸発を防ぐポリマルチを使用することもおすすめです。
▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
▼マルチのことならこちらをご覧ください。
5. センチュウ類対策
根に傷口があると、その部分に病原菌が侵入しやすくなります。傷口を作るセンチュウ類対策を行いましょう。センチュウ類の対策には、えん麦野生種やマリーゴールドなどの緑肥作物を栽培するのが効果的です。
▼緑肥のことならこちらをご覧ください。
▼椿油粕のことならこちらもご覧ください。
ハウス栽培での根傷み防止
肥料が土壌中に残り塩類集積が起こって根傷みを起こす可能性があります。塩類集積が起こった畑は表層土壌除去法やソルゴーやコスモスなどクリーニングクロップの栽培で対応しましょう。定期的に土壌中の塩類濃度(EC)を測定し、ECを高くする原因である硝酸態窒素が過剰にならないように栽培を行うことも重要です。
6. 連作の防止
ウリ科作物を連作すると土壌中の菌密度が年々高まり、発生が増えます。ほかの科の作物で輪作を行いましょう。▼連作障害のことならこちらをご覧ください。
7. 接木苗の利用
同じウリ科でもつる割病に強い品種(カボチャ、トウガンなど)を使った接木苗を利用することで、病気を防ぐことができます。▼接木苗のことならこちらをご覧ください。
土づくりの味方「放線菌」を増やして病原菌を撲滅!
土壌には「放線菌」という菌がもともと生息しています。この放線菌は土壌をふかふかにする効果があり、この菌を増やすことによって水はけの良い病原菌の住みにくい環境にすることができます。また、放線菌はキチン質をエサとするため、病原菌が増殖する前にキチン質の資材を入れて放線菌を増やすことで病気の予防になります。
カニ殻で放線菌を増やす「かに様」
国内で製造した「かに殻」を100%使用した土づくり資材です。キチン質が菌力アップの微生物(放線菌群)のエサになります。センチュウや土壌病害が心配な畑に、土壌改良を兼ねた元肥として利用できます。詳細はこちら。
つる割病の防除に効果的な「農薬」
農薬(殺菌剤)を使用してより効果的につる割病を防除しましょう。つる割病は発生してからの薬剤防除は難しいため、予防的に使用することをおすすめします。※農薬使用の際は必ず作物登録、使用方法をラベルで確認してください。地域の防除指導機関やJAなどで使用基準を確認し、使用してください。
▼殺菌剤のことならこちらをご覧ください。
▼病気対策に欠かせない農薬散布のタイミングや、選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
フザリウム属菌に高い効果、ベンレート水和剤
ベンレート水和剤
散布や灌注で効果があります(時期は作物によって異なります)。 広範囲の病害に効果があります。
内容量 | 100g |
---|---|
有効成分 | ベノミル(50.0%) |
FRACコード | 1(B1) |
総合土壌消毒剤、キルパー
土壌病害虫薬剤 キルパー
総合土壌消毒剤で土壌センチュウにも効果があります。有効成分が土壌中にまんべんなく広がり、安定した効果を発揮します。
内容量 | 20L |
---|---|
有効成分 | カーバムナトリウム塩(30.0%) |
IRACコード | 8F |
▼農薬を安全に使用するためにまずはこちらをご覧ください。
▼希釈方法や散布後の処理方法などそのほかの農薬のことなら農薬まとめをご覧ください。
つる割病発生後の対策
つる割病の発生を確認したら、菌が土に残らないように周辺の土ごと株を取り去ります。土壌にすき込むと病原菌を拡散してしまうので、圃場の外に持ち出して処分してください。予防的に農薬を散布する場合は、株の周囲にたっぷりとかけるようにします。
また、圃場で使用した道具や土のついた靴は病原菌が付着しているため丁寧に洗い、ほかの圃場へ持ち込まないようにしましょう。
つる割病対策に何より大事なのは土壌改良、接木苗の利用
つる割病は発病してからの防除は難しいため、発病しないための環境づくり、土づくりが大切です。つる割病が発生した圃場、発病が懸念される圃場では、土壌の消毒を行い、根傷みを起こさないよう多湿や乾燥、肥料過多には気をつけます。
土壌に良いとされる放線菌を増やして、病原菌が住みにくい環境にすることも効果的です。
また、ウリ科作物の連作で病気が発生しやすくなるため輪作を行うか、病気に強い接木苗を選定して病気にかからない対策をしましょう。