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【連載第14回】性差も含めておもしろい!SDGs目標5「ジェンダー平等」について|農業なくして持続可能な社会なし


熊本県南阿蘇の女性農家、大津愛梨さんの日々の農業や環境、家族のことなどを通して、“SDGs”の17個の目標や持続可能な社会のためにできる取り組みを考える連載。身近なことで私たちにできること、個人でできること、子どもにできることなどを考えてみませんか?

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大津 愛梨

慶応大学環境情報学部卒業後、夫と共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里の南阿蘇で農業後継者として就農、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培している。女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長、里山エナジー(株)の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。農業、農村の価値や魅力について発信を続ける4児の母。…続きを読む

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田植えをする夫婦

提供:O2Farm
九州のほぼど真ん中、熊本県南阿蘇村という場所でお米とあか牛を育てているO2Farm(オーツーファーム)のEriこと大津えりと申します。「農業者こそ“SDGs(持続可能な開発目標)”を達成するための立役者!」という視点で連載をしています。

月間連載アーカイブはこちら

【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし

今回のテーマ:SDGs目標5|ジェンダー平等を実現しよう

SDGsアイコン
出典:国際連合広報センター
今回のコラムと関係するSDGs目標は、【5:ジェンダー平等を実現しよう】。
目標5の内容は「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」です。

予定していた連載スケジュールでは、今回は「SDGs目標4:質の高い教育をみんなに」について書くつもりだったのですが、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗前会長の発言で、一気に火が付いたジェンダーに関する目標について先に取り上げることにしようと思います!

SDGs目標別アーカイブ

目標1・2・3目標4目標5目標6目標7目標8目標10目標11目標12目標13目標14・15

日本の農業界は、世界的にも女性の割合が多いらしい

木を引っ張る女性農業者
提供:O2Farm

「半分は女性」という日本の農業

農林水産省の統計によると、日本で農業をしている人の約4割が女性です。意外と多い気がしませんか?
平成30年度の水産白書によると、海上での長時間にわたる肉体労働が大きな部分を占める漁業の就業者に占める女性の割合は約14%で、林業は2010年の時点で6%程度で、1割にも満たないそうです。

【参考】諸外国の農場分野における女性農業者の状況
資料提供:慶応大学ビジネススクール
日本の農村の人口は減っていますが、「女性割合」という点でおもしろい参考資料を見つけました。
世界の農業従事者の中の女性の割合が、アメリカは31%、ヨーロッパきっての農業国であるフランスは23%、イギリスに至っては15%。「農業女子プロジェクト」という、農水省の事業を当時担当していた佐藤一絵さんの調査だったと思いますが、比べてみると日本の48%という女性割合はかなり高い、というデータです。
そう考えると、日本の農業は「男女共同参画」ができているんじゃないか!と思うわけなんです。

選択肢が広がる女性向けの農作業用製品

割合が高ければそれで良し、というものでは決してありませんが、女性の数が多ければ、作業着の種類やサイズなど、その分の選択肢が増えるというもの。最近では「ワークウェア」とか「フィールドウェア」という名前で、女性心をくすぐる作業着も多く出回っていて、ジェンダー平等どころか、女性向けの製品のほうがむしろ充実している!?とさえ思えるほどです。

レディース向けのおしゃれな長靴や作業着の関連記事はこちら!


        とはいえ、“子育て中”の女性農家は絶滅危惧種

        NPO法人田舎のヒロインズ
        提供:O2Farm
        そうはいっても、農村地域では、子育て世代を中心に女性人口が減っているそうですが、理由や原因は以下のようにさまざまです。
        • 女性の高学歴化で地域外に出て行き、そのまま就職や結婚をしてしまう傾向があるため、男性農家の未婚率が上がっている
        • 農村に住む女性たちが、農業よりも医療や福祉の仕事をする人が増えている
        • 農業が盛んな地域では、農地はもちろん、機械や設備なども大規模化して男性が中心的になっている
        以前から親しくさせていただいている、『子育て世代の農業経営者: 農業で未来をつくる女性たち(JCA研究ブックレット)』の本を書かれたJC総研の女性研究者である和泉真理さんには、「子育て中の女性農家という属性は、もはや絶滅危惧種」といつも言われています。

        絶滅するのはイヤ!

