主な根腐萎凋病の症状
「植物が日中萎れるようになってきた」「株を抜くと根が腐ってきている」などの症状が現れたときは、根腐萎凋病を疑いましょう。主な根腐萎凋病の病斑部の特徴
根腐萎凋病菌に感染すると、根は褐色に変色し腐るため、水分を地上部へあげるのが困難になり下葉から黄化して萎れます。▼植物の病気の症状についてはこちらの記事もご覧ください
病原菌や発生条件は植物によって異なる
根腐萎凋病は糸状菌(カビ)が原因の病気です。数種類のカビが植物の根に感染、発病します。病名は同じですが、植物によって病原菌や発生条件が異なります。
トマト根腐萎凋病の発症原因
根腐萎凋病で大きな被害を受ける代表的な作物はトマトです。ここではトマト根腐萎凋病について詳しく紹介します。▼トマト・ミニトマトの病気のことならこちらをご覧ください。
トマト根腐萎凋病
はじめ晴れの日中に芽先が萎れ、夕方や曇りの日は回復しますが、やがて全体が萎れるようになります。根は茶褐色〜黒色に変色し枯死するため、水分を地上部へあげるのが困難になり下葉から黄化して萎れ、根に近い部分の茎が腐り褐変します。
菌名 | Fusarium oxysporum |
分類 | 糸状菌 |
発生時期 | 秋〜春 |
発生適温 | 気温10〜20℃ |
トマトに発生する病原菌フザリウム菌(Fusarium oxysporum)
「フザリウム菌」という病原菌が原因で発生するトマトの病気には、トマト根腐萎凋病以外に「トマト萎凋病」があります。
【トマト萎凋病】
トマト根腐萎凋病は秋〜春の低温でみられるのに対して、トマト萎凋病は春から夏の気温が高い時期に発生します。また、トマト萎凋病は茎の内部の褐変が上の方まで起こりますが、トマト根腐萎凋病は地際部付近で止まります(根の腐りの症状はトマト根腐萎凋病の方が激しい)。
トマト根腐萎凋病は土壌伝染性病害
カビ(糸状菌)が原因で発症するトマト根腐萎凋病菌は、土壌中や枯れた植物(残渣/ざんさ)で、主に長期生存が可能な厚膜胞子(こうまくほうし)という形で存在します。この厚膜胞子は土壌中で5年以上も生存することができます。トマト根腐萎凋病菌の病原菌が存在する土壌で、新たに植物が植え付けられると根で反応して病原菌が発芽し、根の表面や傷口から侵入して植物体内で菌糸(きんし)を蔓延させます。
維管束で胞子を多数作って増殖し、道管を閉塞させ、植物は水や養分を送ることができずに生長が抑制されます。
※維管束とは植物の内部組織のひとつで、水や養分を運ぶ通路機能のほかに、葉・茎・根など植物の各器官をつなぎ支える組織。
※道管(または導管)とは、水分や養分を運ぶ維管束の構成要素のひとつ。
トマト根腐萎凋病が発生しやすい条件とは
トマト根腐萎凋病が発生しやすい環境や土壌について説明します。発生時期
晩秋から早春の気温が低い時期に発生します。気温
発生適温は10~20℃です。土壌環境
土壌が極端な湿潤状態、もしくは乾燥状態で発生が多くなります。梅雨時期など、降雨が続いた後に晴れて急に乾燥した場合に発生がみられます。
根傷み
多湿、乾燥や移植による根傷みや、センチュウ類などによる傷口があると病原菌が侵入しやすくなります。※センチュウ類とは主に土壌に生息し、植物の根を侵す害虫。体長は0.5〜3mmで紡錘形(ぼうすいけい)をしており、口に槍(やり)状の口針を持つ。
▼センチュウ類についてはこちらをご覧ください。
塩類集積
主にハウス栽培では肥料が土壌中に残り塩類集積が起こって、根が弱り病気の発生が助長されることがあります。※塩類とは肥料に含まれ土壌中に溶出したナトリウムやマグネシウムなどの成分のこと。電気伝導度(EC)を測定することで土壌中の塩類濃度の指標とすることができます。土壌の硝酸隊窒素が多いとECも相関して高くなります。
