農学博士
木嶋 利男■主な経歴:1987年 農学博士(東京大学)、1993~1999年 栃木県農業試験場 生物工学部長、1999~2004年 自然農法大学校 校長、2004~2010年 WSAA 日本本部 専務理事、2006~2013年(財)環境科学総合研究所 所長、2015~2019年(公財)農業・環境・健康研究所 代表理事 ■上記以外の主な役職:一般社団法人MOA自然農法文化事業団 理事、伝統農法文化研究所 代表 ■主な著書:『プロに教わる安心!はじめての野菜づくり』(学研プラス)、『「育つ土」を作る家庭菜園の科学 』(講談社)、『コンテナでつくる家庭菜園[新版]』(マイナビ出版)…続きを読む
今回は、現在「伝統農法文化研究所」で代表を務める、農学博士・木嶋利男先生に、緑肥について教えて頂きました。
緑肥とは?
緑肥とは、栽培した植物の葉や茎などを枯らしたり腐らせたりせずに畑などの土壌に入れて耕し、肥料にしたもののこと。ヨーロッパでは小麦を栽培する前にクローバーをすき込んだり、アメリカではトウモロコシを栽培する前に大豆を緑肥として利用することがあります。
国内においても、田んぼの緑肥としてレンゲ草を用いるなど古くから知られています。牛堆肥のように運搬することなく、手軽に有機物を供給することができるのも特徴です。
緑肥の効果やメリット
緑肥にはさまざまな種類があり、その効用も異なります。ここでは主にどのような効果があるのか、木嶋先生に解説していただきました。緑肥の効果を知って、畑の土壌改善に役立ててくださいね。土を肥沃にする
緑肥の大きな効果は、肥沃な土壌を作るということ。緑肥をすき込むと土の中で有機物が増加するため、それを分解する微生物が増え、土壌の環境が整います。クロタラリアなどマメ科の根に付く根粒菌は、土の中のチッ素成分を増加させるので、野菜の生育を良くしてくれます。木嶋先生
マメ科の緑肥は、共生する根粒菌が空中からチッ素を取り込んでくれるので、土を肥沃にしてくれます。まさに「緑肥」という言葉通りの働きですね。
水はけ、水持ちを良くする
太くまっすぐな根が地中深く伸びるマメ科の緑肥を植えると、水はけや水持ちが改善されます。イネ科の緑肥は土の団粒構造を促進するため、土を柔らかく水はけを良くしてくれます。有用微生物が多く住む、野菜の生育に適した土が現れます。木嶋先生
土の団粒構造を作り、水はけや水持ちなど土壌の物理性を改善します。根が深いセスバニア、クロタラリアは、鋤床(すきどこ)層を破壊して水はけを良くしてくれます。
害虫の発生を抑える
緑肥には、野菜につく害虫の天敵を呼んだり増やしたりすることで、害虫の被害を減らす効果もあります。クリムソンクローバーは、花の蜜や花粉によって天敵を呼び寄せます。ソルゴーでは、花粉や発生する虫が餌となって天敵を集めてくれます。殺虫剤などを使うことなく、緑肥を育てることで自然の防虫効果になるのです。木嶋先生
天敵を増やしたり温存させることで、害虫の発生を抑えてくれます。
病原菌や雑草を抑える
病原菌の生育を妨げたり、雑草を抑制する効果があります。エンバクは自らがおとりとなって根こぶ病の病原菌を集めるため、土壌中の病原菌の密度が下がり、野菜の病害を減らしてくれます。緑肥が生み出す成分には、雑草を抑える効果があるものもあり、マメ科のヘアリーベッチなどがよく利用されています。木嶋先生
ヘアリーベッチにはシアナミドという雑草を抑える成分が含まれています。ほかにエンバクはアベナシン、ソバはルチンや没食酸といった成分を生成して、病原菌や雑草を抑えてくれますよ。
緑肥作物の選び方
