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誘引剤とは
誘引剤はどのように害虫の雄成虫を引き寄せ、交尾行動を抑制し、次世代の害虫発生を減らすのでしょうか。フェロモンとは
植物体内で分泌され生育に作用する「植物ホルモン」とは異なり、「フェロモン」は昆虫やダニ類の体外に分泌された物質が同じ種類の他個体に作用するものです。この「フェロモン」には雄成虫を引き寄せる「性フェロモン」や、仲間を集める「集合フェロモン」などさまざまな種類があります。※集合フェロモンとは、集団を作って生活する生物が集団維持のために分泌され、雌と雄の両方を引き寄せる効果を持ちます。カメムシ類やドクガ類の幼虫などの集団の形成にこの集合フェロモンの作用が働いています。
▼植物の生育を調整する植物ホルモンのことならこちらをご覧ください。
性フェロモン
昆虫やダニ類の雌成虫が求愛行動として雄成虫に居場所を知らせるために「性フェロモン」が分泌され、それに反応した雄成虫が引き寄せられて雌成虫に接近します。誘引剤の成分
誘引剤には雌成虫が分泌する「性フェロモン」を人工的に合成した成分が含まれています。また、合成性フェロモン以外にも害虫を誘引する作用を持つ成分に「芳香族化合物」があります。合成性フェロモン
昆虫やダニ類が分泌する「性フェロモン」を人工的に合成したもので、化合物ではありますが、分解されやすく残留しにくい成分です。芳香族化合物「メチルオイゲノール」
芳香族化合物「メチルオイゲノール」は、雄のミカンコバエを誘引する働きを持ち、海外から日本にミカンコバエが移入した際に防除に使用された経緯を持っています。※芳香族化合物とは、主にベンゼン環を含む有機化合物。この芳香族化合物は発見当初、良い香りをもつ化合物が多かったために芳香という名が付けられましたが、芳香族全てがその性質をもつものではありません。
誘引剤の特徴
農薬でありながら、殺虫効果がなく、農薬の散布回数にも含まれない「誘引剤」の特徴について説明します。▼散布回数など農薬を安全に使用することならこちらをご覧ください。
誘引剤の影響
害虫防除に使用される殺虫剤は幅広く害虫に作用するのに対し、誘引剤に含まれる成分は特定の害虫にのみ作用し、ほかの生物に影響を与えないのが特徴です。雌成虫が分泌する「性フェロモン」は特定の種類にのみ効果があるという特徴によって、誘引剤の種類によって対象害虫や防除方法が異なります。効果が持続
殺虫剤と比べて効果が持続する期間が1〜数カ月と長く、農薬と異なり散布むらやドリフトの心配もありません。▼害虫防除に使用される殺虫剤についてはこちらをご覧ください。
農薬登録を受けた誘引剤を活用した防除方法
ここからは農薬登録を受けた誘引剤を活用した防除方法「大量誘殺法」と「交信かく乱法」について詳しく説明します。大量誘殺法
大量誘殺法は誘引剤で引き寄せた雄を「トラップ」で大量に捕獲することで、雌と雄の個体数のバランスを極端にし、交尾の頻度を減らし、繁殖率を減少させて次世代の害虫を抑制する方法です。仕組みはわかりやすいですが、商品化された害虫が少ない防除方法です。
注意点!
トラップに大量の雄が捕獲されていたとしても、繁殖率が減らない場合がある
大量誘殺法として使用される誘引剤とトラップ
フェロディンSL
【適用作物名】
イモ類、マメ類、ナス科野菜、アブラナ科野菜、レタス、レンコン、ニンジン、ネギ類、イチゴ、タバコ、マメ科牧草など
【適用病害虫】
ハスモンヨトウ雄成虫
【トラップの例】
ファネルトラップ
ニトルアー<アメシロ>
【適用作物名】
樹木類
【適用病害虫】
アメリカシロヒトリ
【専用トラップ】
ニトルアー<モストラップ>
交信かく乱法
本物の雌成虫が発する「性フェロモン」に対して、誘引剤の「合成性フェロモン」の作用によって、雄成虫を混乱させて雌成虫にたどりつけないようにすることで交尾を阻害し、次の世代の害虫を抑制します。注意点!
