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ライター - AGRI PICK 編集部
AGRI PICKの運営・編集スタッフ。農業者や家庭菜園・ガーデニングを楽しむ方に向けて、栽培のコツや便利な農作業グッズなどのお役立ち情報を配信しています。これから農業を始めたい・学びたい方に向けた、栽培の基礎知識や、農業の求人・就農に関する情報も。…続きを読む

出典:写真AC
ジャンボサイズで肉厚、さわやかな香りと甘みが持ち味の万願寺とうがらし。今では全国各地で手に入れることができますが、元々は京都の限られた地域だけで栽培されていた野菜です。栽培方法はピーマンやししとうとよく似ていて手がかからず、追肥などの管理作業をきちんと行えば、初夏から秋にかけて次々と収穫できます。果菜類の中では省スペースで育てられるので、ベランダ菜園にもおすすめ!食卓の主役にもなるおいしい万願寺とうがらしを、この夏は育ててみませんか?
万願寺とうがらしって辛い?

出典:写真AC
ナス科トウガラシ属の野菜のなかで、ピーマンやししとうのように辛みのないものは「甘とうがらし」に分類されます。万願寺とうがらしもこの仲間で、基本的には辛みがありません。ただし、ししとうにときどき激辛があるように、万願寺とうがらしも辛くなるケースがあります。辛い品種の花粉を受粉すると辛くなる、という説がありますが、そうではなく、原因は水切れや肥料切れ、害虫被害などのストレスがかかること。特に栽培の後半は株の体力が衰えてくるため、秋になると辛い実がつきやすくなるようです。栽培中は極端な乾燥や肥料切れに注意し、株を元気に育てることが、甘くておいしい実を収穫するためのポイントになります。それでも辛い実が増えてきたら、そろそろ収穫終了のサインだと考えましょう。
万願寺とうがらし栽培の特徴

出典:写真AC
栽培カレンダー

イラスト:rie
・種まき(育苗):2~3月
・植え付け:4~5月
・収穫:7~11月
※温暖(中間)地基準
栽培適温
30~35℃
万願寺とうがらしの育て方のポイント
- 定植の2カ月前に種まきし、25~30℃に設定した温床で温度管理をしながら育苗する
- 苗に1番花が咲いたら、畑に定植する
- 定植後は、すぐに防虫トンネルを設置する
- 苗の背丈が伸び、天井に頭がつくくらいになったら防虫トンネルを外し、支柱を立てる
- 果実が10cmほどの大きさに育ったら、はさみで収穫する
地植え編|万願寺とうがらしの栽培方法

画像提供:福田俊
万願寺とうがらしの種を手に入れたら、早速栽培をスタートしましょう!栽培期間は、種まきから収穫まで150日ほどが目安になります。
Step1. 種まき(育苗)

画像提供:福田俊

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定植の2カ月前となる、2~3月に種をまいて育苗します。種まきの目安は、12cmポットに20粒ほど。指で5mm程度の深さの穴をあけ、種を1粒まいたら手で軽く土を鎮圧してください。その後、ポットはできるだけ日当たりの良い場所に置き、25~30℃に設定した温床で温度管理します。水やりは、土の表面が乾いたらたっぷり与えましょう。
種が発芽し、本葉が1枚出たら、7.5cmポットに1本ずつ移植します。その後もポットを大きくしながら育苗を続けていきましょう。
万願寺とうがらし 種
京都府舞鶴地方を起源とした、長系・大型種の万願寺とうがらしです。ピーマン並みに厚く、やわらかな果肉を味わえます。
・内容量:小袋(1.2ml)
「家庭用育苗器」はこちらの記事でチェック!
Step2. 土作り

