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【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし食べ物もエネルギーもつくるドイツの農家
農家は、食べ物もクリーンなエネルギーもつくれる
視察団や研究者さんを連れて農家・農村巡りをしていた私たちが見てきたのは、方言バリバリの地方の農家さんが「オレたちは農業することで、食べ物だけじゃなくてエネルギーもつくって、景観も守っているのさ」と胸を張っている姿でした。
今回のテーマ:SDGs目標7|エネルギーをみんなにそしてクリーンに
目標7の内容は「すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネ ルギーへのアクセスを確保する」です。
SDGs目標別アーカイブ
目標1・2・3|目標4|目標5|目標6|目標7|目標8|目標10|目標11|目標12|目標13|目標14・15農業・農村だからこそできる!再生可能なエネルギーづくり
ドイツの農業・農村に起きた変化
価格が変動する農産物に頼る農家の収入というのはもともと不安定で、不作や凶作ではもちろん、豊作でも減収になることもあります。EUの拡大により、乳製品等の価格が暴落することもありました。しかし、電気や熱の買取価格は、ドイツが1990年にはじめた「固定価格買取制度」によって一定で、再生可能なエネルギーを生み出すための資源である木、草、風、水、農産物や排せつ物などの有機物が、広い土地をもつ農村にこそたくさん眠っています。ドイツの農家たちは環境に対する意識が高いからというよりも、経営安定のために再生可能なエネルギーに興味を示したといっても過言ではないでしょう。
再生可能なエネルギーのシェアを6.3%から14%に倍増
ドイツでは2000年からの7年間で、電力総需要に対する再生可能なエネルギーの割合を6.3%から14%に倍増させました(ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省HPより)。そのシェアの割合もさることながら、農家の意識の中に「自分たちは食べ物だけじゃなく、国民が必要とする環境にも優しい電気や熱をつくることができる存在だ」という自負が芽生えていたことに感動したものでした。バイオガスプラントの利点
例えば、家畜の排せつ物を発酵させて、出てきたメタンガスを使って発電するバイオガスプラントは、農家に売電収益をもたらすだけでなく、排せつ物を野外に積んだり未熟なまま畑にまいたりすることで起きていた、地下水への悪影響や臭気といった環境問題を同時に解決します。さらに、発酵後の残さ液は、優良な有機肥料になることから、有機農業の普及にも一役買っていたのです。日本の理想と現実
いつかは南阿蘇で農家の跡を継ぐべき立場にある夫に、「どうせなら早く始めようよ」と就農を促したのは、何を隠そう私です。ドイツで見てきた農家の姿に感化され、あんな風に胸を張って生きる農家になりたい、と夢見ていたのです。土地も機械もある恵まれた状態での就農。義父は私たち夫婦の就農をとても喜んでくれ、大切に育ててくれました。農業に触れたこともなかった私にとっては全てが珍しく、しかも体力と腕力には自信のある私は、周囲の心配をよそに毎日元気に農作業をしていました。ところが、現実はもちろん甘くはなく、食べ物もエネルギーもつくるつもりで張り切っていた私は、すぐにガッカリすることになります。
福島原発事故が起こる前の日本は、再生可能なエネルギーをつくろうと思っても、よっぽどお金持ちかマニアな人が、経済活動としてではなく趣味として取り組むレベルだったのです。
草の根からRE100を目指すまでの20年
まずは「知る」ことから
諦めが悪いのが取り柄な私は、「熊本にドイツ人を呼んで話をしてもらおう!」と思い立ちます。かわいがっていただいていた大学の先生や友人・知人の協力を得て、農工大が企画した国際シンポジウムに招かれたドイツ人研究者を、国内の旅費だけで熊本に来てもらい、勉強会を開催しました。すると、予想をはるかに超える共感者が集まり、あれよあれよという間に「九州バイオマスフォーラム」というNPO法人(以下KBF)が設立され、勉強会やワークショップ、イベントでの展示など、本当に地道な啓発活動からスタートしました。
そして発電実験も
日本でも固定価格買取制度がスタート!
