本記事ではヨトウムシ類の中でも「ヨトウガ」「シロイチモジヨトウ」「ハスモンヨトウ」を中心に、被害の様子や防除の方法を紹介します。
ヨトウムシ類とは
農作物に被害を与える主なヨトウムシ類の種類
「ヨトウ」という名前がつく農業害虫には「ヨトウガ」「シロイチモジヨトウ」「ハスモンヨトウ」「ツマジロクサヨトウ」「アフリカシロナヨトウ」「クサシロキヨトウ」「アワヨトウ」「イネヨトウ」などがいますが、農業害虫においてヨトウムシ類といえば主に「ヨトウガ」「シロイチモジヨトウ」「ハスモンヨトウ」の3種類をさします。ヨトウムシ類の種類の見分け方
ヨトウガ | シロイチモジヨトウ | ハスモンヨトウ | |
学名 | Mamestra brassicae | Spodoptera exigua(Hübner) | Spodoptera litura(Fabricius) |
卵 | まんじゅう型 | 球形 | まんじゅう型 |
卵塊 | 毛で覆われていない | 灰白色〜黄白色の毛で覆われる | 黄土色の毛で覆われる |
若齢幼虫 | ・シャクトリムシのように歩く ・腹脚は4対 | ・狭い隙間を好む ・体の側面に白〜黄色のすじ | 頭の後ろに黒い一対の斑紋 |
老齢幼虫の体長 | 50mm | 30mm | 40mm |
成虫の体長 | 20mm | 12mm | 15〜20mm |
開張時 | 45mm | 28mm | 40mm |
ヨトウムシ類とよく似た害虫との見分け方のポイント!
【ウワバ類】
・卵は一つずつ産卵(まれに2〜3個)
・シャクトリムシのように歩くが、ウワバ類の腹脚は2対しかない
【オオタバコガ】
オオタバコガの幼虫は黒い斑点から毛が生えている
【アオムシ】
アオムシの卵は卵塊ではなく、一つずつ産み付けられる
【コナガ】
コナガは老齢幼虫でも10mmと小さい
ヨトウムシ類の生態
ヨトウムシ類は種類によって発生時期や回数が異なります。発生時期・回数
【ヨトウガ】・成虫:春季(4~6月)と秋季(9~11月)の年2回
・幼虫:6〜10月
【シロイチモジヨトウ・ハスモンヨトウ】
・成虫:年5〜6回発生
・幼虫:6〜11月
生息場所
卵は一塊りで葉裏に産み付けられます。ふ化した幼虫は団体で葉裏に寄生しますが、中齢以降になると分散して作物の地際部などに潜み、夜になると活動を開始して食害し出します。シロイチモジヨトウは、狭い隙間に入り込んだり、葉を自らつづり合わせたりして内側から食害します。
繁殖
ヨトウムシ類の雌成虫は一度に数十〜数百個以上の卵を葉裏に産み付けます。休眠
暖地では夏季、寒地では冬季に蛹(さなぎ)になって休眠しますが、休眠性のない種類は幼虫の状態で越冬します。ヨトウムシ類の被害の特徴
ヨトウムシ類の被害状況は、ほかの害虫の特徴に類似している点も多くみられます。若齢幼虫
中齢〜老齢幼虫
ヨトウムシ類が好む植物
ヨトウムシ類は広範囲の植物を食害しますが、一番被害が多いのはアブラナ科のキャベツなどの葉菜類です。なかでもヨトウガは、イネ科以外のほとんどの野菜類を食害します。ヨトウムシ類に有効な5つの対策
1. 残渣の処理
ヨトウムシ類の卵は葉に産み付けられることから、整枝や摘葉、残渣(ざんさ)には卵塊がある可能性があります。不要な茎葉は圃場の外に持ち出して処理しましょう。※残渣とは、圃場などに残った生育(栽培)を終え枯れた植物体。
2. 防虫ネットを利用する
ヨトウムシ類には目合1mm以下の防虫ネット(ヨトウガ類には2〜4mm以下)を設置します。ハウス栽培では側面や出入口、妻面、換気扇口、天窓など開口部に、露地栽培では作物をしっかり防虫ネットで被覆しましょう。このとき、より目合いの小さい防虫ネットを使用することでヨトウムシ類の侵入を防ぐことは可能ですが、反面ハウス内の風通しが悪くなったり、湿気がこもったりすることも。新たな病害虫を発生させる要因ともなるので、最適な目合いの防虫ネットを使用しましょう。
サンサンネット EX2000
ヨトウムシ類の防除には目合1mm以下のものを。
透水性、透光性、通気性に優れた防虫ネットです。
・目合い:1mm
・サイズ:巾230cm×長さ100m
透水性、透光性、通気性に優れた防虫ネットです。
・目合い:1mm
・サイズ:巾230cm×長さ100m
3. 黄色蛍光灯
黄色蛍光灯を設置することで夜間に活動するヨトウムシ類の忌避に効果があります。活動を制御するには最低1ルクス以上の光が必要なので、設置する黄色蛍光灯の位置や高さについて調整が必要です。せっかく光を当てても、葉の影になってしまうこともあります。作物ごとに黄色蛍光灯を当てる向きにも配慮しましょう。