画像提供:福田俊
土作りはどの野菜も一緒ですが、有機物が豊富に含まれ、それを分解する微生物がいっぱい活動しているふかふかの土が理想です。畝たてのときに、ぼかし肥料を1平米あたり300g、草木灰を100g、堆肥を5kgほど漉き込むと良いでしょう。
福田先生解説!「有機質たっぷりの土づくり」
福田先生直伝!ぼかし肥料の作り方
草木灰の詳しい情報はこちらの記事で!
Step3. 苗の植え付け

画像提供:福田俊

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苗に一番花が咲き始めたら、定植のタイミングです。土に穴をあけ、根鉢のまわりに土が密着するように周囲をしっかり押さえましょう。
万願寺とうがらしは、ポットの土が1cmぐらい出るように浅植えすると、元気よく育ち、病気にもなりにくくなります。
万願寺とうがらしに必要な栽培スペースと植え付け方

図:AGRI PICK編集部
・A:畝幅/70cm
・B:畝の高さ/10cm
・C:株間/30cm
定植する際は、マルチの使用がおすすめ!

画像提供:福田俊
マルチは雨による泥はねを防ぎ、病気にかかりにくくする効果があります。ほかにも、土の温度や湿度を保ち、雑草を防ぐというメリットも。収穫が終わるまでマルチはそのまま設置しておきましょう。
日本マタイ 使い切り黒マルチ
地温を高め、土中水分の蒸発を抑制する黒マルチ。光をさえぎるため、雑草を防ぎます。家庭菜園に最適な使い切りサイズです。
・サイズ:135cm×5m
フリーホールマルチ シルバー
作物に合わせ、好きな場所でミシン目に沿ってシートをはがすことができるマルチ。光を反射するシルバーカラーなので、防虫効果もあります。
・サイズ:幅95×長さ50×孔径80mm
マルチシートの目的と張り方のポイントなど、詳しくはこちら!
Step4. 防虫トンネルの設置
万願寺とうがらしは害虫がつきやすいため、防虫トンネルで成虫の飛来を防ぎます。苗を植え付け終わったら、すぐに設置しましょう。
5月中旬ごろになると、苗が成長して背丈も高くなり、頭がトンネルにぶつかるようになります。そのような状態になったら、防虫トンネルを外してください。
防虫ネットの張り方や選び方はこちらの記事で!
Step5. 仮支柱の設置
苗の背丈が数十cmほどに伸びたら、仮支柱を設置します。50cm程度の長さの支柱に、1株ずつひもで誘引しましょう。
仮支柱は、苗が倒れないものであれば何でもOKです。ダンポールを短く切ったものでも良いでしょう。苗が丈夫でひょろひょろしていなければ、仮支柱はしなくても大丈夫ですよ。
Step6. 本支柱の設置
株の背が伸び、防虫トンネルを外したら、本支柱を設置します。株の中央に120~150cm程度の長さの支柱を立て、ひもや園芸用の輪ゴムなどで固定しましょう。株の背が伸びてきたら、順次ひもを結んで誘引していきます。
イボ付 園芸支柱
スチールにポリエチレンコーティングを施した、さびにくい支柱。目印になるイボがついているので、高さをそろえたり、埋め込みを均一にする際に便利です。
・サイズ:径1.1×長さ150cm
ゴムスビー
支柱などの結束に使う園芸用輪ゴムです。まきつけてかけるだけと、使い方はとっても簡単!誰でも素早く結束ができます。
・サイズ:輪の直径/約45mm、ゴムの幅/5mm
・内容量:約250個
列に植えた場合は、上からひもを垂らして誘引する方法もおすすめ!
画像提供:福田俊
Step1. 列の両端に支柱を立てる
Step2. 両端の支柱の上に、横渡の支柱をつける
Step3. 横渡にした支柱に、各株の枝の数ぶんのひもを結び、上から垂らす
Step4. 垂らしたひもを各株の茎に結び、枝にもひもを回しつける
Step7. 追肥
定植後は、液肥を毎週与えます。通路中耕するときに、ぼかし肥料を通路に振っても良いでしょう。
通路中耕とは、踏み固められた通路(畝と畝の間)の土を耕し、空気や水分の通りを良くすることです。土中に空気が入ると、微生物が活発に活動するようになり、根もよく伸びます。その結果、地上部の生育も良くなるのです。
通路中耕は、果実がなり始め、根が通路へ向かうようになったタイミングで行います。通路にスコップを深く差し込み、そのまま抜かずに手前にひき、土にすき間を作ります。次にスコップを抜いて後方に10cmぐらい下がり、同じ作業を繰り返します。ぼかし肥料は、事前に通路に振っておきましょう。
ぼかし肥料&液肥の作り方はこちらの記事で!
Step8. 収穫