転機となったのは、やはり2011年に起きた福島第一原子力発電所事故です。日本でもドイツの制度に倣って、再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」が採用されることになりました。採算性が見込めるようになったことから、事業として関心を持つようになった人や企業もたくさんいたでしょう。何よりも、それまで地道に再生可能なエネルギーの普及に取り組んできた多くの専門家や活動家、「このままではいけない」と気付いた多くの市民が、日本での再生可能なエネルギーの割合を増やしていくために立ち上がることになったのは、怪我の功名とでもいいましょうか。
クリーンなエネルギーの飛躍的増加
日本での再生可能なエネルギーの割合
2012年に固定価格買取制度が始まってから10年経った今では、それ以前の2倍近くまで再生可能なエネルギーの割合が増えました。それでも日本では再生可能なエネルギーの割合は16%。ドイツで30%、最も割合が高いカナダは60%を超えています(2017年時点)。2030年までの日本の達成目標は22~24%(資源エネルギー庁資料より)とされていて、「エネルギーをクリーンに」と言い切るには、少々目標が低いかな…というのが正直な想いでもあります。ただ、「エネルギーをみんなに」という点では、日本はたいへん優秀で、こんな山間部に住んでいても不自由なく電気が使えることに感謝しないとですね。それに、環境省は「2050年にCO2を排出をゼロに」という思い切った目標を出したばかりなので、再生可能なエネルギーの導入目標の割合もあがることでしょう。
ぜひ太陽光発電の導入を
今後、電気代が上がる可能性や災害による停電時の備えとして、日当たりの良い向きに屋根がある、土地があるなどの条件がそろえば、今からでもぜひぜひ太陽光発電の導入をおすすめします。「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は世界レベルの目標ですが、電気代の節約+いざというときの備えという、家庭でのメリットもありますよ!急がば回れの仲間づくり ~女性農家編~
特に女性農家は自分名義の土地や建物を持っていないことが多いので、まずは夫や親を説得する必要があり、また自分名義で金融機関が融資をしてくれるかどうかもわかりません。“言うは易く行うは難し”というのはこのことです。
女性農家が同じ目標を持つために
そこで、KBFの啓発活動に加えて、2014年から役員として参加した女性農家の全国ネットワーク「NPO法人 田舎のヒロインズ」で、仲間づくりに取り掛かりました。考えてみれば、SDGsが国連サミットで採択されたのが2015年ですから、それより前から「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の目標に向かって動き始めていたことになります。全国にちらばる女性農家が同じ目標を持つために、オンラインで学べる「エネルギー兼業農家のススメ」という講座をつくったり、先進的に「エネルギーもつくっている農家」を訪ねたりして、じわじわと仲間づくりを進めていきました。今ではその仲間たちが伝道師となって、クリーンなエネルギーをつくることを目指す女性農家たちの輪が確実に広がりつつあるのです。
熊本地震とパンデミックで感じた農家の底力
本震直後
本震と呼ばれている2回目の震度7が、4月16日未明に起きた直後に停電。余震を恐れて、子どもたちを連れて車中に逃げ込みました。テレビはないし、携帯電話も通じたり通じなかったりで状況もわかりません。車のラジオで聴く限り、これは大変なことになったぞ、という漠然とした認識と、さて4人の子どもたちをどうやって守るかという母としての使命感で、朝まで眠気などはまったく感じませんでした。夜が明けて
炊飯器でごはんを炊き、どこにも出かけられないので、掃除嫌いの私が掃除機までかけたりして(笑)。日が暮れてからは、バッテリーに貯めた電気で、キッチンとダイニングの1部屋だけは、灯りを灯すことができました。本震のあったその晩に灯りがついていた民家は、ほとんどなかったと思います。
被災後も食べ物とエネルギーがある生活
米農家なので米は売るほどあるし、ニワトリも飼っていてタマゴを産むし、4月は山菜やタケノコのシーズンなので、冷蔵庫が使えなくても食糧にはさほど困らない。日中は基本的に屋外にいるのも普段通り。小規模ながらも、「食べ物とエネルギー」を確保できている強さをしっかりと実感したのでした。それはコロナウイルスの感染拡大中も同じで、2020年4月に非常事態宣言が発令されたときも、あまり普段と変わらない生活ができていたのは、農家の底力といっていいでしょう。
O2Farmの取り組み|農家という立場でやれること
1. 結婚20周年記念はダイヤモンドの代わりに電気自動車
電気は、蓄電が難しい
電気は、「貯めるのが難しい・コストが高い」のが最大の課題です。エネルギーをクリーンにするためにも、みんなで分かちあえるようにするにも、その課題がつきまといます。温暖化ガスを排出しない再生可能なエネルギーですが、自然エネルギーとも呼ばれることがある通り、自然の太陽光や風や水の力で発電しようとすると、発電量が一定にならない。それどころか、例えば晴れた日や風の強い日など、できるときは一気にできるし、できないときは全然できない、という弱点があり、電力会社にとっても頭痛のタネです。電気を貯めるという蓄電技術については、日進月歩で開発や商品化が進んでいますが、製品となるとまだまだ一般庶民に手が出せる範囲ではありません。
電気自動車は、実は格安?しかもメリット多い!?