緑肥を植えると素晴らしい効果があることは分かったものの、さまざまな緑肥がある中、どうやって緑肥を選んだら良いか気になりますよね。緑肥は土の中の栄養を増やしたり、植物にとって育ちやすい環境にしてくれたり、虫を避けたりといったさまざな効果があり、育てる作物が必要とする条件は何なのか調べてから、緑肥を選ぶと良いでしょう。肥沃な土にするなら
土を肥沃にしたいのなら、マメ科の緑肥を選びます。木嶋先生
土づくりのためにはクロタラリア、クローバー、セスバニア、ダイズなどマメ科の緑肥を選びましょう。根に共生する根粒菌が空中のチッ素を固定し、土壌を肥沃にしてくれますよ。
水はけや水もちの良い、やわらかい土にするなら
土壌の性質のうち、土の硬さや耕しやすさ、水はけや水もちの良さ、土の重さ、空気の通りやすさなどのことを土壌物理性といいます。根の成長や作業の効率にも関わる大切な条件です。その土壌物理性を改善するために、緑肥が利用されることもあります。木嶋先生
土壌物理性を向上させるためには、ソルゴー、エンバク、デントコーンなどイネ科の緑肥を選びましょう。根の量が多いので、土壌の団粒化を促進して、土壌物理性を向上させます。
雑草抑制や虫対策などには
雑草の抑制や害虫対策、土の中にある生育に必要な栄養素を再生するなど、さまざまな利用目的で緑肥を用います。ヒマワリの根から排泄される根酸には、土の中の不溶性リン酸を可溶性に変える働きがあります。土の中の不溶性リン酸が再び可溶性となって、その後の作物の生育を良くしてくれることから、リン酸吸収係数の高い黒ボク土などでよく用いられています。
木嶋先生
雑草を抑制したいならヘアリーベッチでしょう。シアナミドを生成して雑草を抑えるので、果樹園で主に利用されています。マリーゴールドは、ネグサレセンチュウを抑えてくれるので、秋ダイコンの緑肥として利用されています。
農学博士おすすめの緑肥作物5選
ここでは木嶋先生がおすすめする緑肥を5つ、ご紹介します。どんな作物の緑肥として使えるか、種まき時期とすき込み時期、どの虫を抑制するかなども教えていただきました。それぞれの緑肥のメリットを参考にして、ぜひ栽培に挑戦してみてください。ソルゴー
ソルゴーは根量が多く、土を柔らかく水はけを良くしてくれる、土壌改良効果の高い緑肥です。地上部にクサカゲロウやクモなどの天敵が集まりやすいので、害虫を抑制できるメリットもあります。ボーダープランツや障壁作物としても利用可能。生育が進むと茎が硬くなり、土の中での分解が遅くなるので、茎の柔らかい時期にすき込むことがポイントです。相性の良い作物 | ニンジン、キャベツ、ブロッコリー、ハクサイなどの秋野菜 | |
栽培時期 | は種 | 4~7月 |
すき込み | 6~9月 | |
害虫の抑制効果 | ネグサレセンチュウ、ヨトウムシ |
おすすめの品種はこれ!
ヒマワリ
ヒマワリを緑肥として用いることで、その後の作物の生育を良くしてくれます。それはヒマワリの根から排泄される根酸が土の中の難溶性リン酸を可溶性にして、再び植物に吸収されやすくするためです。また大きな黄色い花が美しく夏の風物詩でもあり、景観植物としても優れています。ただ、種子をこぼすと雑草化しやすいので、種子ができる前にすき込む、あるいは種子はすき込まないように気を付けましょう。相性の良い作物 | 夏緑肥なので冬作のホウレンソウ、タマネギなど (メロン、スイカ、キュウリと相性は良い) | |
栽培時期 | は種 | 4~7月 |
すき込み | 6~9月 | |
害虫の抑制効果 | ウリバエ、タネバエ |
おすすめの品種はこれ!
