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農学博士
木嶋 利男■主な経歴:1987年 農学博士(東京大学)、1993~1999年 栃木県農業試験場 生物工学部長、1999~2004年 自然農法大学校 校長、2004~2010年 WSAA 日本本部 専務理事、2006~2013年(財)環境科学総合研究所 所長、2015~2019年(公財)農業・環境・健康研究所 代表理事 ■上記以外の主な役職:一般社団法人MOA自然農法文化事業団 理事、伝統農法文化研究所 代表 ■主な著書:『プロに教わる安心!はじめての野菜づくり』(学研プラス)、『「育つ土」を作る家庭菜園の科学 』(講談社)、『コンテナでつくる家庭菜園[新版]』(マイナビ出版)…続きを読む
肥料についての知識がないと、肥料焼けや微量要素欠乏症などを起こして生育不良になってしまうこともあります。
この記事では肥料の三要素や微量要素の働きなどの基本的な情報から、肥料計算の仕方、肥料取締法まで、農業初心者にも分かりやすいように詳しく解説します。
肥料の種類・特徴と肥料一覧
肥料の種類|原料による分類、肥料一覧
化学肥料 (無機質肥料) | 単肥 | 窒素質肥料 | 硫酸アンモニア、塩化アンモニア、硝酸アンモニア、尿素、など |
リン酸質肥料 | 過りん酸石灰、重過りん酸石灰、りん酸苦土肥料、熔成りん肥、焼成りん肥、など | ||
カリ質肥料 | 硫酸加里、塩化加里、硫酸加里苦土、重炭酸加里、腐植酸加里肥料、など | ||
複合肥料 | 化成肥料、配合肥料など | ||
有機肥料 (有機質肥料) | 魚かす肥料、生骨粉、肉骨粉、鶏骨粉、なたね油かす、ひまし油かす、米ぬか油かす、など |
化学肥料は工場で化学的に合成された肥料です。窒素・リン酸・カリのうち一つしか含まないものは単肥、二つ以上の成分を含むものが複合肥料となります。
有機肥料は、牛ふんや鶏ふん、魚粉、骨粉、油粕などの、動植物性の有機物が原料となっている肥料です。
肥料の種類|効き方による分類
肥料には、すぐに効果が現れる速効性肥料や、徐々に効果が現れる緩効性肥料など、効果の現れ方(肥効)が異なるものがあります。速効性肥料
速効性肥料は、水に溶ける性質で植物が吸収しやすく、効果がすぐに現れる性質があるため、元肥だけではなく、追肥によく利用されます。降雨などの水分でも溶け流れてしまうため、持続効果については短い傾向があります。液肥や化学肥料(無機質肥料)の多くは速効性肥料です。
▼液肥についてはこちらをご覧ください。
緩効性肥料
緩効性肥料は、土壌に施用するとゆっくり効果が現れます。油粕や米ぬかなど微生物に分解されてゆっくり効く有機質肥料や、コーティングにより肥効を調節できる被覆肥料などがあります。
施肥作業の省力化と肥料コスト削減を可能にできる肥料として注目され、近年導入が進められています。
▼肥料の効き方について詳しくはこちらをご覧ください。
肥料の種類|形状による分類
肥料の形は固形、液体、粉体などさまざまです。固形肥料の中でも、粒状のもの、ペレット状のものなど、形状によって溶けやすさが異なります。一般的に水に溶けやすいほど肥効は早く、液体肥料がもっとも速効性があります。一方、元肥と混ぜて長く効かせたい場合は、固形肥料が選ばれます。粒状の肥料は、栽培途中に追肥として畑にまくこともできます。
栽培方法や、肥料を効かせたい目的に合わせて、肥料の形状は異なります。
※元肥とは、植え付け時に与える肥料のことです。栽培途中に与える肥料は、追肥といいます。
肥料の三要素|窒素・リン酸・カリ
植物の生長には16種類の元素が必要で、これらを「必須要素」と呼んでいます。必須要素のうち「炭素」「酸素」「水素」は、空気と水によって作物にもたらされますが、ほかの13種類の元素は土壌や肥料などの養分から吸収する必要があります。
必須要素 | |
光合成から合成 | 炭素(C)酸素(O)水素(H) |
大量要素 | 窒素(N)リン酸(P)カリ(K) |
中量要素 | カルシウム(Ca)マグネシウム(Mg) |
微量要素 | 硫黄(S)鉄(Fe)マンガン(Mn)ホウ素(B)亜鉛(Zn)モリブデン(Mo)銅(Cu)塩素(Cl) |
肥料の三要素(窒素・リン酸・カリ)
