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【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし連載最後のテーマは、SDGs目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
連載の最終回となる、今回のコラムと関係するSDGs目標は17。目標17の内容は、「持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」です。
SDGs目標別アーカイブ
目標1・2・3|目標4|目標5|目標6|目標7|目標8|目標10|目標11|目標12|目標13|目標14・15一番身近なパートナーシップは、夫婦
「地球温暖化を防ぎながら、持続可能な社会を目指していこう」という、大きな大きなSDGs目標の17項目に挙げられているのは「パートナーシップ」。とうとう最終項を迎えましたが、いつも通り身近な話題から始めます。それぞれの得意分野を生かしながら、二人三脚で!
夫と出会い、親の猛反対を受けて結婚してから今年で24年目に入ります。お互いに活火山のような性格なので、ぶつかることもしょっちゅう。離婚の危機だってありました。でも、24歳で結婚し、いよいよ親と過ごした年数より長くいることになる今、農業や子育てをここまで一緒にやってきて、良いパートナーシップが築けていると思っています。夫がどう思っているかは別の話ですが(笑)。その夫は「俺にはプライベートが必要だ」と言ってSNSにはほとんど登場しませんが、もちろん、私1人では成し遂げられないさまざまなことを2人で一緒にチャレンジし続けています。環境に優しい農業を目指していたり、生きる力のある人間に育てるための子育てを意識してやっていたり。
片付けや掃除が救い難いほど下手くそで、農作業の感覚や手際も悪く、さらに事務仕事は壊滅的にできない私ですが、この連載のような情報発信や人とのコミュニケーションは得意な方だったりと、得意な分野をそれぞれ生かしながら、今後も二人三脚で子育てやお米の栽培をしていきたいと思っています。
夫婦の次に身近なパートナーシップは、目標達成を一緒に目指す仲間達
PTAや地区の婦人会などの組織とは別に、自らの意思で所属している団体がいくつかあり、それぞれの団体でパートナーシップを育んでいる仲間達と、私1人では成し遂げられない大きな目標に挑んでいます。その中でも、「NPO法人 田舎のヒロインズ」と「一般社団法人GIAHSライフ阿蘇」という2つの団体では代表もしています。女性農家のパートナーシップ:NPO法人田舎のヒロインズ
活動が20年目に突入した「NPO法人 田舎のヒロインズ」。女性農家さんたちが、インターネットも携帯電話もない時代に築いた全国ネットワークで、NPOになる前の任意団体だったころから数えると、28年も続いている歴史ある団体です。志の高い先輩農家さんたちによる、まさにSDGsの目標17そのもののような、より良い社会を目指す活動がこれだけ長く続いていることに感動します。さらに、「女性農家」という同じ属性のメンバーだけでなく、学生、研究者、旅館の女将、飲食業関係者、そして作家や宇宙飛行士(!)まで幅広い属性の応援団(=パートナー)がいて、農業はもちろん、農村の魅力と可能性を広める活動に取り組んできました。
Podcastをスタート!
最近の話題としては、今年のお正月、2022年1月1日0時0分に「耕す女(ひと)の耕すラジオ」というPodcastをスタート!あまり気負わず、女性農家たちのサードプレイスになれることを目指しつつ、自分たちに何ができるか、という話題提供をしていきたいと思っていますので、よかったら聴いてみてください。農家が使えるワンフレーズ英会話も紹介していきます♪地域のパートナーシップ:一般社団法人GIAHSライフ阿蘇
熊本地震が発災した2016年の暮れに発足した、「一般社団法人GIAHSライフ阿蘇」という地元の団体は、熊本地震で傷ついた南阿蘇村の「創造的復興」というものを目指して設立した団体です。目指すのは、「みんなが学べてみんなが働ける社会」
くまモンを生んだ熊本県の蒲島 郁夫(かばしま いくお)知事が、「ビルドバックベター(発災前より良くする)」と仰っていたことにヒントをもらい、農村だから学ぶ機会が少なかったり、働き口が少なかったりという状況を、ピンチをチャンスに変えるつもりで立ち上げました。最初は、農業者であり、議員さんであり、地域活動を長らく続けたりしてこられた方が代表をされていたのですが、設立後すぐに急逝されてしまい、後任者として私が代表になりました。
地域の人が集まる場として、防災減災コミュニティカフェをオープン
設立の翌年の2017年に、今は廃校となってしまった小学校の目の前に、地域の人が集まる場として防災減災コミュニティカフェをオープン。炊き出しセットや自立電源、バイオマストイレを備えた、地元の人が食材を持ち込むような地産地消カフェとして、5年目もほそぼそと営業していけそうです。学校になじめない子や家族ともつながる場に
支援、という言葉はあまり好きじゃないのですが、2018年からは学校に違和感を感じて行けなくなっている子どもたちや家族が孤立しないよう、カフェを利用して、地域の大人たちが農作業や手仕事を一緒にやるという場づくりに取り組みました。農村だと学校やコミュニティの選択肢が狭いので、フリースクールや私立校をつくるには至らずとも、選択肢を少しでも増やしたかったのです。元農業高校の教員だった方が野菜づくりを、木工所の方が木工を、地域のおばちゃんが郷土料理を、といった形で、生きた学びをさせていただきました。自分の息子が不登校だったので、学校だけが学びの場所じゃないことを感じてくれたんじゃないかと思います。
不登校の問題は複雑で、また財源もなく、その後継続できていないのですが、当時、熊本地震後に混乱していた村の中で、学校に息苦しさを感じて行けていない時期もあった数名の子どもたちは、その後それぞれに居場所を見つけて、心身共に健康に育ってくれています!
