黒星病とは、バラやリンゴ、モモなどの果樹に黒い斑点症状が現れる糸状菌(カビ)による病気ですが、「黒星病」と名前がつく病気は多く、菌の種類が異なるため、症状や対策も少なからず違ってきます。
本記事では、リンゴやバラ、モモに発症する黒星病の症状と原因を押さえて、予防と早期発見、防除を心がけましょう。
リンゴ黒星病
リンゴ黒星病は海外から侵入した病気で、1950年代半ばに北海道で最初に発生したものが全国のリンゴ産地に広がりました。リンゴ黒星病の主な症状
菌名 | Venturia inaequalis |
分類 | 糸状菌/子のう菌類 |
発生時期 | 5~9月 |
発病適温 | 15~20℃ |
リンゴ黒星病の葉の症状
葉に淡黄色の小さな斑点が現われると、やがて不整形の黒緑色のすす状、もしくはビロード状の病斑を形成します。リンゴ黒星病の果実の症状
果実は葉と同様の病斑が現れた後、コルク化して黒くザラザラとした症状になります。貯蔵中に発病する場合もあります。
リンゴ黒星病の伝染源
土壌に落ちている前年病気に感染したリンゴの落葉が第一次伝染源となります。雨が降ると病原菌となる「子のう胞子」が飛散し、新たなリンゴの樹木に感染します。新たな病斑では分生子が形成されて第二次伝染源となり、さらに雨が降ると飛散して周囲の葉や果実を侵していきます。
※分生子(ぶんせいし)とは、菌糸(きんし)の一部が伸びて、その先がくびれてできる胞子(分生胞子)。
リンゴ黒星病が発生しやすい条件
リンゴ黒星病が発生しやすい条件について説明します。低温
発病適温は15〜20℃、比較的低温を好みます。夏の高温時には一時的に発生がおさまります。
多湿
伝染源である「子のう胞子」や「分生子」は水滴などの水分によって飛散するので、子のう胞子の飛散時期(リンゴの開花期前後)である冷涼で降雨が多い時期に多発します。品種
リンゴ黒星病に弱い品種があり、「王林」が最も弱く、「ふじ」や「つがる」、「ジョナゴールド」などの品種が弱いとされています。リンゴ黒星病を発症させない管理方法
リンゴ黒星病の予防方法について説明します。1. 植物残渣の処理
残渣(ざんさ)にリンゴ黒星病菌が付着している可能性があります。落ち葉や植物体は圃場外に持ち出して処理します。※残渣とは枯れた植物や落ち葉のこと。
※圃場とは田や畑のような農作物を育てる場所のこと。
2. 農薬の予防散布
子のう胞子による第一次感染初期(開花期前後)と、6月の降雨による分生子の飛散による発病(第二次感染)を極力抑えることがコツです。防除に失敗して多発してしまうと、その後の防除が困難になります。
産地では薬剤耐性菌も発生しています。農薬(殺菌剤)は連用せず、ローテーション散布しましょう。
※生産者の方は、地域の防除指導機関やJAなどが推奨する効果の高い薬剤を選定し使用基準を守って作物にあった薬剤を使用しましょう。
▼薬剤耐性菌のことならこちらをご覧ください。
▼殺菌剤のことならこちらをご覧ください。
バラ黒星病
雨の当たる露地栽培で6月ごろから発病しますが、施設栽培ではあまり問題となることは少ない病気です。菌名 | Diplocarpon rosae |
分類 | 糸状菌/子のう菌類 |
発生時期 | 5~7月、9~11月 |
発病適温 | 20~25℃ |
バラ黒星病の主な症状
新芽や若葉よりも、成熟した葉に発生することが多いです。バラ黒星病の葉の症状
最初は葉に淡褐色~紫黒色の小さな斑点が現れます。斑点のまわりの輪郭ははっきりしておらず、次第に周囲が黄化します。被害が拡大すると葉全体が黄化して落葉します。バラ黒星病の伝染源
バラ黒星病に感染した葉や落ち葉から胞子が飛散して第一次伝染源となります。水分や95%以上の高湿度で分生胞子は発芽して植物に侵入します。バラ黒星病が発生しやすい条件
バラ黒星病がが発生しやすい条件について説明します。多湿