▼ECについてはこちらをご覧ください
成り疲れ
果実が多く成っている状態は、株に負担がかかり病気にかかりやすくなります。トマト根腐萎凋病に有効な防除方法
トマト根腐萎凋病に有効な防除は、圃場の管理で行う方法(耕種的防除方法)を紹介します。※圃場(ほじょう)とは、田や畑のような農作物を育てる場所のことです。
トマト根腐萎凋病を発症させない管理方法
トマト根腐萎凋病の予防方法について説明します。1. 植物残渣の処理
前作の枯れた植物にトマト根腐萎凋病が感染している可能性があります。また、残渣をすき込むと病原菌が増殖する恐れがありますので、圃場外に持ち出して処理します。
2. 土壌の入れ替え、消毒
前作にトマト根腐萎凋病が発生した圃場、また発生が心配される圃場は、土壌を消毒するか新しい土を入れます。太陽熱消毒は、一年で最も暑い時期(7月中旬から8月下旬くらいまで)に圃場にたっぷり灌水(かんすい)した後、透明のポリマルチを土の表面に隙間が無いように被せて、20〜30日程度放置してください。
▼土壌消毒のことならこちらをご覧ください。
プランター栽培では、新しい土と入れ替えるか、トマト根腐萎凋病が発生した土に水をたっぷり含ませ、透明のビニール袋で包み、太陽の熱を利用して消毒します。
※灌水とは水を注ぐこと、植物に水を与えること。
▼プランターの培土処理のことならこちらをご覧ください。
3. 保水性の良い圃場づくり
土壌の水分が多い、もしくは乾燥しすぎていると、根傷みを起こし病原菌が感染しやすくなります。水はけを良くするには、畝を高くしたり、腐植土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良資材を投入します。乾燥しやすい土には、ポリマルチを使用することもおすすめです。
▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
▼マルチのことならこちらをご覧ください。
4. 根傷みの予防
根に傷口があると病原菌が侵入しやすくなります。傷口を作るセンチュウ類などの対策を行いましょう。センチュウ類対策には、えん麦やマリーゴールドなどの緑肥作物を栽培すると効果があるほか、椿油粕を土壌に混ぜるとサポニンという成分がセンチュウ類を抑制します。
▼緑肥のことならこちらをご覧ください。
▼椿油粕のことならこちらもご覧ください。
ハウス栽培での根傷み防止
ハウス栽培では肥料が土壌中に残る塩類集積も根傷みの原因となります。定期的に土壌中の塩類濃度(EC)を測定し、ECを高くする原因である硝酸態窒素が過剰にならないように栽培を行うことも重要です。
5. 連作の防止
連作すると土壌中の菌密度が年々高まり、発生が増えます。ほかの作物で輪作を行います。▼連作障害のことならこちらをご覧ください。
6. 抵抗性、耐病性品種や台木の利用
トマト根腐萎凋病に強い品種や台木を利用することも効果的です。J3と呼ばれる型がついているものが、トマト根腐萎凋病に耐病性がある品種です。
※品種の例:CF桃太郎J 桃太郎ヨーク
台木の例:グリーンセーブ(タキイ種苗)
▼台木や接ぎ木苗のことならこちらをご覧ください。
7. 早期の摘果
果実の成り過ぎなどの負担で発病しやすくなるため、余分な果実は大きくなる前に早めに摘果しておきます。▼トマトの摘果のことならこちらをご覧ください。
土づくりの味方「放線菌」を増やして病原菌を撲滅!