地域の人の発案をカタチにしていく活動も
2019年には種苗法の改定を受けて、種の保存につながる地域勉強会や種の交換会などの活動や、2020年からは子育て支援と竹林整備などもしてきました。1つ1つの活動は小さな規模ですが、「こんなことやりたい」という地域の人達からの発案を元に、ちょっとずつカタチにしていくことで、より良い生活と地域内でのパートナーシップを築いていくことができます。写真は、人手不足のため、新米アルバイトとしてカフェの店長さんに指導を受けている父(当時78歳)。歳をとっても働ける場所づくり、ということで(笑)。
地域以外のパートナーシップ:クラウドファンディング
そして2021年の終わりから、設立当初より目指していた「障害があっても、歳をとっても働ける場づくり」に着手。前年から始めていた竹林整備もシニアの働く場としてスタートしたのですが、思ったよりハードな作業が多く、次の一手を模索していました。南阿蘇産の原料だけでつくったクラフトビール
そんなとき、「南阿蘇産の原料だけでクラフトビールを作りたい!」という夢を持った人が現れたのです。熊本県のお隣、宮崎県でクラフトビールを作っている「宮崎ひでじビール株式会社」さんの全面協力を受け、南阿蘇の水源からくんだ水と、「就労継続支援B型事業所 LABみなみ阿蘇(株式会社南阿蘇ケアサービス)」が地元農家の協力を得て作った大麦と、我が家のお米を使った「ほとんど南阿蘇産」のビールがとんとん拍子に完成!2021年の明るいニュースとなりました。オール南阿蘇産まであと一歩。残るは、ビールには欠かせないホップです。絶賛支援募集中!
ホップはとても軽い農産物なので、障害のある方や高齢者と一緒につくるには最適なのですが、つるが5mまで伸びるため、栽培に必要な専用のホップ棚が必要です。それを建てるための費用100万円をクラウドファンディングで集めようとしており、現在、グローカル・クラウドファンディングにて、絶賛支援募集中!実際に栽培に携わる人だけでなく、多くの方とパートナーシップを築けたら最高だと思っていますので、ご協力いただけたら幸いです。完全に宣伝になってしまってすみません…。でもこれこそまさに、SDGsの目標17だ!と心から思っています。
地域や国境を越えたパートナーシップ
エネルギーの地産地消をめざすパートナーシップ:きっかけは福島第一原発事故
2011年に世界を震撼(しんかん)させた、福島第一原子力発電所事故。人類史上最悪といわれていたチェルノブイリ原発事故と、同じレベルの事故が自分が住む国で起きてしまったのです。それまでも再生可能なエネルギーの普及に取り組んでいましたが、いまだかつてない大事故が発生し、小さなNPOとして取り組んでいるぐらいじゃどうにもならないと思っていたところ、それまでの活動が評価されて、エネルギーの地産地消を目指す「一般社団法人 全国ご当地エネルギー協会」の設立に関わらせていただけることに。
さらに、日本だけでなく世界にご当地エネルギー(=コミュニティーパワー)を広めようという、国際シンポジウムに参加する機会もいただきました。
1つの島を全部クリーンエネルギーに変えたレジェンドを持つデンマークをはじめ、農村部を中心にエネルギーの地産地消ができる自治体が急増していたドイツなど再エネ先進国からの参加もあれば、農村部には電気さえ通っていないというアフリカや、化石燃料に頼りまくっているアメリカの自治体など、目標を達成できているかできていないかではなく、同じ目標を持った人たちが世界各国から集まってきたのです。
まだまだ広がるパートナシップ
その後、そういったコミュニティーパワーを広げるための国際会議は、アフリカのマリでもアメリカのハワイでも開かれ、化石燃料に頼らないコミュニティをどうやって広げていくかのアイディアや経験を共有しています。私はハワイでの会議に参加したのですが、そのときの会議スタイルがおもしろかったんです。進行役の人が会議の途中で、やおらプールに入るではないですか。誰ひとり「え?」という顔はせず、何事もなかったかのようにそのまま議論が進みます。クーラーの効いた部屋で再生可能なエネルギーの話をするより、暑ければプールに入ったり、足を水につけたりして議論するほうがよっぽど言動が一致しているな、と感心したものでした。
言葉や文化が違えど、心はひとつ!
