本記事では、培地の種類別のメリット・デメリットについて、おすすめしたい隔離培地栽培のことなどについて紹介します。
作物に最適な環境をつくるハウス栽培
閉鎖された環境で植物を育てるハウス栽培は、季節や天候に左右されず、1年を通して作物を育てることができます。そのほかに害虫の被害が露地より少ないこともメリットとしてあげられますが、さらに優れていることは根に関わる培地を選べる点です。ハウス栽培のメリットは培地が選択できること
作物の根を支える部分を培地といいますが、植物は根から水や肥料を吸収するため、この培地選びはとても重要です。作物に合った培地を選ぶことで生育促進、収量アップを左右するからです。同じように露地栽培で根の部分を快適な環境にしようと思えば、大掛かりな土入れや土壌改良が必要になります。しかし、ハウス栽培の特に「隔離培地栽培」ではもっと気軽に、まるで着替えるように培地を選ぶことができます。
培地の種類別メリット・デメリット
栽培培地の種類とそのメリット・デメリットについて説明します。土耕栽培
土壌を培地として栽培を行います。植物が存分に根を張り巡らせて肥料と水を吸収することができます。最も失敗例が少ない、ハウス栽培をスタートするのに最適な栽培方法です。
土耕栽培のメリット
初期費用が少なく工事なども必要ないため、準備にかかる時間も短いのでハウス栽培初心者でも難なく始められます。また、土壌は緩衝能力が高く、植物が自由に根を張り巡らせて水や肥料を吸収するため、灌水(かんすい)や施肥の失敗が少ないのも特徴です。
※灌水とは、水を注ぐこと、植物に水を与えること。
土耕栽培のデメリット
青枯病や立枯病などの病気が発生すると、土壌全体に広がってしまい被害が大きくなる場合があります。▼青枯病や立枯病のことならこちらをご覧ください。
土壌は一気に取り替えることができないため、肥料の塩分が蓄積して起こる塩類集積や、土が古くなり砂質化して保肥力を失ってしまうことが度々起こります。
※塩類とは肥料に含まれ土壌中に溶出したナトリウムやマグネシウムなどの成分のことで、塩類集積とは肥料の中の塩基類が土壌表層に蓄積されて根の働きを弱めること。電気伝導度(EC)を測定することで土壌中の塩類濃度の指標とすることができます。
▼ECについてはこちらをご覧ください。
▼土壌改良についてはこちらをご覧ください。
水耕栽培
ベンチやユニットを使用して、液体を流動させて根に肥料や水を送り続ける栽培方法です。ミツバ、リーフレタス、ホウレンソウ、などの葉菜類やトマトで利用されています。水耕栽培のメリット
豊富な水分と肥料分、酸素を根に絶え間なく送り続けるので、収量アップが狙えます。水耕栽培のデメリット
大規模なベンチやユニットの設置工事が必要で、栽培を始めるまでに時間とお金がかかります。直接根に肥料を与えるため、液肥の量を間違うとすぐに生育に影響が出ます。液体が圃場(ほじょう)全体を循環しているため、液体の消毒装置が無ければ病気が発生すると一気に広がってしまうという場合もあります。
※圃場とは、田や畑のような農作物を育てる場所のこと
固形培地栽培
ロックウールやヤシガラといった無機物もしくは有機物の培地を使って栽培を行う方法です(ベンチに粒状綿や板の培地を入れて栽培する方法や、袋詰めされた隔離培地で栽培する方法などがあります)。トマトやキュウリ、イチゴなどの果菜類、バラやガーベラなどの花き類で導入されています。
▼トマトやキュウリ、イチゴの育て方ならこちらをご覧ください。
固形培地栽培のメリット
土壌よりも空気層を含む培地を使用するため、水はけが良く、根傷みが少ないことが特徴です。水耕栽培と違って培地自体が水分や肥料分を保つため土耕の感覚が応用でき、失敗が少なく栽培できます。
固形培地栽培のデメリット
液肥を株元に送り栽培するため灌水チューブや灌水システムなどの初期費用がかかります。培地は永久的に使えるものではないため、取り替えの費用が数年に一度発生します。
また、病気が発生すると同じベンチ内、培地内では広がる恐れもあります。
▼灌水チューブのことならこちらをご覧ください。
イチオシ!隔離培地とは
土耕で栽培を続けていると、連作による土壌病害の発生や、肥料の蓄積による塩類集積などさまざまな土壌の問題が発生します。そんなときは培地が袋詰めされている隔離培地がおすすめです。▼連作障害のことならこちらをご覧ください。
