※生理障害とは、育てる植物に適さない温度、光、土壌の状態によって生長が阻害されること。
高温障害の症状
春から夏の日差しが強い時期に「葉の表面が褐色になっている」「果実の表面が茶色くなり硬くなっている」「株が萎(しお)れている」などの症状が現れたときは高温障害を疑いましょう。高温障害の主な症状
高温による症状は部位によってもさまざまです。葉の症状
葉では焼けたように退色し、株が萎れ枯死することもあります。花の症状
花は特に影響を受けやすく、花粉が出ない、着果しない、花が落ちるなどの症状が出ます。果実の症状
果実も葉と同様に日焼けによる退色や高温による軟化のため収穫、出荷できない状態になります。高温障害の発症原因
作物は生育適温を超えると「光合成がうまくできない」「水分を吸収できない」「植物ホルモンの異常」などのさまざまな理由で障害が起こると考えられます。※植物ホルモンとは、植物が自ら作り出す生育の調節機能に必要な成分のこと。特に開花、着果に大きく関わります。
高温障害が発生しやすい条件
高温と強い日差しが原因で以下のようなことが圃場(ほじょう)に起こり、障害を引き起こします。※圃場とは、田や畑のような農作物を育てる場所のこと。
発生時期
梅雨から夏の気温が高い時期に発生します。気温
生育適温より5~10℃高い温度や極端な高温になることで発生が助長されます。特にハウス栽培は温度が上がりやすく、高温障害が発生しやすい環境です。強日射
葉や果実に強い日差しが当たるとその部分の温度が上がり、光合成や呼吸、代謝異常が起こります。上部の葉や芽、果実で発生しますが、地面からの照り返しによって下部の果実にも被害が及ぶことがあります。土壌水分の過不足
土壌の過剰な湿潤状態や、反対に乾燥状態で発生が多くなります。気温の高温状態に加えて、土壌の過剰な湿潤で「根腐り」、乾燥状態では「水分不足」が要因となって、植物が萎れていきます。高温障害が発生しやすい植物
高温障害は、夏に栽培を行う作物で注意が必要です。イチゴ、トマト、ナスなどの果菜類は、果実や花に被害が及ぶと収穫が困難になり、収入にも多大な影響が出ます。
また、レタスやホウレンソウなどの葉菜類は、葉焼けを起こすため、収穫できない状態になるため注意が必要です。
▼ナスやホウレンソウの生理障害や育て方ならこちらをご覧ください。
イチゴ
葉では日焼けやチップバーンが起こるほか、水分不足のため萎れます。果実は奇形が発生し、軟化しやすくなります。▼チップバーンなどイチゴの生理障害や育て方ならこちらをご覧ください。
トマト
葉では日焼けのため、黄緑色〜灰白色に変色するほか、芽や葉が水分不足のため萎れます。果実は日焼け部分が変色し、硬化、もしくは軟化します。裂果も激しく起こります。また、水分不足にともなうカルシウム不足のため、尻腐れ果が多発します。植物ホルモンの異常で花粉が減少し着果が悪くなるほか、花が落ちることもあります。
▼裂果や尻腐れ果などトマト・ミニトマトの生理障害や育て方ならこちらをご覧ください。
レタス
葉では葉先が褐色になるチップバーンが発生します。結球期に高温にあたると結球異常や外葉が青くなる、外葉が増加するなどの症状が出ます。▼不結球などレタスの生理障害や育て方ならこちらをご覧ください。
高温障害の予防方法
高温障害の予防は圃場の管理で行う方法(耕種的防除方法)と「葉面散布剤」の使用で行います。高温障害を発症させない管理方法
圃場で行う高温障害の予防方法について説明します。1. 直射日光を防ぐ
春から夏に強日射が予想される場合は遮光を行います。遮光には、寒冷紗(かんれいしゃ)などの遮光ネットを使用します。特に苗は日差しに弱いため、苗の時期に使用すると効果的です。ハウス栽培では、遮光カーテンや遮光材を使用します。カーテンを展張する時間帯は季節や作物によって異なります。
▼遮光ネットや寒冷紗のことならこちらをご覧ください。
葉を増やして遮光
真夏の高温時期は、あえてわき芽とりを控えたり、通常取り去る葉を摘葉せずに、わざと残して果実などを守る日陰を作ることも高温障害を防ぐ効果があります。葉が増えることで植物の蒸散量も増えるため、ハウス栽培では施設内の温度を下げる効果もあります。
2. 保水性を向上する
高温時は土壌水分が蒸発しやすいため、乾燥しやすい土にはポリマルチを使用することがおすすめです。反対に、土壌の水分が多過ぎる場合は畝を高くしたり、腐植土、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入します。
▼マルチのことならこちらをご覧ください。
▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
3. ミスト・クーラーの使用
ハウス栽培では、細霧冷房(ミスト)やクーラーを使用して「温度」を下げることができます。※ミストを使用すると「湿度」が上がるため、病気の発生には気をつけましょう。
▼ハウス栽培の温度・湿度管理のことならこちらをご覧ください。
高温障害対策におすすめ肥料と葉面散布剤
肥料や葉面散布で高温障害を予防することもできます。▼肥料のことならこちらをご覧ください。
▼葉面散布のことならこちらをご覧ください。
チップバーン対策には、カルシウム
チップバーンは、葉のカルシウムが不足することで起こりますが、高温時は根からの吸水が追い付かず、葉先までカルシウムが行き渡らないことが原因です。土壌中のカルシウムは、水と一緒に根から吸い上げられるので、土壌の水分を切らさないことが大切です(カルシウム剤の葉面散布も効果的)。トレハロースが水分を保持する
高温時の萎れには、食品にも使われるトレハロース(糖)が効果的です。トレハロースは細胞内に水を保持して、蒸散を抑制させるなどして、萎れを軽減することができます。特に高温期、ホウレンソウやコマツナなどの葉物類の萎れ軽減に効果的で、作物の増収、品質の向上などが期待できます。▼ハウスに吊るすだけで高温障害を予防できる!?「すずみどり」についてはこちらをご覧ください。
高温障害を防ぐために大事なのは圃場の管理
高温障害は強い日差しと、温度上昇によって起こる生理障害です。遮光ネットや遮光カーテンなどを使用して、植物に届く日差しを和らげます。また、圃場の温度を下げることで、水分不足やホルモン障害なども防ぐことができます。日差しが十分に降り注ぐ厳しい真夏の高温時期に、高温障害対策を行い、作物の収量アップを目指しましょう。