ネズミは柱や電線コードなど家のものをかんだり、ふんをまき散らしたりするなど人間にとって悪影響を与える動物としてさまざまな駆除対策がとられてきました。農作物においてもネズミによる被害(平成30年度)は、獣類においてシカ、イノシシ、サル、クマに次いでハクビシンと同じ500haと被害が多くなっています。この農作物に対するネズミの被害を防ぐ方法の一つ農薬「殺鼠剤(さっそざい)」について紹介します。
参考:全国の野生鳥獣による農作物被害状況(平成30年度)(農林水産省)
殺鼠剤とは
殺鼠剤は、農薬として登録のあるものと農薬以外のものがあり、使用目的だけでなく定められている法律も異なります。
農薬としての殺鼠剤
農薬の殺鼠剤は、農薬取締法によって使用方法や使用場所などが定められています。
農作物に害を与えるノネズミを駆除し農作物の保護に使用される薬剤で、農地だけでなく山林や街路樹、貯蔵中の農産物などに使用することができます。
▼農薬の種類や農薬取締法のことならこちらをご覧ください。
農薬以外の殺鼠剤
農薬以外の殺鼠剤は、家庭や職場となる事務所、ペットや家畜を守ることなどに使用される人や動物を守るための薬剤で、薬機法によって定められています。
※薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。医薬品、医療機器等の品質と有効性および安全性を確保するほか、製造・表示・販売・流通・広告などについて定められている法律です。
▼農薬以外の殺鼠剤についてはこちらをご覧ください。
防除用医薬部外品
人または動物の衛生環境を守るためにネズミや蚊、ハエなどの防除を目的としています。ビルや工場内、一般倉庫、一般店舗、一般家庭、飲食店、スーパーマーケットの野菜倉庫などに使用する人体への作用が緩和な薬剤です。
動物用医薬部外品
家畜やペットの衛生環境を守るために、畜鶏舎や付属飼料倉庫、糞尿処理施設など家畜を管理する場所で使用します。
ネズミの種類
ここでは殺鼠剤の対象となるノネズミ類とイエネズミ類について説明していきます。
ノネズミ類
山林や田畑などに生息する「アカネズミ」や「ハタネズミ」などイエネズミ類以外のネズミを総じてノネズミ類といい、農作物や貯蔵中の農産物を食べてしまうネズミです。
※農薬では適用害獣名で「野ソ」と表記されています。
【アカネズミ】
・体長:8~14cm(頭胴長)、7~13cm(尾長)
・体重:20~60g
・体色:背中側は橙褐色、 腹側は白色
森林や田んぼの畦などに穴を掘って生息し、主食は植物の種子などだが昆虫も食べる
【ハタネズミ】
・体長:10~14cm(頭胴長)、3~5cm(尾長)
・体重:20~60g
・体色:茶褐色
河川敷や田畑などに穴を掘って生息し、イネ科やキク科の植物を食べる
イエネズミ類
イエネズミ類の「ハツカネズミ」「クマネズミ」「ドブネズミ」の3種類は、人間の近くで生息するため、建物や電線などをかじったり、ふんによって菌やダニを繁殖させ病気を媒介したりして、直接または間接的に人間に害を与えます。
【ドブネズミ】
・体長:19~28cm(頭胴長)、15~22cm(尾長)
・体重:150~500g
・体色:背中側が暗い灰色、腹側は灰色や黄色っぽい白色
下水の周り、河川や土手など湿った場所に生息し、雑食だがクマネズミと比べて肉や魚など動物性のものを好んで食べる
【クマネズミ】
・形態:体長15~24cm(頭胴長)、15~26cm(尾長)
・体重:150~200g
・体色:背中側が褐色や灰褐色、腹側が黄色っぽい灰色や白色
多くは建物内の天井裏などの乾燥した場所に生息し、主食は種や実だが昆虫やゴキブリも食べる
【ハツカネズミ】
・形態:体長6~9cm(頭胴長)、4~8cm(尾長)
・体重:10~25g
・体色:白色・灰色・黒色などさまざま
田畑や河原、人家や施設の周辺などの幅広い環境に生息し、植物の種子や小型の昆虫などを食べる
農薬である殺鼠剤を使用する際の注意点
農薬である殺鼠剤を使用する際の注意点について説明します。
使用時の注意点
殺鼠剤は使い方を間違えてしまうと、ほかの動物に対しても影響を及ぼす可能性があります。使用する際には天敵などの生物やペット、家畜などに影響が及ばないよう、状況に応じて薬剤を選択し、登録内容をしっかり確認した上で適切に使用しましょう。
薬剤の管理
人やペット、家畜の誤飲や誤食を防ぐために、保管する際は食品と区分し、ほかの容器に移し変えないようにしましょう。
中毒事故の際の対処
ペットや家畜だけでなく、小さなお子さんが手にすることができるような設置・保管場所では、誤飲や誤食が起きやすい傾向があります。特に人畜に対する毒性が高いタイプの殺鼠剤には十分な注意が必要です。
人による殺鼠剤の中毒事故
農薬の容器に記載された内容に基づき応急処置を行い、直ちに医師の診断を受けましょう。中毒事故に遭った本人の意識がなかったり、パニックに陥ったりした場合は、発見者が状況を把握し対処する必要があります。そのため、誤飲または誤食した薬剤と量を確認しておくとよいでしょう。また農薬によって対処方法が異なるため、応急手当の方法、病院を受診すべきかの判断については、日本中毒センターへ連絡をして相談してください。
