目次
ハウス栽培で効果的に炭酸ガスを施用し、収量と品質向上を目指す方法ついて紹介します。
炭酸ガス不足によるハウス栽培の収量・品質への影響
炭酸ガスとは空気中に含まれている二酸化炭素(CO2)のことで、呼吸や化石燃料を燃やした際などに発生します。植物の光合成に必要な炭酸ガス
植物が光合成を行う際に必要な原料は「炭酸ガス」と「水」です。植物に光が当たると、炭酸ガスと水から「糖(デンプン)」を作り出します。この光合成によって作り出された糖が「師管」という管を通って、葉や芽、果実や根といった器管に行き渡り、植物体を作ります。
植物が円滑に光合成を行い生長するためには、炭酸ガスは無くてはならないものです。
▼植物の光合成についてはこちらをご覧ください。
ハウス栽培ではなぜ炭酸ガスが不足するのか?
閉鎖された施設栽培では、炭酸ガスは光合成の原料として使われていくうちに、外気からの供給がないことからどんどん減少していきます。炭酸ガス濃度が外気の半分以下になっているという事例もよくあることです。ハウス栽培の中でも土壌表面をシートで覆わない土耕栽培は、土壌表面から発生している炭酸ガス供給が期待できますが、作物が大きくなってくると土壌からの供給程度では炭酸ガスの量が追いつかないため、やはり人為的に炭酸ガスを施用することが大切です。
ハウス栽培で炭素ガスが不足しやすい時期
炭酸ガスが不足しやすいのは、主にハウスが閉鎖されている時間が長い晩秋、冬、初春です。この時期は日照量(太陽の光の量)も減少し、炭酸ガス不足の影響も重なり、植物の生育が悪くなりやすい傾向があります。
ハウス内で炭酸ガスが不足するとどうなる?
水と光が十分あるハウス内でも炭酸ガスが不足すると、どのような影響が出るのでしょうか。1. 収量が落ちる
光合成を十分に行うことができずに、植物体の元となる糖が減少していくので植物が弱っていきます。特に果実を作る元となる糖が不足するため、トマトやキュウリといった果菜類では収量が減少します。2. 品質が低下する
葉や茎、根や芽など植物体の生長自体が抑制されるため、全体的な品質が低下します。花き類では、花が充実しない、花数が少なくなるなどの品質低下が起こります。
炭酸ガスを効果的に増やすハウス開放術
ハウスを開放して、外気から直接炭酸ガスを取り入れる方法です。ハウス開放のタイミングは日の出から2時間後
ハウス開放のタイミングは植物の光合成のリズムに合わせることが大切です。植物は夜光合成をしませんが、呼吸は行います。この呼吸によって生じた炭酸ガス(二酸化炭素)がハウス内で多くなるので、夜から午前中はハウス内の炭酸ガス濃度は比較的高い場合が多いです。
日の出とともに植物は光合成を始め、日が昇っておよそ2時間位経過すると、光合成の働きによってハウス内の炭酸ガスが不足してきます。ここで換気の目的も兼ねて天窓を開け、外気から炭酸ガスを取り込みます。
※ハウス内の湿度や温度が高い場合は、日の出2時間後を待たずに早めに天窓を開けて換気を行いましょう。
ハウス開放の注意点
お金がかからずに簡単に炭酸ガスをハウス内に取り込むことができますが、寒い冬では冷たい外気も同時に入ってしまうため注意が必要です。天窓の開放で急激にハウス内の温度が低くなってしまう時期は、天窓の開放は少しだけに留めましょう。
ハウス内で炭酸ガスを補充する発生機導入と濃度設定のコツ
ハウス内で炭酸ガスを発生させる機械を導入する方法を紹介します。炭酸ガス発生機を使用するとハウスを締め切ったまま炭酸ガスを補充できるので、寒い冬でもハウス内の温度を下げる心配がありません。
炭酸ガス発生機の種類
灯油を燃やしてハウスの空気中に炭酸ガスを放出する機械や、液化炭酸ガスをチューブなどで株元に送って施用する方法があります。また、CO2センサーと連動して動くタイプのものは、濃度管理も自動的に行ってくれます。そのほかにも換気扇、暖房機との連動、スマートフォンなど外部の通信機器と連携もできるものもあります。
施設園芸 炭酸ガス発生機
特殊設計により完全燃焼し、純良なCO2を供給しますので、作物への悪影響がありません。
小型軽量の本体は、移動がラクで設置スペースも少なくてすみます。
機器の運転は、時間を合わせるだけの簡単操作です。
別売のCO2コントローラを使えば、濃度管理による運転も簡単にできます。
小型軽量の本体は、移動がラクで設置スペースも少なくてすみます。
機器の運転は、時間を合わせるだけの簡単操作です。
別売のCO2コントローラを使えば、濃度管理による運転も簡単にできます。
炭酸ガス発生機の選び方
収穫期のトマトやイチゴ 、バラやキクでは、1時間に10a当たり3〜6kg程度の炭酸ガスが必要です。炭酸ガス発生装置は種類によって、1時間で発生できる炭酸ガスの量が決まっているため、栽培面積と作物に合わせて、購入する装置を決定します。
導入費用や灯油などの燃料費がかかるので、炭酸ガス発生機の設置・導入については、お近くのJA、もしくは農業資材店にご相談ください。
正確な炭酸ガス濃度の計測
炭酸ガス濃度の計測は、なるべく作物の近くで行います。作物から離れた場所や、天窓下などで炭酸ガス濃度の計測をしている場合、計測結果は問題無くても、実際に光合成を行なっている作物の周囲では炭酸ガスが足りていないことがよくあります。
計測は実際に栽培している作物の上や株間など、なるべく近くで行いましょう。