クロタラリア
マメ科であるクロタラリアの根に共生する根粒菌が、空中のチッ素を固定して土を肥沃にしてくれます。根が深く張り、鋤床(すきどこ)層を破壊して水はけを良くします。作物の生育を促進し、ネコブセンチュウを抑制する働きも。花が咲くと茎が硬くなって土の中での分解が遅れるので、早めにすき込むようにしましょう。相性の良い作物 | 夏緑肥なので秋植えのラッキョウ、タマネギ、ニンニク | |
栽培時期 | は種 | 4~7月 |
すき込み | 6~9月 | |
害虫の抑制効果 | ネコブセンチュウ |
おすすめの品種はこれ!
エンバク
冬のイネ科緑肥として大切なエンバク。発芽とその後の生育が早く、栽培が容易なことが特長です。エンバクから分泌されるアベナシンという成分が、アブラナ科の根こぶ病を防ぐ効果もあります。穂が出る前にすき込むと分解が早く、次の作物を準備しやすいでしょう。9~11月に種を条まきして、良く覆土します。バラまきの場合は種をまいた後、軽くロータリー耕を行うと良いでしょう。相性の良い作物 | 冬緑肥で春にすき込むため夏野菜 (ハクサイ、キャベツなどアブラナ科野菜と相性は良い) | |
栽培時期 | は種 | 9~11月 |
すき込み | 3~5月 | |
害虫の抑制効果 | エンバクが生成するアベナシンがアブラナ科の根コブ病を防ぐ、天敵を温存する |
おすすめの品種はこれ!
クローバー(クリムソンクローバー、赤クローバー)
根に共生する根粒菌が空中のチッ素を固定し、土を肥沃にしてくれます。美しい深紅色の花が咲くので、景観植物としても楽しめます。クリムソンクローバーと赤クローバーは種子をこぼすと、雑草化しやすいので、種子ができる前にすき込む、あるいは種子はすき込まないようにしましょう。ちなみに白クローバーは雑草化しやすいので利用しないように。相性の良い作物 | 冬緑肥なのでナス、キュウリなど夏野菜 タマネギやニンニクの間作に用いるとスリップス(アザミウマ)を防げる | |
栽培時期 | は種 | 9~11月 |
すき込み | 3~5月 | |
害虫の抑制効果 | スリップス(アザミウマ)、アブラムシ |
おすすめの品種はこれ!
緑肥作物のは種とすき込み方法
緑肥は生育中に青刈りして、土壌にすき込み、土の中で分解させることで土壌環境を整えてくれます。ここでは緑肥の種のまき方、すき込みの方法をご紹介します。すき込みのタイミングは大切で、種ができる前に速やかに行いましょう。は種の仕方
種の蒔き方は一般的な植物の種と同じように、手作業もしくは播種機を用いて行います。広い耕作地では、肥料等を散布する際に使用する散粒機などを使うと、ムラなく短時間に播種ができるのでおすすめです。種まき後は発芽や初期生育を安定させるため、覆土鎮圧を忘れずに行いましょう。覆土の厚さは種子の種類によって変える必要があり、一般的には種子の3~5倍といわれています。ソルゴーやエンバクなどの比較的大きな種子では3~5cm程度、ギニアグラスなどの小粒の種子では2cm程度の深さが目安です。すき込みの方法
すき込みを手作業で行う場合、麦類やトウモロコシなどのイネ科の植物は、畑を耕す際の鍬である程度細かく細断することもできます。また時間はかかりますが、鎌などで一本一本細かく切断し、シャベルやスコップなどで土になじませ、すき込んでいく方法も。クローバーなど背丈が低めの柔らかい植物であれば、芝用の刈払機で地上部を刈り取りとった後、緑肥を埋めるための溝を作り、そこに投入して埋めていくこともできます。広い農地ではロータリーですき込む方法が一般的です。緑肥の分解を促すためにも一度すき込んだ後、さらに2回ほどロータリーがけを行うことできれいな播種床を作ることができます。
すき込みの作業で大切なことは、種ができる前にすき込むことです。種ができてからすき込んだのでは、ふたたび緑肥が発芽してしまうので十分注意しましょう。