本記事では、農薬を使用する際、飛散(ドリフト)を抑えるなど効果的な農薬散布ができるように薬剤の剤型の特徴について説明します。
農薬の剤型とは?
農薬は有効成分に補助剤を加えてさまざまな形状のものに製剤されています。この製剤された状態のものを「剤型」といいます。「剤型」の形状は「固体」「液体」「それ以外」に分けられ、その中でも「そのまま使用」するものと「水に希釈」して使用するものがあります。
要注意!
同じ薬剤でも適用作物によって使用方法が違ったり、同じ適用作物でも散布方法が違ったりする場合があるため、その都度登録内容をよく確認した上で使用しましょう。
1.固体「そのまま使用」
水に希釈する手間がかからないのが特徴です。薬剤の種類には「粒剤」「粉粒剤」「粉剤」があり、イラストに示したように「粒剤」は粒が大きく、「粉剤」は小さくなります。粒の大きさが小さいものほど飛散しやすくなります。
粒剤
飛散しにくい剤型です。粒が崩れて薬剤が溶け出すまでに時間がかかるので、速効性を期待する剤型ではありません。
粉粒剤
粒径の大きい順に「細粒剤F」「微粒剤」「微粒剤F」と商品名に表記されます。剤型の種類としては粉粒剤に分類されます。
粉剤
一番飛散しやすい剤型ですが、固体「そのまま使用」の中では効き目が速いのが特徴です。粉剤の中でも「DL粉剤」は一般的な粉剤よりも飛散しにくく、「FD剤(フローダスト)」はハウス内での散布効率を考えて、あえて飛散しやすくした剤型です。
※現在FD剤は農薬登録されていません。(2020年6月17日現在)
2.固体「水に希釈」
「水に希釈」する薬剤は、ほかの薬剤と混用して使用することができるため、一度に複数の病害虫を防除できます。※一度水で希釈した散布液は保存することができません。
要注意!
薬剤には混用できるものと、できないものがあります。薬剤の混用については普及所やJAなどの地域の指導機関へ問い合わせて相談することをおすすめします。
水和剤
【水和剤】粉末状の剤が水に溶けずに漂った状態なので、希釈した水和剤の液体をしばらく置いておくと沈殿が生じます。
【顆粒水和剤、ドライフロアブル(DF)】
顆粒状なので水和剤に比べて、開封時や希釈時の粉立ちが起こりにくく、作業者が吸引するのを防ぎます。
水溶剤
【水溶剤】粉状・粒状などの剤が、しっかり水に溶けるので希釈液の沈殿が生じません。
【顆粒水溶剤】
希釈液が沈殿しないだけでなく、顆粒状なので開封時や希釈時の粉立ちが起こりにくいためとても使いやすい剤型です。
3.液体
希釈せずにそのまま使用できるAL剤は、家庭菜園などで使いやすい剤型です。乳剤
【乳剤】水に溶けにくい農薬の有効成分を、医薬用外劇物にあたる有機溶媒に溶かし、界面活性剤、乳化剤を加えたものなので、ほかの剤型に比べて危険物に該当するものが多くあります。
【EW剤】
水と油をなじませる乳化という作用をもつ成分の乳化剤を用いて水に分散させているため、危険物には該当しないタイプの薬剤です。
液剤
【液剤】有効成分が水溶性のものを液体にしています。原液または水で希釈して使用します。
【マイクロエマルション剤(ME)】
水に溶けにくい、もしくは溶けない成分を少量の有機溶剤と界面活性剤で水に分散させています。水と希釈しても粒子が細かいので安定しています。
油剤
有効成分そのままか、有効成分を有機溶媒に溶かした液体の薬剤で、土壌消毒などで使用されるD-D剤などがあります。▼土壌消毒のセンチュウ類対策に使用されるD-D剤のことならこちらをご覧ください。
フロアブル剤
微粒子にした固体の有効成分を水に分散させた液体です(ゾル剤とも呼ばれる)。保管中に有効成分が沈殿しやすいので、使用前によく振ってから使用しましょう。AL剤
そのまま使用できる濃度希釈した剤(スプレータイプ)で、主に家庭園芸用として使用されています。4.そのほか
固体や液体の剤型以外の農薬のタイプについて紹介します。くん煙剤
加熱によって薬剤を煙状の粒子にして散布するタイプの剤型です。液体の農薬と異なり、施設内の湿度上昇を抑え、農薬の散布汚れを防ぎます。▼ハウス栽培でのくん煙剤を使用した省力散布法についてはこちらをご覧ください。
塗布剤
農作物の一部に塗る、もしくはそれに類似する方法で使用します。ジャンボ剤
投げ込んで使用するタイプの水田除草剤のことで、水溶性パックに入った細粒もしくは粒状の剤です。▼水稲の除草剤についてはこちらをご覧ください。
エアゾル
容器からバルブを通して薬剤を霧状に噴出させる缶入りのスプレー剤です。剤型についてのよくあるQ&A
農薬のさまざまな剤型について説明してきましたが、次に剤型の質問でよくあるものについて具体的に紹介します。Q1. 農薬の飛散を抑えたい場合、どのような剤型を選んだらいいですか?