土壌には放線菌という菌がもともと生息しています。放線菌は土壌をふかふかにする効果があり、この菌を増やすことによって、水はけの良い、病原菌の好まない環境にすることができます。また、放線菌はキチン質をエサとするため、病原菌が増殖する前にキチン質の資材を入れて放線菌を増やすことで病気の予防になります。
カニ殻で放線菌を増やす
カニ殻のキチン質が放線菌のエサとなり放線菌が増殖します。ホームセンターなどでも販売されているので、肥料と一緒に土壌に混ぜて、放線菌を増やしましょう。漢方かすの肥料、ツムランド
漢方を作るときにできる残渣を発酵させて作られ堆肥です。微生物を多く含んでおり、特に放線菌が多いため、病気の予防に効果があります。微生物が土壌の団粒化を促進して土壌環境を改善するため、根張りが良くなる効果もあります。そのほかの作物の根腐萎凋病と防除方法
トマト以外にも根腐萎凋病を発症しやすい作物ごとの根腐萎凋病について説明します。イチゴ根腐萎凋病
糸状菌(カビ)の一種で、土壌伝染性の菌です。養液栽培による発生がほとんどで、露地栽培では激しい根傷みが起こると併発する場合があります。▼イチゴの病気のことならこちらをご覧ください。
▼養液栽培のことならこちらをご覧ください。
主な症状
症状は2つあり、下葉が黄化萎凋し株全体に広がった後枯死する場合と、草丈が短く葉が小さくなり下葉が黄化して矮化(わいか)する症状があります。どちらも根部は褐〜黒色に変色しますが、クラウン内部や葉柄などに変化はみられません。実なりは少なく、果実は小さくなります。
※矮化とは植物が正常に伸びていかず抑制された状態となり、草丈が正常時に比べて低くなって小型化すること。
菌名 | Cylindrocarpon destructans |
分類 | 糸状菌 |
発生時期 | 秋〜春 |
発生適温 | 気温23〜28℃ |
イチゴ根腐萎凋病は土壌伝染性病害
植物残渣上や土壌中で菌糸、厚壁胞子の形で長期間生存し伝染源となります。イチゴ根腐萎凋病に有効な防除方法
根傷みを起こさないように、多灌水には気をつけます。ネギ根腐萎凋病
根が激しく腐敗して、古い葉から枯れ、症状が進むと萎れて枯死します。高温を好み、夏に発生した後、気温が低くなると回復する場合もありますが、太くなりにくいようです。
菌名 | Fusarium redolens |
分類 | 糸状菌 |
発生時期 | 春〜夏 |
発生適温 | 気温25℃ |
ネギ根腐萎凋病に有効な防除方法
乾燥している土壌、また塩類集積しているハウス(高EC土壌)で発生が多いため、土壌のECを下げます。メロン根腐萎凋病
苗のときから発生しますが、収穫期に発生が多くなります。地際部の茎がくびれて、根は茶褐色に変色して腐ります。株は萎凋枯死します。湿度が高いと、地際部や根に白いカビが生えます。
根の褐変症状は黒点根腐病と似ていますが、黒い点はみられません。
菌名 | Pythium aphanidermatum |
分類 | 糸状菌 |
メロン根腐萎凋病に有効な防除方法
病原菌は感染した植物とともに土中に残り土壌伝染します。育苗ポットや資材などは使用後、使用前はケミクロンGなどで消毒を行いましょう。
根腐萎凋病発症後の対策
根腐萎凋病の発生がみられたら、病原菌が土に残らないように周辺の土ごと株を取り去ります。土壌にすき込むと病原菌を放出してしまうので、圃場の外に持ち出して処分してください。予防的に農薬を散布する場合は、株の周囲にたっぷりとかけるようにします。
また、圃場で使用した道具や、土のついた靴は病原菌が付着しているため、丁寧に洗い、ほかの圃場へ持ち込まないようにしましょう。
▼病気対策に欠かせない農薬散布のタイミングや、選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
▼農薬を安全に使用するためにまずはこちらをご覧ください。
▼希釈方法や散布後の処理方法などそのほかの農薬のことなら農薬まとめをご覧ください。