養液栽培とは
養液栽培とは、水に溶かした肥料を植物の株元に届ける栽培方法です。近年飛躍的に収穫量や品質をあげる方法として注目を集めています。周年栽培のトマトでは、環境制御技術と合わせて10a当たり50t収穫したという事例もあります。トマトだけではなく、イチゴやキュウリ、ピーマン、パプリカなどの果菜類で取り入れられるほか、バラやガーベラなどの花き類でも養液栽培が行われています。
▼トマトやイチゴ、キュウリ、ピーマン、パプリカの育て方ならこちらをご覧ください。
養液栽培の種類
養液栽培にはさまざまな培地を使用した方法があります。※培地とは作物の根を支える部分。
養液土耕
土壌に灌水チューブを敷設して行う養液栽培方法です。ベンチなどの設備はいらないため、初期投資が少なくて済みます。▼灌水のことならこちらをご覧ください。
水耕栽培
ベンチやユニットを使用して、液体を流動させて、根に肥料や水を送り続ける栽培方法です。ミツバ、リーフレタス、ホウレンソウなどの葉菜類やトマトで利用されています。
▼レタスやホウレンソウの育て方ならこちらをご覧ください。
固形培地栽培
ロックウールやヤシガラといった無機物もしくは有機物の培地を使って栽培を行う方法です(ベンチに粒状綿や板の培地を入れて栽培する方法や、袋詰めされた隔離培地で栽培する方法などがあります)。トマトやキュウリ、イチゴなどの果菜類、バラやガーベラなどの花き類で導入されています。
▼培地について詳しくはこちらもご覧ください。
養液栽培導入の3つのメリット
養液栽培には、収益アップを可能にするさまざまなメリットがあります。1. 生育促進、収穫量増加
通常、固形肥料を使用する土耕栽培では、栽培開始前に元肥を入れ、その後定期的に追肥を施します。しかし、この方法では植物にとって必要なときにピンポイントで肥料と水を与えられません。一方、養液栽培は少量ずつ(100ml/株など)数回に分けて(10回/日など)、毎日確実に植物の根に液肥を与えることができるので、果菜類では果実が充実して収穫量が増加します。
▼元肥や追肥のことならこちらをご覧ください。
2. 品質向上
上記のような少量多灌水をすることで、水や肥料不足によって起こる生理障害を未然に防ぐことができます。また、時期によって液肥の混入成分を変えて、栽培タイミングに合わせた肥料を届けることも可能です。
▼液肥のことならこちらをご覧ください。
3. 労働量の軽減
ユニットで制御するだけで液肥灌水作業ができるため作業の手間が省けます。施肥や灌水に費やした時間を、ほかの作業時間にあてることができるので、作業の時短、効率アップが期待できます。▼施肥にかかるコストを軽減することならこちらをご覧ください。
養液栽培導入の3つの注意点
養液栽培を導入する前に、必要な計画・確認事項を説明します。1. 導入・維持費用
養液栽培を導入するにあたって、液肥を送るポンプや、液肥を作っておくタンク、灌水チューブなどさまざまな設備の導入が必要になります。養液栽培システムの初期投資は、面積や種類によって金額は変わりますが、数十万〜数百万円かかります。
また、機械故障時の費用も考慮に入れ、経営規模と今後の収穫量の見通しに合った投資を考える必要があります。
【養液土耕栽培システムに必要な機械類の例】
(作物・ハウス・栽培手法によって、タンクの大きさやチューブの長さが異なります。)
液肥混入機と周辺機器 | ・原液タンク ・原液フィルター ・液肥混入機 ・電磁弁 ・減圧弁 ・肥料溶解用攪拌器など |
点滴チューブ関連 | ・点滴チューブ ・ラインエンド ・メールアダプター |
計測機器 | ・pFメーター ・ECメーター ・ミズトール |
▼ECメーターについてはこちらもご覧ください。
2. 収穫量増加による人の管理
養液栽培を導入して収穫量が飛躍的に伸びたものの、収穫する人手を確保するのが困難という場合があります。人件費も増加するので、どこまで人を確保するのか、また従業員の増加のため、人の管理に手間がかかることを考慮に入れましょう。
その点、家族経営の規模に収めておくと、人件費や人の管理にそこまで気を遣わなくて良い面もあります。
どのような経営規模で農業をしていきたいのか考えておきましょう。
3. 養液栽培システムを使いこなせるか
養液栽培は、液肥の混入や灌水時間間隔、量などを制御盤と呼ばれる装置で管理します。このような機器は慣れるまでに少々時間がかかり、機械操作が苦手なタイプや高齢者は、機能を使いこなせないこともあります。せっかく設定を多様に変えられる高価な制御盤を導入したのに、灌水設定は導入した当時のまま、もしくは資材メーカーや農協にお任せといった生産者も珍しくありません。また、液肥を作るための単肥は、1袋25kgのものなどが多く、何袋も運んでタンクに入れて作るのは重労働です。高齢者が安易に初めてしまうと、液肥を作ることも一苦労という状況になってしまいます。
農業経営から考える養液栽培導入の実際
実際に現場ではどのような経営収支となっているのか、土耕から養液栽培に変更したデータの一例を紹介します。養液栽培に変更したトマト栽培の事例
・施設:軒高2m程度・導入経費 (10aあたり):3,810千円(袋培地資材1,091千円、灌水資材1,731千円、工事費・諸経費988千円)
・養液栽培の種類:袋培地(年間4作。袋培地を2列に並べて、栽培期間をずらし、1作が終了後にすぐ2作目を空いている方の袋培地の列で栽培)
導入後の収量・所得が増加!
種苗費、償却費、雇用労賃、販売経費は慣行の土耕栽培より増加しますが、収量は袋培地栽培導入前の16.0tから31.4tと2倍以上に、所得は導入前の1,386千円から導入後の2,063千円に増加しました(10aあたり)。出典:「施設野菜の技術情報のページ」(農林水産省)
ハウスに養液栽培の導入を検討してみましょう
現状の栽培スタイルや農業経営に問題を抱え、改善したいと考えている方は、ハウス栽培の養液栽培の導入を一度検討してみませんか。栽培する作物によっては、養液栽培を導入することで品質向上、収量アップが期待できます。一方で、現実的に導入経費や導入後の経営について、経営収支を含めて考えておくことが重要です。
さまざまな導入モデルや事例を見て、自分の栽培スタイルに合った養液栽培の導入を検討してみましょう。