そんな中、カッコいいし走行距離も長いテスラ社が発売しているモデルに匹敵するような国産電気自動車を、日産自動車株式会社が発表したのが2019年。車は中古車と決め込んでいた私にとって、「新車」でしかも「最新モデル」なんて、贅沢(ぜいたく)の極み。身分不相応で絶対ムリ…と決め込んでいたのですが、電気自動車を蓄電池として考えたら、実は格安?しかもメリット多いかも!? ということで、結婚20周年の記念日に、私がねだった新車のリーフが納車されたのでした。
農村といえば、車社会。エネルギーをクリーンに、といっても、現実にはなかなか厳しいなぁと思い続けていましたが、リーフを太陽光発電でできた電気で充電し、排気ガスを出さずに移動できるようになったときの幸せは、なんとも言えません。私としては、大きな一歩を踏み出したような気持ちです。
シロツメクサの結婚記念指輪
2. トラクターとコンバインに植物性燃料を使用
いくら環境に負担の少ない農業を心がけていても、田んぼ5ヘクタール、畑3ヘクタールは、農機具なしでできる規模でもないし、なんだかなぁ…と思い続けて早18年。ずっとやりたかったのは、トラクターなどの農機具の燃料を変えること。「農機具の燃料」と「車の燃料」を再生可能なエネルギーにすると、それだけで仕事と暮らしに使う全エネルギーの半分以上は、クリーンエネルギーに変えることができるからです。
天ぷらの匂いと共に
不安がないといえばウソかもしれませんが、「クリーンなエネルギー」については夫もドイツで一緒に学んでいて、切り替える意義ももちろんわかっているので、このタイミングでバイオディーゼル100%に踏み出しました。
風向きによっては、天ぷらの匂いを嗅ぎながらの農作業も悪くない(笑)。何より、植物由来の燃料は「カーボンニュートラル=大気中の温暖化ガスを増やしていない」という扱いなので、我が家のチャレンジとしては大変重要な意味を持っています。
3. 草刈機やブロアーなどは、太陽光発電でつくった電気を使える電動式に
気持ち的には「やってるぞ」という直接的な感触はあるのですが、草刈機については、正直いってエンジン式にはかないません。悔しいですが、混合油すごいなぁとたまにエンジン式を使うと思います…。ブロアーや家庭用の掃除機についてはあまり遜色ない、というか、電気式でも十分に役割を果たしてくれています。
4. 湯沸かしは、エコキュートと薪ストーブのハイブリッド
5. 地球に優しいだけじゃない薪ストーブ
薪を用意するのは山の手入れにつながり、何ともいえない木のぬくもりもたまらず、薪ストーブのある部屋は思春期の息子たちも加わって家族団らんの場になりました。再生可能なエネルギーがつなぐ家族のきずな。優しいのは地球にだけじゃないってことですね。
エネルギーをみんなに!災害時には近所に電気のおすそ分け
これを発展させれば、電気が届かない地域がある国々でも、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」が実現できる気がしています。電気を運ぶのにも電気自動車や電動バイクを使えば、化石燃料に頼らない仕組みができそうです。
エネルギーありきではなく、電気がなくても生きられるスキルを!
ただ、エネルギーありきの話だけではなく、特に日本のように「電気が使えるのが当たり前」という国で、いざ電気が使えなくなったときにどうするかも想定しておいてほしいのです。ただパニックになるのではなく、ローソクを使うためにマッチをするとか、小枝や葉っぱを集めてきてたき火ができるとか、そういう「生きる技」や「何とかするというメンタル」を育むことも、同じように大切だと思っています。
例えば、クリーンエネルギーを使ったオール電化の家などで、火を全く使わない・見もしない環境で子育てをしている場合、休日や長いお休みにキャンプに行って、電気のない環境の中、不便ながらも「自力で何とかする」体験を積ませるのもいいかもしれません。
都会育ちで、薪ストーブやボイラーの付け方が下手くそな私は、子どもたちの「生きる力」に感心しながら日々を過ごしています。自然災害が増えている中、エネルギーがいつでも使えると思わない方が、いざというときに気持ちが前向きでいられるんじゃないかと思っています。コロナ禍で人気が出ているアウトドアアクティビティは、意外と重要な「忘れていた何か」を思い出させてくれるかもしれませんね。
大津愛梨さんのコラムアーカイブはこちら
【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし家族経営農家の生活を写真と共に紹介♪「ハッピーファミリーファーマーズ日記」
大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」