農薬は農作物の病気や害虫の防除に効果がある一方で、適切に使用しないと商品となる農作物に薬害が出るだけでなく、環境や人体にも悪影響を与えてしまいます。飛散しにくい農薬の剤型を選ぶことは、環境だけでなく、農業従事者自身の安全を守ることにつながります。A1. 粒が大きい固形「粒剤」
そのまま使用できる粒の大きい「粒剤」、続いて微粒剤の中では「微粒剤F」、粉剤の中では「DL粉剤」が飛散しにくい剤型です。▼飛散を抑えて農薬を安全に使用することならこちらをご覧ください。
【適用作物「キャベツ」登録内容の一部抜粋】
薬剤名 | 適用害虫名 | 使用量 | 使用時期 | 使用回数 | 使用方法 |
オルトラン粒剤 | ・アブラムシ類 ・ハスモンヨトウ ・アオムシ | 3~4kg/10a | 収穫3日前まで | 3回以内 | 散布 |
トレボン粉剤DL | ・アブラムシ類 ・ヨトウムシ ・アオムシ ・コナガ | 3~6kg/10a | 定植時 | 1回 | 植穴処理 |
アザミウマ類 | 6kg/10a | ||||
アブラムシ類 | 6g/m2 | 育苗期 | 散布 |
▼アブラムシ類やヨトウムシ類、アオムシコナガ、アザミウマ類のことならこちらをご覧ください。
飛散以外にも農薬を選択する際の重要なポイント!
例えば、キャベツのアブラムシ類に登録のある「オルトラン粒剤」は、飛散しにくい剤型という観点からおすすめします。しかし、同じアブラムシ類に登録があっても、それ以外にも防除したい害虫や、使用時期、使用できる回数を考えた総合的なローテーション散布など、条件や状況に合わせた薬剤の選択が重要になってきます。各地域の普及所や指導機関の情報も参考にしながら農薬を選択しましょう。
Q2. スミチオン乳剤とスミチオン水和剤40のように同じスミチオンなのになにが違うのでしょうか?
同じスミチオンという名前がついているので、単なる「乳剤」や「水和剤」という剤型の違いだけと思い込んでしまいがちです。A2. 有効成分や補助剤の含まれる割合、適用作物名や使用時期など登録内容が違う
例えば、トマトは「スミチオン乳剤」では適用作物名として登録がありますが、「スミチオン水和剤40」では登録がありません。同じ名前がついた薬剤でも剤型が違えば登録内容も違う場合があるため、使用前には必ず登録内容を確認してから使用してください。要注意!適用作物名
適用作物名とは、その農薬が使用できる作物の名前で記載してある作物以外には使うことができません。適用作物名に記載されていない作物に使用すると農薬取締法違反となります。農作物の出荷ができないのはもちろんですが、罰則も科せられます。
Q3.同じ有効成分で異なる剤型の農薬を作物ステージごとに使い分けるとは?
適用作物名に「キャベツ」の登録がある「オルトラン粒剤」と「オルトラン水和剤」。この二つの異なる剤型を使用する際に、作物の生育に合わせて使い分けることについて説明します。※オルトラン粒剤の商品はQ1を参照ください。
A3. 有効成分の割合や剤型が違う農薬を作物の生育に合わせて使用
オルトラン粒剤の使用時期がキャベツの「育苗期、定植時」の登録であるのに対し、オルトラン水和剤は「収穫30日前まで」となっています。つまり、キャベツの生育前半にオルトラン粒剤を、栽培期間中にオルトラン水和剤を使用という作物ステージごとに使い分けをします。
▼キャベツ栽培や病害虫のことならこちらをご覧ください。