画像提供:福田俊
果実が10cmほどの大きさになったら、はさみで果梗(かこう)を切って収穫します。
初期のころは、果実が少し小さくても収穫し、株を育てるようにしましょう!
プランター編|万願寺とうがらしの栽培方法

出典:PIXTA
万願寺とうがらしはプランターでも栽培可能!ベランダなどの狭いスペースしかないという人も、ぜひ挑戦してみてください。
Step1. プランターの準備
万願寺とうがらしをプランターで育てる場合は、尺鉢(10号鉢)以上の大きさのものを使用しましょう。プランターで育てられる株は、10号鉢であれば1株が目安です。
プランターを用意したら、底に鉢底ネットを敷き、底面が見えなくなるくらい鉢底石を入れます。野菜用培養土を縁から2cmほど下まで入れ、水で湿らせておきましょう。
Step2. 苗の植え付け
プランターの中央に苗のポットと同じ大きさの穴を掘ります。ポットをはずしたら、根鉢が1cm程度出るように植えつけ、たっぷり水やりします。植え付け後は日当たりの良い場所に置き、土が乾いたら水やりしながら育てましょう。
Step3. 本支柱立て
株が成長してきたら、長さ120~150cm程度の支柱を株の脇にまっすぐさし、中心の太い茎にひもをかけて誘引します。
Step4. 追肥
株元に、固型のぼかし肥料を置きます。
Step5. 収穫
果実の長さが10cmほどになったものから収穫します。多少小さめでも味は変わらないので、株を疲れさせないようにどんどん収穫しましょう。
万願寺とうがらし栽培で気をつけるべき病害虫

出典:写真AC
万願寺とうがらしにつきやすい害虫は、ヨトウムシ、カメムシ、アブラムシなどです。
ヨトウムシ
葉裏に産卵され、孵化したヨトウガの幼虫(ヨトウムシ)が葉を食害します。日中は株元の土中に潜って隠れており、夜間に活動するため、見つけにくい厄介な害虫です。放置すると株全体が食害されてしまうこともあり、早めの対策が必要になります。
詳しいヨトウムシ対策はこちらをチェック!
カメムシ
成虫や幼虫が、とげのような口針を作物に刺して吸汁する害虫です。また、臭い匂いを放つことから「ヘコキムシ」や「ヘクサムシ」などとも呼ばれます。カメムシ類は雑草に生息するため、畑のまわりの除草をこまめに行うと対策になります。
詳しいカメムシ対策はこちらをチェック!
アブラムシ
体長2〜4mmの小さな昆虫で、野菜だけでなく草花や樹木などあらゆる植物につき、やわらかい新芽の部分などに群がって植物の汁を吸います。また、吸汁のみならず、植物から植物へと移動するときに、すす病やモザイク病などのウィルスを媒介する厄介な害虫です。成虫の飛来を防ぐには、シルバーマルチが有効。
詳しいアブラムシ対策はこちらをチェック!
福田流!万願寺とうがらしの病気予防法
病気の対策には、ヨモギ発酵液(天恵緑汁)の散布がおすすめです。500倍に薄めたものを定期的にかけていれば、善玉菌が優勢の環境になり、病気は出ません!
ヨモギ発酵液(天恵緑汁)の作り方は、こちらの記事で紹介しています!
万願寺とうがらしのおすすめレシピ