隔離培地の特徴
ロックウールやヤシガラ、土などがビニール製のバックに袋詰めされた培地のことです。一つの袋は大きくても長さ1m程度で、大人が一人で持ち運びできる大きさです。ビニール製のバックの上部に穴を開けて植え付けし、下部には排水用の穴を開けます。トマト、キュウリ、パプリカ、イチゴなどで導入実績があります。
▼パプリカの育て方ならこちらをご覧ください。
隔離培地のメリット
本格的な水耕ベンチを導入するまでの費用や技術が無いといった方も、土耕栽培と同じ感覚で始めることができる隔離培地を導入して得られるメリットについて説明します。1. 病気が広がらない
青枯病や根腐病といった根から感染する土壌病害は、土耕栽培だと圃場全体に病原菌が蔓延し、全ての植物が枯れてしまうこともありますが、その点隔離培地だと病気が発生しても、病気を発症した培地を簡単に外に持ち出して処分することができます。▼根腐病のことならこちらをご覧ください。
2. 水分、肥料がダイレクトに効く
土耕栽培では植物の根は地中深くに張り巡らされているため、肥料や水分の吸収が遅い傾向がありますが、隔離培地では根域(こんいき)が制限されているため、与えた水や肥料は植物に吸収されすぐに効果があらわれます。開花期や着果期など、ここぞというときに水と肥料を効かせたいときにおすすめです。
3. 肥料の洗い流しなどの調節も自由
土耕栽培は、一度塩類集積を起こすと元に戻りにくい傾向がありますが、隔離培地栽培では多めの水で袋詰めされた培地内の肥料分を洗い流すことができます。4. 古い培地は手軽に更新
古くなった培地で育てていると、作物の生育が悪くなることがありますが、隔離培地栽培では袋詰めされた培地ごと交換ができるため、新しい培地で心機一転栽培を始められます。5. 栽培方法がマニュアル化されている
隔離培地栽培に必要な施肥量、灌水量は作物ごとにマニュアル化されているものが多いので、灌水システムと合わせて使用すると機械に任せて栽培することができます。▼効果的な施肥の方法についてはこちらもご覧ください。
隔離培地のデメリット
隔離培地を導入して得られるデメリットについて説明します。1. 管理方法を間違うと影響大
根が隔離された培地内にしか行き場がないため、肥料や水の与え方を間違うとすぐに生育に影響が出てしまいます。特に夏場は水分管理を誤ると深刻な作物の萎(しお)れを引き起こします。2. 培地の買い替えが必要
隔離培地は長期間使用していると、古い根が詰まることで通気性もなくなり、根が窒息状態になることがあります。栽培培地にもよりますが、1〜5年程度で培地を新しいものに交換する必要があります。隔離培地の種類
袋詰めされた隔離培地には、さまざまな資材が使用されています。ロックウールマット
天然の鉱物を使用した培地です。トマトやキュウリ、パプリカ、ナス、バラ、ガーベラなどの栽培で使われています。無機物を使用しているため肥料の吸着が少なく、与えた肥料がダイレクトに根に吸収されます。また、繊維の隙間に水分がよく保持されるため、水分と肥料によって果実肥大が促進されます。
土耕などほかの培地と比較すると水分が切れが早いため、生長段階で必要な灌水量をしっかり把握しておく必要があります。
ヤシガラ
ココヤシなどの植物繊維を袋に詰めた有機物の培地なので、保水性と保肥性が良いのが特徴です。トマトやパプリカ、イチゴ、キュウリ、バラなどの栽培培地として使用されています。排水性はロックウールに比べると劣るので、水分が多過ぎると夜間の徒長などを起こすため、水分管理には注意が必要です。
無菌の土(袋培地)
無菌の土を袋に詰めた培地です。主にトマトやメロン、ガーベラなどの栽培で使われています。土耕に近い間隔で栽培することができます。肥料持ち、水持ちは3つの培地の中で最も良いですが、排水性があまり良くないというデメリットもあります。
育て方によっては塩類集積を起こすこともあるので、毎作ごとに水で洗い流す作業が必要です。
参考:愛知県農業総合試験場 トマト袋培地マニュアル
※養液栽培システムや袋培地の導入、栽培方法はお近くの農協、普及センター、農業資材店にご相談ください。