乾腐病の症状
「作物の葉が日中萎(しお)れるようになってきた」「土の中の球やイモを掘り出すとカビが生えている」などの症状が現れたときは、乾腐病を疑いましょう。乾腐病の主な症状
乾腐病は主にフザリウム属菌という糸状菌(カビ)によって引き起こされる病気で、土壌中の病原菌が土中部分にある作物や地際部を腐らせます。▼植物の病気の症状についてはこちらの記事もご覧ください
乾腐病に感染する代表的な作物
大きな被害を受ける代表的な作物はタマネギとジャガイモですが、同じ乾腐病でもそれぞれ作物によって発症する段階が異なります。本記事で紹介するタマネギやジャガイモなどに発生する乾腐病の症状と発見のポイントを押さえて、予防と早期発見、防除を心がけましょう。
▼タマネギやジャガイモの病気のことならこちらをご覧ください。
タマネギ乾腐病
菌名 | Fusarium oxysporum |
分類 | 糸状菌/不完全菌類 |
発生時期 | 5〜8月(多発:8月中〜下旬) |
発生適温 | 25〜28℃ |
▼タマネギやニラ、ネギ、ニンニク、ラッキョウの育て方ならこちらをご覧ください。
タマネギ乾腐病の主な症状
主にタマネギの下葉では黄化して湾曲し、球の部分の鱗茎では茎盤部と外側の輪片が褐変します。症状が進むと鱗茎内部が無くなることもあります。貯蔵期間中の症状
タマネギ収穫後の貯蔵期間中にも発生します。茎盤部が灰褐色に変色すると、そこに白いカビが生え、鱗茎内部が腐敗します。土壌伝染性病害と種子伝染
タマネギ乾腐病の病原菌は、土壌中や残渣(ざんさ)内で、主に長期生存が可能な厚膜胞子(こうまくほうし)という形で存在します。この厚膜胞子は、土壌中で5年以上も生存することができます。また、タマネギ乾腐病の病原菌は種子にも付着して生存し、植え付けの際の伝染源となります。
※残渣とは枯れ終えた植物体や落ち葉のこと。
タマネギ乾腐病の病原菌感染
タマネギ乾腐病の病原菌が存在する土壌で、新たに植物が植え付けられると、根で反応して病原菌が発芽し、根の表面や傷口から侵入して植物体内で菌糸(きんし)を蔓延させます。維管束で胞子を多数作って増殖し、道管を閉塞させるため、植物は水や養分を送ることができず、病原菌自体が出す毒素も生育を抑制する原因となります。
※維管束とは植物の内部組織のひとつで、水や養分を運ぶ通路機能のほかに、葉・茎・根など植物の各器官をつなぎ支える組織。
※道管(または導管)とは、水分や養分を運ぶ維管束の構成要素のひとつ。
タマネギ乾腐病が発生しやすい条件
タマネギ乾腐病が発生しやすい環境や土壌について説明します。高温
発生適温は25〜28℃前後と高温で、気温が高い時期に植え付けると発生します。発病は定植2カ月後くらいから徐々に増加して、球の肥大期に急増します。
多肥
窒素肥料を多く施用すると発病を助長します。乾燥
土壌が乾燥していると多発傾向にあります。タマネギ乾腐病に有効な防除方法
タマネギ乾腐病に有効な防除は、圃場の管理で行う方法(耕種的防除方法)と農薬(殺菌剤)の使用で行います。タマネギ乾腐病は、病気が発生してから使用できる農薬は無いため、発生しないように予防することが大切です。
※圃場(ほじょう)とは、田や畑のような農作物を育てる場所のことです。
▼殺菌剤のことならこちらをご覧ください。
1. 植物残渣の処理
前作の枯れた植物に病気が感染している可能性があります。残渣をすき込むと病原菌が増殖する恐れがあるので、圃場外に持ち出して処理しましょう。
2. 土壌の入れ替え、消毒
タマネギ乾腐病が発生した圃場、また発生が心配される圃場は、土壌を消毒するか新しい土を入れます。苗床で使う土も必ず消毒するか、新しい土を使いましょう。▼土壌消毒のことならこちらをご覧ください。
プランター栽培では、新しい土と入れ替えるか、乾腐病が発生した土に水をたっぷり含ませ、透明のビニール袋で包み、太陽の熱を利用して消毒します。
▼プランターの培土処理のことならこちらをご覧ください。
3.保水性の良い圃場づくり
乾燥しやすい土は、保水性を高めるために腐植を投入したり、土壌表面からの水分の蒸発を防ぐためにポリマルチを使用することもおすすめです。▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