湿度が高い環境下ではバラ黒星病が多発します。特に降雨により胞子が飛散して、病気が発生しやすくなります。窒素過多
窒素過多になると、病気に感染しやすくなります。バラ黒星病を発症させない管理方法
バラ黒星病の予防方法について説明します。1. 植物残渣の処理
前作の枯れた植物に、バラ黒星病菌が付着している可能性があります。落ち葉や植物体は圃場外に持ち出して処理しましょう。2. 湿度を下げる
密植を避け、余分な葉は取り去るなど、株周りの湿度を下げます。降雨の前後は農薬を予防散布すると効果的です。▼ハウス栽培の湿度管理のことならこちらをご覧ください。
3. 適切な施肥
窒素過多とならないように、元肥、追肥は適量行います。樹勢を見て、窒素質以外のリン酸やカリ肥料を施肥するなどして、健全な生育を促します。▼肥料のことならこちらをご覧ください。
4. 農薬の予防散布
バラ黒星病は発病してからの薬剤防除は効果が薄れるため、予防散布、初期防除を徹底しましょう。4~5月、もしくは9月の発病がみられる前から、7~10日間隔で定期的にローテーション散布すると効果的です。
耐性菌を生じやすいので、農薬は連用しないよう気をつけます。
▼病気対策に欠かせない農薬散布のタイミングや、選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
モモ黒星病
モモ黒星病の病原菌は、ウメ・スモモ・アーモンド・アンズ・オウトウなどにも感染し、特にウメでは大きな被害が出ます。菌名 | Cladosporium carpophilum |
分類 | 糸状菌/不完全菌類 |
発生時期 | 5〜7月 |
発病適温 | 18~24℃ |
モモ黒星病の主な症状
主に果実、枝、葉柄に発生しますが、まれに葉でも発生します。モモ黒星病の果実の症状
5月下旬から6月にかけて、幼果の果梗に近い肩の部分に暗緑色の小さな斑点が生じると、果実が肥大するにつれて病斑も直径2~3mmに拡大します。病斑が多発すると果実も肥大不良になります。モモ黒星病の伝染源
果実の感染は地域によりますが、5月上旬ころから7月中旬ころにわたって発生します。枝の病斑部位で病原菌が越冬し伝染源となります。4月下旬〜5月中旬ごろに降雨とともに、病原菌(胞子)が飛び散り、果実や葉柄、枝などに感染していきます。
モモ黒星病の発生しやすい条件
モモ黒星病の発生しやすい条件について説明します。無袋栽培
無袋栽培や袋がけが遅れると発生が多くなります。高湿度
風通しが悪く湿度が高いと発生しやすくなります。特に5〜6月にかけて降雨日数の多い年に多発します。モモ黒星病を発症させない管理方法
モモ黒星病の予防方法について説明します。1. 適期の袋がけ
モモ黒星病は袋がけをすることによって、病気を抑制することができます。また、袋がけ後も農薬を予防的に散布して、防除の効果を高めましょう。2. 湿度を下げる
余分な枝は切り落とすなど、株周りの湿度を下げます。降雨の前後は農薬を予防散布すると効果的です。
3. 農薬の予防散布
モモ黒星病は防除をしないとかなりの確率で発生する病気です。果実に発病してしまうと、病斑を治療することはできず商品価値が著しく低下してしまいます。5〜6月は重点的に予防散布を行いましょう。▼農薬を安全に使用するためにまずはこちらをご覧ください。
▼希釈方法や散布後の処理方法などそのほかの農薬のことなら農薬まとめをご覧ください。
黒星病対策には予防重視の適期の農薬散布
黒星病が発生してしまうと、葉や果実などに黒色の病斑を作り、果実や花きの品質を著しく低下させてしまいます。農薬を適期に予防散布して、黒星病の発生を未然に防ぐことが大切です。また、黒星病の発生源となる前作の残りの落ち葉などは取り除き、常に圃場を風通しの良い環境にするように心がけましょう。