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植物におけるマンガンの働き
生物が生長するために必要な微量要素の一つに「マンガン」があります。マンガンは土壌中から根によって吸収されて作物の隅々に行き渡ります。マンガンの働き
マンガンは光合成の働きを助けるために、重要な役割を果たしている成分です。光合成に関わる葉緑体の中には、葉中の約60%のマンガンが存在しており、葉緑体の中に含まれる葉緑素の生成にも関与しています。▼葉緑体など光合成のことならこちらをご覧ください。
マンガン障害について
マンガンが植物体内で不足すると「欠乏症」、過剰になると「過剰症」を引き起こします。マンガンは土壌中に含まれている量が適量であっても、土壌の酸性度や水分量などの影響を受けて土壌に溶け出す量が増減しやすいため、欠乏症と過剰症のどちらも引き起こすことがあります。
マンガン欠乏症とは
マンガンの量が植物体内で不足すると、マンガン欠乏症を発症します。マンガン欠乏症の症状
「葉の葉脈の間の色が薄くなっている(クロロシス)」「褐色の斑点ができている」そんな症状はマンガン欠乏症かもしれません。はじめ上位葉の葉が葉脈を残して淡い緑〜黄色に変色します。その後中位葉まで症状が進み、葉では褐色の斑点がみられるようになります。
マンガンは移行性の悪い成分なので、欠乏しても上位葉(新しい葉)には移動せずに欠乏症状が発生します。
マンガン欠乏症が出やすい植物
ホウレンソウやシュンギクなどは葉先や葉縁から黄化しますが、生育にともなって回復することも多いようです。▼ホウレンソウやシュンギクの育て方ならこちらをご覧ください。
ムギ類
オオムギなどのムギ類に発生しやすく、欠乏すると下葉から下位葉から葉脈間が色抜けします。果樹・花木
ブドウやバラの葉も同様にマンガン欠乏によってクロロシスがみられます。マンガン欠乏症の原因
マンガン欠乏症が引き起こされる原因について説明します。1. pH値が高いアルカリ性の土壌
石灰(カルシウム肥料)の投入の影響などで、土壌pHが高くなるアルカリ性土壌(pH6.5以上)においてマンガン欠乏症が生じます。マンガンは土壌pHの影響を受けやすく、土壌中にマンガンが十分にあったとしても、pHが高いアルカリ性の土壌では吸収できないことがよくあります。
2. 土壌の過湿や過乾燥
老朽化した粘土質の少ない砂質化しているような場所では、マンガンの溶出が進みマンガン欠乏症が起こりやすい傾向があります。また、土壌の過湿や過乾燥、病害虫の食害などによる根傷みで根の機能が弱ると、栄養分の吸収が抑制されマンガン欠乏が起こります。
マンガン欠乏症を発症させない管理や対策方法
マンガン欠乏症を発症しないための管理方法について、説明します。1. 土壌pHの調整
マンガンの吸収に最適なpH6.0〜6.5を目指して調整します。pHの高い圃場(ほじょう)では欠乏症の予防のため石灰(カルシウム肥料)の使用は控え、硫安、硫酸カリなどの酸性に傾ける肥料を使用します。
※圃場とは、田や畑のような農作物を育てる場所のこと。
▼土壌のpH測定のことならこちらをご覧ください。
2. マンガン肥料の施用
土壌のマンガンが不足している場合は硫酸マンガンやBMようりんなどの肥料を投入します(1aあたり2kg程度)。▼肥料の種類のことならこちらをご覧ください。
3. 葉面散布
応急処置としては薬害が出ないように注意して硫酸マンガン液を0.3~0.5%程度に薄めて、1週間おきに葉面散布すると効果的です。▼葉面散布のことならこちらをご覧ください。
4. 客土
老朽化水田から田畑へ転換する場合は、山土などを客土して土質改善とマンガンの補給を行います。マンガン過剰症とは
マンガンの量が植物体内で過剰になると、マンガン過剰症を発症します。マンガン過剰症の症状
主に下位葉に発生して、葉の表面の葉脈に沿ってチョコレート色の斑点を生じます。やがて葉脈のチョコレート色は濃くなり、壊死斑(えしはん)が生じます。また、マンガン過剰により鉄の吸収が抑制されるために鉄欠乏症状が誘発されることもあります。
マンガン過剰症が出やすい植物
マンガン過剰症になりやすい主な作物の症状について紹介します。ウリ科
キュウリ、メロン、スイカなどのウリ科野菜に発生が多くみられます。下位葉から葉脈や葉柄がチョコレート色に褐変し、毛茸(もうじ)の基部も黒く変色します。※毛茸とはウリ科の葉に生える毛のこと。
▼キュウリやスイカの育て方ならこちらをご覧ください。
ナス科
ナス、トマトなどのナス科野菜では葉脈に沿って小さな褐色斑点を生じます。▼ナスやトマトの育て方ならこちらをご覧ください。
イチゴ
イチゴは葉脈の間に褐色の斑点がみられます。いずれもマンガン過剰によって鉄の吸収が阻害されて、新葉が黄化する鉄欠乏症が発生していることがよくあります。
▼イチゴの育て方ならこちらをご覧ください。
マンガン過剰症の原因
マンガン過剰症が引き起こされる原因について説明します。1. pH値が低い酸性土壌
pHが低い酸性土壌(pH5.5以下)になるとマンガン過剰症が生じやすくなります。2. 土壌の過湿、有機物の多施用
通気性の悪い過湿の土壌に有機物を連続的に多量に投与することでもマンガン過剰症が発生しやすくなります。土壌が還元状態(酸素が少ない状態)となると、土壌中にマンガンが大量に溶け出し根から過剰に吸収されます。
3. 土壌の過乾燥、消毒などによる微生物の減少
夏の間栽培を停止していた過剰に乾燥した畑や、太陽熱消毒などの土壌消毒を行った後の畑はマンガン過剰症が起こりやすくなります。このような畑では微生物が大量に死滅し、微生物の遺体から「還元糖」が溶け出し、これに反応してマンガンが土壌中に溶解すると考えられています。
▼太陽熱消毒などの土壌消毒のことならこちらをご覧ください。
マンガン過剰症を発症させない管理や対策方法
マンガン過剰症を発症しないための管理方法について、説明します。1. 土壌pHの調整
pHが低い圃場では過剰症の予防のため、マンガンの吸収に最適なpH6.0〜6.5を目指して、カルシウム肥料などを施用してpH調整します。2. 保水性、排水性の良い土づくり
水はけの悪い圃場は畝を高くしたり、パーライト、バーミキュライト、ヤシガラなどの土壌改良材を投入します。水はけの良過ぎる圃場では、腐植を入れて保水性を高めたり、畝間にマルチを貼って水分の蒸発を抑えます。
▼パーライトやバーミキュライトのことならこちらをご覧ください。
▼マルチのことならこちらをご覧ください。
3. リン酸肥料の施用
リン酸肥料を施用するとマンガンの吸収が抑制されます。▼リン酸障害についてはこちらをご覧ください。
マンガン障害対策に何より大事なのは土壌の酸度と水分量調整
マンガンは欠乏症や過剰症などの障害を起こしやすい成分です。土壌酸度を調整すると解決することが多いので、肥料を投入して適正なpHに調整します。また、土壌の過乾燥、過湿や土質にも影響されるため、保水性と排水性を高めた作物の生育に適した土壌に改良しましょう。