前回のコラムで、ハワイのモロカイ島という農村で、日本とハワイの子どもたちが一緒にビーチクリーンをしたときのエピソードを書きました。ビーチクリーンによって海岸が少しでもきれいになったらもちろんうれしいことですが、そのことよりももっとうれしいのは、肌の色も話している言葉も文化も年齢も違う両国の子どもや大人たちが、一緒になって無心にゴミを拾うことで「心がひとつ」になったことでした。リモートとリアルなアクションで育まれるパートナーシップ
最近では、住む場所が離れていてもオンラインで瞬時につながれます。新型コロナウイルスの感染拡大で、ここ2年ほどで一気にリモートワークが進みましたね。どこに行くにもそこそこ不便な農村住民にとって、会議などに気軽にリモート参加ができるようになったのは大変ありがたく、「やっとこの時代になった!」というのが正直な気持ちです。ただ、やはりリアルに行動(アクション)を仲間と一緒にすることで、脳を通らない感動や共感が得られるのも事実。1日も早くコロナが終息して、リアルな行動を共にすることで育まれるパートナーシップがより増えることを祈るばかりです。
DNAの力?
ちょっと話が本題から逸れますが、母方の高祖父(祖父の祖父。ひいひいおじいちゃん)の矢野二郎は、幕末の第2回遣欧使節に通訳として随行した人物です。晩年、新しい教育(商業)を教える、後に一橋大学となる東京商業学校という大学の設立に携わり、初代校長を務めました。鼻っ柱が強く、頑固な面もあったようですが(それも受け継いでます 笑)、激変する社会に必要なのは「教育」だと信じて行動を起こした、尊敬する祖先です。ちなみに、父方の曽祖父である永井万助は、大正から昭和初期にかけて朝日新聞に勤めていた新聞記者でした。私の記者魂はこちらを受け継いでいるのかもしれません。
夫の祖父、曽祖父、高祖父はこの土地で代々農業を続けてきた、いわゆる「本家」と呼ばれる家系です。家系自慢をしたいのではなく、ご先祖様から脈々と受け継がれてきた想いや業績や縁を、私たちなりにしっかりと大切にし、授かった子どもたちや、ご縁をいただいた次世代の若者たちにつないでいきたい、という年頭所感(抱負)のようなものです。
時代を切り拓いてきた祖先のDNAを受け継いでいる私=「風」の存在と、代々土地を守ってきたDNAを受け継いでいる夫=「土」の存在が力を合わせることで、100年先まで続く「持続可能な風土」をつくっていければ、と思っています。
まだまだ走ります!
2年間にわたり、「農業なくして持続可能な社会なし」というテーマで連載してきました。ここ1年はSDGsを絡めた内容で、今回が最終回。ありがたい機会をいただけたことに感謝しつつ、私のコラムで何か1つでもヒントや元気を得た方がいらっしゃれば、と願ってやみません。2022年は、私にとって就農20年目に入る年。あ、ちなみに年女です。よく言えば前向きな性格、悪く言えば学ばないというか、「振り返る」ということをしない性格の私ですが、ひたすら走り続けてあれこれやってきたこれまでの経験を、一旦ここで総括して次につなげていきたいと思っています。
連載を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!パートナーシップをつなげていくためにも、もしいつかどこかでご一緒する機会がありましたら、気軽にお声がけください♪それでは、みなさまのご健康とご多幸を心からお祈りしております。
大津愛梨さんのコラムアーカイブはこちら
【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし家族経営農家の生活を写真と共に紹介♪「ハッピーファミリーファーマーズ日記」
大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」