▼マルチのことならこちらをご覧ください。
4. 適切な施肥
土壌中の窒素分が多いと病気が多発するため、施肥は適量を行います。土壌分析してから施肥量を決定することをおすすめします。
5. 連作の防止
連作すると土壌中の菌密度が年々高まり、発生が増えます。ほかの作物で輪作を行います。▼連作のことならこちらをご覧ください。
6. 抵抗性品種の利用
タマネギ乾腐病に強い品種を植え付けることも防除には効果的です。※品種の例:スーパー北もみじ、カムイなど
7. 無病の種子と苗、植え付け前の消毒
種、苗はできるだけ無病のものを用います。ジャガイモ乾腐病
菌名 | Fusarium oxysporum Fusarium solani など |
分類 | 糸状菌/不完全菌類 |
発生時期 | 4〜7月 |
▼ジャガイモやニンジン、サトイモの育て方ならこちらをご覧ください。
ジャガイモ乾腐病の主な症状
収穫時などにできた塊茎の傷口や打撲部、ストロン跡を中心に陥没部が生じ徐々に拡大します。湿度が高い環境で腐敗し褐色に変色し、やがてしわが生じて乾燥してしまいます。塊茎内部では空洞部ができ、被害部の表面と空洞部では白~淡紅色のカビが発生します。
※催芽とは発芽を早めて発芽時期を揃えるために、種や種イモを植え付ける前に発芽させること。
※ストロン跡とは、地下茎から出たわき芽とつながっていた部分。ジャガイモが付いていたわき芽のこと。
ジャガイモ乾腐病の病原菌
病原菌は感染したイモ、あるいは土壌中で数年間生存します。貯蔵・輸送中の感染
貯蔵・輸送中に、収穫の際に生じた傷口、病気や生理的症状で弱った部分から病原菌が侵入して感染します。発病したイモのカビの菌糸が、さらに隣のイモに接触して侵入感染することもあります。ジャガイモ乾腐病が発生しやすい条件とは
ジャガイモ乾腐病が発生しやすい貯蔵環境について説明します。高温
貯蔵中の温度が高いと病気が早く進展します。多湿
多湿環境で多発します。低温乾燥状態では病気の発生がやや抑制されます。ジャガイモ乾腐病に有効な防除方法
ジャガイモ乾腐病に有効な圃場でできる防除方法と、収穫、貯蔵時の注意点について説明します。1. 連作をさける
連作をすると病原菌の密度が高くなるため、連作は避けます。2. 無病の種イモを使用する
種イモが感染していると、子世代にも伝染します。種イモは消毒した物を用いましょう。3. 収穫時の注意点
収穫は打撲跡や傷口を作らないようにていねいに収穫します。4. 貯蔵時の注意点
傷や病気があるものは除去して、十分に乾燥させてから貯蔵開始します。貯蔵期間中は低温に保って、過湿状態にならないように換気します。
乾腐病共通の防除対策
土壌には「放線菌」という菌がもともと生息しています。この放線菌は土壌をふかふかにする効果があり、この菌を増やすことによって水はけの良い、乾腐病の病原菌が好まない環境にすることができます。この放線菌はキチン質をエサとするので、病原菌が増殖する前にキチン質の資材を入れて、放線菌を増やすことで乾腐病の予防になります。カニ殻で放線菌を増やす
カニ殻のキチン質が放線菌のエサとなり放線菌が増殖します。カニ殻はホームセンターなどでも販売されています。肥料と一緒に土壌に混ぜて、放線菌を増やしましょう。漢方かすの肥料
漢方を作るときにできる残渣を発酵させて作られ堆肥です。微生物を多く含んでおり、特に放線菌が多いため、乾腐病の予防に効果があります。微生物が土壌の団粒化を促進して土壌環境を改善するため、根張りが良くなる効果もあります。▼土壌の団粒化など土づくりのことならこちらをご覧ください。
乾腐病対策に重要なのは病原菌を持ち込まないこと
乾腐病は発病してからの防除は難しいため、発症しないための環境づくりと土づくりが大切です。乾腐病が発生した圃場、発症が懸念される圃場では、土壌の消毒を行ってください。また、土壌に良いとされる放線菌を増やして、病原菌が住みにくい環境にするのも効果的です。連作に注意し、乾腐病に強い品種を使い、病気にかからないような防除対策を心がけましょう。