大量要素の窒素・リン酸・カリの3要素は、肥料として植物に多く必要とされるもので肥料の三大要素ともいわれています。要素 | 欠乏症状 | 過剰症状 |
窒素(N) | 生育不良 | 生育不良、病害虫多 |
リン酸(p) | 開花、結実不良 | 鉄や亜鉛、マグネシウムの欠乏症を誘発 |
カリ(K) | 根腐れなど | マグネシウムやカルシウムの欠乏症を誘発 |
窒素(N):葉肥え
葉や茎の生長に必要な要素で「葉肥え」ともいわれます。欠乏すると、葉の色が薄くなり、淡黄色となります。株は生長が止まり、矮化して茎や枝葉も伸長しなくなります。
過剰に与えると茎や枝が細く柔らかく育ち、病気や虫に弱くなってしまうという特徴があります。
リン酸(P):花肥え、実肥え
開花や結実を促進するので「実肥」あるいは「花肥」ともいわれます。根の伸長、発芽などを促進する働きもあります。欠乏すると、花の数が減って、開花や結実も遅れます。葉は小さくなり、根の伸長が悪くなります。
過剰症にはなりにくいのですが、土壌中のリン酸が過剰になることで鉄や亜鉛、マグネシウムの欠乏症を誘発する傾向があります。
▼リン酸障害のことならこちらをご覧ください。
カリ(K・カリウム):根肥え
開花や結実を促進したり、根の育成を促進することから「根肥」ともいわれます。植物体内のさまざまな化学反応を促進する成分として働いています。水分蒸散の調節や肥料の吸収、寒さへの耐性などにも役立っています。
欠乏すると、古い葉(下葉)から症状が現れ、先端から葉縁にかけて褐色に枯れます。過剰症の障害にはなりにくいのですが、土壌中のカリウム過剰によってマグネシウムやカルシウム欠乏を誘発します。
肥料の中量要素・微量要素も不可欠
大量要素に続いて、植物にとって必要な中量要素は、光合成に必要な葉緑素の成分や、細胞膜を強くして丈夫な植物の身体を作るのに不可欠なものです。微量要素は少量でも植物には不可欠な要素で、新芽の生育や光合成にとっても必要です。
要素 | 働き | 欠乏症状 | 過剰症状 |
カルシウム(Ca) | 植物の細胞や組織を維持する 根の生育を促進 | 葉や果実の異常 | マンガン、鉄、亜鉛、ホウ素欠乏症を誘発 |
マグネシウム(Mg) | 葉緑素の構成成分 リン酸の移動を補助、脂質の合成 | 葉の色抜け、褐斑形成 | マンガン、亜鉛、ホウ素欠乏症を誘発 |
硫黄(S) | タンパク質を作る成分 酸化・還元に関与 | 葉の黄化 | 窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウム欠乏症を誘発 |
鉄(Fe) | 葉緑素の生成に関与 | 葉の色抜け | 葉に褐色斑点、マンガン、リン酸欠乏症を誘発 |
ホウ素(B) | 根や新芽の生育を促進 細胞分裂や受粉に関与 | 生長点、果実の異常 | 葉の異常 |
マンガン(Mn) | 葉緑素を生成し、光合成を促進 酸化還元を助ける | 葉の色抜け | 葉に褐色斑点、鉄欠乏症を誘発 |
亜鉛(Zn) | 成長ホルモンの生成 タンパク質や糖分の合成 | 葉の黄化 | 下葉の黄化 |
モリブデン(Mo) | タンパク質の合成に関与 硝酸還元酵素、窒素固定酵素 | 葉がわん曲、斑点 | 葉の色抜け |
銅(Cu) | 呼吸に関与 タンパク質の生成 緑色を鮮やかにする | 葉の黄化、縁枯れ | 根の異常、鉄欠乏症を誘発 |
塩素(cl) | 光合成や糖の合成に関与 | 葉先枯れ、黄化 | 葉先・葉縁枯れ、色抜け |
リービッヒの最小律
必須要素は、一つでも足りない要素があると、それに合わせて全体の成長が阻害されてしまいます。この桶のように一番少ない栄養素に合わせて全体の成長が決まってしまう、というのがリービッヒが提唱した「最小律」です。
肥料成分の計算方法|袋の見方と簡易計算アプリ
肥料袋の数字の見方
肥料袋に書かれている、「8-8-8」などの数字は、全体の容量のうち、窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)がそれぞれ8%ずつ含まれている、ということです。例えば肥料袋に11-13-9と記載されていれば、その肥料には、窒素11%・リン酸13%・カリ9%が含まれていることを示しています。
肥料袋からの成分量の計算方法