        絶滅を逃れるために子孫繁栄や次世代育成に本腰をいれているのが、女性農家による自主的な全国組織であるNPO法人田舎のヒロインズ。なんといっても、役員9名で子どもが31人!という、世界的にも珍しい、いやもしかしたら唯一かもしれない驚異的な団体なものですから、近年は女子大生の受入れや女子教育に乗り出しています。

        女性農家によるオンラインファームツアー

        毎週土曜日午前中に、田舎のヒロインズのFacebook上で開催しているオンラインファームツアーでは、絶滅危惧種である私たち女性農家がそれぞれの農場をご案内しています。ライブ配信後にはYouTubeでも配信していますので、ぜひご視聴ください!

        男女共同参画といえば

        阿蘇山と赤牛
        提供:O2Farm
        以前に、内閣府の男女共同参画推進連携会議で委員を務めていた時期がありました。
        自己紹介で「熊本から来ました」と言うだけで、クスッという笑いが漏れるぐらい、九州はジェンダー問題関係者から注目(?)されていることを肌で感じた委員会でした。

        私自身はあまり意識したことがなかったのですが、熊本は男尊女卑が根強く、「男子厨房に入らず」は九州男児の代名詞だとか!?実際どうなのかはさておき、試しにインターネットで「男子厨房」と入れると、検索結果の上位には必ず「九州男児」の文字が…。
        「お茶」と旦那さんが言えば、奥さんがお茶を出すご家庭は多い気はしますが、九州だからそうなのか、年代的にそうなのか、あまり気にしてきませんでした。我が家で夫や息子が「お茶」と言ってきたら、私は「お茶がどうしたの?」と聞き返すだけですし(笑)。
        話を戻すと、この男女共同参画推進連絡会議という長い名称の委員は、1期だけで辞退しました。その理由は、“子どもの旅費が出なかった”からです。

        農作業のための子育ての役割分担

        第4子となる娘が生まれる前は、すでに長男・次男が10歳、三男坊が7歳だったので、講演や委員会などがあっても、大量にごはんの作り置きさえしておけば、私が出張に出かけても夫は農作業と子守りをこなしてくれていました。
        ウチは「男子厨房に入るべからず」ではまったくありませんが、私が抜けると、夫は1人で朝から日没まで農作業。その肉体労働を終えて帰宅した夫が、汗や泥を流してから炊事をするのはあまりに過酷です。それでも夫に「作り置きをしておけ」と言われることはなかったのですが、料理が趣味な私にとっては、大量のご飯を作っていくことは好きでしていました。

        ただ、そこに赤ちゃんが加わると、夫は炊事どころか肝心な農作業さえできなくなってしまうため、「好きなところに行って好きな仕事をしていいから、娘は連れて行ってくれ」という状況になったのです。
        これは「男尊女卑」とか「女が育児をするべき」とか、そういう類の押し付けうんぬんの話ではなく、農業ができるかどうかの自然な条件だったと思います。

        子連れでの講演は案外できる!

        農家の母ちゃんによる国際交流
        提供:O2Farm
        そんなわけで、娘が生まれてからは、講演や委員就任のお話をいただくたびに、「子連れになってしまうので、ほかの方にされた方がいいのではないでしょうか」と必ずお答えしていました。ところが、ほとんどの場合、「それで結構ですのでお願いします」と返されるのです。これは、私にとっても新鮮でした。
        こうなったら、「どこかに断られるまで続けてみよう」「断られたらネタにしてやろう」ぐらい思っていたのですが、どこからも断られず、全ての講演や会議に子連れで出席していました。しかも、娘は2歳にもなるとTPOをわきまえるようになり、2時間程度なら1人で静かに、母の膝の上や机の下で遊んでくれるようになっていたのです。

        遠方での会議は子連れでは行けない!?

        娘が3歳を過ぎると、日中であれば保育園などに預けられるようになってきたので、基本的には日帰りの仕事のみを選んでいました。
        そんな中、朝一番に始まる東京での男女共同参画推進委員会の会合があったので、前日のうちに熊本から東京に移動しておく必要があり、「お母さんと一緒じゃなきゃ寝ない」という娘を連れて行くつもりで準備をしていました。

        ところが、委員会側から、委員本人以外の旅費はどのような場合でも出せないとの連絡が。当時はまだオンラインでの出席も認めてもらえず、やむを得ず欠席することになりました。血税だしそりゃそうだよな、と思いつつ、それなら地方在住で子育て真っ最中の女性や男性は、この委員会には参加できないのかと思うと、なんだかモヤモヤとしてしまいました。よりによって「男女共同参画推進」を掲げている組織がそれじゃ、あまりに情けないと落胆し、2期目の就任は辞退させていただきました。