ハウス栽培での炭酸ガスの濃度設定
空気中の炭酸ガスはおよそ400ppmという濃度で含まれています。※ppmとは、大気中の分子100万個中にある対象物質の個数を表す単位のことです。
外気の炭酸ガス濃度は年々変化している
2017年の世界の平均濃度は、前年と比べて2.2ppm増えて405.5ppmでした。
工業化(1750年)以前の平均的な値とされる278ppmと比べて46%も増加しています。
ハウス内の最適な炭酸ガス濃度
炭酸ガス濃度が高くなると光合成量は多くなりますが、同じ温度と光の条件下では、炭酸ガス濃度をどんなに高濃度にしても光合成量は増加しません。例えば、空気中の炭酸ガス濃度よりも高濃度である800ppmから1000ppmへ増加させても、光合成量の増加は数パーセントです。しかし、炭酸ガス濃度が200ppmから400ppmに上がった場合は、20%以上も光合成量が増加します。
基本的には外気の400ppmを下回らないように炭酸ガスを施用しましょう。
外気より高濃度施用をすると、炭酸ガスは濃度の高い方から低い方へと広がる性質があるため、密閉性の悪いハウスでは隙間から漏れていきます。また、高濃度で施用するには燃料も多く使用するため、原料コストもかかるので注意しましょう。
季節ごとの炭酸ガス発生機の使い方と濃度
ハウスを締め切る時間が長くなる秋、冬、春は炭酸ガス発生機を稼働させます。▼季節ごとのハウスの管理のことならこちらをご覧ください。
春と秋の炭酸ガス濃度
天窓を開閉させて温度や湿度を調節する春や秋の時期は、濃度は外気と同じ400ppm程度に設定しておきます。天窓が閉まってハウス内の炭酸ガス濃度が下がった際に、稼働するように設定しておくと無駄炊きの心配がありません。
冬の炭酸ガス濃度
天窓が閉まりっぱなしになる真冬の時期は、外気より少し高めの500ppm以上の濃度に設定すると、光合成量を上げることができます。夏の使い方
ハウスを開け放していることが多い夏季は、炭酸ガスは外気から取り込まれるため炭酸ガス施用の必要はありません。炭酸ガス発生機を使用する1日のタイミング
夜間の植物の呼吸によって、朝はハウス内の炭酸ガス濃度は高い場合が多いため、光合成が始まって炭酸ガスが不足してくる日の出から2時間後位から施用を始めましょう。ハウス栽培の炭酸ガス導入事例
炭酸ガスを導入した研究事例について紹介します。トマトのハウス栽培での炭酸ガス導入事例
・品種:CF桃太郎ヨーク
・栽培方法:低段密植栽培
・収穫期間:収穫期間2012年12月14日~2013年2月30日
・炭酸ガスの原料:液化天然ガス
・施用濃度:800ppmを上限に設定(天窓開放時は外気並みの濃度400ppmで施用を停止)
出典:「スマート農業技術カタログ」(農林水産省)
▼トマト・ミニトマトの栽培はこちらをご覧ください。
キュウリのハウス栽培での炭酸ガス導入事例
・品種:穂木はハイグリーン21、台木はひかりパワーゴールド
・収穫期間:2003年1月1日~3月10日
・施用方法:高さ1mの位置に小孔を開けたビニルチューブを設置
・炭酸ガスの原料:液化天然ガス
・施用時間:7時30分~14時30分
・施用濃度:500ppm
※この実験では14時30分で施用が終わっていますが、実際には日没まで植物は光合成を行なっているため、日の出〜日没の間は施用を続けると良いでしょう。
参考:千葉県
▼キュウリの栽培はこちらをご覧ください。
じつは重要!炭酸ガス施用時のハウス栽培管理の注意点
炭酸ガスを施用する際に、見逃されてしまう栽培管理の注意点について説明します。1. 灌水量と施肥量を増やす
炭酸ガスを施用することによって光合成が活発になると、作物はどんどん生長するので必要な水と肥料の量も多くなります。そのため、灌水と施肥が追いついていないと、作物は水と肥料不足によって生育が悪くなってしまいます。炭酸ガスを施用する場合は、同時に灌水・施肥量を増やしましょう。
▼効果的な施肥についてはこちらをご覧ください。
2. 光合成を意識した温度管理
炭酸ガスを施用すると光合成産物である糖がたくさんできます。糖は温度が高いと転流が促され、葉から芽や根、ほかの葉へと移動するため、光合成が盛んな時間帯は転流を促す温度管理を心がけます。3. 湿度・温度管理
炭酸ガスをせっかく施用しているので外に逃げないようにしたい、また外気を取り込む必要がない、といった理由でハウスを締め切りにしてしまう場合があります。ハウスを締め切ってしまうと湿度が上がりやすくなり、カビ病などの発生の原因となります。また、灯油燃焼式の炭酸ガス発生機はいわゆるストーブと同じ仕組みで暖かい空気も出すため、ハウス内温度は上がりやすくなります。
炭酸ガス発生機を使用する場合は、湿度・温度管理も忘れずに行いましょう。
▼ハウス栽培の湿度・温度管理についてはこちらをご覧ください。
▼植物の病気についてはこちらをご覧ください。
炭酸ガスを効果的に施用してハウス栽培での品質・収量アップを目指そう
炭酸ガスを施用することで、冬場でも作物は光合成量を増加させ生育を促進することができます。導入には経費もかかりますが、使い方によってはそれ以上に収量や品質を向上させ、収入増加が見込めます。栽培作物や面積にあった炭酸ガス施用を取り入れて、今年の冬は寒さや日照不足に負けず、品質、収量アップを目指しましょう!