出典:PIXTA
ビタミンたっぷりで食べごたえも十分な万願寺とうがらしは、食べ方もバリエーション豊富。メインのおかずや常備菜、お酒のおつまみまで幅広く活躍します。簡単ですぐに作れるレシピをご紹介しましょう。
私は、万願寺とうがらしを炒め物や肉巻きにしてよく食べます。
万願寺とうがらしの肉巻き
万願寺とうがらしに豚肉を巻いた、ボリュームのある一品。お弁当のおかずにもぴったりです!
作り方
万願寺とうがらしを洗ったら、味が染み込みやすいように何箇所かに切り込みを入れておきます。豚バラ肉を2枚並べ、その上に万願寺とうがらしを置いてくるくると巻き、表面に薄く片栗粉をまぶします。フライパンに油を熱したら、肉巻きを入れて焼き色がつくまで熱します。しょうゆ・みりんを各大さじ1、砂糖大さじ1/2、酒大さじ2を加え、ふたをして弱火で1分ほど蒸し焼きにしたら完成です。
万願寺とうがらしとカリカリじゃこの炒め物
冷めてもおいしく食べられて、お弁当にも重宝するヘルシーな常備菜。じゃこをツナ缶や塩昆布に替えてもOKです。
作り方
万願寺とうがらし200gは洗って軸を切り落とし、縦半分に切って種を取り除きます。フライパンにゴマ油をひいて熱し、ちりめんじゃこ20gを入れて焦げないように混ぜながら炒め、色が変わってきたら万願寺とうがらしを加えてさらに炒めます。万願寺とうがらしがしんなりしたら、酒・しょうゆ各大さじ1、砂糖小さじ1を加え、全体に味を絡めるように混ぜながら炒めます。水分が軽く飛んでぱらりとなったら完成です。
スペイン風万願寺とうがらしの素揚げ
スペインのバルの定番料理“ピミエントス・デ・パドロン”をアレンジした、ワインにぴったりのおつまみ。本場ではししとうに似た小さな甘とうがらしを使いますが、食べごたえのある万願寺とうがらしでも、もちろんおいしく作れます。
作り方
万願寺とうがらしは洗ってよく水けを拭き取り、つまようじで数カ所穴をあけます。深型のフライパンなどに2cmほどオリーブオイルを入れて180℃に熱し、万願寺とうがらしを入れて、表面が色づくくらいにしっかり揚げます。油を切って盛り付け、お好みの塩をふって食べます。
万願寺とうがらしの焼きびたし
暑い時期にぴったりの冷たい常備菜。作り置きもできるので、そうめんやざるそばなどの簡単な食事に、あと一品足したいときに便利です。軽く焼き目をつけて香ばしく仕上げましょう。
作り方
万願寺とうがらし200gは洗って軸を切り落とし、つまようじで数カ所穴をあけます。鍋にだし汁100ml、しょうゆ・みりん各大さじ1~1.5を入れて火にかけ、煮立ったらすぐに火を止め、粗熱が取れたら保存容器に移します。フライパンに油を熱して万願寺とうがらしを入れ、焦がさないように箸で転がしながら焼きます。表面に焼き色がついたものから取り出し、だし汁に浸けます。20~30分味をなじませてから食べましょう。
ご当地野菜を育てる楽しみ

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日本には、それぞれの土地で古くから育まれてきた伝統的な作物がたくさんあります。万願寺とうがらしもその一つ。ただ味わうだけでなく、そのルーツを知ったり、自ら育ててみたりすることでより理解が深まり、食の楽しみも大きく広がります。万願寺とうがらしは栽培も調理も簡単ですから、初めて野菜を育てる方も、ぜひ気軽に挑戦してみてくださいね。これをきっかけに、普段あまり口にしない珍しい野菜への興味が広がっていくかもしれません。