        世の中はそもそも不公平

        的を射る男の子
        提供:O2Farm
        今は喜寿を過ぎた私の母は、建築士でした。ティーンエイジャーのときにイタリアへ行き、結婚後もドイツに住み、女性では珍しい「建築」という世界で働き始めたときは、ずいぶんと苦労したんじゃないかと思います。
        彼女はよく、「世の中、基本的に不公平だからね。覚えておいてね」と私に言っていました。「そもそも不公平だと思っていると、あんまり腹が立たないでしょ」と。学校や行政が「公平」を強調する日本で、人種差別や男女差別も含め、実際の世の中は不公平だということを「当たり前」とした上で、しなやかに生きる、ということを母から教えてもらいました。

        逆差別の時代ももう終わりかも

        農業というまったく未知の業界に縁あって足を踏み入れた、女性の私ですが、そこももちろん不公平なことだらけ。でも別にいいんです。最近ではむしろ「農業女子プロジェクト」とか「女性活躍」とか、逆差別していただいてますし。
        生産者であると同時に生活者でもある女性。そんな女性の視点を欠いた農業をしたら、かえって自分たちの首を絞めるだけ、という認識も、そろそろ普通になってきている気さえする今日このごろです。

        性差があるからおもしろい

        提供:O2Farm

        得意不得意は、性別関係なく人それぞれ

        日本の労働基準法で、男子は30kgまで持たせていいところ、女子は25kgまでらしい、という話を、NPO法人田舎のヒロインズの役員ミーティングで聞き、性別で持っていい重さが決められているなんて、力の弱い男子はかわいそうだね、などと話していたばかり。バスケ少女だった私は、力仕事でしか役に立たない系の人間なので、お米1俵(=約60kg)を持てなくなったら存在価値が半減するなぁ…と思ったのでした。
        事務仕事が苦手で、肥料の計算などの緻密な計算も無理で、トラクターの運転もヘタクソ。でも「私がいなきゃ、お米を販売できないでしょ〜」と、ガハハと笑っている私が“農家の嫁”を名乗れているだけでも、そんな自由な環境をつくってくれている夫に感謝しています。

        相手を尊重し、見守って補い合う

        私には3人の息子と1人の娘がいます。男の子の子育てから始まり、今、女の子の子育て中ですが、毎日が「男の子たちはこんなことしなかったし、言わなかった」の連続で、その性差に驚かされます。口達者なところは若干面倒ですが、女子力の高い娘から女性について学ぶことが多い日々。息子たちも娘も、その性別の違いを認識しながらも、相手を尊重できる人間になって欲しいと思っています。

        私たち親にできることは、息子が彼氏を連れてきても、娘が彼女を連れてきても、彼らがトランスジェンダーだとしても、きっちり受け止めて、変わりない愛を注ぐだけでいいのではないか、と思います。森前会長の発言はもちろん問題アリでしたが、足の引っ張り合いをするよりは、愛情をもって見守ったり補い合ったりできるようになることが、SDGsの5番「ジェンダー平等を実現しよう」を目指すうえで大切なように感じます。

        農業は女性「も」輝ける仕事だと思います♪

        トラクターの上で笑う女たち
        提供:O2Farm
        性別というよりは、力も感性もコミュニケーション能力も管理能力も必要なのが農業で、そのためには「ジェンダー平等」が自然と進んでいくんじゃないかな、と思っています。
        ただ、女性の割合が高ければ、それだけ「声」があがるので、同業の女性が減って欲しくない。例えば奥さんが、「あなた農業じゃ暮らしていけないからほかの仕事してよ」と言うか、「大変な仕事だけど、大切な仕事だから一緒にやりましょう」と言うかで、女性の農業人口が減るか増えるかが変わってくるかもしれません。子育てしながら農業をする女性の絶滅を避けるべく、これからも仲間を増やしていきたいです。

        大津愛梨さんのコラムアーカイブはこちら

        【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし
        家族経営農家の生活を写真と共に紹介♪「ハッピーファミリーファーマーズ日記」

        大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
        1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
        女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
        ブログ「o2farm’s blog」

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