また、ホウレンソウなど作物によっては日長感受性の問題から点灯には十分注意が必要です。
▼ホウレンソウの日長条件のことならこちらをご覧ください。
黄色蛍光ランプ FL40SYF
虫の飛来を抑えるために果樹園のほか食品工場や畜舎でも使用される黄色蛍光ランプです。
・管長:1,198mm
・管径:32.5mm
・質量:273g
・口金:G13
・ランプ電流:0.42A
・全光束:2,200lm
・定格寿命:10,000時間
・管長:1,198mm
・管径:32.5mm
・質量:273g
・口金:G13
・ランプ電流:0.42A
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・定格寿命:10,000時間
4. 性フェロモン剤
通常ヨトウムシ類の雄は雌の匂い(性フェロモン)をたよりに交尾の相手を探し当てます。性フェロモン剤は、性フェロモンを人工的に合成した合成性フェロモンによって、雄が本物の雌にたどり着けないという「交信かく乱」を目的として作られたものです。
この性フェロモン剤は農薬取締法に基づき「農薬」として登録されていますが、毒性が極めて低いことから有機JASでも使用可能。しかも効果が持続する期間が長いという特徴があります。
※使用する作物やヨトウムシ類の種類によってロープ状やチューブ(コンフューザーV・ヨトウコンーS・ヨトウコンーH、コナガコンープラス)などの性フェロモン剤もあります。
フェロディンSL ファネルトラップ
ハスモンヨトウの雌成虫が放出する性フェロモンを製剤化した製品で、雄成虫を大量に誘引します。
トラップとの併用により雄成虫を捕殺します。
【フェロディンSL】
・個数:2個
・有効成分:リトルアA(4.55mg/1個)、リトルアB(0.45mg/1個)
【ファネルトラップ】
・個数:1個
トラップとの併用により雄成虫を捕殺します。
【フェロディンSL】
・個数:2個
・有効成分:リトルアA(4.55mg/1個)、リトルアB(0.45mg/1個)
【ファネルトラップ】
・個数:1個
5. 農薬(殺虫剤)
老齢幼虫は日中作物の地際に潜むため、農薬もかかりづらいので、殺虫剤の使用はできるだけ葉に寄生する若齢幼虫期に行うようにしましょう。 スピノエース顆粒水和剤
微生物がつくる天然由来の殺虫剤で、環境への負荷が比較的少なく、散布後は太陽光線や微生物の働きにより、水や炭酸ガスなどに代謝されます。
速効性、残効性に優れ難防除害虫にも高い効果を示します。
・容量:100g
・有効成分:スピノサド(25.0%)
速効性、残効性に優れ難防除害虫にも高い効果を示します。
・容量:100g
・有効成分:スピノサド(25.0%)
ゼンターリ顆粒水和剤
薬剤抵抗性の高いコナガやヨトウムシに対しても効果が期待できます。
マルハナバチ、ミツバチ、天敵などへの影響が少なく、環境に優しい薬剤です。
主な野菜類で使用可能ですが、ハクサイには使うことはできません。
・容量:100g
・有効成分:バチルス チューリンゲンシス菌の生芽胞及び産生結晶毒素(10.0%)
マルハナバチ、ミツバチ、天敵などへの影響が少なく、環境に優しい薬剤です。
主な野菜類で使用可能ですが、ハクサイには使うことはできません。
・容量:100g
・有効成分:バチルス チューリンゲンシス菌の生芽胞及び産生結晶毒素(10.0%)
デルフィン顆粒水和剤
天敵類や蜂に影響がなく、害虫の異常増殖(リサージェンス)の心配がありません。
有機農産物にも使用できる生物農薬です。
・容量:100g
・有効成分:バチルス チューリンゲンシス菌の生芽胞及び産生結晶毒素(10.0%)
有機農産物にも使用できる生物農薬です。
・容量:100g
・有効成分:バチルス チューリンゲンシス菌の生芽胞及び産生結晶毒素(10.0%)
▼生物農薬のことならこちらをご覧ください。
ヨトウムシ類の薬剤抵抗性
ヨトウムシ類は、農薬に対する耐性が強くなってきています。シロイチモジヨトウとハスモンヨトウなどで有機リン剤、カーバメイト剤、合成ピレスロイド剤などの薬剤抵抗性が報告されています。ローテンション散布を心がける
同じ農薬を続けて使用せず、ヨトウムシ類が薬剤抵抗性を持ちづらくなるように異なる作用性の農薬をローテーション散布しましょう。▼薬剤抵抗性やローテーション散布のことならこちらをご覧ください。
ヨトウムシ類には総合的な防除対策
紹介されたアイテム
サンサンネット EX2000
サンサンネット N7000
黄色蛍光ランプ FL40SYF
フェロディンSL ファネルトラップ
ディアナSC
スピノエース顆粒水和剤
ゼンターリ顆粒水和剤
デルフィン顆粒水和剤