肥料袋に11-13-9と記載されている場合に、袋重量が20kgであれば、
[窒素] 20kg×11%(0.11) = 2.2kg
[リン酸] 20kg×13%(0.13) = 2.6kg
[カリ] 20kg×9%(0.09) = 1.8kg
という量の肥料分が含まれていることになります。
肥料計算アプリ
肥料計算を助けてくれるアプリも開発されています。スマホで簡単に計算できるので、利用してみるのも一つの手です。肥料の量の決め方|欠乏や肥料焼けを防ぐ施肥量
実際に施肥量をどのように決めていくのか、流れに沿って紹介します。※施肥とは、肥料を圃場に施すことです。
1. 農家も見落としがち!土壌分析で栄養状態を知る
土壌分析とは、栽培する畑の土を分析し、肥料の三要素や微量要素の残存量、腐植の量などを数値で確認することです。施肥量を決定するためには、事前に土壌中にどれほどの肥料成分が残っているかを調べましょう。土壌分析をせずに長年の慣例や栽培指南書の通りに施肥量を決めてしまい、肥料が畑に多すぎたり、少なすぎたりして野菜の生育が悪くなってしまうことがよくあります。
特に、何作も栽培をしていた圃場や、初めて栽培する・何年も放置していた圃場で栽培を始める場合は、必ず土壌分析を行いましょう。
土壌分析の方法
圃場でできる、簡易的な窒素分とpHの分析方法は以下の動画をご覧ください。微量要素など、より詳細な土壌分析は、農業者の方はJAや普及所などの機関で土壌分析を依頼できる場合もありますので、問い合わせてみてください。
▼土壌分析についてはこちらもご覧ください。
▼適切な施肥量のことならこちらをご覧ください。
2. 施肥量を決定する
土壌分析から圃場に足りない肥料分の量が分かれば、与える肥料の量を決定します。農業指南書などに記載のある、栽培しようとする作物の元肥量から、圃場に残っている肥料分の量を引いたものが、今回与える肥料量です。
例えば、キュウリの元肥で窒素分10kgが必要な場合、圃場に残っている窒素分が6kgであれば、4kgの窒素分を施用します。
肥料焼けとは
植物に肥料を過剰に与えることで、土の肥料濃度が濃くなり、根が傷んでしまうことです。
根が褐変し、野菜の生育が悪くなる、枯れるといった症状が現れます。肥料は多くあげれば良いわけではなく、適量を心がけることが大切です。
また追肥をする場合には、葉に肥料があたらないように、注意が必要です。
肥料散布機は圃場に合わせたものを選んで効果UP!
肥料の散布には、肥料散布機を使用することもあります。肥料散布機には手押し式や自走式、トラクター取付式、背負い式などさまざまあり、それぞれまくことのできる肥料の種類や、対象の圃場の広さなど得意分野が変わります。有機肥料や石灰肥料など、どんな肥料をまくことができるか、飛距離は圃場にあっているか、といったポイントを見ながら散布機を選びましょう。
肥料取締法とは
肥料取締法とは、肥料の品質を守り、公正な取引と安全な施用を確保するための法律です。成分が確かなもので登録や検査を受けたものしか販売することができません。この法律によると、肥料は2018(平成30)年時点で、199種類あります。肥料を自作して人にあげたり売ったりする場合は農林水産大臣か都道府県知事に届け出が必要となります。輸入品の販売や無償の譲渡であっても届け出無しでは違法行為になってしまうため、気をつけましょう。
▼肥料取締法について、詳しくはこちらをご覧ください。
肥料の作り方|油粕や米ぬかで作る自家製肥料
米ぬかを使ったぼかし肥料の作り方
ぼかし肥料とは油粕や米ぬか、魚粉、骨粉などの有機物を混ぜて、微生物により発酵させて作る肥料のことです。元肥はもちろん、追肥でも使うことができて、微生物が生きているので施用した後の土にも優しいエコな肥料です。作り方はこちらをご覧ください。
注意!肥料は作る時期が大事
ぼかし肥料を作る際には時期に注意するようにしてください。夏場などの気温の高い時期に作ると発酵が上手くいかず、腐敗してしまう場合もあります。腐敗した場合には悪臭がするようになるので、発酵とは匂いで見分けることができます。
油かすを使った液肥の作り方
油かすはゆっくり効いていくものですが、液体にすることで吸収されやすくなるというメリットがあります。作り方はこちらをご覧ください。