明らかに異常がある場合は直ちに救急車を呼びましょう。
応急処置などの緊急情報は「公益財団法人 日本中毒情報センター 」へ
・大阪中毒110番:072-727-2499(24時間)
・つくば中毒110番:029-852-9999(9~21時対応)
化学物質(家庭用品、医薬品、農薬などを含む)及び動植物の毒によって起こる急性の中毒について、応急処置などの緊急情報を提供。
これらの情報提供は、一般市民向けに無料で行っていますが、通話料は相談者負担です。
▼農薬を安全に使用するためにはこちらをご覧ください。
動物が殺鼠剤を誤飲・誤食してしまった場合
殺鼠剤の量、誤飲または誤食の経緯を確認した後、かかりつけの獣医に相談、受診しましょう。相談できない場合は、安全で過ごしやすい場所に移動したり、水分を与えたりなどの応急処置をして様子をみましょう。
主な殺鼠剤(農薬)の種類
殺鼠剤(農薬)の主な種類を紹介します。
急性殺鼠剤
一度の摂取で効果を発揮する殺鼠剤で、ネズミが食べると胃酸と反応してガスが発生し、呼吸困難となって死滅するタイプの薬剤です。
薬剤
【ラテミンリン化亜鉛1%】
・剤型:粒状
・有効成分:リン化亜鉛1.0%
・適用害獣名:野ソ
・作物名:野ソが加害する農作物など
・適用場所:農地、山林
【メリーネコりん化亜鉛】
・剤型:粒状
・有効成分:リン化亜鉛1.0%
・適用害獣名:野ソ
・作物名:野ソが加害する農作物等、貯蔵穀物等
・適用場所:農地、山林、倉庫
抗凝血性殺鼠剤
継続的に摂取することで効果を発揮する殺鼠剤で、人やペット、家畜などが誤飲・誤食した場合の安全性が高く、解毒剤(ビタミンK)も使用できるのがこの種類の薬剤の特徴です。
薬剤
【チューモア「コンク」】
・剤型:粉末
・有効成分:ワルファリン1.0%
・適用害獣名:野ソ
・作物名:野ソが加害する農作物等、貯蔵穀物等
・適用場所:農地、山林、倉庫
【コロソ粒剤】
・剤型:粒状
・有効成分:クロロファシノン0.010%
・適用害獣名:野ソ
・作物名:野ソが加害する農作物等、貯蔵穀物等
・適用場所:農耕地、林地、草地及びこれらに隣接する農道等にある営巣地、貯穀倉庫
ネズミの生態と総合的な駆除方法
ネズミの生態を把握し効率よく駆除するために薬剤以外の方法も組み合わせるなど、殺鼠剤を効果的に活用して総合的な駆除を目指しましょう。
ネズミの生態
ネズミは夜行性で、地面の中に掘った穴や木の根元などに住み、植物や小型の昆虫などなんでも食べる雑食性で高い繁殖力をもっています。
体の1/3〜1/4の量の餌を必要とし、餌がなくなると4~5日程度で餓死してしまいます。
殺鼠剤設置場所のポイント
殺鼠剤は殺虫剤や殺菌剤のように散布した薬剤が害虫や病原菌の体内に入り効果を発揮するのではなく、対象であるネズミが薬剤を口から摂取することで効果を発揮します。そのためネズミが来る場所を把握し、殺鼠剤を設置しなければなりません。
農地
ネズミの巣穴に投入
山林
樹木の間や根元に等間隔に設置
貯蔵倉庫
物陰に設置
総合的にネズミを駆除する
ネズミの生態をふまえながら、殺鼠剤以外での駆除方法について見ていきましょう。
物理的「駆除」
【捕獲】
捕獲器や粘着板の設置
【天敵】
鳥類やヘビ、イタチなど
注意点
防鳥ネットなど天敵に影響を与えるものを可能な限り取り除き、ネズミを捕食できるようにしてあげましょう。
物理的「回避」
【封鎖】
農作物の保管場所などにネズミが侵入できないよう隙間を塞ぐ
注意点
小さい隙間にも侵入することができるハツカネズミの侵入対策は大変難しいようです。
【保護】
果樹などの苗木の根や地際部を金網や有刺鉄線などで覆う
注意点
コスト面や作業性が悪いのが難点です。
【撤去】
作物の残渣(ざんさ)などの片付け
※残渣とは枯れた植物や落ち葉
注意点
ネズミの餌になるようなものは置かないように気を付けましょう。
【除草】
田畑や貯蔵庫周辺の除草
注意点
ネズミの隠れる場所を作らないように心がけましょう。
▼除草剤についてはこちらをご覧ください。
化学的「回避」
【忌避剤】味覚忌避剤、臭気忌避剤
ネズミが嫌がる唐辛子やハーブなどを活用して防除
注意点
設置した場所の被害は一時的に減るかもしれませんが、別の場所に被害が及ぶので根本的な防除にはつながりません。
殺鼠剤を効果的に活用!
ネズミによる農作物への被害は、順調に生育している農作物に対してだけでなく、せっかく収穫した作物にも及ぶため、金額だけでなく、精神的ダメージも計り知れません。普段ネズミは私たちに姿を現すことが少ないため発見しにくく、防除が難しい生き物ですが、殺鼠剤や物理的な防除などを上手に活用して農作物や設備に被害を及ぼさせないようにしましょう。


