面積が狭い圃場、風が強い地域、傾斜地では合成性フェロモンの有効成分が流れてしまい、効果が得られないことがある
交信かく乱剤の剤型
【ロープ状製剤】畑の周りに10mほどの間隔に支柱を立てて、ロープ状製剤を固定
【ディスペンサー型製剤】
作物の生育に支障のない高さに支持棒などを立て、誘引剤を含んだディスペンサーを巻き付け固定して圃場に配置
交信かく乱法として使用される誘引剤
ヨトウコンーS
【適用作物名】
シロイチモジヨトウが加害する農作物
【適用病害虫】
シロイチモジヨトウ
コナガコン
【適用作物名】
コナガ、オオタバコガが加害する農作物
【適用病害虫】
コナガ、オオタバコガ
コンフューザーV
【適用作物名】
野菜類、イモ類、豆類(種実)、花き類・観葉植物
【適用病害虫】
コナガ、オオタバコガ、ハスモンヨトウ、タマナギンウワバ、イラクサギンウワバ、ヨトウガ、シロイチモジヨトウ
ハマキコンーN
【適用作物名】
果樹類
【適用病害虫】
リンゴコカクモンハマキ、ミダレカクモンハマキ、リンゴモンハマキ、チャハマキ、チャノコカクモンハマキ
農薬登録を受けていない発生予察用誘引資材
害虫がフェロモンなどの成分に引き寄せられる特性を利用して、誘引された害虫をトラップで捕獲し、発生予察(害虫の発生状況)に用いられるのが誘引資材です。「農薬」として登録された誘引剤のように、害虫を引き寄せて次世代を抑制する目的ではなく、あくまで殺虫剤を効果的に使用するための補助資材であり農薬ではありません。▼発生予察など効果的な農薬散布のポイントのことならこちらをご覧ください。
誘引資材の成分
誘引資材の成分は「性フェロモン」や「集合フェロモン」、「花の香気成分」であり、それぞれに対象害虫が異なるのが特徴です。発生予察用に使用される資材は、誘引剤とは違う組成や濃度になっているため防除には使用できません。発生予察用の誘引資材
例えば「性フェロモン」はチョウ目害虫、「集合フェロモン」はカメムシ類、「花の香気成分」はコガネムシ類やカミキリムシ類で活用されています。発生予察用フェロモン剤の一例
フェロモンEBC アカヒゲホソミドリカスミカメ用
【成分】
性フェロモン
【作物】
稲
【病害虫】
アカヒゲホソミドリカスミカメ雄成虫
【専用トラップ】
専用網円筒トラップ
マダラコール
【成分】
芳香族化合物
【作物名】
マツ
【病害虫】
マツノマダラカミキリ
【トラップの例】
サンケイ式昆虫誘引器(黒)
コガネコールC
【成分】
芳香族化合物
【病害虫】
シロテンハナムグリ、アシナガガネ、ヒラタアオコガネ
【トラップの例】
コガネコール・マダラコール用誘引器(白)
フェロディンSL1
【成分】
性フェロモン
【作物】
イモ類、マメ類、ナス科野菜、アブラナ科野菜など
【病害虫】
ハスモンヨトウ雄成虫
【トラップの例】
住化式粘着トラップ
トラップの種類
フェロモントラップには「粘着トラップ」、「乾式トラップ」、「水盤トラップ」があります。トラップの設置場所は、軽いトラップは枝に吊り下げたり打ち込んだ杭に、野菜類や重さのあるトラップは台の上にするのが良いでしょう。※「水盤トラップ」は食用油などを入れたトラップですが市販されていないため詳しい説明は省略します。
粘着トラップ
粘着シートを使用したトラップでチョウ目害虫や斑点米カメムシ類などの発生予察に用いられ、風雨で粘着力が下がらないよう屋根型の容器に設置します。粘着トラップにはSEトラップ、ウイングトラップ、ハウス型トラップなどがあります。粘着トラップ設置の注意事項
・トラップ使用中に害虫が多く捕獲されたり、ごみやほこりが付着して粘着力の低下が考えられたりしたらトラップをその都度交換し、害虫が捕獲されやすい環境にしておく
・防除対象が夜行性の場合は、街灯や防蛾灯を避けて設置する